Interview | BARONESS | John Dyer Baizley


悪いけど、俺の頭の中はそういう構造になっていない

 BARONESSの最新アルバム『Stone』が高い評価を受け、様々なメディアで2023年の年間ベスト記事にエントリーしたことは今なお記憶に新しい。同作が初のセルフ・プロデュース体制のもと、バンド史上初めて前作と同じメンバーで完成させられた事実からも、現在の彼らが極めて安定 / 充実した状態にあることがわかるだろう。また同時に、過去ずっと続いてきた、特定の色彩をアルバム・タイトルに冠する慣例が終了したことは、ここに来てBARONESSが次のステップに向かって力強く踏み出した意欲作であると明示している。

 中心メンバーのJohn Dyer Baizleyは、音楽のみならず芸術全般に文字通りその身を捧げる生粋のアーティストだ。もともと美麗なジャケット・アートを描く優れた画家としても知られ、様々な文学作品からの影響を雄弁に語る読書家のBaizleyが溢れんばかりに抱えたアートに対する情熱は、以下のインタビューを読んでもらえれば、これでもかと伝わってくると思う。そして、BARONESSというバンドに特別な存在感をもたらしているものが何なのかを実感できるのではないだろうか。


 2024年こそ待望の再来日公演が実現することを願っている。


取材・文 | 鈴木喜之 | 2023年10月
通訳・翻訳 | 竹澤彩子
Photo ©Ebru Yildiz


――現在のバロネスは創作面で非常に活性化していて、曲をたくさん書いたり、長い曲を書いたりすることは、さほど困難ではないように思えます。前作『Gold & Gray』(2019, Abraxan Hymns)は2枚組の大作でしたが、最新アルバムを46分という長さにまとめるのは、けっこう大変なことだったのではないですか?

 「まさに、そこが問題なんだよ!とにかく自分は、全てを出し切らないと気が済まないタイプで。大切にしているものであればなおさらそうなるから、音楽に関しても過剰なほうが俺にとってはよっぽど楽なんだ。自分が持っているアイディアを、とりあえず全部ぶちまけるほうが簡単なわけ。そうすると、どうにもスルーできない、どうしても引っかかる音っていうのが必ずその中に現れてくるから、それを先鋭化していくんだ。そこで自分のアイデンティティや感覚を働かせて、自分にとって“これは本物だ”っていうサウンドを探り当てるんだよ。46分間っていう長さについてコメントさせてもらうと、これこそ理想的なアルバムの長さだと思う。古き佳き時代の名盤を踏襲しているような……1970年代の名作はレコード盤の制約によって、ちょうど45分くらいの長さだったでしょ?そこはたしかに意図していたし、そのほうが断然、豊かでおもしろい経験になるはずだ。過去のロック名盤と同じように、リスナー側にもある種のコミットメントの時間を強いるというか。そのために、中だるみなしでタイトな状態へ仕上げるには、とにかく音を聴いて聴いて聴きまくって、余計な部分や繰り返しは容赦なく切り落とし、同じテンポ、同じノリ、同じパターンが被ってる部分は徹底的に排除していった。まあ、今回ボツになったアイディアも、次回作に別のかたちで化けるかもしれないけど。そうやって、自分の中からアイディアが出尽くすまで曲を書きまくり、そこから最も強いものだけを厳選していくんだ。そりゃまあ、絞るのは難しいに決まってる。どれも自分にとっては子供みたいなものなんだから。30人の子供の中から選ばなくちゃいけないわけで、親としては引き裂かれるような想いだよ。実際、曲作り以上に全体をタイトにまとめていく作業のほうが苦労したな」

――前作『Gold & Gray』と前々作『Purple』(2015, Abraxan Hymns)はDave Fridmann、その前の2作品『Blue Record』(2009, Relapse Records)と『Yellow & Green』(2012, Relapse Records)はJohn Congletonと、オルタナ系の凄腕プロデューサーを起用してきましたが、本作は初のセルフ・プロデュースとなりました。自分たちでプロデュースを手がけることにした経緯を教えてください。実際にやってみて、どうでしたか?
 「初めてのことで、これまで以上に前へ踏み込めたと実感してる。バンド役もプロデューサー役もアシスタント・エンジニア役も、チーム一丸となって取り組んだんだ。その全ての土台になる曲作りとアレンジの責任を自分たちが負っているわけで、それこそマイクのセッティングから、電気系統の接続、機材の操作まで、技術者としての知識や能力も必要になる。それに関しては、ここ15年間ひたすら学習して経験を積み重ねてきたんだ。アメリカのローカル・コミュニティ向けにcraigslistっていう、中古品のやり取りをするサイトがあって……要するにe-Bayみたいなもんかな。そのサイトを中心に、必要なマイクとかオーディオ機材を長年に亘ってコツコツ集めてきたんだよ。それから、過去にスタジオに入ったときには、プロデューサーの動きを逐一観察してメモったりもした。そうやってセルフ・プロデュースができるまでの態勢を整えてきたんだ」

――ずっと努力を積み重ねてきたんですね。
 「もう、唯一の限界を感じるとしたら想像力とクリエイティヴティに限界を感じたときだけ、っていうレベルに達するまで、自分が思い描いた音をかたちにするために必要とされるスキルや機材、知識を磨いてきたよ。これまで何年間も研究を重ねて、散々試行錯誤を繰り返してきたんだ。最新アルバムでは、外部のプロデューサー以上に内容を把握している自分が舵取りをしなくちゃならないっていう使命感を感じていて、実際にそれをやり遂げたことによる達成感は半端なかったね。ひとつひとつの選択をする度に、より徹底的な個として自分たちのクリエイティヴィティが研ぎ澄まされていくのを逐一実感した。それに、これだけキャリアを積んできて、6枚目のアルバムをリリースする段階まで来たら、バンドとして完全に自立するっていう考えかたも魅力的に映ったしね。例えば、次作をアコースティック・ギター作品にしようと思い立ったら、それもアリだし、デスメタル・アルバムを作ろうと思ったら相当おもしろいデスメタルができるはず……あるいはポップ・レコードを作ったっていい。ここへきてさらにワクワクする展開が開けてきたと思うよ。このバンドではまだ開拓していない領域が山ほどあって、その可能性を全部掘り起こしてやりたい。今回、初めてセルフ・プロデュースしたことで、さらに勢いが付いたんだ。この先もっともっと、これまで自分たちが想像もしてなかったような作品が生まれてくるんだろうっていう予感がしてる。結局、俺たちみたいなミュージシャンにとっては……これはなにもBARONESSに限ったことじゃないけど、本気で自分たちの音楽に取り組んでいれば、どうしたって他のクリエイターたちに対して謙虚な気持ちにならざるを得ないし、自分たちの実力はそこまでに到達してないと自覚があるなら、その道のベストな人材に委ねることも必要だ。ただし、そのベストな人材が自分たちだとしたら、そりゃ当然、自分でやるに決まってるだろ?今回のセルフ・プロデュースによって、より混ぜ物なしの純度が高い状態でバンドのヴィジョンを体現できた気がしている」

BARONESS | Photo ©Ebru Yildiz

――一方でエンジニアリング / ミキシングには、Jun MurakawaとJoe Barresi の2名がクレジットされていますね。かつてTOOLのAdam Jonesが、Barresiについて「ロックのギターを録音させたら最高峰」と評していたのですが、あなたは以前のインタビューで、「BARONESSとしては、ヘヴィ系の音楽ばかり手がけてきたプロデューサーやエンジニアは避けたい気持ちがある」と語っていました。今回のJoe Barresi起用に迷いはなかったですか?
 「それは良いツッコミだ(笑)。今の質問に関しては2つのパートに区切って答えることにしよう。まず最初に言っておかなくちゃならないのは、これはマジで実話なんだけど、今から15〜20年前、最初にレコードを作る機会を与えられたとき、当時契約していたRelapse Recordsから“誰にプロデュースしてもらいたい?”って訊かれたんだ。当然、予算なんて微々たるもので、誰の名前を言ったところでダメ出しされることはわかってた(笑)。それでダメ元を承知で名前を挙げたのがDave Fridmann、John Congleton、Joe Barresiの3人だったんだ。それ以外の選択肢は思い付かなかった。まあ不思議な縁で、その3人ともBARONESSの作品に関わってくれることになったんだけどね」

――全て実現できたわけですね。
 「うん。今回のJoe Barresi起用について答えると、最新作は自分たちだけでレコーディングして、プロダクションについての決断もすべて自分たちで担ったから、他者にミックス用の音源を手渡す前に、これを頑強かつクリアでラウドなフル・サウンドにできる、信頼が置ける第三者の目が必要だと考えたんだ。そこでJoeに依頼したんだけど、あのJoe Barresi に音を渡すからには、それに見合うだけのサウンドになっていなければ失礼すぎるだろうと思って。そのために自分たちでやれることは全部やり尽くしたっていう自信はあったし、実際、あれだけの音源を渡されて、Joeとしても腕が鳴ったはずだよ。オリジナルの音源からさらに深い奥行きを出して研ぎ澄ましてゆく上で、まさしくエンジニアとしての腕の見せどころというか。それに、考えてもみなよ、今回のアルバムを作り始めたのは2020年で、実際にヴォーカル録りを終えたのが2022年12月だったから、要するに2年間かかりっきりだったわけ。2021年にはツアーにも出たから、ぶっ通しでこそなかったけど、2022年の大半はこの音の中に完全に没入している状態だったんだ。そこに、第三者から風穴を開けてもらう必要があった。長いことひとつの作品と近すぎる距離にあると、自分たちでも冷静な判断がつかなくなるものだろ。それでLAに行ってJoeとミックスしたんだけど、途中で何度か感極まって泣きそうになったし、マジで泣きべそかいてたよ。自分たちが時間をかけて血肉を注いできたものが、ついに魂を宿して動き出したような……本当に美しい瞬間を目撃している気持ちになって。俺たちのバンドは頑固で独立精神が強いとはいっても、決して頭が悪いわけじゃないから、実績と経験のあるプロの手助けが必要になる場面もあるっていうことは理解してる。必死に積み重ねてきた作品の最後の仕上げの部分で、完璧なかたちにして世に送り出すためには、ミックスに関しても自分たちの鳴らした音のひとつひとつを力強く鮮明に打ち出したかった。その点Joeは、信じられないくらい素晴らしいミックスをしてくれたよ。最高の音で、しかもこちらの意図をひとつ残らず反映してる。さらには、マスタリング・エンジニア界の最高峰・Bob Ludwigにマスターしてもらってるからね!どれだけ幸運で、恵まれていることか。今回ミックス段階で外部の協力を仰いだことは、最高にかけがえのない学び、経験になった」

――ちなみに、今作のクレジットを見ると、4人のメンバー全員でグロッケンシュピールを演奏しているようです。これにはどういう経緯があったのでしょう?
 「ははは、いや、若干ジョークも入りつつね。過去のBARONESS作品にはどれもグロッケンシュピールの音がフィーチャーされているし、実際、自分でもかなり好きな楽器なんだ。今回のアルバムの、特に“Shine”という曲の中では、美しく優しいグロッケンシュピール的瞬間がところどころで訪れる。たまたま成り行きで、メンバー4人ともレコーディングのどこかの時点にあのパートを録音することになって。誰かが叩いたグロッケンシュピールを別のメンバーが聴いて、どうもイマイチじゃない?ってやり直したり……っていうことを繰り返してるうちに、いつの間にか全員がグロッケンシュピールの沼にハマっていたんだ(笑)」

――(笑)それから、前作までのアルバムは色をタイトルに冠したシリーズになっていたわけですが、このテーマから解放されたことにより、最新作『Stone』のアートワークは、たくさんの色彩を使った、これまでで最もカラフルな絵になりましたね。あなた自身どんな気持ちで描いていたのでしょう?
 「今回のアルバムに関しては、直観に任せるってことがテーマにあったので……直観というか、メンバーが出した音に対する、お互いのその場での反応がそのまま曲に反映されていくようにしたんだ。そこから生まれるエネルギーを捉えるには、可能な限り自然な流れに任せることが必要不可欠だった。つまり、もし何か足りなかったり、歌ったときに若干音程が外れていたりしても、そのままのかたちで残しておいたんだよ。無理にコントロールしたら、音楽の根底にあるものが失われてしまうような気がしたから。アートワークに関しても、基本的には同じような姿勢で臨んだんだ。音楽を作り終えた後、実際に紙とペンを手に持って、スケッチを描き始めた。そこに色を重ねていって、ただ感じるがままに、自分の中に湧いてくるイメージ、アイディア、色をその場でぶつけていった。衝動に導かれるままにね。その途中で、やけに色が多いっていうことに気が付いて、そこから色にフォーカスしていった。そのほうがおもしろいって直感で思ったんだ。“石”っていうタイトルにするからには、ジャケットも灰色か黒、あるいは白とかの抑えた色を想定するところに、あえてたくさんの色を持ってきた(笑)。 そこに理屈をつけて説明するなら……これまでのどのアルバムも、自分にとっては壮大なストーリーの中の1章で、『Red Album』(2007, Relapse Records)『Blue Record』 『Yellow & Green』『Purple』『Gold & Grey』と辿ってきて、その全部は実は繋がっているっていうことをヴィジュアル面でも象徴しているわけ。その上で最新作は、自分たちにとって新たな時代の幕開けであると同時に、これまでの音楽的な軌跡を踏まえた先にあるものなんだっていうことを強調したかった。たとえ表向きには繰り返し劇的な変化を遂げてきたとしても、本質的には未だに変わっていないと信じてるから。家の外観をリフォームしても、柱や土台は同じままで、決して揺らぐことのない確固たる芯としてあるっていうこと。今回のアルバム・カヴァーが象徴しているのは、まさにそこなんだ」

――なるほど。ところで、前々作から「Abraxan Hymns」という自身のレーベルを設立して活動してきていますが、既存のレーベルから独立した立場を保つことで、どんなメリットを得て、何を達成できたと感じていますか?
 「自分たちのレーベルを持つことの何が素晴らしいかって、独立した個として自分たちの表現を完全に体現できるところだよ。確実にね。BARONESSは独立精神をなにより大事にしているから、自分たちのレーベルから作品を発表できるなら、仕事量が10倍になったとしても構わない。メジャー・レーベルと契約して、資金を提供してもらった上で、マーケティングだのプロモーションだの一切合切を請け負ってもらうくらいなら、100倍必死になって働くほうを迷わず選ぶ。というのも、メジャー・レーベルの連中と話していると、要するに、あくまでも全てはビジネスなんだよな。俺たちの目的はそうじゃないっていうか、このバンドにしかない唯一無二の表現だったり、世界観だったり、リスナーに体験を提供することを一番の目標にしているわけであって。普通に作品を出して買ってもらう以上の深い関係性を追求しているから、そこが今の業界のノリとはどうも合わないっていうか……例えばミュージシャンとしては、46分間の曲を丸ごと全部聴いてもらいたいし、ヒット曲1発とそのMVだけに注力しているつもりはないんだ。みんなが知っているサビがひとつ作れればいいや、っていうのじゃなくて、アルバム全体でひとつの作品だと考えているから、最初の曲から最後の曲まで、メンタリスト並みに心理合戦を仕掛けてる。それくらい俺たちにとってアルバムとその曲順は重要。要するにBARONESSは、ストリーミング向きじゃないんだよ。SpotifyでもYouTubeでもなんだっていいけど、あれは1度に1曲だけ聴かせるための仕組みだからね。1曲聴いたら次のアーティスト、もしくは今一番再生されている曲に移行していくシステムになってる。少なくとも、今現在の音楽業界のシステムはそうなんだ。俺は断固としてそれを拒絶する(笑)」

――なかなか大変なことだとは思いますが……
 「ただ、俺たち以外にも音楽によって異世界を作り出すことに挑戦しているアーティストは今なおいるって信じてるよ。PINK FLOYDの『狂気』がなぜあんなに偉大な作品か、っていう話。たった1曲だけ聴いて、あの世界観をフルに体験できるかっていったら、そうはいかないよ?70年代の名作は最初から最後まで岩盤のように曲を固めることで、1曲だけでは味わうことのできないマジックを起こしたわけだよ。そこそこ使える曲が2〜3曲あって、あとは全部埋め合わせでいいっていう発想は俺たちにはないし、そんなもん認めない。全く理解できないね。悪いけど俺の頭の中はそういう構造になっていないんだ。俺は、アーティストっていうのは文字通り芸術を作り出しているものだと考えている。アートと言うからには、それがどういう環境で、受け手にどんなかたちで提示されるのかというところまで口出しする権利があって、義務だとも思っているから、たった3分間の曲だけで全て理解してもらったみたいに思われたら、たまったもんじゃないよ。46分間、ガッツリと濃密な経験をしてもらって、繰り返し同じアーティストを聴き続けて、その進化を見届けてほしいんだ。そういうやりかたが今の時代にそぐわないことは重々承知しているけど、自分はそこに抵抗を示したい」

――わかりました。さて、『Gold & Grey』を作っていたときには、マイケル・ムアコック(HAWKWINDやBLUE ÖYSTER CULTと親交が深いことで知られる英SF作家)の作品をよく読んでいたと話していましたね。『Stone』制作時、つまりパンデミック期間には、どんな本を読んでいましたか?
 「自分の作品で非常に大きな影響を受けているうちの1人が、アメリカ南部の作家ウィリアム・フォークナーなんだ。あと、キャリア初期に影響を受けた作家だけど、今回のパンデミックをきっかけに読み返していたのが、南米文学で、たしかアルゼンチン出身の、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの作品。昔から歌詞の面でインスピレーション源として重宝させてもらってる。ボルヘスの短編を読んでいると、頭の中にいろんなヴィジョンが思い浮かんでくるんだよ。そういう作家が大好きなんだ。あとノンフィクションも読み漁っていたし、ケルト神話にもハマってる。ケルトに受け継がれている神話と、そのストーリーの中に紡がれている歴史とカルチャーに、昔からとても惹かれてるんだ。今回の曲名や歌詞のアイディアを練っているときには、タイトルになった“石”に関する様々な神話を参考にした。例えばギリシャ / ローマ神話だったら、 プロメテウスが人間に火を渡した罪で岩に縛りつけられたり、シーシュポスの神話でも巨大な岩を山頂まで運ぶと同時に転がり落ちてしまう苦行のエピソードがあるし、ケルト神話の中にもモノリスやストーンヘンジといった一枚岩からできた巨大な建造物があったりして、世界中で石と神話の間に関連性が見られるんだよね。今回のアートワークでも参考にしたけど、もともと彫刻にも興味があって、特に石の彫刻だったり石に彫られている作品なんかに、昔から妙に惹かれるんだ。どんなカルチャーや神話にも、石や彫刻の美しい作品が数多くあるし、そういうイメージが今回の曲を書く上でのイメージの土台になってる」

――ところで、2014年に発表された『Songs Of Townes Van Zandt』(My Proud Mountain)というカヴァー企画アルバムの第2弾に参加していましたよね。あなたはカントリー・ミュージックも好きだそうですが、このプロジェクトに参加することになった経緯について教えてください。また、ここで共演している Katie Jonesという人は、前作『Gold & Grey』でヴァイオリンとヴィオラを弾いていたミュージシャンだと思いますが、どんな人なのか紹介してくれますか?
 「それに関してはおもしろいエピソードがある。自分がKatieに会ったのは2012年か13年頃、キャリア半ばにしてツアー・バスの事故で全治8ヵ月間の重傷を負っていた時期だった。その話からして壮絶なんだけど、脱線するからここでは割愛しておく。もし知らない人で興味があったら、ネットに詳しく載ってるよ。とにかく、肉体的にも精神的にも参ってる時期で、それでも音楽は人を癒してくれると信じてた。そんな頃、他の人たちとシェアできるように、アコースティック音楽に本格的な興味を持ち始めたんだ。もちろん、前からフォークやブルーグラス、カントリーといった音楽も聴いてきたし、BARONESS初期にもアコギで曲を書いたりしていたけど、2012年になってアコースティックなトラッド・ミュージックに本腰を入れて取り組もうって思って。そういうときに俺のところへデモを送ってくれたのがきっかけでKatie Jonesと出会ったんだ。こんなに美しい声は聴いたことない!っていうくらいに感動して、BARONESSの曲を一緒にカヴァーをしてくれないか?って頼んだら、早速『Blue Record』 か『Yellow & Green』の曲をカヴァーして送ってくれたんだけど、それがもう信じられないくらい美しくて。彼女はミズーリ在住で、俺はフィラデルフィア在住だったんだけど、そこから音源をシェアするようになった。Gram ParsonsやTowns Van Zandt、Bruce Springsteenなんかのメロディやハーモニー重視の優しくて美しいタッチの曲をお互いにカヴァーして送り合う仲になったんだよ。時を同じくして前ベーシストが脱退して、後任のベース・プレイヤーを探していたんだけど、現ベーシストのNick JostとKatieは同級生でね。つまり、彼女の紹介でNickと出会ったんだ。だからBARONESSの歴史にとってもキーパーソンだし、レコーディングにもちょくちょく顔を出してくれてる。そもそも彼女自身が偉大なミュージシャンだから、共演させてもらうことによって自分の音楽の優しくて柔らかい面が引き出されるのを実感するよ。俺は歌手として、世界一美しい歌声の持ち主っていうわけじゃない。ただ、いかに自然にいい感じで歌えるようになれるか自分なりに開発中で……まだ自信はないけど、それでもこういう優しい感じの歌は大好きなんだ。『Stone』からも感じられるはず。実際、自分たちがこれまで出した作品の中でも、アコースティックな音が最も際立ってるしね」

――先日ファンからの質問にRedditで答えるイベントで、最近のお気に入りアルバムとしてKINETIC ORBITAL STRIKE(DEVIL MASTER, MAMMOTH GRINDER, POWER TRIP etc.のChris Ulshが在籍するDビート・パンク)の『Kinetic Orbital Strike』と答えていましたよね。彼らと地元が近いとはいえ、まだそれほど知られていない存在だと思うので、あなたが常に有望な新しいバンドをチェックしていることがわかります。
 「(笑)。いや、普通に音楽を聴いていたら刺激を受けるに決まってるし、ていうか自分から新しい刺激に触れに行かなくちゃ。単純にそれだけだよ。重いケツを上げてライヴハウスに足繫く通えっていう話。いろんなバンドのステージを観せてもらえるのも、ミュージシャンの役得なんだから。それに俺は、似たような音を鳴らすバンドだけ聴くタイプじゃなくて、ジャンルに関しても一切こだわりがないんだ。“どんな音楽が好き?”って訊かれたら、単純に“良い音楽”って答えてるよ。すべてのジャンルの最上級の作品は、とりあえず俺の前に持ってきてくれ!っていう感じだね。ジャンルがどうのってくだらないことを言っていたら、この世の最高の音楽を見逃しちゃうかもしれない。そんなのもったいなさすぎるって。当然のことでしょ?だからアリーナ級のコンサートも観に行くし、フェスも好きだけど、やっぱり自分が一番魅力的に感じるのはパンク・ロックのDIY的なステージなんだよね。それこそ地下にあるような小さなクラブだったり。俺はフィラデルフィアに住んでるんだけど、良いハコがたくさんあるんだ。40代にもなって、20年間ミュージシャンをやってきてるんだから、これ以上昔やっていたのと似たようなタイプの曲ばかり作るのなんて耐えられないし、完全に新たな音楽を一から作りたい。そのために今の新しい空気を実感するには、自分からその中に飛び込んでいくしかないんだ。それには小さいハコに通うのが一番良い気がする。あるいは大きな会場だろうがフェスだろうがオンラインだろうが、とにかくあちこちにアンテナを張り巡らして音楽を浴びまくることだね。それから、レコード・ショップに通うこと、自分以外の人間がどういう音楽を聴いてるのかリサーチすること」

――自らのキャリアが確立してくると、そういうことが面倒になってきてしまう人も多い中で、あなたがずっと新しい刺激への関心を保ち続けていられるのはなぜでしょう?
 「年齢を重ねたミュージシャンが徐々に音楽への興味を失う、ってよくあることだけど、俺からするともったいないよ……好奇心こそが現役のアーティストと、そうじゃない人の差なんじゃないの?いや、これについては真剣にそう思うね。例えば3〜4歳の子供に紙とクレヨンを渡して何か絵を描いてって言ったら、思いっきり自由に絵を描くよね。太陽だの波だの鳥だの犬だの自分の頭の中にあるイメージをそのまま絵にして、絵を描く行為そのものがクリエイティヴィティの体現に直結してる。それが思春期を経て大人になるにつれて、だんだん自分を表現することが恥ずかしくなって、絵を描くにしろ歌うにしろ音楽をやるにしろ、上手下手で判断して、恥をかきたくないっていう気持ちから自分を引っ込めてしまう、あるいは世界に対して発信することを止めてしまう。実際、バンドが特定のキャリアに達すると、ただ昔の曲を演奏するだけになってしまうケースを自分もリスナーとして見てきてる。それもまたプロの在りかたなのかもしれない。世間がそれを求めているんだし、自分の曲を演奏して何が悪い?っていう。ただ、繰り返すようだけど、俺はそこに断固として抵抗してやる。生きている時間は限られてるんだ。だったら全力を尽くして臨もうって。そのためには自分自身と深く向き合って、アーティストとして成長し続けるために、常に自分の周りにあるインスピレーションに対して謙虚な態度で接すること。ベテランになると、自分より歳下のアーティストにインスパイアされるなんて屈辱的に感じる人もいるんだろうけど、俺はそうじゃないし、むしろおもしろいアイディアを持った若い連中が登場したら、おおっ!ってゾクゾクするタイプだから。単純に好奇心を失わなけばいいんだよ」

――それでは最後に、日本に来たらやってみたいことがあったら教えてください。こういう場で公言しておくことで、実現しそうな気もしますので。
 「本気で心の底から、日本に行きたくて行きたくてウズウズしているんだ!あまりに長いことご無沙汰してるから、今どれくらいのファンが日本にいるのか想像もつかないけど、自分たちを日本へ呼んでくれる人がいたらぜひ!連絡待ってるんで!前に日本に行ったときは東京、大阪、名古屋を回らせてもらったけど、ぜひ再訪したいし、他にもいろんな都市を回ってみたい。前回はたしか5〜6日の短い滞在だったから、次に機会があれば、もうちょっと日数がほしいね。自分のこれまでのツアー経験の中でも、特に忘れられないのが日本なんだ。あの美しい国のアートと歴史に少しでも触れることができて……日本の芸術には昔から興味があったからね。ミュージシャンとしてだけでなく、アーティストとしても日本のアートについてもっと深く勉強したいし、美術館にも行きたいし、田舎にも滞在したいし、日本食も堪能したいし、日本にいるたくさんの人と出会いたいし、何だって経験してみたい。世界中のいろんな素晴らしい土地に行って、素晴らしい人たちとの出会いや機会に恵まれて、それこそがミュージシャンの役得っていうやつなのに、日本にはほんの僅かしか滞在したことがないなんて残念すぎるだろ。だからどうか、BARONESSを日本に呼んでくれ!」

BARONESS Official Site | https://yourbaroness.com/

BARONESS 'Stone'■ 2023年9月15日(金)発売
BARONESS
『Stone』

国内盤 CD SICX-192 2,400円 + 税

[収録曲]
01. Embers
02. Last Word
03. Beneath the Rose
04. Choir
05. The Dirge
06. Anodyne
07. Shine
08. Magnolia
09. Under the Wheel
10. Bloom
11. Tower Falls (Live at Blueberry Hill, St. Louis, MO April 2, 2022)
12. Swollen & Halo (Live at Cobra Lounge, Chicago, IL April 10, 2022) *

* Bonus Track