大石 始が単著『異界にふれる ニッポンの祭り紀行』を刊行 発売記念トーク・イベントも開催


 国内外の大衆音楽や、地域文化 / 風土にまつわる執筆活動で知られ、現地取材に基づいた著作群で好評を博しているライター / 編集者・大石 始(B.O.N)が、新刊『異界にふれる ニッポンの祭り紀行』(産業編集センター「わたしの旅ブックス53」 | 1,350円 + 税)を上梓。5月21日(火)より販売が開始されています。

 『南洋のソングライン ――幻の屋久島古謡を追って』(2022, Kilty BOOKS)以来の単著となる『異界にふれる ニッポンの祭り紀行』では、2016年『ニッポンのマツリズム 盆踊り・祭りと出会う旅』(アルテスパブリッシング)に続いて日本各地の“祭り”にフォーカス。実際に現地へ足を運んだ大石が、道中の出来事も含め、綿密な取材により極めて詳細に、かつファン視点も失わずに、豊かな描写で全国18ヶ所の“祭り”へと迫っています。臨場感溢れる図版は、写真家・大石慶子が撮影したもの。

 6月14日(金)には、東京・西荻窪の書店「旅の本屋のまど」にて刊行記念イベントも開催。スライドを使用してのトーク・イベントが予定されています。

はじめに

 月明かりだけを頼りに、曲がりくねった峠道を車で走る。前後を走る車はまったくいない。なんだか薄気味悪くて、できるだけ早く通り抜けてしまいたいけれど、シカやイノシシが突然飛び出してきそうで無闇にエンジンを吹かすことができない。
 カーナビが指し示す目的地まではもうすぐだ。ウインドウを開けて外に耳を集中させると、カーブの向こうから太鼓の音がかすかに聞こえてきた。
 神社の駐車場に車を停め、逸る気持ちを抑えながら一歩ずつ境内へ進む。近づくたびに太鼓の音の輪郭が鮮明になり、祭りの空気が濃くなっていく。頭を下げて鳥居をくぐると、その先では松明に照らし出された村民たちが慌ただしく祭りの準備をしていた。
 そこに広がっていたのは、普段の暮らしとは異なる非日常の世界である。日常から少しずつ離れ、非日常に身を浸したときに込み上がってくるゾクゾクするような感覚は、日本各地の祭りを体験した今もなかなか言葉にすることができない。


 日本における民俗学の父・柳田國男は非日常と日常の関係を「ハレとケ」という言葉で論じた。ハレとは歳時や祭りなどの非日常を指し、ケは日常を指す。日々のエネルギーが失われることは「ケが枯れる(気枯れ)」ことを意味していて、その回復のために祭りという非日常が必要とされた。
 この感覚は、祭りに足を運ぶと実感することができる。祭りの非日常空間に浸っていると、単純な話、生命力がチャージされるような感覚になるのだ。
 祭りは時に異界への扉ともなる。その扉から顔を覗かせているのは、動物などの姿を借りた神々かもしれないし、名前も顔も知らない祖霊かもしれないし、あるいはもっと抽象的な「何か」かもしれない。
 ただし、私たちは扉の向こう側に行くことはできない。あくまでもその入り口で向こう側の世界を感じ、想像することしかできないわけだが、そうすることで「世界」とはどのようなものか、感覚的に捉えることができるのではないか。窮屈で息苦しい現世だけが世界ではない。そう考えるだけで、何か救われるような感覚になるのだ。
 だから、僕は祭りに行く。うんざりするような日常に句読点を打ち、生きるためのエネルギーをチャージするため祭りに行くのである。


 二〇一六年、僕は『ニッポンのマツリズム 盆踊り・祭りと出会う旅』(アルテスパブリッシング)という著書を出した。この本は東日本大震災前後から各地の祭りや盆踊りにのめり込み、北から南までバタバタと駆け回るようになった数年間のことを書いている。いま読み返すと祭りや盆踊りに対する初期衝動に溢れていて少々照れ臭いところもあるものの、当時の熱量みたいなものが伝わるのではないかとも思う。
 本書はそれ以降の旅の記録をまとめたものだ。『ニッポンのマツリズム』のころは祭りや盆踊りの魅力を音楽面から捉えていて、なかでもリズムに強い関心を持っていた。だが、『ニッポンのマツリズム』以降、来訪神や仮面の文化に興味を持つようになり、「異界」がテーマのひとつになった。本書で取り上げている祭りのいくつかにはそうした関心の変化がはっきりと現れている。
 なお、本書は民俗学的なフィールドワークの成果というわけではない。フォトグラファーである妻の大石慶子と共に、好奇心の赴くまま各地を旅した結果であり、各地の祭りや踊りを巡るなかで見たもの・感じたことを綴った旅行記のようなものと思っていただければ幸いだ。


 祭りという非日常に身を浸すことによって、心と身体は少しだけ軽くなる。これは僕の実体験だから間違いない。ニュースを見ているとうんざりするようなことばかりだけど、祭りの場にいると、まだ少しだけ世界を信じられるような気がする。まだまだこの世は捨てたもんじゃない。そんなかすかな希望を抱くことができるのだ。

祭りにふれる
旅する中で見えてきたニッポンのかたち
http://www.nomad-books.co.jp/event/event.htm

2024年6月14日(金)
東京 西荻窪 旅の本屋のまど

開場 19:00 / 開演 19:30
| 会場参加 1,100円(税込)
申込: 03-5310-2627 | info@nomad-books.co.jp
※ 「お名前」「お電話番号」「参加人数」を明記の上ご送信ください。
※ 定員に達し次第締切

| オンライン参加 1,100円(税込)
TwitCasting

主催: 旅の本屋のまど
協力: 産業編集センター

※ お問い合わせ: 旅の本屋のまど 03-5310-2627 | info@nomad-books.co.jp

■ 2024年5月21日(火)発売
大石 始 文・著
『異界にふれる ニッポンの祭り紀行』
わたしの旅ブックス53
大石慶子 撮影
産業編集センター | 1,350円 + 税
B6変型判 | 256頁
ISBN 978-4-86311-405-0

https://www.shc.co.jp/book/20241

日常を生き抜くために、非日常の旅をする―出会ったのは、多種多様な来訪神、踊り、祈り、そしてそれをつなぐ地域の人びとの姿。よそ者が地域の習俗に飛び込み、祭りとともに生きる住民とふれ合い見えたものとは。北は秋田男鹿半島から南は沖縄宮古島まで、全国18ヶ所の地域に伝わる祭りや年中行事を丁寧に取材し異界にふれた「非日常=ハレ」の旅。

目次
| 恐ろしいけどありがたい男鹿の風物詩――ナマハゲ(秋田県男鹿市)
| 異形の人々が踊る羽州の奇習――加勢鳥(山形県上山市)
| 野菜で作られた獅子頭に農村のクリエイティヴィティーを見る――棧俵神楽(新潟県新潟市)
| 巨大な龍蛇がロードサイドをゆく――脚折雨乞(埼玉県鶴ヶ島市)
| 二匹の鯉がさばかれる神仏混淆の儀式――まないた開き(東京都台東区)
| 笑顔溢れる大らかな農耕儀礼――徳丸の田遊び(東京都板橋区)
| 鹿ん舞から浮かび上がる「いのち」の多様性――徳山の盆踊り(静岡県川根本町)
| 祭りと共に生きる人々の強さと美しさ――吉原祇園祭(静岡県富士市)
| 夜明けの門前町に浮かび上がるもの――おわら風の盆(富山県富山市)
| 大青蛙が愛想を振りまく奇祭――蓮華会・蛙飛び行事(奈良県吉野郡吉野町)
| 二体の鬼が暴れ回る修正会の祭り――田遊び・鬼会(兵庫県加西市)
| 熊野信仰の聖地に始源の火が灯る――御燈祭り(和歌山県新宮市)
| かんこ踊り王国、三重を訪ねて――佐八のかんこ踊り(三重県伊勢市)、松ヶ崎かんこ踊り(三重県松阪市)
| 世界が注目する「地域のエンターテイメント」――石見神楽(島根県浜田市、大田市)
| 異形の男たちと泣き叫ぶ子供たち――ヨッカブイ(鹿児島県南さつま市)
| 夏の南九州に華開く太鼓踊りの楽園――伊作太鼓踊り(鹿児島県日置市)
| 謎めいた火の祭りが世界を更新する――ケベス祭(大分県国東市)
| 集落の悪霊を祓う南島の来訪神――パーントゥ(沖縄県宮古島市)

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