Interview | FREEZ + NARISK


南の有言実行

 南の音楽。“福岡のヒップホップ”という音楽は確実に存在している。今年1月に『EL NINO MIXTAPE Mixed by DJ SHOE』がリリースされたEL NINO(w/ OLIVE OIL)やRAMB CAMPのラッパーでもあるFREEZ(以下 F | 2DC BASE)と、ADD CREATIVEの一員として¥ellow Bucks、KOJOE、OZworldをはじめとする様々なアーティストにトラックを提供し、ソロとしても4月にインストゥルメンタル・アルバム『MY EMOTION』をリリースしているビートメイカー・NARISK(以下 N)が、世代を超えたコラボレーション・アルバム『It’s Tough Being a Man』を昨年8月に「BASE SOUNDZ」からリリース。同年12月にはアルバムの完結編とも言えるシングル『ENDROLL』のリリースを経て、今年4月にアルバムのヴァイナル・エディションも発売。昨夏、福岡・今泉「DARAHA BEATS」のHARADA氏も同席で行ったインタビューを基に、2021年の夏を直前にしてなお熱いソウルを書き記させていただきます。インタビューでの発言をかたちにした上で、福岡ヒップホップのさらなる地平をそれぞれが進んでいく。

取材・文 | COTTON DOPE (WDsounds) | 2020年8月

 本作を聴いて映画のようなアルバムだと誰もが感じる。ひとつひとつつのシーンが浮かび上がり、続いていく。

F 「映画っぽくしたいっていう考えがあったけんね。映画みたいなアルバム作りたいなって。始まりはビートジャックで“悲しくて”っていうめちゃくちゃ絶望的な曲を書いて、すごい気に入ったけん、それをリミックスしてオリジナルにしたくて。その人選でNARISKが浮かんで、アカペラを送って作ってもらったのから始まった。そのリミックスに、寅さんのSEがはいっちょったけん。あの曲は人情系やし、でも間には、ストリートな感じのも入れたかったし、もろ映画のことを歌ってる“LIFE IS A MOVIE”って曲もある。途中で“寅さん50”(シリーズ50作目『男はつらいよ お帰り 寅さん』)を観に行ってさ、食らったりして、本当ゆっくり作れて良かった。ほんと映画と一緒に進んだようなアルバム」

 2020年のコロナ禍中だったのもあり、かなりの数の映画を観ていたとFREEZは言う。

F 「“LIFE IS A MOVIE”で好きな映画の名前は言ってる。最近はNetflixとかあるけん、無茶苦茶な数映画観てる。NARISKとはね、『男はつらいよ』の話しかしてない」
N 「話したのはめちゃくちゃ覚えてますね。“寅さん50”って、リメイクっていうか、その後の寅さんの話ですよね?それを観に行こうかなっていう話をカノさん(FREEZ)にして、“今観てきたっちゃ”ってカノさんに言われて、ストーリーを教えてもらったり。“悲しくて”のリメイクを作ったときに、寅さんのドキュメンタリーやってたんすよ。2時間くらいのやつ。地上波で。“すげータイミングやなー”と思いながら、実際のがっつりした寅さんっていうのを自分は知らなかったから、それを観てカノさんに“こうですよね”、“ああですよね”っていう自分なりのイメージを解釈したのを伝えて、“それはね”って話をして。映画の話をしたのは寅さんくらいですね」

 アルバムは人情味だけでなく、様々な色の感情、そして日常が落とし込まれているように感じる。

N 「要素を詰めてヴァラエティが富むっていうか、いろんな雰囲気があるものにしたいって自分は思って伝えてました。そう感じてもらってる通りで嬉しいです。ガッツポーズ出ますね」

 アルバム収録曲「UGK」はアンダーグラウンドのキングという意味と、BUN Bという名前も出てくることからBun BとPimp C(R.I.P.)によるヒューストンのラップ・グループUGKもかけている?という会話から、トラップとバウンスという話、世代の離れた2人のこの会話には気づきがたくさんある。

F 「俺はUGKみたいな感じのビートがいいって言ったと思うけどな」
N 「もともと自分が作ってたビートを渡したと思います」
F 「バウンスっぽいのがやりたくてあのトラックがあったってことやな」
N 「途中トラップ調じゃないけど、邪悪なトラップみたいな曲を入れてもおもしろいいんじゃん?っていう話をしていて、それに向けてでしたね」
F 「入れようって言っとったよね」
N 「それに向けていくつか作ったトラックのひとつなんですよ。その中から、暗すぎるのじゃないな、ってこのトラックになったという経緯ですね」
F 「俺はやっぱねえ、トラップは無理やね」
N 「バウンス感ってどんな感じなんですか?」
F 「俺はチキチキしてる感じかな」

 2000年代初頭のCa$h Moneyからの流れやTimberlandのチキチキ感がわかりやすいバウンス感、という話で盛り上がる。

F 「トラップは今回挑戦しようとしたけどダメだった。というかしなくてよかった。本当にしたいビートでしか今回やってないけん。好きなビートばっかり。NARISKのビートのストックもあったけん。オーダーしてもすごいのが上がってくるし、やり易かったですね」
N 「15~20くらい渡してますよね。昔に作ったものもあったけど、カノさん用に作ったトラックが10何曲くらいあったっすね」
F 「最初っから8曲でいこうって話してて、1曲NARISKが“インストを入れよう”って言ったからラップは7曲で。テーマを決めてヴァラエティに富むように作った」
N 「アルバムっていうよりかは、EPっていう感覚に落とし込みたいというところを話して。それだったらカノさんが8曲くらいがいいんじゃないか?って言って、そんな感じでやってましたね」

 最後の曲となる「Cali」でこの映画のようなアルバムは終わる。終わった次のシーンの表情が見たいような、そんな気持ちになる。

F 「エンドロールの感じで、本編が終わったら2~3曲かかる、あの感じで作ろうと思っとって。そしたらライヴでちょうど30分くらいになるやん。そしたら営業に行きやすいし。あと3曲すげーいいのを作りたいっちゃ。ライヴを想定しながら作ってる。なんか20分って悪いし、30分はぶちかまさなあかん。コロナでがっつり決まってるライヴとかはないっちゃけど、準備をしとくって感じ。アルバムがこう、悲しい曲とかメロウな曲も多いけん、パーティ・チューンとかももっとやるやろうし。3曲でそういうことを考えてる。もう1曲やばいビートがあるけん。何個も何個もテーマ作って書きよるけど、まだはまらんけん。時間かかるけどいい曲になる」

 この会話の数ヶ月後、2020年の12月に『ENDROLL』がリリースされる。それは新しい始まりのために必要な“endroll”。『ENDROLL』『It’s Tough Being a Man』『EL NINO MIXTAPE』『MY EMOTION』からは“日本の”というよりは“福岡の”音を感じる。

F 「俺とNARISKは世代が違うけん、遊びかたが違う。だから福岡の遊びかたのレペゼン感が出てるけんね。よりおもしろいんじゃないかな。古い感じと新しい感じの福岡のヒップホップ。でも、結局歴史は見てきとーけん。南のサウンドはずっと聴いてきとるけんね。で、おもしろいことになってるんじゃないかな。南の音になってる」
N 「あまり意識はしたことないんですけど、海に近かったりして陽気な感じの街というか。それに人情があるんじゃないかな、と思いますね。ウェッサイみたいなシンセの音だと伝わり難いかもしれないんですけど」
F 「でも、でとーけどね。南感」
N 「自分はウェッサイが好きなんで、けっこうシンセで弾くというか、それは意識してますね。Fender Rhodesとか、優しいチルなサウンド。その中にも狂気を出していきたいとは思ってるんですけど。そういう意味では、冷たさというか、そういう部分は東京の音楽から感じますね」
F 「おもしろいよね。土地ごとに色が違うのは。意識してなくても勝手にでるもんやけん」

 コロナ禍で土地間の移動は難しくなったけど、それぞれの土地の音が強くなっていけば絶対おもしろいことができると話していたのを思い出す。それは確かなことだ。

インタビュー当時、2人がよく観ている / 聴いていると言っていた音楽の一部。

 2人の作る音楽を早く体感したい。南の音楽はそこに繁茂している。当時彼らの言葉はその先へと伸びている。日本中を回る彼らのソウルに触れる日も、そう遠くない。

F 「クラブ以外でライヴしたいんよ。どこでもいいけん。病院とかでもいいし。老人ホームとか。いろんなショッピングモールでもいいし、クラブから飛び出したいと思ってる。でも、内容真ん中らへんハードコアやけん、無理かもしれないけど。そこまで昔ほどクラブ行ってないけん。地元で飲んだり音楽作ったりってやってるけん。クラブを考えるのは自然に減っていくと思う。配信ライヴとかもやりたいと思ってる。誘われるのはがっつりやりたいな」
N 「配信もそうっすけど、アルバムを出してしまったらすぐアーカイヴされるような感じがあるじゃないですか。昔ほどツアー回ることも出来ないし。その後の方法として、例えばアナログカットするだったりとか、グッズを生むだったりとか、次のシングルに取り掛かるだったりとか、そういう動きを続けてくしかないかな。この作品として引き続きキープはできるんですけど、あっという間に時間が経っちゃうのが怖いっていうか。シングル出すんじゃなくても、リミックスだったり、みんなに届けられる方法をやったほうがいいと思ってます。実際ライヴでどうこうっていうのが考え難いんで。それだったら地元で一旦リリース・ライヴをやって、本当に回れるタイミングを見計らうために次を作り続ける。自分もカノさんもそれぞれの動きを続けないといけないし。最終的にそれが自分とカノさんのダブルネームというところに繋がっていく。来年1~2月までは今考えてる話で詰めていけるんで。ライヴに備えていきたい。STAND-BOP(福岡・天神)でやったんですけど、お客さんも入っててライヴの評判もすごく良かった。自分は振り切りすぎちゃって大丈夫だった。良い30分のライヴをかませる時間ありますね」
F 「東京行きたい!」

FREEZ x NARISK 'IT'S TOUGH BEING A MAN'■ 2020年8月12日(水)発売
FREEZ x NARISK
『It’s Tough Being a Man』

CD 2DCBASE003 税込2,000円 | 2DC BASE | PROS & CONS
Vinyl LP LEXAL-40 税込3,080円 | 2DC BASE
https://linkco.re/7V73rep3

[収録曲]
01. 悲しくて
02. B.D.B
03. UGK
04. OLD SCHOOL (scratch by DJ MATTO)
05. SOUTHSIDE GUNN feat. EVILZUUM
06. LIFE IS A MOVIE feat. Mahina Apple
07. INTERLUDE
08. Cali