Interview | FesterDecay


ちゃんと聴こえるのに、何をやっているのかわからない

 福岡を拠点に活動するFesterDecayのアルバム『Reality Rotten To The Core』が今年2月にイタリアの 「Everlasting Spew Records」からリリースされた。

 私は昨年の9月に彼らのライヴを初めて観たのだが、こんなにライヴが素晴らしいゴアグラインドのバンドは初めて観たという印象で、懐古主義に塗れるわけではなくCARCASSから先に進んだ音楽を生み出そうという気概が感じられる壮絶な演奏と、メンバー各々の独特のセンスが遺憾なく発揮されており、ゴアグラインドというサブジャンルに収まる器ではないところが素晴らしいと感じた。今の日本のハードコアやメタルの界隈はどんどん若い人たちが音楽性をアップデートしているから非常に興味深いし、私が若かった頃とは大きく状況が違う。昔は良かったと嘆いているだけで、新しいものに目を向けられなくなってしまうのは老化以外の何者でもない。


 FesterDecayはマニアックで極端だ。しかし、ゴアグラインドという音楽に親しみのない人たちにも訴えかける表現力がある上、前述したライヴ・パフォーマンスの素晴らしさがカテゴライズを超えた活動と支持を生んでいるのだろう。自分が加齢と共に時折忘れてしまいそうになる純粋な情熱をFesterDecayから感じる。


 アルバム発売後、ギタリストのHaru氏(g, vo | 以下 H/strong>)を中心に、Gokkun氏(b | 以下 G/strong>)、KK2氏(vo | 以下 K/strong>)、Ryozy氏(dr | 以下 R/strong>)、アートワークを手掛けた072氏(DISTURD、IMMORTAL DEATH | 以下 0/strong>)も交えてメールでのインタビューを敢行した。トップの写真は今年5月20日に香川・高松 TOONICEで共演した際に筆者が撮影したものである。


取材・文・撮影 (Main Photo) | Dagdrøm | 2023年9月
FesterDecay | Photo ©Natts (Imagenoise)
Photo ©Natts (Imagenoise)

――CARCASSから続くゴアグラインドと呼ばれるカテゴリーの中でも突出した個性を感じます。 個人的な見解では、グラインドコアやゴアグラインドという枠を越えたネクストレヴェルの音楽だと認識していますが、そのあたりの意識はありますか?
H 「僕たちFesterDecayがバイブルとしているCARCASSの『Reek of Putrefaction』(1988, Earache)は、グラインドコアであることはもちろんなんですけど、実験音楽としての要素が多分に含まれていると解釈しています。誰もやっていないことをやるのが“ゴアグラインド”だと。そのあたりの要素を採り入れたいのですが、現時点でできているかは不明です(笑)。ただ、やりすぎてジャンルから逸脱するのはちょっと違うと思っているので、その塩梅が難しいですね。 ですが、少しでもそういう要素を今のFesterDecayに感じてくれているのであればすごく嬉しいです」

――誰もやっていないことをやるという姿勢、素晴らしいですね。FesterDecayは世代的には若いですが、活動歴はけっこう長いですよね。一度このへんでバンドの歴史というか、どういう流れで結成されて今に至るのか聞いてみたいです。
H 「そうですね!地味に活動歴は長いです。ヴォーカルのKK2と僕は2015年に出会ったのですが、最初はドラマーがなかなか見つからなかったので、2人でスタジオに入ったり、“Netherland Deathfest”に遊びに行ったりしてましたね。その翌年にドラムとベースが加入したので、最初のデモ『FesterDecay Demo』をリリース後、ライヴ活動を始めてデモを手配りしていました。2017年に2ndデモの『Carcasses Revenge』をリリースしてからは地元の福岡や大分以外のライヴが増えたのですが、2ndデモの流通をはるまげ堂に委託していたので、その影響も大きかったと思います。その年の“Asakusa Deathfest”に出演したことは今でも忘れられません!その後ベーシストが脱退したので、しばらくベースレス体制で活動を続けて、2020年にObliteration RecordsからCRASH SYNDROMとのスプリットをリリースしました。レーベルからの正式なリリースはこれが初めてです。それからドラマーが脱退して、ドラムのRyozyと、Tainted DickMenのサポートをしていたベースの亀頭が加入し、翌年の2021年にイタリアのEverlasting Spewからシングル『Aborticide』をリリースした後はライヴ活動を続けて、2023年にフル・アルバム『Reality Rotten To The Core』をリリースしました。その直後に亀頭が脱退し、地元の先輩であるMASS COLLAPSE、URBAN HEAD RAWのGokkunが加入した現体制になって今に至ります」

――各々のFesterDecay以外での活動について教えて下さい。
H 「僕はVISCERA INFESTでベースを弾いています。Ryozyはもともとuniverse last a wardというバンドで活躍していて、Zuma君(KRUELTY | DEAD SKY RECORDINGS | CKS Productions)やニュースクールのシーンと引き合わせてくれたのも彼です。GokkunはMASS COLLAPSE、URBAN HEAD RAWではギターで在籍しています。FesterDecayとMASS COLLAPSEは企画に呼ばれたり呼んだりする関係で、5回くらい共演しています。地元の同じシーンにいる先輩が自ら声をかけて加入してくれるのはとても心強くて、嬉しかったですね」

――1stアルバムが今年の2月にリリースされました。演奏、プロダクション、楽曲共に現代では稀有な仕上がりになってます。かといってわざとらしくロウすぎないバランスでパッケージングされていますが、コンセプトやレコーディングのプロセスについて聞かせて下さい。
H 「レコーディングからマスタリングまで全てZuma君にやってもらいました。FesterDecayでやりたいことを叶えてくれるエンジニアにやっと出会えたと感じています。今回もかなり無茶なお願いを可能にしていただいて、感謝しています。『Reality Rotten To The Core』のサウンド面でのコンセプトは、“良い音なのに耳コピ不可能”にすることでした。ちゃんと聴こえるのに何をやっているのかわからない微妙な拍のズレやテンポ感等をうまく表現できたと思っていて、それが自分たち特有のグルーヴ感に繋がっている気がします。当初ドラムの録音を16チャンネルでやる予定がレコーディング当日にトラブルで8チャンネルになってしまったのですが、迅速に柔軟な対応をしてくれたZuma君には感謝しかないです」

――アートワークはDISTURD、IMMORTAL DEATHの072ですが、身内の自分が見ても衝撃的な出来でした。彼に依頼した理由は?
H 「当初はCRASH SYNDROMとのスプリットや『Aborticide』等を手掛けてもらったAdam Medfordにアルバムのアートワークもお願いしようと思っていたのですが、ここ3年くらいで彼がゴアグラインド・シーンで爆発的な人気になっていて。Bandcamp内で“Gore Grind”タグを検索すると、彼によるアートワークのジャケットばかりという状況でした。これは困ったぞ、というところKK2が072さんを見つけてきてくれて」
K 「国外にはマーチを含めて今まで何人かにアートワークを担当していただいたんですけど、国内ではどんな人が描いてるんだろう?ってある日ふと思って。そのときちょうど聴いていたのがGREENMACHiNEのアルバムで、そこで初めて072さんの存在を知りました。その時点では記憶にぼんやりとしているだけだったのですが、ある日BBVGCの存在とマーチを知って、それがかっこよくてすぐに買わせていただきました。その際に様々なバンドのマーチやフライヤーを手掛けておられるのも知り、Nuclear War Now!からリリースされたSEX MESSIAHのLP(『Eastern Cult Of Sodomy』2018)のデザインにとても衝撃を受けました。うまく言葉では表現できないのですが、コラージュを用いたアートワークがまるで生きて呼吸をしているかのようで、国内にこんなにすごい人がいたのかと思い、岡山でDISTURDと対バンした際に直々にお願いしました」

――072の話が出たところで、彼からも質問をいくつか預かっています。
0 「国内外を問わずシンパシーを感じる現行のバンドはいますか?」
H 「東京のPHARMACISTと大阪のYUPPIE GORE FILTHです。PHARMACISTは2020年に僕らとスプリットを出したCRASH SYNDROMのStefan(Кирило Стефанський)のプロジェクトで、モロCARCASSな1stアルバムでゴアグラインド界隈でブレイクしました。ウチとはまた違ったアプローチで初期CARCASSっぽさを出しています。国内のリスナーにはあまり認知されていない印象ですが、ゴアグラインド史に残る大名盤なので聴いたことがないかたはぜひご一聴いただきたいです。YUPPIE GORE FILTHはまだライヴを観たことはないのですが、初めて音源を聴いたときにやられました。完全にELECTRO HIPPIESで最高です」
0 「CARCASS以外で重要な(影響を受けた)ゴアグラインドのバンドまたは作品を教えてください」
H 「PATHOLOGIST、THANATOLOGIST、GENERAL SURGELY、HEAMORRHAGE、REGURGETATE、LYMPHATIC PHLEGM、AUTOPHAGIA、GUT。どれも初期の作品は大好きです。LYMPHATIC PHLEGMは新譜もかなりイケてます。メロディックなゴアグラインドなのですが、気分を害するメロディ・センスが逸品です。FesterDecayの曲はこれらのゴアグラインドにハードコア・パンク、オールドスクール・デスメタル等のエッセンスを加えたイメージで作っています」
0 「初めて岡山のライヴで共演したときに、初対面のKK2氏とこってり1年分CARCASSの話をしましたが、あなたたちは敬虔な初期CARCASS原理主義者ですか?ぶっちゃけ後期のCARCASSもイケるクチですか?」
H 「敬虔な初期CARCASS原理主義者っていうワード、かなりパンチありますね(笑)。個人的には後期の作品も大好きです。3rd(『Necroticism – Descanting The Insalubrious』1991, Earache)はもちろん、特に『Swansong』(1995, Earache)、『Surgical Steel』(2013, Nuclear Blast)あたり。単純にJeff Walkerのヴォーカルが好きなので、ゴアグラインドやデスメタルじゃなくても聴けます。FesterDecayの作品に影響があるかと言われれば否ですが。NAPALM DEATHであれば初期の作品しか聴いていないので、敬虔な初期NAPALM DEATH原理主義者と言えるかもしれません(笑)」

――NDに関しては『Diatribes』(1995, Earache)までは好きですね(笑)。九州といえばどうしてもハードコア・パンクというイメージを持っていて、FesterDecayからもその匂いが存分に感じられます。そのあたりはどうですか?
H 「もちろん多大な影響を受けています。世界的に見てもメタル側からの解釈だけのグラインドコアやゴアグラインドのバンドが多い現状をつまらなく思っているので、意識的にDビートを多用しているところもあります。今年からFesterDecayの企画イベント“Rotten to the Core”が復活するのですが、そこでもハードコアパンクのバンドにたくさん出演していただこうと考えています」
G 「ハードコアパンクに関しては他の3人よりもちょっと長く生きて、北九州という街で育ってきたので、彼らよりも僕のほうが“ガチ”なハードコアを体感していると思います。そのエッセンスを注入することでFesterDecayの進化に繋がればいいなぁと思っています」

FesterDecay | Photo ©HBK!
Photo ©HBK!

――ハードコア・パンクの話の流れですが、CARCASSはステンチ・クラストの極端な進化だと解釈しています。FesterDecayもそのニュアンスを感じる数少ないバンドですが、そういう意識はありますか?
H 「たしかにそうですね。共通する要素が多々あると思います。僕もDEVIATED INSTINCTやPROPHECY OF DOOMが大好きでよく聴くんですけど、音楽的に親和性がかなり高いので、そういうイメージで曲を作ることもあります」

――NAPALM DEATHやCARCASSはハードコアやメタルのみならず、WHITEHOUSE、SPK、PSYCHIC TV、SWANS等からの影響を公言していて、実際音楽やアートワークにその影響が表れています。FesterDeceyも風変わりなヴォーカルや怪しげなサンプルが織り込まれていて一筋縄ではいかない感じが出ていますが、そのあたりはどういうアイディアですか?
H 「まずヴォーカルワークに関してですが、今までのグラインドコアやデスメタルで使われているありふれた無難なだけなものにはしたくありませんでした。人が真に死に直面したときの緊張感や恐怖を体現して、聴いたときにゾッとするようなものを目指しています。サンプルに関しても同様のテーマで、僕とKK2のアイディアが半々くらいで採用されています。主にKK2は映画引用、僕のはだいたいホラー・ゲームからですね」

――ドラムの話ですが、スネアのスナッピーを外していますよね?GORE BEYOND NECROPSYやDxIxEあたりのバンドがその手法を使っていましたが、どこからインスパイアされたものですか?
H 「GBN、DxIxEのかたがやっていたのは知りませんでした(笑)。自分がこのやりかたを知ったのはVISCERA INFESTからですね。ダウンチューニングでブラスト抜けさせるのにはかなり効果的だと思います。実は最近スネアの音作りをかなり変えて、スナッピーを入れました」
R 「理想の音を模索していくうちに、スナッピーを外したほうが、良い音?! がしたので…… 要するに行き当たりばったりで辿り着きました(笑)。それと、聴く音がドラムを叩く側かドラムの前かでは全く違うので、チューニングは難しいですね。 だいたい叩く側はゴミみたいな音がします。本音を言うなら、チューニングをしているとだんだん自信がなくなってきますし、ライヴハウスのリハなんかも恥ずかしいす」

――恥ずかしい(笑)。では、みなさんが最近お気に入りの音楽を教えて下さい。
H 「PISSGRAVE『Posthumous Humiliation』(2019, Profound Lore Records)、BOLT THROWER『Realm of Chaos』(1989, Earache)です。BOLT THROWERはモッサリしているイメージで若干の苦手意識があったのですが、最近聴き直してどハマりしました。あとは今年リリースされたKRUELTYの2ndアルバム『Untopia』(DEAD SKY RECORDINGS | Profound Lore Records)ですね」
K 「DESERVE TO DIEの『Deserve To Die』(2022)です。最高です」
R 「CARCASSの3rdを聴いています。このアルバムでのKen Owenのドラムは、リズム→フィルに移行するときの謎の間が多い印象ですね。ライドシンバルも多用してるような気が……。謎の間はレコーディング環境が良くなったから気になるのでしょうか……。あと、これはあまり書きたくないですけど、フィル→ビートなどのときに頭のクラッシュシンバルを入れていないところが多々ありますね。いや〜、ほんっと奥深いですね(笑)。あとBrian Enoを聴いています」
G 「ここ数年ゴアグラインドは聴いていなかったので、CARCASSの1stと2ndを延々リピートでゴアグラインドのリハビリ中です。お気に入りを探して聴いている暇はないです(笑)」

――PISSGRAVEからEnoまでなかなかのヴァラエティですが、今時3rdのKen Owenに言及している人も珍しいですね(笑)。お気に入りの点でKK2君に質問なんですが、いつもBLASPHEMYのロンTを着てライヴしてますよね。BLASPHEMYの好きな曲をいくつか教えてください。
K 「そうですね。選ぶとしたら“Weltering In Blood”、“Nocturnal Slayer”、“Goddess of Perversity”、“Necrosadist”が好きで、“Ritual”、“War Command”、“Blasphemy”はDemo ’89(『Blood Upon The Alter』)のほうが個人的には好きです。7年前にオランダで観ましたが、衝撃でした」

――自分は「Nocturnal Slayer」「Hording Of Evil Vengeance」「Demoniac」「Goddess Of Perversity」っていう感じです(笑)。では、最後に今後の活動について。
H 「とにかく今回のアルバムを携えて海外ツアーをやりたいと思っています。EUになるかUSになるか、まだ確定ではないのでなんとも言えないですが、いろんな土地でライヴをやりたいですね。 ありがたいことに国内各地からもオファーをいただいているので、腐乱屍臭を撒き散らしに行きます。 あとはあまり時間を空けずにまたレコーディングして、来年あたりに新しい音源を発表できれば。できるだけコンスタントに作品を作っていきたいです。自主企画“Rotten to the Core”は県外、学生のかたはディスカウント価格で入れるようにやっていきますので、県外のリスナーのかたもぜひ遊びに来てほしいです」

FesterDecay | Photo ©HBK!
Photo ©HBK!
FesterDecay Linktree | https://linktr.ee/FesterDecay

FesterDecay Live Schedule

2023年10月14日(土)京都 三条 octave
2023年10月22日(日)香川 東かがわ 白鳥中央公園 野外ステージ "Abyss vol.2"
2023年11月26日(日)東京 新宿 WildSideTokyo Asakusa "Deathfest 2023 After Party"
2023年12月9日(土)大分 府内 clubSPOT
2023年12月16日(土)大阪 西心斎橋 HOKAGE
2023年12月24日(日)大阪 難波 BEARS

FesterDecay 'Reality Rotten To The Core'■ 2023年2月24日(金)発売
FesterDecay
『Reality Rotten To The Core』

SPIT075
https://everlastingspewrecords.bandcamp.com/album/reality-rotten-to-the-core

[収録曲]
01. Rotten Fester Decay
02. Hash The Tongue
03. Fall In Grind
04. Disintegration Of Organs
05. Aborticide
06. Stench Of Decay
07. Psychopharmacist
08. From The Dark Tomb
09. Exposing The Skin Tissue
10. Carcasses’ Revenge
11. Cryptic Wounds
12. Liquidized Gallbladder
13. Scum's Karma
14. Reconstruction Of Malignant Miasma