今の自分がどんな姿でも受け入れるしかない
このムードが何に起因するものであるかを探るべく、2月にWHIRRとのカップリングで行われたジャパン・ツアーの折、公演直前にDomenic Palermoさんをキャッチ。NOTHING結成以前にまで遡って語っていただきました。
取材・文 | 久保田千史 | 2026年2月
通訳 | 竹澤彩子
撮影 | 小林一真 (UUWorks | Bearwear)
協力 | ICE GRILL$
――せっかくの機会なので、昔話を聞かせていただけると嬉しいです。
「いいよ!」
――HORROR SHOWが好きだったので、結成前後の頃のことを教えてください。まだ10代とかだったんですよね?
「うん、15歳の頃かな。VICTORY STRIKE(HORROR SHOWの前身にあたるバンド)の前は、Oi!とかストリート・パンクみたいなバンドをやっていたんだ。誰も知らないバンドだけどね。知っている必要もないっていうか(笑)。でも、それが俺が初めてやったバンド。それあとすぐにクラシックなニューヨーク・ハードコアとかに夢中になった。SIDE BY SIDEとかね。HORROR SHOWを結成した頃はAMERICAN NIGHTMAREとかPANIC、COUNT ME OUTみたいなバンドが好きだったよ。速くて攻撃的だけど、歌詞はポジティヴでもストレート・エッジでもなくて、憂鬱なんだよね。そういうところにグッときたんだ。それからHORROR SHOWのデモを録ったんだけど、CONVERGEのJacob Bannonが俺らのやっていることをすごく気に入ってくれて。Deathwishから最初のレコードを出さないか?って誘ってくれたんだ」
――Bannonさんとは今でも交流ありますか?
「もちろん。頻繁に会うわけじゃないけど、JacobはずっとNOTHINGのファンでいてくれるし、連絡を取り続けてお互いサポートし合っているよ。俺が服役していたときもすごく気にかけてくれたんだ。所内の売店で使うお金とか、本を買うためのお金を送ってくれたり。人生で一番辛かったときに助けてくれたんだよね」
――差し支えなければ、そのフィラデルフィアでの事件についても聞かせていただけますか?
「ぜんぜん、聞いてくれて大丈夫だよ!隠すようなことは何もないし」
――ありがとうござます。あまりお話したくはないかもしれませんが……。喧嘩がエスカレートしてしまったということ?
「そうだね。あんなことをするつもりはなかったんだ……。俺が武器を取り出したのが間違いだったんだよ。相手をひどく傷付けてしまって……。それで刑務所で過ごすことになった。厳しい教訓をたくさん学んだよ。これからの人生をどう進めていくかを考えて、自分自身を整理する時間がたくさんあったんだ。判決の刑期は7年だったんだけど、2年間で出所した。それが19歳のとき」
――そうだったんですね……。
「Jacobの他にも世界中のハードコア・シーンの人たちがサポートしてくれたよ。俺がダメになっちゃわないように手紙を書いてくれたり。それが俺の支えになった。フィラデルフィアでベネフィット・ショーも開催してくれたんだよね。HORROR SHOWのメンバーがJacobやJoe Hardcore(Joe McKay | PUNISHMENT, SHATTERED REALM | This Is Hardcore Fest)、AMERICAN NIGHTMAREのWesley Eisol、BLACKLISTEDのGeorge Hirschとかをゲスト・ヴォーカルに迎えて演奏したんだ。他にもたくさん……思い出せないくらいたくさんの人が助けてくれたよ」
――先ほどBannonさんが本を買うためのお金を送ってくれたとおっしゃっていましたが、服役中はどんな本を読んでいたんですか?
「最初に読んだのは『接骨の技術』かな……」
――えっ?
「ごめんごめん(笑)。最初に読んだのは、兄貴が送ってくれた本。ジャン=ポール・サルトルの『嘔吐』とケン・キージーの『カッコーの巣の上で』だね。実存主義的で、ニヒリスティックで、ちょっとシニカルな世界観にハマったんだ。その2冊を出発点に読書が好きになって、いろいろ読んだよ。セリーヌ、ボードレールとか。三島由紀夫もね。すごくシニカルで悲観的なんだけど、美しく知的に表現されているところに影響されて、脳のスイッチが切り替わった感じがしたよ。それが今でも自分の中に生きている。詩的で哲学的な側面があるやつが好きなんだ。特に好きなのはジャン・ジュネの『花のノートルダム』。彼は服役中に自伝を書き上げたんだけど、房にやってきた看守が見付けて大量の原稿を破り捨ててしまった。また最初から書き直さなきゃならなくなっちゃったんだよね。そういう絶望的な状況を、当時は自分と重ねていたのかもしれない」
――出所されてからもHORROR SHOWでの活動を続けていらっしゃいましたが、解散してしまいますよね。その直接的な原因はやはり、メンバーが亡くなったことだったのでしょうか。これも思い出したくないお話かもしれませんが……。
「そうだね。HORROR SHOWのオリジナル・メンバーだった友達のJosh(Joshua Tshirling)が死んだ。俺が出所したとき、彼はフィラデルフィアじゃなくてLAに住んでいたんだけど、そこでバイクに乗っているときに。ほぼ即死だった。撥ねたのが飲酒運転の車だったっていうのがまた、やりきれなかったよ。Joshとは2人で音楽を作っていたから、HORROR SHOWはもうここで終わりにしたほうがいいと思ったんだ。同じ頃に、フィラデルフィアの別の友達も交通事故で死んでね。俺は気力を失くしてしまった。本当に、風船が萎んだみたいになっちゃって。音楽自体やめてしまったんだ。NOTHINGを始めるまで、10年くらいかかったと思う」
――苦しい経験ですね……。まだ10代だったのですから、なおさらです……。10年経って、また音楽を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
「ずっと自分が何をしたいのかわからなくて、鬱で穴の中に沈んでいくような感じだったんだけど、試しにギターを手に取って、自分の考えを紙に書き出し始めてみたんだ。それが少しずつセラピーみたいに感じられるようになってきたんだよね。肩の荷が少し下りたっていうか。今もそうだし、それが続けている理由でもあるんだけど。だから、最初は自分のためだけのベッドルーム・プロジェクトだったんだよ。でも人に聴かせてみたら、みんな喜んでくれて。“レコーディングしてテープを作ったほうがいいよ”って説得されたんだ」
―― 音楽的な面で言うと、USには昔から「SST Records」に象徴されるように、いわゆるギターロックとハードコア・パンクの親和性に関する歴史がありますけど、それにしてもHORROR SHOWからNOTHINGへの変化ってドラスティックだったと思います。周りにそういうバンドっていたのでしょうか。やっぱり、COLD CAVEの影響はありましたか?
「そうだね、AMERICAN NIGHTMAREからCOLD CAVEへの変化ってすごいもんね。俺にとってWesは昔から大きなインスピレーションの源だったし、実際彼からいろんな音楽や文学を教えてもらった。新しい自分になるためにリスクを恐れないことを彼から学んでいなかったら、今のNOTHINGはなかったかもしれない。逆にWesも、俺らのライフスタイル……俺らはフィラデルフィアのすごく貧しいエリアで育って、ストリートで暴れたり、トラブルを起こしたりしていたんだけど……そういうところにちょっと魅了されていたんじゃないかな」
――PANICからの「Dais Records」っていう流れもありますよね。
「そうだね!Gibby(Miller | PANIC, LOUDERBACH | Dais Records)は俺にとって兄弟みたいな存在なんだ。PANICは大好きなバンドのひとつだったし、いよいよ刑務所に入れられるっていうときも側にいて、すごく支えてくれた。今も良い友達だよ。俺の別プロジェクト・DEATH OF LOVERSのアルバム(『The Acrobat』2017)もDais Recordsから出してもらったんだ」
――Millerさんもたしか、昔はスキンズだったんですよね。
「そうそう!そういう生い立ちも似ているんだよね。俺がスキンヘッドだったのは12歳から16歳くらいまでかな。その頃の写真があるよ。見たい?」
――見たい見たい!
「(スマートフォンのフォルダを探しながら)なかなか出てこないな……あっ、見て、Atsuoだよ。Atsuo知ってるでしょ?」
――本当だ、Atsuoさんですね。
「Wataの写真もあるよ。何年か前(2022)、一緒にツアーしたんだ。Borisは最高だよ。今日も観に来てくれると思う。あ、あったよ!14歳のときのスキンヘッド写真」
――うわ、すごい!本当にガチのスキンズじゃないですか!そしてめっちゃ若い(笑)!
「でも、もっと良い写真があるんだけどな……あったあった、これは15歳かな? ヴェニューからビールを箱で盗んだときの写真だね」
――悪いガキっすね(笑)。
「すごく悪かったよ……(笑)。その数年後に刑務所に入ることになるなんて、想像できなかったけど……こっちは12歳のときかな?」
――うお、12歳にしてガチじゃないですか!やばい(笑)!
「こっちは10歳のとき。『時計じかけのオレンジ』みたいだよな(笑)。兄貴の影響だね。MAJOR ACCIDENT、COCK SPARRER、LAST RESORT、COCKNEY REJECTS……そういうのは大好きで全部聴いた。あとはMISFITS、DEAD KENNEDYSとかね。それでたぶんおかしくなっちゃったんだな(笑)」
――(笑)。BLITZは?
「そうだね!BLITZな!BLITZはいつでも最高だよな」
――BLITZは音楽的にだんだんニューウェイヴに接近していったわけですけど、NOTHINGをやる上でそういう影響もあったのかな?と思って。
「たしかに。それはあるのかもね。でも、そういう変化ってけっこうフツーにあるんじゃね?っていう気もするよ。MY BLOODY VALENTINEだって、ドラムとかにめっちゃパンクを感じたりするじゃん。俺の場合、兄貴はパンクが好きだったんだけど、姉貴はヘヴィメタルが好きだったんだよ。SLAYER、TESTAMENTとかCANNIBAL CORPSEとかを聴いていて。ママはTHE CUREとかCOCTEAU TWINSとかが好き。父親は……あまり会うことはなかったけど……フィリー・ソウルが好きで、THE DELFONICSとかTHE SPINNERSとかを聴いていたんだよね。それが全部ミックスされて俺になっているんだとすると、今NOTHINGでやっている音楽も説明できるんじゃないかな。SWIRLIESのメンバーは、初めて俺らのライヴを観てくれたとき“MY BLOODY VALENTINEとMISFITSを合体させたみたいな音楽”って言ってたよ(笑)」
――わからなくもないです(笑)。でもたしかに、いろんな音楽がミックスされるっていうのは自然なことかもしれませんね。ただ、あなたがメタルを聴いているイメージはあまりないんですよね。
「そんなことないよ。スラッシュメタルとかめっちゃ好きだよ。オールドスクールなやつね。最近のも好きなやつはあるけど……。SANGUISUGABOGGとか超好き。日本のみんなは発音しにくそうな名前だよね(笑)」
――そうですね。まあロゴも読めないですしね(笑)。
「あとは友達のChase(H. Mason)がやっているGATECREEPERもいいね。オールドスクールなメタルが好きなのは、ハードコアに近いからなんだ。“ブレイクダウンがある”し(笑)」
――それですね(笑)。GATECREEPERで思い出したんですけど、僕が初めてリアルタイムで買ったNOTHINGのレコードは「A389 Recordings」からリリースされたEP『Downward Years To Come』(2012)だったんです。「A389 Recordings」とはもともと繋がりがあったのでしょうか。
「あのレコード持ってるの?ありがとう!A389 Recordingsとの繋がりは、INTEGRITYからなんだ。君もINTEGRITY好きでしょ?」
――大好きです(なんでわかるの)。
「俺も昔からINTEGRITYが大好きなんだ。Dwid(Hellion aka Psywarfare | Dark Empire | Holy Terror)は友達で、古い付き合いなんだよ。A389のDom(Domenic Romeo | DAY OF MOURNING, END REIGN, ILSA, PULLING TEETH, SLUMLORDS etc.)は長い間INTEGRITYでギターを弾いていたからね、そういう繋がり。俺らの最初のEPはA389と、日本のBIG LOVE RECORDSからリリースしたんだ。ぜんぜんタイプが違うよね。当時はNOTHINGのことを誰も把握していなかったし、俺ら自身もアイデンティティがまだはっきりしていなかった。それなのに、どちらのレーベルもリスクを背負って俺らの作品をリリースしてくれたんだ。最初の5年くらいは本当に居場所がなくて辛かったよ。ハードコアやパンクにしてはソフトすぎるし、インディ・ロックの世界にはヘヴィすぎたんだろうね。誰も俺らとやりたがらなかったし、レーベルも欲しがらなかった。徐々に理解されてきて、今はハードコアのフェスにもインディ・ロックのフェスにも出られるようになったけど。まあ、最初の頃はライヴがけっこう荒れてたんだけどね……(笑)。フロアで暴れたり、ギターを投げたり。今はもうボロボロのオッサンだから疲れちゃって、そんな元気ないけど(笑)。長い道程だったよ」
――そういう、ワイルドで攻撃的な態度から、どういう心理的な変化を経て今のような表現へと移行していったんですか?
「自己表現としてすごく自然なことだったんだ。今でもそういう二面性はあるし、二面性っていうか、常にいろんな面が混ざり合っているからね。それをただ正直に出しているだけなんだ。自分自身に正直でいようとしているだけだよ」
――なるほど。そうですね、誰でもそうやって少しずつ変化してゆくものですよね。そうしてEPから約2年を経て、1stアルバム『Guilty Of Everything』(2014)を発表するわけですが、「Relapse Records」からのリリースというのは正直とても驚きました。
「いや、俺ら自身も驚いたよ。Relapseはエクストリーム・メタルのレーベルだけど、俺らはどう考えても違うからね(笑)。当時いろんなレーベルにデモを送ったんだけど、どこも返事がなくて、唯一興味を持ってくれたのがRelapseだったんだ」
――他にはどんなレーベルにデモを送ったんですか?
「Sub PopとかMatadorとか。ぜんぜん反応なかったね。Relapseはすごく気に入ってくれたし、良い人たちだったから、組むことにしたんだ。DomのA389とRelapseには繋がりがあったんだけど、それでもRelapse的にはかなりリスクのある選択だったと思う」
――周囲の反応はいかがでしたか?
「マジで!? っていう感じだったよ(笑)。Relapseのファンも“なんだこれ?”っていう感じだったし。でも俺らとしては、当時抱えていたバンドのアイデンティティ・クライシスを考えると筋が通っていたし、結果的に良かったと思う。すごく良くしてくれて、Relapseがなかったら今こうして君と話していることもなかったんじゃないかな。それは間違いない」
――『Guilty Of Everything』と同じ年に、DEATH OF LOVERSの1st EP(『Buried Under A World Of Roses』)をリリースしていますよね。
「そうそう、JacobのDeathwishが出してくれたんだ」
――レコード持ってますよ。ロゴが箔押しでかっこいいんですよね。
「おっ!いいね!ありがとう!たまにNOTHINGよりDEATH OF LOVERSのほうが良いんじゃないかって思うときがあるよ(笑)」
――どちらも素敵ですよ。DEATH OF LOVERSを一緒にやっていらっしゃって、今日共演するWHIRRのメンバーでもあるNick Bassettさんは、のちにNOTHINGの一員にもなりましたし、長いお付き合いですよね。
「そうだね。NOTHINGを始めてしばらくした頃にWHIRRの連中と仲良くなったんだ。Nickはオークランドからフィラデルフィアに引っ越してきて、俺の家に住んでいたんだよ。それで一緒にゲームしたり、ギター弾いたり。最初はクラシック・ロックのコピーとかをやっていたんだけど、2人ともTHE CURE、COCTEAU TWINS、DEPECHE MODEとかが好きだから、そういうのやろうぜ!ってなったのがDEATH OF LOVERS。DaisのアルバムのときはTALKING HEADSみたいに風変わりで楽しいことがやりたくて、ああいう感じになったんだよ」
――DEATH OF LOVERSのアルバムの翌年には、NOTHINGの3rdアルバム『Dance On The Blacktop』(2018)がリリースされていますよね。同作では、Mark McCoyさん(Youth Attack | ABSOLUTE POWER, ANCESTORS, CHARLES BRONSON, DAS OATH, FAILURES, HAXAN, HOLY MOLAR, SOCIAL COMA, VMW etc.)がアート・ディレクションに参加していらっしゃってブチあがりました。
「俺もだよ。これまで彼の全プロジェクトを追いかけてきたからね。ずっとファンだったから、夢のようなことだった。Youth Attackから出ているSQRMのアルバム(『Rodeo』2010)がめっちゃ好きでね。ジャケがピエロのポートレイトなんだけど、あれが完璧なレコード・ジャケットに思えたんだ。それでMarkに連絡して、NOTHINGはあなたのやっていることとはぜんぜん違うかもしれないけど……って伝えたら、引き受けてくれた。撮影のコンセプトを一緒に考えたんだけど、俺らのために期待していた以上のことをしてくれたよ。マスクを被って写真に写っているのはChelsea Hodson。実はMarkの妻さんなんだ。彼女は優秀なライターでもあって、ニューヨーク・タイムズとかで書いてるよ。ベストセラー作家なんだ」
――へえ~!すごい!著作をチェックしてみます!Youth Attackのリリースだと何が一番好き?HOAX?CITY HUNTER?
「やっぱSQRMだね。めちゃくちゃ過小評価されていると思うな。みんな聴いたほうがいいよ。タフなヴァージョンのNIRVANAっていう感じで最高なんだよ」
――タフなヴァージョンのNIRVANA!たしかに!良い例えですね(笑)。そして2020年の4thアルバム『The Great Dismal』はパンデミックの只中でリリースされましたよね。実はその当時、お話を伺いたくて、レーベルを通じて質問状をお送りしたんですよ。
「えっ!本当に!?」
――僕の質問にムカついてお返事くれなかったのかな……って思ってました。
「いやいやいや、そんなわけないよ、どんなインタビューでも絶対に答えるようにしているんだ。そんなことがあったのか……ごめんね」
――いえいえ、冗談です(笑)。あの頃はどこもかしこも混乱していましたから、その中でロストしてしまったんだろうなって思っていました。
「そうだね、たしかに混乱はしていたよね。……これは今だから言えるんだけど、実は当初、『The Great Dismal』はリリースされないことになっていたんだ。Relapseの判断でね。アルバムを出すときはツアーがすごく重要で、ツアー先でレコードが売れるのを期待するっていう考えかたなんだ。でもツアーはできなかったでしょ。それでも俺は、NOTHINGを聴いてくれているみんながすごく困難な状況にあって、そういうときこそ音楽が重要なんだって信じていたんだ。だからRelapseに無理を言って、押し切るかたちで出させたんだよね。彼らはあまり快く思っていなかったんじゃないかな。でも結果的にはすごく売れて、ウィンウィンになったから良かったよ」
――そんな状況だったのですね……。あと『The Great Dismal』で気になったのは、Bassettさんがいなくなっちゃったことです。その、なんというか、お聞きし辛いのですが、WHIRRにまつわる騒動と何か関係があったのでしょうか。
「ああ……WHIRRがTwitterでトラブルになって、しばらくキャンセル状態になったときのことでしょ。ぜんぜん関係ないね。Nickは『Dance On The Blacktop』を出したあとにやめちゃったんだ。 ツアーが嫌になったらしくて、家で作曲したり、プロデュースしたりすることに集中したがっていたんだよね。フィラデルフィアからオークランドに戻ったからっていうのもあるかな。でも変わらず親友だし、ずっと連絡を取り合っているよ。今日だってこうして一緒にライヴをやるしね!」
――そうだったんですね、安心しました。Bassettさんもそうですけど、NOTHINGはメンバーがけっこう流動的ですよね。
「NOTHINGは常にコラボレーション・プロジェクトなんだ。これまで本当にいろんな奴らとやってきた。外から見たら“この人誰?”っていう感じかもしれないけど、俺にとっては、ぜんぜん違う奴らとやるのは素晴らしい経験だし、その1人1人がいなかったら、NOTHINGは今みたいになっていなかったと思う。全員が足跡を残しているっていうか。今のラインナップは、バンドにとって音楽的に一番良い状態だと思う。それぞれ自分の得意分野を持っていて、それがマックスに発揮されている感じがするんだよね。あと、いちいち細かく説明をしなくても伝わる、みたいな」
――その時々のNOTHINGが常にベスト、という感じ?
「う~ん、全部のラインナップそれぞれに違うヴァイブスがあるし、レコーディングからライヴ、ツアー中のバンでの過ごしかたまで、その時々で大きく変わるからね。それぞれに対してノスタルジックな気持ちがあるよ。すべてのメンバーが残してくれたものを、俺は旅の過程でずっと持ち続けている。一緒に旅した仲間っていうか、その思い出の全てが自分に影響を及ぼしている、っていうこと。中には、もう俺の顔なんて見たくないっていう奴も何人かいるかもしれないけど……。そういう奴でさえ、とりあえずは今も一緒に歩み続けているっていう感覚があるよ」
――ほんのり切ないけど、人生っていう感じですね……。あっ、もう開場しちゃったかな?では最後に、新作『A Short History Of Decay』について聞かせてください。今回はどんなアプローチで制作されたのでしょう。
「今回のアルバムは俺にとって、すごく……ヘンな感じだった。『Guilty Of Everything』をレコーディングした頃から、書いて、録音して、ツアーに出るっていう生活を繰り返していたでしょ。2014年、2016年、2018年、2020年。何度も何度も繰り返した。それに疲れちゃったんだ。自分を痛めつけている感じで、本当に疲れた。だから休みを取って、レコードの作りかたを根本から変えたいと思っていたら、突然家にいることになった。ロックダウンでね。時速100mileで走っていた車が急ブレーキをかけたみたいに、前に放り出された感じだったよ。だから家にいた時間は、自分の中に抑圧していたたくさんのことを呼び起こしたんだ。さっきも話したけど、これは俺にとってのセラピーなんだ。言いたくなかったこと、言うのが怖かったことがたくさんあった。鏡を見るみたいに自分と向き合って、今の自分がどんな姿でも受け入れるしかないんだって思ったよ。それで、トラウマの掃き溜めみたいなものだった『Guilty Of Everything』の頃に戻りたくなったんだよね。重荷をアルバムの中に下ろしたかった。自分が醜かろうが、弱かろうが、そういうものを全部さらけ出そうっていうアプローチで作ったよ」
――あなたにとっても、NOTHINGにとっても、再びの出発という感じがしますね。リリース楽しみにしています。公演直前のお忙しいときに、長い時間ありがとうございました。
「久しぶりにハードコアの話とか自分のバックグラウンドの話とかをして、めっちゃリフレッシュできたよ。たまにこうやって振り返ると、自分がどこまで歩いてきたのか実感できるからいいよね。こちらこそありがとう。ライヴ楽しんでね!」
■ 2026年2月27日(金)発売
NOTHING
『A Short History Of Decay』
国内流通仕様CD RFC295JCD 2,500円 + 税
国内流通仕様Vinyl LP RFC295JLP-C5 6,200円 + 税
[収録曲]
01. Never Come Never Morning
02. Cannibal World
03. A Short History Of Decay
04. The Rain Don't Care
05. Purple Strings
06. Toothless Coal
07. Ballet Of The Traitor
08. Nerve Scales
09. Essential Tremors


