著書『アゲインスト・リテラシー グラフィティ文化論』(2015, LIXIL出版)、『ストリートアートの素顔 ニューヨーク・ライティング文化』(2020, 青土社)や、「COMME des GARÇONS」「シュウ ウエムラ」等とのコラボレーションなどで知られる美術家・大山エンリコイサムが、ソロ・エキシビション「Book Covers, Bookends」を1月25日(木)から2月25日(日)まで東京・恵比寿 NADiff a/p/a/r/t / NADiff Galleryにて開催。
NADiff a/p/a/r/tでは「Paint Blister」(2022)以来2度目の個展となる同展では、書店 + アート・ギャラリーとして2023年9月にリニューアルした同店のスタイルにフォーカスし、ブックエンド、ブックケース、ブックカバー、ブックページなどに大山独自のライティング表現「クイックターン・ストラクチャー(QTS)」を施した作品を出展。なお、NADiff a/p/a/r/tの2Fのスクールデレック芸術社会学研究所では、大山の個展「Torus」を1月25日(木)から3月10日(日)まで同時開催。2月7日(水)には大山と飯田高誉(キュレーター | スクールデレック芸術社会学研究所所長)によるトーク・イベントも実施されます。
本展の端緒は、先立ってNADiff a/p/a/r/tとの協働から着想し、本展で発表することになったブックエンドである。それらは単体として鑑賞や思考の対象となる美術表現であると同時に、実際の書物と組み合わせて使用できるプロダクトでもあり、その両儀性がマテリアルの選定から流通のチャネルまで、全体にわたり設計に反映されたコンセプチュアルな複製作品である。なぜ、ブックエンドか。アーティストが書店とコラボレーションするとき、アートブックや書物をモティーフに創作することは想像しやすい。ただ書店とは、書物を生み出す場ではなく、陳列し、読者に届ける場である。書店に固有のその機能に注目した結果、書物そのものではなく、それを支えるブックエンドの存在が気に留まった。
かつて粉川哲夫はマンハッタンのビル群を集積したタイポグラフィーのようだと述べ、文字がかきこまれるメディアとして、路上の壁と書物のページを重ねる視点を示した。硬さや厚みのあるブックエンドは、より壁を彷彿させる。ダムが水を堰き止めるように、ブックエンドは書物を支えて立つ。直接かきこまれないが、書物が発する無数の文字がそこにエコーする。書物の無意識を反映する壁としてのブックエンド。新設された壁ではない。野晒しのままひび割れ、朽ちて、さまざまな記憶や感情を蓄えたコンクリートの塊。突きでた鉄筋。かつて壁だったそれに、非文字の抽象表現であるクイックターン・ストラクチャーを埋め込み、新たな生のサイクルが始まる。そのようなブックエンド。
書物とブックエンドの関係は、絵画とフレームの関係にも似ている。後者はしばしば窓に準えられるが、窓枠が風景を切り取るように、絵画のフレームは画布上のイメージと現実を切り分ける。同様に、書物はほかの日用品と棚やテーブルに置かれたり、無造作にカバンに入れられることで生活風景に溶け込むが、ブックエンドはそれを屹立させ、周囲の連続から切り離し、自律したそれ自体の空間を立ち上げて提示する。四方を囲われた均一の棚板にたくさんの書物をまとめおく本棚が、複数の絵画を掛けた壁面、または役者の演技するステージだとすれば、フレームやブックエンドは、個々の絵画や書物のかたちに寄り添い、それらの個性を解放して際立たせるバイプレーヤー(名脇役)である。
言い換えればブックエンドは、書物がテキストや画像の情報を載せた透明なメディアではなく、物理的に空間を占めるひとつの造形物であることを仄めかしている。このことは、電子書籍が台頭した現代社会において示唆に富んでいる。電子書籍は、書物にあった造形物としての性格を失い、情報を載せた透明なメディアへと痩せ細っている。そこにはブックエンドのみならず、ブックケースも、ブックカバーも必要ない。ページの概念はかろうじて維持されたが、手でめくることはできない。これらフィジカルの位相は、本を取り巻く環境から追放されつつある。そして書店という場もまた、オンラインショッピングが翌日に商品を届ける時代に、そのアイデンティティに変更を余儀なくされている。
ブックエンド。ブックケース。ブックカバー。ブックページ。ブックストア。本展では、書物にまつわるこうした事物が過渡期にあるなか、それらを旧来の役割から転じた別の可能性、すなわち美術表現のためのフィールドに読み替え、作品化する。ブックエンドは複製された立体作品に、ブックケースは半立体のドローイング作品に、ブックカバーはスプレーされたステンシル作品に、ブックページはリングノートを模した印刷作品に、ブックストアはそれらをディスプレイする展覧会場に姿を変え、再定義される。世界にまだ存在するが使命を終えつつある事物の中間的な状態を「隙間」と捉え、クイックターン・ストラクチャーが自在に広がる空間へと翻訳し、新たな意味の生成を促進するのである。
――大山エンリコイサム
■ 大山エンリコイサム
Book Covers, Bookends
http://www.nadiff.com/?p=31599
2024年1月25日(木)-2月25日(日)
東京 恵比寿 NADiff a/p/a/r/t(1F), NADiff Gallery(B1F)
12:00-20:00
2月7日(水), 17日(土)はイベントのため19:00閉店
月曜定休(祝日の場合は翌火曜日が定休)
入場無料
主催: NADiff a/p/a/r/t
協力: Takuro Someya Contemporary Art / agnès b. galerie boutique
■ 大山エンリコイサム
Torus
https://www.sgurrdearg.com/exhibitions/enrico-isamu-oyama-torus/
2024年1月25日(木)-3月10日(日)
東京 恵比寿 スクールデレック芸術社会学研究所(NADiff a/p/a/r/t 2F)
金-日 予約不要 14:00-18:00
水木 事前予約制(お問い合わせ: info@sgurrdearg.com)
月火休
入場無料
[トーク・イベント 書物と洞窟をめぐって]
2024年2月7日(水)19:30-21:00
東京 恵比寿 NADiff a/p/a/r/t
出演: 大山エンリコイサム / 飯田高誉(キュレーター | スクールデレック芸術社会学研究所所長)
参加費 1,100円(税込)
予約: https://www.nadiff-online.com/?pid=178904554
主催: 飯田高誉(スクールデレック芸術社会学研究所所長)
協力: Takuro Someya Contemporary Art
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