Interview | ETERNAL STRIFE (GRINGOOSE + DJ HOLIDAY)


自分たちの選んだ音楽が、生活に密着してくれていたらいいな

 2023年10月末日にGRINGOOSE(以下 G)とDJ HOLIDAY(以下 H)の2人、ETERNAL STRIFEがミックスCD『HOOD CALLS』をリリースした。この世界の中に音楽がある理由が少しわかるような気がする瞬間があるのだけれど、それをいつも手元に置きたくてミックスCDはあるのかもしれない、なんて少し大袈裟だろうか。

 小野田 雄による2人のインタビューをあなたにお届けします。


取材・文 | 小野田 雄 | 2023年9月
文 | COTTON DOPE(WDsounds | Riverside Reading Club)


――2019年の前作『TROUBLES ARE BACK IN TOWN.』から約5年。構想から3年を要した新作ミックスCD『HOOD CALLS』が完成しました。

H 「これまでETERNAL STRIFEとしては、自分たちにとって大切なきっかけがあったときにミックスを発表してきて、前作の『TROUBLES ARE BACK IN TOWN.』で、『THIS TOWN』『THE CITY YOU LIVE』から続く3部作が完結して。でもGRINGOOSEと遊びながらDJするのは楽しいので、現場のDJだけじゃなく、この先もミックスを作りたいな、と漠然と考えていて。その後の期間で自分は不死身亭一門で学ばせてもらったり、旅行に行ったり、遊んだりしているうちに、ミックスの構想を綴ったノートが溜まっていって。けっこう自然な流れでミックスを作ることになりました」
G 「そう。今回はこれといった何かがあったというより、自然な流れだったんですよね。俺は俺で、レコードを買ったりしている間に、“これはETERNAL STRIFEのときにかけて、一緒に聴きたいな”と思う曲のストックが増えていって。うん、だから、最初はレコードを持って遊びに行く感覚だったんですよ。ちょうど1年前かな。近況報告をしつつ、お互いの好きな曲を聴いて、15曲をデータ化して。後日メールでやり取りしながら、DJ HOLIDAYにミックスにまとめてもらいました。以前はお互い選んだ曲を3曲ずつ組んでいたんですけど、今回のまとめ作業は完全にDJ HOLIDAYに委ねて、数ヶ月経ってから決まった曲順が送られてきたときに“あれ?この曲って選んだのは自分だったんだっけ?”と思うくらい新鮮に響いたんです。しかも、それでいてETERNAL STRIFE然とした世界観になっていて、DJ HOLIDAYのプロデューサーとしての手腕が冴え渡っていたし、これはETERNAL STRIFEのシーズン2だと思いました」
H 「自分で聴いていても、どの曲をどっちが選んだのかわからなくなる感覚があって。それが嬉しかったです」

GRINGOOSE

――長年培ってきたETERNAL STRIFEらしさなのかもしれませんね。
H 「今回、GRINGOOSEが15曲、僕も同じくらいの曲数を選んで、一度流れを組んでみて、そこから半分くらい削ぎ落としたんです。GRINGOOSEがかけるレコードのトーンが大好きなんですけど、自分はDJしているときによく求めているトーンより沸点が高い曲も時々かけてしまうので、2人で一緒にDJをするとそれが如実に表れて。“俺は今、アホみたいなテンションのレコードをかけているな”と思い知らされるという(笑)。今回、最初に自分が選曲したときも沸点が高い曲を入れてしまっていたので、曲順を考える段階でそういう曲をことごとく省きました」
G 「ああ、俺もそれはありましたね。GRINGOOSE名義ではOKなんだけど、ETERNAL STRIFEとしては……という曲が今回見事に引き算されていて。削って削ってソリッドになったもの、ヴァラエティに富みつつ、単色っぽいイメージに落とし込まれていたのがすごくよかったですね」

DJ HOLIDAY

――今回選ばれた曲は60年代中期から10年代中期まで、過去50年間に生まれた音楽が違和感なく耳に馴染むように、ひとつの大きな流れにまとめあげられているという。
H 「2人とも“名前がある誰それのこういう曲”という観点で選曲しているわけではなく、感覚的に聴いて選んでいて、その曲にまつわる知識や背景は後から知ることが多いんですよ。だから、DJ中に“この曲はこういうことらしいんですけど、知ってます?”、“あ、だから、こういう歌詞なんですね”というようなやり取りをしていたりしますね」
G 「そうやってDJ中に2人で音楽の歴史を謎に勉強しているという」

――今の話を整理すると、感覚ありきで、その音楽にまつわる知識は後から付いてくる、と。
G 「今年4月北九州の小倉に呼んでもらったとき、ETERNAL STRIFEとして2、3曲交代でDJをしたら、終わってからMASS-HOLEに“Kanyeがサンプリングした曲が3曲連続で流れたんですけど、あれは意図的だったんですか?”と聞かれて。もちろん、こちらは全く考えていなかったんですけど、感覚的にやっているからこそ、そういう偶然があったりするんですよ」
H 「GRINGOOSEはDJするとよく、終わった後ラッパーに囲まれて質問攻めに遭っていて(笑)。だいたいの場合、意図せずしてサンプリング・ソースをかけてしまっているという」
G 「選曲と音の鳴りによって、音楽はいつもと違って聴こえたりするじゃないですか。自分たちは感覚的にやっているので、偶然そうなっちゃうことが多かったりするし、そうやって生まれた奇跡の一夜は再現できないじゃないですか?でも、今回のミックスは自分がいつ聴いてもフレッシュに感じるし、再現できない奇跡の一夜を偶然にもパッケージできたような、そんな手応えを感じます」

GRINGOOSE

――2020年以降、コロナ禍でパーティができない時期が長く続きましたが、そういう期間を経て、個人的にこのミックスから醸し出される親密な空気感は、自分が夜遊びに求めているものに近いというか、こういう感覚を味わいたくて夜出かけているということを改めて思いました。
H 「自分たちと音楽の付き合いかたは全く変わっていないんですけど、ただ、この3年はみんなが音楽を家で聴く期間、自分の好きな環境で聴ける期間だったと思うんですよ。そんな中、ETERNAL STRIFEのミックスCDを仕事中に聴いていますとか、移動中に聴いていますと言ってもらうことが多くて。CDプレイヤー自体、持っている人も少なくなっているし、音楽の優先順位が低くなっているように感じられる今、僕らのミックスCDを移動中に聴いてもらえるなんて、光栄なことじゃないですか。だから、家で料理しながらでもいいし、自分たちの選んだ音楽が生活に密着してくれていたらいいなって。それが理想ですね」
G 「今はスマートフォンで独り音楽を聴く人が多いだろうし、僕らが若い頃より同じ空間で一緒に音楽を聴く機会は減っていると思うんですよ。でも、僕らはそうやって共有しながら音楽を聴くのが好きだし、共有する人数が多い少ないっていうことではなく、共有する機会そのものが少ないより多いほうが気持ちが豊かになると思うんですね」

――独りで向き合って音楽を聴く時間もいいんですけど、記憶に残るのは誰かと共有して聴いた音楽であることが多かったりしますもんね。
G 「2人で会ったときはこういう話は全くしてないんですけど、そこは信頼と信用と安心の共通認識ですよね。そして、今回のミックスは50年くらいの振り幅の時空で生まれた曲を収録しているだけあって、すぐに出さなきゃと焦るようなこともなかったですし、自然になるようになったのが今回のミックスだと思いますね」

DJ HOLIDAY

――ETERNAL STRIFEのミックスは、これまでも“CITY”や“TOWN”といった街にまつわるタイトルが付けられていましたが、『HOOD CALLS』というタイトルはどうやって決まったんですか?
H 「『HOOD CALLS』というのは、もともと僕が下北沢で企画していたパーティのタイトルでもあるんですけど、1980年代のアメリカの観光地では、自分たちの街に帰った人にその土地のことを思い出してほしいということで、州名をつけた“~ calls”というお土産カセットを売っていたらしくて。絵はがきとも近い、ちょっと郷愁が絡んだようなお土産物ですよね。今回の作品タイトルをどうするか考えていたんですけど、なかなか決まらなくて。あるときふと考えていたら、ここ数年間はありがたいことに東京以外の土地、栃木県の小山や黒磯であったり、大阪や名古屋、小倉であったり、ETERNAL STRIFEとして呼んでもらったり遊びに行かせてもらう機会がすごく増えて。それぞれの街の特色や文化に触れることが何度もあったな、と思ったんです。だから、今回のミックスはそれぞれの街の人たちが、それぞれの自分たちの土地を思い浮かべて聴いてくれたらいいなって。以前の作品は自分にとっては特定の地域、具体的に言えば東京をイメージしていたんですけど、今回はいろんな土地やそこで出会った人たち、それぞれの街や環境にまつわるイメージが膨らむような作品になりました」

GRINGOOSE

――例えば、名古屋ではRC SLUMのATOSONEがGallery & Bar COMMONをオープンしたり、大阪ではETERNAL STRIFEへのオマージュでユニット名を付けたというDJデュオ・THE WEST AGROSが活動を始めたり、各地のフッド・ミュージックに関わるかたがたの動きが活発になっていますよね。
H 「MIKIさん(ex-BLADE, LRF)、MINAMIさん(ex-POIKKEUS)のDJはそれぞれ大好きだったんですけど、“THE WEST AGROSを組みました”という話を聞いて、最強だなって。THE WEST AGROSもDJする“JUICY-CHAN”というパーティは、DOVEという名前でDJをやっているYUTOくんが主宰しているんですけど、めちゃくちゃ雰囲気が良いんですよ。こないだ行った時は、MIKIさんが(Janet Kayの名曲)“SILLY GAMES”のいろいろな異なるヴァージョンをかけまくって、フロアのスキンヘッズたちがぶちアガって。ラヴァーズ・ロック誕生の瞬間はこんな感じだったんじゃないかと思ったり(笑)。ATOSONEのCOMMONでは“OUR DAY WILL COME”というパーティを何回かやらせてもらっているんですけど、ATOSONEのDJはもちろん、Mrs.PのDJはみんなの中でも群を抜いて一番に格好いいし、こないだはMIKUMARIが遊びに来て、“俺、CDを持ってきたんですよ”って、いきなりDJを始めてくれたり。イベントの内容ががっちり固まった場では味わえない音楽の楽しみかた、遊びかたが最高だなって」

OUR DAY WILL COME. Vol.2

――今回、ミックスを締め括るRamzaのスペシャルは、パーティ中の会話から提供してもらうことになったそうですね。
G 「Ramzaからスペシャルをもらったのは、2019年くらいだったかな。2017年頃に名古屋でDJをしたとき、10CCのレコードをかけたら、Ramzaから“このレコード欲しいんですけど、J Dillaがネタに使ったことで値段が上がって~”と言われて。家に帰ったら、そのアルバムが2枚あったので、次会ったときにレコードを渡したんですけど、“どうしたらいいですか?”と言われたので、“じゃあ、Ramzaのビートとトレードで”って。ETERNAL STRIFEは2人ともラップはしないんですけど、“僕らをイメージしたビートで”とだけ伝えたら、あんな素晴らしいビートを仕上げてくれて。その後、たまに現場でかけたりしていたんですけど、ミックスCDに入れたいね、という話になったというか、今回ミックスCDを作るにあたって、その曲で最後を締め括ることだけは唯一決まっていましたね」

――では、大切にかけていた曲を4年越しにようやく共有できるミックスCDでもあるわけですね。
H 「この3、4年で変わったことといえば、THE WEST AGROSをはじめ、RIGIDのTAKAAKIと福岡のDRYACIDの510が組んだDJユニットのRATCHET CUTや、自分の同級生だったり古くから知っている友人たちがDJを始めてくれたんですよ。自分の好きな人たちから、好きなレコードを共有したり教えてもらえる機会が一気に増えたので、それがめちゃくちゃ楽しいですね」

――そういう、良い意味で肩の力が抜けた音楽の楽しみかたがフッド感でもあるのかなと。
H 「あと、これも最近の話なんですけど、KANDYTOWNのMinnesotahくんっていうDJがいて、彼の選曲は聴いたことがなかったんですけど、一緒にご飯を食べた際に話したら笑いのセンスが完全に僕とかDJ Highschoolと一緒で(笑)。 すごく楽しい時間だったんですよ。その後DJを聴いたらめちゃくちゃ良くて。人柄を知ってから、その人のお勧めの音楽を聴くのはやっぱり楽しいし、そうやって周りが活性化することによって遊びに行く場所も増えるし、そこでまた新たな出会いもあったりして。黒磯に行った時はAuthentic MannersのNegishitが来てくれて、彼のDJも本当に素晴らしい。そうやって出かけた先で良い音楽と出会うのは大好きだから、こういう遊びかたがこれからもずっと続いたらいいな、と思いますね」

ETERNAL STRIFE

WDsounds Official Site | http://wdsounds.com/

ETERNAL STRIFE 'HOOD CALLS'■ 2023年10月31日(火)発売
ETERNAL STRIFE
『HOOD CALLS』

WDsounds 1,500円 + 税
https://wdsounds.jp/ca8/4350/