岩岡純子、利部志穂、前畑裕司、三原 回、長瀬敦嗣によるグループ展「デペイゼ / 旅と庭」東京・神宮前 ニュースペース パにて開催


 前畑裕司(美術家)と長瀬敦嗣(ペインター)が運営する東京・神宮前 ニュースペース パが、三原 回がチーフ・エグゼクティブ・オーガナイザーを務める“架空のコマーシャルギャラリー”「YUMI ADACHI CONTEMPORARY」との共同でグループ展「デペイゼ / 旅と庭」を7月20日(土)から28日(日)まで開催。

 前畑、三原、長瀬に加え、6月から7月にかけて個展「言霊のさきわう地 -天照、へリオス、カーネの夢」(東京・CADAN有楽町 Space L)を開催したばかりの利部志穂、美術のアーカイヴァルな側面と日常の関係性を反映させた作品で知られる岩岡純子が参加する同展では、シュルレアリスム用語“depayser デペイゼ)”をキーワードに作品を展示。ワンコイン(500円)で購入できるカプセル自動販売機も設置されます。

シュルレアリスム用語で「対象を本来あるべき場所から移動させ異和を生じさせること」を意味するデペイズマン)dépaysement](ルネ・マグリットの絵画や、シュルレアリスムに影響を与えたロートレアモンの詩「マルドロールの歌」の一節「ミシンと蝙蝠傘の解剖台の上での偶然の出会いのように美しい」などが有名)は、もともと「追放」を意味するフランス語の動詞デペイゼ[dépayser]の名詞形をアンドレ・ブルトンが採用したものです。
本展はこのデペイゼ(追放)を足掛かりとし、
1. ポストパンデミックにおける旅や移動の再考
2. プライベートとパブリックをニュートラルに行き来する庭
3. 小さな物語の終焉→ノンサイトなアーティストランスペース
といった3つのキーワードを考える試みです。

1. ポストパンデミックにおける旅や移動の再考
COVID-19のパンデミック以降、人間の移動は激変しました。ステイホームやソーシャルディスタンスなどの新しい言葉が登場し、物理的な移動が制限された中でVR技術やリモートワークなど自宅にいながら仮想的に移動する技術や文化が飛躍的に発展・浸透しました。その仮想移動は、これまで当たり前のようにしていた物理的な移動とは比べものにならないほどの長距離移動をタイムラグもなく可能にしました。それらをニューノーマル(新しい生活様式)と呼び、賛否はどうあれ2020年代以降はニューノーマルが新しい価値観として定着し、時代が大きく変わるかのようにも思えました。
しかし、現実はパンデミックの明確な終息宣言もないまま、人々の「飽き」という巨大なエネルギーによってニューノーマルの文化はほぼ完全にフェードアウトしました。そして現在では、これまでの抑圧からの反動のように、世界中の人々がパンデミック以前よりも旅行を楽しむようになったようです。さて本展では、ポストパンデミック社会において完全復活したと言っていい「旅」という文化を、ニューノーマルが浸透したもう一つの世界とパラレルに行き来しながら再考します。物理空間では不可能であったデペイゼ的旅を展覧会という物理空間にインストールすることで、さらにパラレルなレイヤーが増えることを期待します。そこでデペイゼ(追放)されるのはニューノーマルでしょうか、それともこの現実世界でしょうか。

2. プライベートとパブリックをニュートラルに行き来する庭
企画者はステイホームが推奨される中で「庭」というものに興味を持ちました。自宅に付随する本来プライベートな空間である庭ですが、趣味として整備した庭に友人知人を招く文化は古くからあり、時として庭は公園(park)を彷彿とさせる第三者のためのもてなしの場となります。ステイホームをしながら信頼できる知人を招きもてなすことのできるニュートラルな空間としての庭は、ニューノーマルにおいて重要な文化と言えるでしょう。
もちろんこれは自宅に庭がある人だけに限った話ではなく、ゲーム内で仮想庭園をつくり第三者を招くことのできる「どうぶつの森」や「Minecraft」の世界的ヒットも特筆すべきでしょう。西洋においては、芸術家の最上位に位置するのが総合芸術家である庭師であるというエピソードもあります(これは庭以外にも詩であったり、建築であったり、演劇であったり諸説ありますが、いずれも総合芸術です)。公共性の神話に歪みが生じる中で、人々にとって必要な公共性を維持するためにも、非公共性(プライベート)を再評価することが重要なのではないかと考え、パラレルに存在するニューノーマルの表現の次の可能性として「庭」というものにスポットを当てます。
これは逆説的にキーワード1における「旅」のことでもあります。箱庭のように内に入る旅もあるでしょうし、内に入ることにより外に出ることも可能でしょう。そして、現実世界におけるポストパンデミック社会では外に出ることによって内に入ることもあるかもしれません。

3. 小さな物語の終焉→ノンサイトなアーティストランスペース
2020年の頭から始まったCOVID-19のパンデミックは、期せずして2010年代的価値観の終焉と新しい時代の幕開けの象徴となりました。10年代的価値観の一つに「小さな物語」が挙げられます。アートの分野において「小さな物語」を体現した出来事としてオルタナティブスペースやアーティストランスペースのブームは重要でしょう。企画者もこれまでオルタナティブスペースを中心に活動してきましたが、その特徴として「なぜこの場所であるのか」という地域性を全面に推し出したサイトスペシフィックなスペースが多かったように思います。これはスペースの立ち上げ動機やコンセプトであるケースももちろんありますが、郊外の商店街の空き店舗や古民家などの安い物件を借りて、アーティストという明らかな異物が普段アートとは縁のない街に介入してくるというデペイゼに拒否反応を示されないための、言わばサバイバル術であったという側面もあります。
そして、この地域性を推し出したサイトスペシフィックなオルタナティブスペースブームの終焉もパンデミックと無縁ではありません。ただし、ブームこそ去りましたが新たなスペースもでき続けています。2020年代以降のオルタナティブスペースの大きな特徴として挙げられるのがノンサイトであることであり、これは全世界的に言える小さな物語の終焉と無関係ではないはずです。本展の会場であるニュースペース パはまさにノンサイトなスペースと言えるでしょう。神宮前のホワイトキューブというニュートラルな空間では、運営する二人のアーティストの興味の範囲で展示企画をまわしており、そこに「この場所である必然性」が介入する余地はありません。このサイトからの解放は、移動に物理的な距離のしがらみがなくなったニューノーマルな移動に似ているとは言えないでしょうか。本展ではニュースペース パを運営する二人のアーティスト前畑裕司、長瀬敦嗣にも出品を依頼します。企画者はここに、このスペースで展覧会を企画する意図を見出しており、言わばノンサイトのサイトスペシフィティと言えるかもしれません。

――YUMI ADACHI CONTEMPORARY チーフエグゼクティブオーガナイザー 三原 回

デペイゼ / 旅と庭

2024年7月20日(土)-28日(日)
東京 神宮前 ニュースペース パ

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-20-9 ホワイトビル1F
13:00-20:00 | 火水休廊

出展作家
利部志穂 / 岩岡純子 / 前畑裕司 / 三原 回 / 長瀬敦嗣

企画: YUMI ADACHI CONTEMPORARY, ニュースペース パ

Gallery

岩岡純子 Sumiko Iwaoka Official Site | https://www.sumikoiwaoka.com/
利部志穂 Shiho Kagabu Official Site | http://www.kagabu.com/
前畑裕司 Yuji Maehata Instagram | https://www.instagram.com/pateo3/
三原 回 Qay Mihara Official Site | https://mihalab.jp/
長瀬敦嗣 Atsushi Nagase Instagram | https://www.instagram.com/a2cngs/