Interview | Mario Rubalcaba (411, EARTHLESS, METROSCHIFTER, OFF! etc. | Alva Skate)


重要なのは、確信を持つこと

 サンディエゴのパンク・シーンにおける最重要ドラマー、Mario Rubalcaba。彼は、1990年にポストハードコア・バンド411でキャリアをスタートさせて以降、数多くのプロジェクトで熱くスティックを揮い続け、John “Speedo” Reis(ROCKET FROM THE CRYPT, HOT SNAKES, DRIVE LIKE JEHU ほか多数)、Pall Jenkins(THE BLACK HEART PROCESSION, THREE MILE PILOT)、Rob Crow(THINGY, PINBACK, HEAVY VEGETABLE, GOBLIN COCK ほか多数)といった奇才たちのプロジェクトを支えてきた。

 自身が中心的なメンバーとなっているEARTHLESSでは、インプロヴァイゼイショナルなインストゥルメンタルを主体としたスタイルで、ストーナー・ロックやドゥーム・メタルとは一線を画した独自のサイケデリック・サウンドを創出。先頃リリースされた最新アルバム『Night Parade Of One Hundred Demons』(Nuclear Blast)でも「百鬼夜行」をコンセプトに、パワフルとかテクニカルといった定型句以上に“イマジネイティヴ”と形容したくなるようなプレイを聴かせてくれる。


 クラウトロックと日本のサイケデリック・ロックから大きな影響を受けたというMarioに、EARTHLESSの新作をはじめ、キャリア全般について話を聞かせてもらった。


取材・文 | 鈴木喜之 | 2022年5月
協力 | 竹澤彩子

――EARTHLESS最新アルバム『Night Parade Of One Hundred Demons』の制作は、パンデミック下で進められたそうですね。サンフランシスコ在住のIsaiah Mitchell(g)がちょうどサンディエゴに来ているタイミングでロックダウンが施行され、逆にバンド全員が揃ってアルバム作りに集中できたとのことですが、ここ2年間はあなたにとって、どんな状況でしたか?
 「この2年には、本当に大きな変化があったね。フルタイムの音楽活動とツアーから離れて、家で過ごす時間をたくさん持った。パンデミックに伴う悪いことは別にすれば、家族と一緒にいられるというのは、自分にとって良かったと思う。そう、Isaiahはロックダウンが施行された日にサンディエゴへやって来て、彼が以前ここに住んでいたときと同じように、週に2、3回リハーサルやジャムのために集まるようになったんだ。昔やっていた通りに、ひたすら演奏してアイディアを出し合い、そこから別のアイディアが生まれて、本当に集中できるようなものができ始めた。それが、最終的に作品としてかたちになるのがおもしろいんだよ」

――最新作のタイトルは、日本の古い説話「百鬼夜行」にインスパイアされたものだそうですね。「圧倒的な未知の恐怖に対し、ただ家にこもって過ぎ去るのを待つしかない」という点で、ウイルスと似ているところもあると感じました。まあ、妖怪にワクチンは効かないかもしれませんけども。ここ2年の世界の状況は、アルバムの内容に影響したと思いますか?
 「答はイエスでもあり、ノーでもある。少なくとも、直接的な影響はないかな?監禁されているような状況や、周囲の精神状態によって、シンプルなことに感謝するようになったとは思う。ただ集まって、ひたすら音楽を演奏することは、自分にとって、とても癒しの効果があったし、メンバー全員がそう感じていたはずだ。素晴らしいことだったよ!今もそうだしね。今回のアルバムには、たくさんの感情が込められていると思う。自分自身に関して言えば、この新作には瞑想と混沌がある。痛みと惨めさもある。でも最終的には、喜びと、本当に誇りに思える何かをもたらしてくれた。これは、俺たちが誇りに思うアートだと断言できる」

――新曲を作るとき、基本となるリフやフレーズを事前に相談しておくようなケースもあると思うのですが、そういう具体的なこと以外に、例えば「目に見えない恐怖を表現した曲にしよう」とか、抽象的なアイディアをもとに作曲や即興演奏に向かうことはあるのでしょうか?
 「そう、たいていリフから始まるんだけど、今回のアルバムのプロセスで本当にクールだったのは、Mike Eginton(b)が彼の息子と一緒に読んでいた絵本を持ってきたときだったね。その本を見てすぐに俺たちは、作品のストーリーと悪魔に関するヴィジョンをはっきりと掴むことができたし、そこから、これがどう音楽的に結びついていくかという絵を描き始められたんだ。山あり谷ありで、夢のような美しさから最悪の悪夢に変わる構造と、インプロヴァイゼイションをね」

――Mike Egintonが描いたというジャケットも素晴らしい出来栄えですね。
 「タイトルとアートについては、すべてMikeのアイデアとコンセプトによるものなんだ。ある晩のリハで、大曲“Night Parade Of One Hundred Demons”をかたち作る初期のリフが浮かんだところで、彼が息子と一緒に読んでいた本を持ち出してきたんだけど、俺たちもすぐそのアイディアが気に入ったよ」

Mario Rubalcaba

――「Night Parade Of One Hundred Demons, Pt. 2」前半のリズムは、あなたがたが好きなFLOWER TRAVELLIN’ BANDの「Satori Part 2」を思い起こさせます。日本的な不気味さを醸し出す上で、あの作品を意識したりしたのでしょうか?
 「最初このパートができた段階では、ただキックドラムの繰り返しが長く続くだけだった。アルバムに収録されている、マーチング・トライバル・ドラムのような感じではなかったんだ。そこに妖怪のストーリーが見えてくると、このドラム・パートはもっと“Flower Travellin”なアプローチがいいんじゃないかって感じてね。その時点ですでに(FLOWER TRAVELLIN’ BANDは)俺たちのDNAに刻み込まれていたから、わざわざ彼らの作品を聴き直す必要はなかった(笑)。FLOWER TRAVELLIN’ BANDは、俺たちがEARTHLESSを始めるにあたってインスピレーションのひとつとなった存在なんだ」

――ヴォーカルが入った短めの曲をやった前作『Black Heaven』を例外として、EARTHLESSのアルバム収録曲は、だいたい20分前後にまとまっていますよね。これは、アナログ盤の収録分数に合わせたものだと推察します。逆に、あなたがたはライヴでいくらでも長く演奏できるわけですから、デジタル・ファイルやストリーミングといった時間制限にとらわれない新しいメディアのほうが便利だし、自分たちに向いているかもとかは思ったりはしないのでしょうか?
 「たしかに便利なのかもしれないけど、そういう観点で考えることができないんだ。“アルバム”と共に育った自分にとって、LPの各面というものは物語を紡ぐためのチャンスなんだよね。そして、“Night Parade~”は2つのパートにわかれているけれど、俺らにとっては間違いなくひとつの曲、1ピースなんだよ」

――今言った通り、「Night Parade Of One Hundred Demons」という曲は、レコードの片面に収まる長さ……つまりパート1 / パート2にはわけず、半分の長さにまとめようとしていたのを、最終的にもともとの長さを活かしたんだそうですね。そういった、曲の長さを調整する行程は、どんなプロセスで行なわれているのでしょうか?
 「そう、どんどん演奏を重ねていくうちに、曲の流れに任せて、真ん中のアトモスフェリックなパートを制限しない、つまりブレスを短くしないほうがいいって決めたんだ。何度も何度も演奏していくうちに、そうなっていった。スタジオでは通常、何度かテイクを重ねたうえで、何が一番いい感じかを確認する」

――インプロヴァイゼイションとジャムの違いについて、インプロはより集中して目的を持つのに対し、ジャムは持たないことだという持論があるようですね。もう少し詳しく説明してもらえますか?
 「そうだね。まさに、即興演奏とはその場で作曲することだ。演奏者が事前に作曲したように聴こえたとしても、それは実はしていない。そこには、集中力と意図がある。最も重要なのは、確信を持って演奏することだね。俺にとって、ジャムっていうのは、そこまで集中していなくて、引っかかりや回り道も多い。ストーリーを語るようなこともなく、本当の意味での道筋は設定されていないものなんだ」

Mario Rubalcaba

――新作リリースに合わせて、過去の作品3タイトル『Sonic Prayer』『Rhythms from a Cosmic Sky』『From the Ages』がリマスタリング再発されました。リマスター作業に関しては、どのようなことを意識して手を加えた / あるいは手を加えなかったのでしょうか。
 「その通り!あまり極端なことはせず、周波数を少しだけ見直して、もう少し熱く、リスナーの眼前にあるような感じにしただけだよ。(リマスターを担当した)Dave Gardnerは、一緒に仕事をするのに最適な人物で、とても素晴らしい仕事をしてくれた。ありがとう、Dave!」

――EARTHLESSの音楽には、クラウトロックや、日本のサイケデリック・ミュージックが大きな影響を与えているのことです。一体どのようなことをきっかけにして、ドイツや日本の音楽に興味を持ったのでしょう?Julian Copeが『クラウトロック・サンプラー』や『ジャップ・ロック・サンプラー』といった著書でそれらを紹介する以前からなんですよね?
 「そう、俺がクラウトロックにハマったのは、Julianの本が出る数年前だった。彼の本が発売されたときはすぐに買ったよ。今でも持っているし、大好きだ。ジャパニーズ・サイケについても少し後に知って、同じような衝撃を受けた。『ジャップ・ロック・サンプラー』も素晴らしい本だね」

――ちなみに、Jaki LiebezeitとMani Neumeierだったら、どちらがお好きでしょうか?
 「どちらも大好きだけど、Jakiに軍配が上がるかなあ。彼のグルーヴとサウンドはとてもオリジナルで味がある。そのシンプルさと音は最高だね!」

――さて、ここで少し、あなた個人のキャリアについても質問させてください。まず、あなたはサンディエゴの出身ですが、子供の頃はどんな音楽環境に育ったのですか? ドラムを自分のメインの楽器として選んだきっかけや、どういうふうにドラムの演奏を習得してきたのか、スケートボードとはどうやって両立させてきたのか(以前Marioはプロのスケートボーダーでもあった)などについて教えてください。
 「ドラムを始めたのは、4歳の頃。叔父が当時のクラシック・バンド、LED ZEPPELIN、GRAND FUNK、DEEP PURPLEなんかに夢中になっていて、そういうバンドは自分にも大きな影響を与えた。幼い頃は、とにかく音楽を聴きまくっていて、ドラムを演奏する機会があれば、それまでに聴いたものをどんどん取り入れるようにしていたよ。70年代にはその叔父もスケートをしていたから、彼のボードに乗せてもらったりしてるうちにどんどんハマっていって、スケートに夢中になり始めた数年間はドラムと縁が切れていたこともあったんだ。でも、その後パンクロックにのめり込んだら、また繋がった。以来ずっと、スケートと音楽は一心同体だよ」

――では、これまでの人生で特に大きな影響を受けたアーティストやアルバム、曲などをいくつか挙げてみてもらえますか?
 「ルーツを探ると……俺の場合、KISS、GRAND FUNK、DEEP PURPLE、LED ZEPPELIN、BLACK SABBATH、Alice Cooper、そしてTHE WHOだね。それと、VAN HALENとFOREIGNERの1stアルバムも6歳のときに聴いたよ。この2枚は、6歳の誕生パーティでもらったんだ」

――サンディエゴには、非常にユニークなロック・シーンがあることは日本でもよく知られています。あなたがCLIKATAT IKATOWIに参加していた頃の、現地のシーンはどんな様子だったのか教えてください。
 「CLIKATATにいた頃は、俺にとって素晴らしい時間だった。音楽的にも、ドラムを演奏する上でも、新しい境地を発見したバンドで、それまでは自分のドラム・プレイでそんな場所に行ったことがなかった。全く違う領域に到達できたんだ。どうやって俺の身体からあの音、あのビートが出たのか、自分でもよくわからない。それ以前は、あんなことができるとは思ってもみなかったね。テレパシーが強いとでもいうか……サウンド的には違うけど、EARTHLESSと同じような感覚がある。そんなことめったにあるもんじゃないだろうし、こういうマジカルなテレパシーが強いバンドに人生でふたつも出会えたのはラッキーだったと思う」

――John Reis、Rob Crow、Rick Froberg、Pall Jenkinsといった、サンディエゴの音楽シーンを代表する人たちと一緒に音楽を作ってきたわけですが、彼らとのプロジェクトで特に思い出深いエピソードはどんなものですか?
 「すべては織り込み済みだったんだ(笑)。CLIKATATの後は、THINGYでRobと一緒に演奏するようになった。あまり長くは在籍していなかったけど、一緒に2枚のアルバムを作って、それらはとても早く出来上がったよ。その後、PallとBLACK HEART PROCESSIONで一緒にやった。その数年後にはRFTCとHOT SNAKESが誕生したんだ。どのバンドも一緒に仕事をしたり、コラボレーションをするにあたって、最高の相手ばかりだ。あまりにも多くの素晴らしい瞬間があったよ!本当にたくさんね!」

――私は過去、JohnとRobにはインタビューしたことがあるのですが、それぞれ日本のサブカルチャーについて詳しくて驚かされました。あなた自身は、往年のサイケデリック・ロックの他に、日本の文化についてどのような興味を持っていますか?
 「俺は、日本の音楽が大好きなんだ。全てのジャンルに精通しているわけではないけれど、たくさんの日本の音楽を楽しんでいるよ。最近、日本のジャズ・アーティストとアルバムの新しいラビットホールを発見したところだ。この旅には、終わりが見えないね!」

――EARTHLESSとHEAVY BLANKETの共作『In A Dutch Haze』を作ることになった経緯を教えてください。
 「あれは一度きりの集まりで、とにかく即興でやってみるというスタイルだった。すべてインプロだよ。楽しかった!」

――WITCHとも親交があり、J Mascisの代理を務めるかたちでサポート・ドラマーとしてもプレイしていますね。ドラマーとしてのJをどう評価しますか?
 「そう、素晴らしい時間を過ごしたよ。ドラムを叩くJも素晴らしかった。俺が長年、28inchのキックドラムを使っているのは、彼に理由があるんだ」

――あなたのInstagramをフォローしている人をざっとチェックしたら、素晴らしいミュージシャン、特にドラマーがたくさんいることに気付きました。Greg Fox、Matt Cameron、Jon Theodore、Josh Freese、Dale Croverなど……彼らとはどのような交流があるのでしょうか?
 「ライヴやツアー、共通の友人を通じて知り合ったんだ。彼らはみんな達人だね!」

――また日本であなたのライヴを観たいです。次に来日するときは、どんなことをしたいですか?
 「いつか近いうちに日本に戻るのが待ち遠しいよ。けっこうご無沙汰してるしね。最後に行ったツアーもとても素晴らしかった」

――ちなみに、OFF!はもう辞めてしまったんですか?
 「やー、ちょっとね。ときには、ラインナップが変わることで物事がうまくいく場合もある。彼らは継続し、偉大な存在となるだろう。俺は決断を迫られ、去るのは簡単ではなかったものの、最終的にはみんなにとって、そしてEARTHLESSにとってもベストなことだった。これからは主に家族とEARTHLESSに集中したいけど、みんなとジャムるのが好きだから、つい最近NEGATIVE BLASTという新しいハードコアパンク・バンドにも加わったんだ。彼らもまたサンディエゴ出身だよ、期待してね!」

――はい。どうもありがとうございました。
 「Thank uuuuuu!!!!!!」

Mario Rubalcaba Official Site | https://www.mariorubalcaba.com/
EARTHLESS Official Site | https://www.earthlessofficial.com/

EARTHLESS 'Night Parade Of One Hundred Demons'■ 2022年1月28日(金)発売
EARTHLESS
『Night Parade Of One Hundred Demons』

https://nblast.de/EarthlessNightParade

[収録曲]
01. Night Parade Of One Hundred Demons (Part 1)
02. Night Parade Of One Hundred Demons (Part 2)
03. Death To The Red Sun