Column「平らにのびる」


文・撮影 | 小嶋まり

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 最近よく眠る。時間があればソファーに横になってしまう。完全な眠りに落ちる前に見る夢か現実かわからないものが好きだ。昨日は大晦日で、年越し蕎麦を食べてからまどろみに沈み、夢の入り口を楽しみながらそのままどっぷりと眠ってしまった。起きたらもう年を越してしまい、2023年、うさぎ年になっていた。

 2年前、うとうととしたまどろみの中に耳の垂れた真っ白なうさぎが出てきた。それから無性にうさぎを飼いたくなった。ネットで近辺のペットショップを検索してお目当てのうさぎを探し、そこで真っ白なウサギを見つけた。アメリカン・ファジー・ロップという種類で、耳は垂れていて、ふわふわな毛に覆われた理想の子だった。ペットショップにすぐに電話を入れて、その子を見せてもらうことになった。わくわくしながらお店に向かう。その日はもう、うさぎを連れて帰る気満々だったので、友人に車を出してもらった。犬の鳴き声が響く狭い店内で、店員がちょっと待っていてくださいねと店の奥から小さな段ボール箱を持ってきてカウンターの上に置いた。隙間から中を覗くと、奥に真っ白なふわふわのうさぎがいる。店員が、もう1匹同じ種類のうさぎがいるんですが見ますか、と聞いてきたので、まぁ見るだけ見てみようと思い、お願いしますと答えた。もうひとつ同じ段ボール箱がカウンターに並ぶ。店員がでは見せますねと両方の蓋を同時に開けると、灰色の体がわたしめがけてぴょーんと飛び出してきた。わたしの目の前にいるその元気のいいうさぎは鼻水が垂れていて、口の周りの毛がぐっしょりと濡れていた。か、かわいい。運命を感じた瞬間だった。その後ケージなど必要なものを買い揃え、灰色のうさぎが入った箱を大事に抱えて店を後にした。名前は、灰色の毛並みが鯖っぽかったのでそのままサバに決めた。鼻水を垂らしてキョトンとわたしを眺めるサバ。その完璧ではない不完全さが愛おしかった。

 夢の中に現れた真っ白なうさぎとは正反対の、鼻水を垂らした灰色のうさぎを飼うことに決めるなんて自分でも予想だにしていなかった。わたし自身の生活面でもそうだったかもしれない。今までこの連載で語ってきたように、わたしは安定の道から離れて前途多難なフリーランスとして故郷で細々と暮らしている。理想として掲げたことから一旦距離を置くと、不完全としたことが愛おしく思える瞬間に出会うことがある。夢の入り口を彷徨うまどろみのように、完全と不完全がとろけあう曖昧なバランスをわたしは探っているのかもしれない。

 サバは元気にすくすくと成長し、毛は伸び放題でもこりもこりとしている。床に置いてあるお気に入りの本やPCのケーブルをガシガシと無心に齧り、わたしを困らせる。しかしその無心に物を齧る姿や走り跳び回る姿を眺めていると、こちらも無心になれる。魔法のようなその存在に、悩みが多い時期は随分救われた。いたずらさえもかわいいこの小さな生き物にわたしは愛を感じながら毎日平凡に生活している。

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正編 | トーチ (リイド社) 「生きる隙間
Photo ©小嶋まり小嶋まり Mari Kojima
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ライター、翻訳、写真など。
東京から島根へ移住したばかり。