“みんなにこの感じを見せたい”の連続
同店が、2015年5月の初回以降、定期的に開催している「Silent Auction」の第20回目を同店内および初の店外進出となった東京・西新橋 CURATOR’S CUBEにて1月15日から2月9日まで開催。オーナーの田上拓哉が買い付けの中で出会った“一線を超えた、グッとくる物”に絞って出品された同展は、現場で競り合う一般的なオークションとは異なり、展示期間中に好みの価格を入札用紙に記入して入札する、価値感に重点を置いた“競り合わないオークション”。今回は500を超える入札があったそうです。なお、「Silent Auction 20」会期中の2月2日には、Essential Storeの紙ものライン「紙屑倶楽部」も東京・祐天寺 SEINで不定期に開催されているイベント「Artma Swarupa」に七円体、大井戸猩猩らと参加して展示販売。
本稿では、Essential Storeで2019年6月に個展「情景を愛し 眼差しを共有する」を開催した画家・近藤さくらが田上にインタビュー。東京での「Silent Auction 20」開催中、閉館後のCURATOR’S CUBEでお話を伺いました。
取材 | 近藤さくら | 2020年2月
文 | 仁田さやか
撮影 | 久保田千史
協力 | CURATOR’S CUBE
――わたしが初めてEssential Storeに行ったのは、2015年。ちょうど大阪で展覧会(* 1)をしていて、フライヤーを置いてもらいに行ったのがきっかけだったね。それからはお客さんとしてお店に通っていて、2018年の夏にたまたま拓哉くんと話す機会があって、その時間がとても印象に残っていて。拓哉くんとの会話の中から、その頃に自分の中に足りないと思っていたことが分かりそうな感触があったというか。
「そのときに展示をやりたいって言ってくれたな。その前にHOPKEN(* 2)で(松井)一平くんと一緒にやってたやろ(* 3)。そのときに初めて観に行ったんだと思う」
* 1 2015年6月7日-8月30日開催 近藤さくら個展「B T W」
* 2 2019年6月に閉店した、大阪・堺筋本町のイベント・スペース兼CDや本や雑貨などのショップ。B1Fのギャラリーは、2017年10月より「Pulp」が運営(「Pulp」は現在南堀江に移転)
* 3 2016年12月10日-2017年1月15日開催 近藤さくら × 松井一平展「PAL」
――初めて行った時から、あの特別な空間のことが大好きになっちゃったから頭から離れなくて。気がつくと個展のシュミレーションが止まらなくなって、これはもう展示したいってお願いしてみよう!と思って、Essential Storeがオープンしてない時期だったけど、拓哉くんに「時間を作ってもらえませんか」って連絡をして、大阪に会いに行った。そのときは、「お店のオープン時期とわたしの作品ができるタイミングが合えばぜひ」っていう感じの答えだったよね。
「作品買ったこともあったし、興味もあったし、めちゃかっこいいなと思ってたから。そしてそこから寝かせたよね」
――うん、めちゃ寝かせた。
「俺がいっぱい資材を送ったんよ」
――あ、そうだ!
「これに描いたらいいんじゃない?っていうものをいっぱい持ってたから、それを一気に送ったら、今構想してたのをやめてこれに描き直すってなって。“やっぱりもうちょっと考えさせてください、企画練り直させてください”っていうのがあって、半年後にやるんだったのが1年後みたいになったのかな。でも結果良かったよね」
――うん、良かった。
「すごくいいのができた」
――最初は、全部紙に描いた作品だけで行くつもりでいたんだけど、拓哉くんから突然大きなダンボールが届いて中身を見た瞬間に、今までの展示プランが完全に崩れて、真っ白に戻ったの。あの瞬間、気持ちよかったなぁ。大きな卵とか、昔の判子とか、ガラス瓶とか、点字の本とか、石の断面とか、初めての素材ばかりだったから、ワクワクした。とにかく全部に描いてみなくちゃ!と思っちゃったの。
「なんか違うところに火をつけてしまって(笑)」
――本当にそう。紙以外に描く楽しさに気づく良いきっかけをもらった。拓哉くんに送ってもらったもの以外にも、粘土や布に描いたり、映像を作ってみたり、かなり作品のバリエーションが広がったもん。結局、予定していたよりも半年遅れてしまったけど、わたしにとってとても大事な展示になったよ。
「そやね、だから付き合いでいうと5年ぐらいかな。頻繁に会うわけじゃないけど。すごく相性いいと思う。似てるところがけっこう多いと思う。だらしない考え方のとことか(笑)。ちゃんとするところはしてんねんけど。人と会うの面倒くせーとか(笑)」
――人としゃべるの嫌だから後ろにこもろうとか(笑)。
「全然約束ができへんとか。約束したら2日前に行きたくないってなっちゃたりするんだけど、そういうところもけっこう似てて」
――時間の感覚とかね。「12時に行きますー」って言ってたのに「やっぱり1時にします」って言ったりね(笑)。
「あかんねん(笑)。あかんねんけど。だから約束を全然入れられへんくて。極力迷惑だけはかけたくなくて。自由にしてるぶん。そういうところけっこう似てると思う」
――うん(笑)。
「お酒飲んでるとけっこうわかる」
――お互い、「いいと思う」「いいと思う」って言い合ってね(笑)。
「共感しあって(笑)。でもかっこいいことをしたい、ヤバいもんを作りたいっていう思い、一発かましたいっていう気持ちはお互い強くて。それをなんか、さりげなく、人にはあんまり言わへんけど、実はもうそんなことばっかり考えてて。そんなふうには見せてないけど。そういうところも似てるなあと思って。目立つのあんまり好きじゃないし。ひっそりヤバいことをしていたいっていう」
――うんうん。
「だから自分らはそんなに発信せえへんし、自然と来るでしょうみたいな。常にそういう態勢でいてるよね。あんまり無理せえへんもんね」
――そうだね、自分に合ってないことを切り捨てて、省いた代わりに自分を掘り下げるほうに力を使いたいっていうのがすごい似てる。
「だから、あんまりいろんなことはしたくないんよ。いっぱいやるんじゃなくて、“元気玉超でかいの溜めてる”みたいな。だから今回東京で“Silent Auction”できたのもそんな感じで、すごくいい機会もらって」
――今回の東京での「Silent Auction」は、自分のことのように嬉しかった!拓哉くんたちのして来たことを知らない人たちに見てもらえるんだ、やった!と思ったよ。なんでこんなにしゃべりやすいのかと思ったんだけど、わたしも拓哉くんも発動源が常に“自分”なんだと思うのね。自分がやりたいことを思うようにできるようにするためにはどうしたらいいかってことしか考えていないの、多分。だから、人に対してひねった態度をとったり、思ってないことを言ったり、遠慮したり、まわりくどいことが一切なくて、気持ちがシンプル。「好き」とか「頑張って」とか「これ違う」っていう言葉に嘘がないんだよね。そういう人と接していると、わたしはすごく嬉しくなって、どんどん心が開く。だから、拓哉くんと話していると、小学生くらいの精神状態になってしまうんだよ。
「無理はしないようにはしてる。大きく見せようというのもない。いい意味で自分中心って言ったらいいのかな。まずは自分が良くないと、なにも始まらへんと思ってるから。人のためにとか、そういうのは最低限度はもちろん考えた上で」
――Essential Storeの構想はいつくらいからあったの?
「服のブランドをやっていて、服作るのがおもしろくなくなった時期があって。もともと服を作りたいなって思ったのは、古着屋の店員をやっているときなんだけど、お客さんがなにを欲しがっているのか、常にしゃべってるからわかって。これを作ったら絶対売れる、“これ欲されてる”みたいなのが自分の引き出しに入っていって」
――服のアイディア?
「うん、Tシャツのブランドやったから、グラフィックのアイディア。タイミングでそれを作ったらやっぱり受けたというか、売れて。でも結局、ブランドを始めた時点でお客さんと接する時間がなくなっちゃって。ずっとデスクワークで店に立たへんから。それが2、3年続いたんかな。それで何作ったらいいか、わからんくなっちゃって。いろんなタイミングもあってんけど。それでやっぱり店立ちたいな、人と交流したいな、と思って。うちの母親に“店しようかなって考えてんけど”って相談したんよ。母親はめっちゃアイディアマンなんよ。なにか聞いたら、もう、うるさいくらい(笑)、“これやったらいい、あれやったらいい”って言うような人で。その母親に、“ずっと店借りんと、1週間とかだけ誰かの店借りてやったら”って言われて。それがEssential Storeの一番最初。自分の持っている古着とか雑貨とかを出して、1週間だけやったのかな。けっこう売れて、これは自分にとってやりやすいと思って。それから不動産で空いている物件を、1ヶ月だけ契約できませんか?って掛け合って、1日5,000円で3週間借りて準備して、オープンして閉めるみたいなんを転々としているときに、それやったら期間限定のお店をやれる事務所兼お店を借りようと思ったのが30歳のとき。だから8年ぐらい前に始めたんかな」
――それが今の場所?
「そうそう。自分にとっていいサイクルを作りたくって。お店に立つことによって人と話すことができます、そのお店の期間が終わったら服の企画できます、それでアメリカ行きます、帰ってきてお店開きます、人と会います、その後にまた服作ります、みたいな、全部が繋がるサイクル。2つの仕事で、お互いカバーし合う仕事の仕方を考えたというか。仕組み考えるのがけっこう好きで。“Silent Auction”みたいな、自分にとってあったら良いな、と思うルールを自分で考える癖があったというか。ポジティブな考え方で。自分に都合の良いようにけっこう考えるから。自分の心の中にいるAとBの、Bのほうが“いけるいける!”みたいな感じで、いてるんよ。お調子者が」
――わたしもいる(笑)。わたしね、3等身くらいのがいて、めちゃくちゃ広い座敷にいるんだよ。で、ずっと踊ってる。「大丈夫大丈夫、がんばれー」って言いながら(笑)。
「そういう都合の良いBがいてて(笑)。そんな感じ。お店始めてからはそういうサイクルでやってきてたけど、3年ぐらい前から恥ずかしくなってきてあんまりお店に立ってなくて」
――なんでー(笑)。
「“これを買い付けてきてるやつってどんなやつやねん”ってなるやん(笑)。そういう注目を浴びるのが嫌で。もうほんま恥ずかしい。見られたくない。顔も見られたくない。一見さんがきて、“あの人がオーナーさんかな?”っていうような声が聞こえてくるようになってから、ほんまよう立たへんようになっちゃって。だから最近また何を作ったらいいかようわからんくなってきた(笑)」
――……おもしろい(笑)。
「だからスタッフのしょうちゃんと桃ちゃんには、今日どんな人が何を買っていったか聞くねんけど、“いや、それは説明できへん”っていつも言われんねん(笑)」
――(笑)。
「だからそこも考えな、となって。今までずっとInstagramも鍵かけてて、“閉じて”てんけど。でも今年になって、今年はいろいろ“開いて”いったほうがいいっていう、嫁さんとの家族会議があって。2020年は、詳しくはわからないけど240年ほど続いた、最後の1年間らしくて。もう2020年から新しい流れがきているらしくて。ふぇみにゃんさんって知ってる?」
――知ってる!
「ふぇみにゃんさんがInstagramであげてて。朝、飯食ってるときに“今年はこんな年らしいよ、見た?”って話してたら、“ほんと鍵とかやめたほうがいいよ”って嫁さんに言われたから、やめようって思って鍵かけるのやめて。食わず嫌いはあかんって思って。エキシビション・パーティ的なもんも今までやってこなかったけど、今回はやったり、こういうインタビューも受けてなかったけど、とりあえずやってみようって思って。1回もやらへんのはあかんって思ったし、さくらちゃんがインタビュアーだっていうのも、なんか安心と思って」
――インタビューに答えるのって難しいよね。1回喋ったことが少し時間が経って文字になって出るときに、わたしなんでこんなこと言ってしまったんだろう……って思う時よくあるよね。
「いやー、ほんまほんま。そういうのほんまな、あるんよねー(笑)。でも人生1回きりやから、記念として。去年だったらやってなかったと思う。普段やらへん行動することによって、いろんなことがガラッと変わったりするから、今はそれを楽しんでる」
――超わかる。日々それの実験やってる。
「そうそう」
――わたしは全然海外にも行かないし、どこかに移動するってことがあんまりないから、日常の中に小さい実験を設定して同時進行でしてるよ。出勤ルートを何パターンか組んで日によって変えたり、習い事したり、毎日同じ場所の光を確認したり、降りたこと無い駅で散歩したり。
「それだけで変わるよね」
――今年はそういうのを大々的にやる年、ってことなのかな。
「うん、おもしろい。なんかね、皮むけていっている感じ」
――でもね、さっきの“開く”とか、自分をさらけ出していくっていう話とは逆に、わたしは、今の時代の人に見つけられなくてもいいや、っていう“閉じていたい”気持ちもやっぱりある。
「それもあるなー。そういう感覚もあるな。10年後でいいや、くらいの。俺はそこをけっこう意識してて。村山知義らがMAVOをやってたように、“あのときはこういう人らがおった”っていうような。今回七円体を呼んだのも(* 4)、“Silent Auction”のオープニングで七円体がライヴしてたっていうことを残したいっていうのが理由だったりして。そこで、近藤さくらとEssential Storeが……」
* 4 東京初日のオープニング・パーティで演奏
――ここ繋がってたんだー!っていうことを残したいよね。
「そうそう。ああいう組織図みたいなのはやっぱ好きやから。そういうのを大事にしたいなとはよくしゃべってる」
――わたしはもっと遠い時代に憧れているところがあって。1000年先とか。生きているわたしのことを知っている人なんてひとりもいない時代に作品を見つけてもらえたらどんなにおもしろいだろうっていう気持ちがある。今は、遠い時代の知らない誰かのために、“万置き”をしている最中なの。わたしが作ったものや、行った場所、考えていることを形にして残して、辿ってくれた時に楽しい組織図になっているように現世を目一杯生きたいです(笑)。そうだ、気になっていることがあるんだけど。こういう(CURATOR’S CUBE)白くてきれいな空間で展示の品々を並べてみてどうだった?
「実は真っ白なところでやるっていうのが初めてで。めっちゃおもしろかった」
――Essential Storeってめちゃくちゃ安心感があるよね。日頃の実験が何重にも積み重なって独特の空気ができあがってる。まず物量がすごいよね、質感の種類、大小の幅が広いんだけど全てが一つの生命体みたい、“巣”みたいな感じがする。拓哉くんは目をつぶっていても何がどこにあるかわかってるんだよね。
「ほんまに“立体CAD”みたいなもんが頭の中にEssential Storeに関してはあって。だいたいぴったりわかってる」
――もう、拓哉くんの“体内”みたいな感じなんだよ、きっと。Essential Storeが。
「まあまあ長いこと過ごしてるからね、あそこで」
――そこから物理的に切り離されていて、しかもこういう真っ白なところでものを配置する時の感覚の違いについて聞きたかった。
「だから準備に手こずったんよ。この空間を把握するのに時間がかかったのと、もっとやりたいことは実はあったりしててんけど、でも見えかたとしてはOKなかたちになった。その中で、Essential Storeだからよく見えてたものもあったっていうのがわかったし。この空間には合わへんものもある」
――へー。おもしろい。
「この空間やから入札めっちゃ入っているっていうのもあったし。新しいチャンネルがけっこうできた感じ。また2年後ぐらいにやりたいな。それまで溜めて溜めて」
――Essential Storeってだいぶ拓哉くんの生活と繋がってるから、なくなったら足して、気になったら動かして、みたいなのが毎日できちゃうよね。それが、期間が決まっていて、搬入の時間も決まっているっていうのは……。
「いつもずらすからね(笑)。Essential Storeはいつもオープン日を12時間前ぐらいにしか告知できへんくて。よう決めへん(笑)。でもここは日程が決まってるからね」
――締め切りが決まっているっていう状況はどうだった?
「それも自分の中で厄介な問題で。明日オープン無理だった、明後日にしよう、っていうのをずっとやっちゃうタイプなのよ。公表はしてないけど、自分の中でね。最近がんばらなあかんところはがんばらんとあかんのをすっかり忘れちゃってたから。時間をかけて完璧にしようって今まで思ってたけど、それが無理やっていうのもわかった。それが10年計画とかだったらわからへんけど、例えば何かの締め切りを1週間ずらしたところで、そんな変わらへんっていうのは、今回図録(* 5)を初めて作ってみてわかった。締切って、グググっていう力が生まれるというか。入稿まで1週間しかなかったから、めちゃくちゃ無理したんよ。3日くらい寝ないで。でもなんか、今できる範囲の中でベストを尽くすみたいなのを、入稿まではやらざるを得なかったから。それでがんばる自分もわかって、締切大事やなって(笑)。しんどいねんけどね。でも大事やなって」
* 5 「Silent Auction 20」の展示作品を掲載
――“完璧な状態”ってさ、自分で作っている限りなかなか来ないよね。だけど、そこに持っていこうとする行為が絶対必要なんだよね。そう考えると“完璧”ってすごくいじらしくて可愛らしい言葉だなって思うんだ。わたしは今までずっと展示の設営が嫌いだったの。描くのも好きだし作ったものはどんどん溜まるんだけど、それを期日までに短時間で空間に展示するというのがすごく苦手で。考えてみたら、今まで展示のプランがない状態のままブッツケ本番で搬入してたんだよね。設営日の、出発する5分前まで描いたりとかしてて。それで慌てて持って会場に行くんだけど、どこになにをどういう風に飾ったらいいか全然わからないの(笑)。
「疲れ果ててるからな(笑)」
――今思えば、苦手なんだったら描く頭から展示する頭に切り替えて準備する時間を確保する大事さとか、空間を作る楽しさを全然わかっていなかったんだよね。
「ベストな見せかたがあるからね、やっぱり」
――作品が良かったらいいじゃん、って思ってたの。見せかたにこだわらなくたって、伝わるよって思ってた。だけど、描くっていうことが1段階目の愛情だとしたら、それをあるべきところにあるべき姿で置くっていうのが第2段階の愛情っていうか。そこをわたしはずっとないがしろにしてきたんだなって、初めてEssential Storeに行ったときに気付かされたんだよ。店内全体が物への愛情に溢れていて「あぁ、この店を作っている人は、ここに置いてある全ての物に対してふさわしい場所を決めてるんだ、怖いなぁ」って感動した(笑)。
「それはもう、ほんま小さいときの環境。ファミコン世代なんやけど、親がファミコン買ってくれんかったんよね。“ゲームはあかんけど、これはOK”っていう選択肢のなかで、親父が川魚獲るのが趣味やった人やから、その影響もあって、けっこう家に魚を飼ってたんよ。その影響で、アクアリウムにけっこうはまって。小学校1年生から。自分でめだかとってきたりとか、エンゼルフィシュとかグッピーとか飼ってた。ブームやったから」
――懐かしい。
「水槽の中に、流木拾ってきて置きました、ここにはこれを植えますっていうのを、部屋のなかで4、5台やってたんよ」
――なるほどねー。もう小さい頃から“脳内CAD”やってたんだ(笑)。
「そう(笑)。Essential Storeは、多分300個ぐらいの水槽がある感じかな。各コーナーがあって。空間を埋めるのが好きやし、何も置かへんのも好きやし。ジオラマみたいなのをずっとやってたから。上から水槽見えるやん、真正面から見たときと上から見たときの立体の奥行きとかも。それが上から物事を見る癖がついてて。だから、Google Mapめっちゃ好きなのよ」
――わかる、そしてストリートビューの上からの……。
「Google Earth(笑)。だからアクアリウムの経験がディスプレイとかの癖になってると思う。だから緑とか使う。緑使いはほんま魔法なんよ」
――へえー!
「不思議なんやけど。なんで気づいたかって言うと、家の裏が大きな山で。山の中って粘菌とか虫とか数えられへんぐらい命があるやん、でもウワーッとはならへんやん。落ち着く。自然の中ってそういう効果があると思ってて、でかい木とかを置きだしたらまとまってきたというか。何やってもまとまるといったらいいかな。存在が多いけど安心するみたいな。そういう居場所というか環境が好きなんよね。(Essential Storeは)めっちゃ物があるけど落ち着かへん?」
――落ち着く。
「“ここにこだわってるんですか?”っていう、その人にしかないこだわりって、物作りしてる人、アーティストの人は多いやん。自分もそういうのを持っておきたいと思うし、自分なりのこだわりはある。そういうのを信じたくて」
――あ、すごい恥ずかしそう(笑)。
「めっちゃしゃべってもうてるわー(笑)。せやねん、お店に立っててすごい一番思うのが……」
――「しゃべるやん」って(笑)?
「いっつも、しゃべりすぎてもうたー!! ってなるんよ。それもけっこうあとで、うわ、しゃべらんでいいことめっちゃしゃべってもうてる!って赤面する」
――わかる。人と別れてひとりになった瞬間にもう後悔してる(笑)。
「それがけっこう多くて、いまそんな感じ(笑)。汗だくよ。引き出されてもうてるわ」
――(笑)。わたしすごい散歩が好きで。山じゃなきゃだめとか、そういうのはなくて、わりとどこでもいいんだけど。歩いているもの、通り過ぎていくものの配置を見ていくのがすごい好きなの。
「わかる」
――すごい硬いコンクリートに細い棒が寄っかかってて、それにネットがファーってなってたりとか。で、窓からピアノの練習の音がしたりとか。質感フェチなんだけど、見えなくてもよくて、音でもいいんだけど、作為的じゃなく置かれているものを味わうのが好きなの。Essential Storeは、みんなの手で作っているはずなのに頭の中でそれが起こるから……すごく興奮する(笑)。こういうふうに味わってもらおうってセッティングしている空間を、みんながちょっとずつ違うかもしれないけど、ちゃんと味わえているってことだよね、それって。
「そうね。各々感じ方の違いはあるだろうけど。そこを目指したくて。やりたいことと好きなことの違いみたいな感じで、好きなお店は物少なくてモダンな感じなのよ。でもやりたい店ってなったときは、ああいう店なのよ。みんなに楽しんでもらいたいから。好きなお店の感じは“Silent Auction”の1階の感じで、2階はやりたい店の感じ。多世界解釈的な。そこは自分の中で明確に線引きしてるから、そこのブレはあんまなくて。やりたいことはバチッと決まってるかな」
――それがきっと気持ちいいんだろうね。
「俺はこうだ、みたいなものはあんまりなくて。みんな楽しんでってよー。この遊びおもしろいよ、みたいな(笑)。そんなんずっとしてる感じ」
――それがちゃんと伝わっているっていうのがすごいと思って。
「すごくありがたい」
――拓哉くん達から学んだことの中でそれが一番大きいかも。今回って、わたしの展示が始まるタイミングでEssential Storeも開くタイミングだったから、わたしが1階で準備してるときにみんなも2階で準備してて。それがすごいおもしろくて。みんな「できない!」とか「今日ダメだった!」とか言いながら下に降りてくるの。それでちょっと雑談したり、倉庫のほうに行ったりして、しばらくするとまた2階に戻っていく(笑)。1日の中で何度もブレイクを入れて、作業を楽しむこととか、集中力をキープしてるんだよね。そんなに試行錯誤するんだ、それがこの人たちの日常なんだ……と思って、とても触発された。あと、お店をオープンしてから拓哉くんが、「物1個1個を覚えなきゃ覚えなきゃ」ってずっと言ってて。あれも印象的だった。どうしたの?って言ったら、物の位置を覚えるために店内をずっとぐるぐる歩き回ってるんだって。
「そう、スペースのそのものに対しての効果みたいなのを覚えてる。店から離れた家でも、あ、あれとあれ入れ替えたらこういう感じができるかなとか、ほんと膨大な“熱帯魚のアクアリウム”を常にやるために、回りながら覚える。コラージュで言ったら、切り取り作業したものを一旦全部把握して、組み合わせするための作業」
――お店が始まったから終わりじゃないんだよね。いいものを集めてきてあるべき場所に置いて、人も呼び込めて、人にも同じように感じさせられて、なおかつお店が終わるときまで常に新鮮であるように空間を循環させている。そのために生きてる人だと思った。で、きっと、そこしかがんばれない人だ、この人って思って(笑)。
「そう、それもけっこう恥ずかしかったりするんよ。そこをすごいがんばっているのも見られたくない(笑)。“え!それに悩んでて1週間伸びてるんですか?”とかさ、いやもう、古着屋の友達からしたら、“まだかかってんの?”みたいなことを言われる(笑)。厄介な思考の話なんやけど、まあまあ完璧に近く、かっこよく持っていこうと思ったら、できるんよ。バチーッっていうようなのは実は得意だったりするんやけど、それがけっこう恥ずかしかったりする。だからまあまあわざと崩すというか、適当な部分とかちょっと変な部分とかはわざと作って、照れ隠しみたいなゾーンとかもあって。ここ完成いつなったらすんの?みたいな部分もけっこう作ってる。完璧すぎるのもね、ちょっと自分にはなんか、うーん」
――それもいいね。かえってそこに人は引っかかってたりとかするのかも。
「あと完璧すぎたら買われへんのよ。だからうちで俺がめっちゃ気に入っているコーナーのものは、全く売れへん。もうでき上がっちゃってて。だからみんなそのコーナーになったら持ったり触ったりしないで腕組みになっちゃうのよ。ほーって腕組みしながら見ちゃう。あるんよね、そういうのが。風水とか全然知らんけど、こういう場所に暗い色のものばかり集めたら良くない、ここには黄色を置いたらいいとか、自分なりの風水みたいなのはあると思う」
――わたしもわりと“キメ”に走ってしまうんだよ。
「はいはい、わかる」
――だから見習いたい。
「いやでも、“キメ”に走るのは良いと思うねん、絶対良いと思うねん。でも、それはさくらちゃんはね、やっていいと思う」
――そう?
「やっといていいと思う」
――慰めあい(笑)。
「さくらちゃんの作品はめっちゃいいから。そのままでいいと思う。Essential Storeは物が多いからね、けっこう自分でパニックになっちゃうこともある」
――どこから手を付けていいかわからない感じ?
「そうそう」
――あるよねー、そういうことも。
「そういうときはひたすら掃除。あとね、けっこう方程式として大きいものから仕上げていく。梱包もそうやねんけど、大きいものから全部終わらせていったら全部スムーズにいく。レイアウトもそう」
――いいね。
「買い付け中の車内への梱包も、全部大きいものから終わらせて。小さいものはどうにでもなる」
――なるほどね。また恥ずかしがってる(笑)。今回の「Silent Auction」のイチオシは?
「うんとー(しばし考える)。えーーーーっとね。うーーーーん。いやーーーーー」
――1番はやっぱり決められないか。安易でした(笑)。
「売りたくなかったのは、なんやろ。いやっ。うーーーーーん」
――わはは(笑)。
「あ、石の人形みたいなの」
――黒目のやつ(図録を開く)。
「2013年から少しずつ集めていた150点ぐらいを今回は出したんだけど、これは自分で持ってて大事にしてたものだから、誰が買うんやろうって気になってる。全部気に入っててんけど、“Silent Auction”で買ってくれるのはもう絶対大事にしてくれるっていう確信があるから。これも気に入ってた。MOMAでも展示されたことがある、31歳で亡くなった人で」
――Gustavo Ojeda。
「目のモチーフは普段描かん人で」
――これもいいよね。どうして売ろうと思ったの?売りたくなかったのに。
「うーん、けっこうね、“Silent Auction”をするたびに、出そうって準備してて、やっぱりやめておこうっていうパターンが多くて、それに3日かかったりするのよ。全く決まらへんくて。気に入っていると出すものを選ぶ作業がなかなかできへんくて。何日ロスしてんねんってことをやってたから。でも出さへんかったら新しい感覚が入らへんっていうのもあって。だからこれからは今回のテンション、今回のカテゴリーのものとは違う、新しいジャンルの物を集めようかなとか、集まってくるかなっていう気になってる」
――展示後って気持ちがリセットされるよね。
「だから今は物を買うのをやめてて。また次アメリカに行ったときから始めようと思って」
――次どういうの集めたいとか、湧いてくる?
「今回オークションの選定をしているときに、自分の家からもけっこう置いていたやつを出したんやけど、海で拾ったものとか、拾ったものは、売りたくないなっていうことに気づいた。自分は拾ったもの、石とか木とかばっかりなんやけどね、結局は。そういうものを集めようって、今、なってる」
――逆に(笑)?
「そういうものは思い出だから売りたくないねんなっていうことが、わかった。思い出やから。これは売っていい、これは売らんとこうって選んでて、売らんとこうってなったのは山登り行って拾ったときの石とか、家族で海に行ったときにみつけたものとか、そういうものばっかりになってて。ああ、これでいいんやなって。それを自分でおもしろく見られるスイッチって言ったらええんかな、この角度で見たらおもしろい、これはこのへんから見たらおもしろいっていう物を集めようって思った。だから今はもっとバイヤーになろうって心意気。前は迷いもあったけど、今は良いもん見つけて売るっていうのを前よりもやれると思う。これは持っとかなあかんとか、前はあったけど、今はそういうのなくなった。だからいい機会やったんよ今回は。思考が切り替わった、いいターニング・ポイントになった。拾ったものはおもろいんよね」
――わかる。そうだ、数え切れないぐらい買い付けに行ってるでしょ。でもほとんど英語がしゃべれないんだよね。その話大好きなの、わたし。
「“It’s me”って言うところを、“It’s I(アイ)”って言っちゃうからね(笑)。とっさに、“I”って言っちゃうから。さすがに最近はそれはないけど、買い付けしてるときもなに言ってるかちんぷんかんぷん。でも、しゃべれん風には見せてない。だから向こうも、本気で接してくれる。でも、俺は、なに言ってるかわかってない(笑)」
――それでトレードが成立してるのがすごいよね(笑)。
「数字書いてるのと、紙に書いてやりとりして、日常会話になったら申し訳ないくらいなに言ってるかわかってないけど、相手は俺がなに言ってるか理解してると思ってる(笑)。でもバレてる人にはバレてるんよ。それでもふつうにしゃべってくんねんけど。ほんまに英語が上達せいへんってよく言われる(笑)」
――わはは(笑)。
「お前は何年も付き合ってるけど、ほんまに英語が下手くそやって言われる(笑)」
――それでもちゃんと成立するのは、目が良いから。
「それだけやと思う」
――「これ!」って指差して、値段提示して、「OK」ってことでしょ?すごくシンプルだよね。
「アメリカである人の家から欲しい物を集めて、これこれこれ、って並べたときに、“What genre?”“What category?”って言われたこともある(笑)。あとはアンティーク・モールとかアンティーク・ショップで買うときに“insteresting”、おまえの選んだの興味深い、って言われることがあったりする」
――ほとんど目だけでアメリカを渡っているね(笑)。おもしろい。今までにアメリカに何回くらい行ってるの?
「40回以上行ってるかもね、もしかしたら。全然マスターできへんまだ」
――広いもんね。
「広いから。可能性もいっぱいあるし」
――行ったことない州もまだある?
「あるある」
――デカさを体感してみたいなあ。
「アメリカのことは、話しだしたらほんともう止まらないくらいめちゃくちゃあって。買い付け中は“みんなにこの感じを見せたい!”っていうことの連続なんよ。奇跡起こそうと思って回ってるからだけど、おもろいことが起き過ぎるんよ。嘘みたいなことが。それを伝えらへんのが昔は歯がゆかったけど、今はInstagramのストーリーズに上げられるようになったからだいぶ助けられてるんやけど」
――超楽しみにしてるもん。
「頭にカメラがずっとついてたら、そのまま伝えられるからやりたいなと思ったりする」
――ひとりでいて、なかなか言いたいことが英語で言えないっていう状況じゃん、不便も多いと思うけど、でもひとりじゃないとおもしろいことって起こらないんだよね。
「そうなんよね」
――やっぱり頭にカメラつけてほしい(笑)。同業者のアンティークを買っているバイヤーとかディーラーの人たちはみんな年上?
「年上ばっかり。50オーバー。でも若い人も最近出てきたんよ。俺と同い年ぐらいの、ニューヨーク周辺の。実は交流してて」
――えー。すごい。
「それが前回アメリカに行った一番の発見。全米で一番大きなフリーマーケットがあるんやけど。1週間やってて」
――ローズボール(* 6)?
「ローズボールの10倍ぐらいあるかな」
* 6 米ロサンゼルス郊外の「Rose Bowl Flea Market」
――えーっ。ヤバい!
「ニューヨークから3時間ぐらいの距離で、2車線の道で、両サイドどーんどーんってでっかい広場があんねんけど、月曜日からスタートして区画ごとに順番に開いていくんよ。火曜日オープン、水曜日オープン、木曜日オープンって」
――何そのシステム!?
「俺は前回そのフリマに出店してて知り合ったんだけど。そのニュー・ジェネレーションで、デザイン的にアンティークをやっている子たちがEssential StoreのInstagramをフォローをしてくれてて、出店したときに、俺が出しているものを見て、“Essential Store?”って声かけられて。“Yes!!!”って(笑)。その子らはアーティスト兼アンティーク・ディーラーで。今ずっとインスタ上でメッセージの交換をやってて。一緒に何かできへんかなって思ってて。Essential Storeとやっていることが近くて」
――新しい仲間ができたんだね!でも、ちょっと待って、システムが気になりすぎる。月曜日から順番に開いていくってことは、最後の日は全開きってこと?
「全開き。1日じゃ回られへん。スタート時間もブースによって違う。7:00から9:00のレンジで。朝早く行って、時間によって見る目を変えるんだけど。やっぱり古着の買い付けして雑貨買い付けするのは至難の業。意識がぜんぜん違うから。それどっちもやってるから、その切替が難しくてパニックになったりして。実は、“Silent Auction”をその子らとニューヨークでやりたいと思ってて」
――いいなあ。ニューヨークでやるときは行きたいな。
「どうせやるならベストでやりたいなって思ってて。いつになるかはわからないけど」
――それにしても、わりと道から外れたことをしてるのに、ちゃんとお金になってるっていうのがすごいと思う(笑)。こんな型破りなことしてるのに……、しかも買って行くお客さんがみんな嬉しそうなのが本当に良いと思う。希望があるよね。
「いや、俺も奇跡だと思う(笑)」
近藤さくら Official Site | https://sakurakondo.com/