『WALKMAN』口述記録
“歩く”をテーマに捉えた『WALKMAN』。ちなみにaryy君、突然の雨に見舞われても怯むことなく歩き続ける姿もしっかりと目撃されている(鳥取砂丘近辺)。
取材・文 | 小嶋まり | 2025年12月
撮影 | motoki kinami
1stアルバム『me and the world』のリリースが2023年の9月だったんですけど、そのあとすぐに次を作り始めようって思いました。最初にちゃんと書き始めたのはたぶん2024年の前半くらいで、2025年に入ってからグググって進んだ感じです。だから制作期間としてはけっこう長いと思います。構想から全部含めたら、かなり時間がかかりました。
制作のきっかけになったのは、大阪から東京に引っ越してきたこと。生まれ育ってきた場所を客観的に見られるようになったから、逆に地元のこととか、自分のちっちゃい頃のこととかを考えながら作った気がします。
『me and the world』を出したあとにツアーでいろんなところに行ったのもでかかったです。ツアー中いろんな人に出会って、いろんな場所でおれの曲を聴いてくれたりしているっていう状況がすごく不思議で、嬉しかったです。『me and the world』を作っていたときは、ほぼひとりで作業していたし、自分の部屋にずっと篭りっぱなしだったから、人と関わって感想を直接聞くみたいなことはまじでなくて。自分とそれ以外、みたいに隔離された感じだったから、いろんな場所で、自分以外の人がいろんなことを考えたり悩んだりしているのとかを直接感じて、そういうのがけっこう衝撃的でした。だから『WALKMAN』は、もっといろんな人と関われるような作品にしたいという思いがありました。
作っていた2年で環境が変化したり、いろんな経験をする中で自分の音楽の聴きかたも変わってきて、ただ音として聴くんじゃなくて、「この人はどういう気持ちでこの歌詞を書いたんだろう」とか、「どういう状態でこの曲を作ったんだろう」みたいなことを考えるようになりました。曲を作った人の人生とか、そのときの気持ちとか、そういうのごとひっくるめて聴くようになったというか。
だから聴く音楽もけっこう変わったと思います。日本語の曲をよく聴くようになって、特に1970年代後半〜80年代前半の歌謡曲にハマりました。一番好きだった曲は和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」で、他には井上陽水とかユーミン、2025年は藤井 風の「真っ白」をめっちゃ聴きました。シンプルで、歌詞が明快で、強いメッセージがある曲が好きで、自分の書く歌詞もそういう部分を意識するようになったかも。実際に人を動かす力がある曲というか。アルバムでも「海にいこう!!」とかはそういうヴァイブスが出せた気がします。
あとは、改めてロックにハマりました。もちろん昔からずっと好きだったし、聴いてきたけど、今はより深いレベルで刺さっている感じがあって。親がハードロック世代で、自分が物心つく前とかに家や車で流れていた音楽を、制作期間中にもう一度ちゃんと聴き直したら、ヤバかった。理屈とかじゃなくて、体がビリビリする感じとか、言葉では説明できない渦みたいなのを真正面から感じて、感動しました。チープな言葉ですけど、ロックンロールの魂みたいな。だから『WALKMAN』を作る上でも、ロックンロールはひとつのテーマになっていたと思います。2020年代のロック。デジコアっぽい質感だと歪みはあるけど暖かみがないし、かといって懐古的になりたいわけでもないから、アレンジやミックスをやってくれたGivvnくん(Giorgio Blaise Givvn)とも話し合って探っていきました。
| 「ビートルズ」
2024年の3月頃に風邪を引いて、熱が出てやることがなかったので、なんとなくギターを弾いてたら突然できた曲です。あとから聴き返しても掴みどころがないけど、すごくパワーのある曲だと思いました。意味はよくわからんけど、音楽を始めてからずっと作りたかった曲ができた気がして、すごくテンションが上がったのを覚えてます。冒頭の歌詞“I walk like a people”の部分はTHE BEATLES『Abbey Road』(1969)のジャケットみたいなイメージがあったから、歩く、ウォーク、歩く、ウォーク……マン?ってなって、そういえばおれも小さい頃にウォークマン®を持っていて、それで音楽を聴いていたな、っていうのも思い出して。そもそもウォークマン®自体“歩く”っていうイメージだし。アルバムの感覚自体に“歩く”っていう感じがあったから、今回のアルバムのタイトルは『WALKMAN』になりました。
| 「海にいこう!!」
海に行きたくて作った曲です。これは夏にリリースしないとおかしいと思って、勢いで夏に出すスケジュールになり、そこからアルバムのリリースも決まっていきました。地元の友達が就職してから仕事が大変っぽく、落ち込んでいたから元気付けたくて、気晴らしにどこか遊びに行こうよ!みたいな気持ちで作った曲です。音楽的には、初期THE BEACH BOYSとかTHE DRUMSのようなサーフロック・バンドの軽さを意識しました。
| 「宇宙人」
“みんなおれを優しいっていうけど 本当はあまり興味がないだけ”っていう歌詞が気に入っています。わりと早い段階でできた曲で、なんか冷たい感じがあるというか、たぶん今ならこんなこと言わないと思うんですけど、作った時点での自分のリアルな感情が出ている気がして、好きです。
| 「CRY (if you feel so)」
「海にいこう!!」を作った次の日の朝にできました。ギターを弾きながらほぼ一筆書きで書いたんですけど、サビの“明日になれば全部 忘れてしまうよ全部” というフレーズが出てきたときは、自分の中にこんなメロディがあったのか……と驚きました。すごくJ-POP的というか、やったことがないくらいベタな展開で、今までの感覚的にはナシだったけど、あまりにも自然に出てきたので採用しました。内容としては「宇宙人」を書いたときの自分に対するアンサーというか、悲観的にならず、もっと今この瞬間を素直に生きようぜ、という感じです。
前のアルバムは基本ひとりで作ったんですけど、『WALKMAN』は15人くらい制作に携わってくれました。一緒に曲を作ったigaとか、Tennysonとかはもちろんだし、ヴィジュアル面でサポートしてくれたsageの2人とか、いろいろ相談できる友達もいて、チームとしてやっている感がありました。Givvnくんに関しては突然連絡が来て、一度遊んだ流れでデモを聴かせたら、「一緒にやろう」って言ってくれて。もともと曲は聴いてたし、おれの中ではスーパーマンみたいな存在だったから緊張しました。でも実際やってみるとすごく親身になってくれて、音楽だけじゃなくていろんなことを一緒に考えてくれました。そのおかげで作品としてのレベルも上がったと思うし、やりたいことが明確になりました。
おれはもともと集団行動が苦手で、旅人気分でのらりくらりしてるタイプなんですけど、最近はチームとして動く機会が増えて、ちょっとおれしっかりしないと、ってなってきたかも。別におれがリーダーっていう感じではないですけど、みんなのがんばりを裏切るわけにはいかない、みたいな感覚がモチベーションのひとつになってきました。もっと強くならなきゃ、みたいな……。ずっと音楽のことしか考えてこなかったので、他の人に比べるとうまくできないことも多いし、落ち込むことも多いけど、好きな人と好きな音楽を続けていくためにもっとできることを増やしたいと思っています。最近はジムとかも行き始めました。
| ラブコメ
イギリスに住んでいたとき、まだ友達もいなくて、クリスマスの時期に独房みたいな狭い部屋でクゥ〜ってなりながら1日中ラブコメ映画を観続けたことがありました。『ラブ・アクチュアリー』(2003, リチャード・カーティス監督)とか。なんとなく観ていると1本すぐに観終わっちゃって、でももっと続いてほしいから立て続けに別のやつを観て。気が付くと1ヶ月ちょいで100本くらい観ていました。完全に中毒だった(笑)。ラブコメのストーリーってだいたい一緒じゃないですか。だから最後のほうとか登場人物とかもう何が何だかわからなくなってました(笑)。でも、今もよく観ます。寒い季節は特に。
| F1
ブラット・ピットが出演していた『F1® / エフワン』(2025, ジョセフ・コシンスキー)っていう映画を観て、感動して家に帰ったらF1の試合をちょうどやっていて、ちょっと観てみるか、と思ったら映画と全く同じくらい感動した(笑)。こんなのを毎週やってるんやって気付いて、それでよく観るようになりました。車が速く走るだけのスポーツだけど、マシンの性能とか、チームの戦略とか、政治とかがめっちゃ関係していて、でも最終的には選手の実力で決まる感じに痺れます。ひとつの試合でいろんなドラマが生まれるところも好き。自分はメルセデスを応援しています。
アルバム『WALKMAN』は、“歩く”というテーマを決めて作り始めて、その過程でいろんな発見がありました。でも最終的にどこかに辿り着いた感じではなくて、まだ道の途中にいる感じがします。
2月8日に渋谷 WWWでワンマン・ライヴがあるんですけど、このアルバムを聴いてくれた全員に来てほしいです。そこで、自分がこの期間に考えてきたこととか、やりたかったこと、思っていたことを全部ぶつけて、みんなからも返してもらって、その中でまた何かわかったらいいな、と思っています。バンドセットでの演奏もやるし、演出とか客演、グッズも全部ひっくるめて、「今のaryyはこんな感じです」っていうのを提示できればと思います。
今年はもっといろんなところに行って、いろんな景色を見たいと思っています。よろしくお願いします。
2026年2月8日(日)
東京 渋谷 WWW
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 3,800円 / 当日 4,300円(税込 / 別途ドリンク代)
e+
[出演]
aryy
feat. iga / lil soft tennis / RY0N4 ほか
※ お問い合わせ: WWW 03-5458-7685
■ 2025年11月19日(水)発売
aryy
『WALKMAN』
https://orcd.co/aryywalkman
[収録曲]
01. ビートルズ
02. GTA
03. Playback
04. BEACHBOYS INTERLUDE
05. 海にいこう!!
06. T-Rex feat iga
07. Seoul
08. 宇宙人
09. CRY (if you feel so)
10. I want it




