文・撮影 | パンス
僕は東京でよく酒場に行くのだが、酒ばかり飲んでいてつまみをあまり頼まない傾向がある。なので知人の多くは、僕を少食な人だと考えているかもしれないが、韓国に行けば話は別だ。延々といろいろ食べている。韓国料理はとにかくジャンルが多彩で、どこまでも探っていけるし、多様な美味しさがある。新しい音楽ジャンルにハマったときのような気分にもなる。
そんなわけでもう4回行っているのだが、ここに掲載するのは今年6月の旅行記。今回は代表的なメニューをおさらいした感じ。旅行する方はぜひ参考にしてみてください。
仁川空港から高速鉄道でソウル市街に向かうが、各駅に乗ってしまったのでずいぶん時間がかかった。着いたら早速チキンとビール(チメク)をキメようとしていたのだが、端折って東大門のホテルへ。激安な部屋を取ったら、入るなりカラオケ屋のような内装でテンションが上がる。チキンが食べられなかった悔しさを、途中のコンビニで買ったカップのチャムケ・ラーメンで補完した。チャムケはごまの意。卵スープの素のようなかやくとラー油が混ざり、マイルドな味だ。辛いラーメンが苦手な方にも薦めたい。
「めちゃくちゃナイト」(韓国と日本を行き来しながら行われているDJイベント)主催の(内畑)美里さんたちと、タコや野菜の炒めもの“チュクミ”を食べる約束をしていたのに、残念ながら間に合わず。地下鉄で弘大(ホンデ)まで行き、若者たちの波を掻き分けながら店に着くと、すでにポックムパッ(しめの焼き飯)になっていた。それだけでも食べたいが、人気店なので途中から割り込むのも悪いかなと思い、僕は店を出て隣の駅、新村(シンチョン)のほうまでテクテク歩く。
弘大の外れには「テンテン通り」がある。かつてこの通りの真ん中を鉄道が通っていたそうで、テンテンとは日本語で踏切の“カンカン”という擬音を指す。のどかな雰囲気のなか、焼肉店が立ち並んでいて、今回はそのなかの「麻浦コプテギ」に。平屋で簡素な椅子と丸テーブルが並んでいる、韓国映画でよく見る酒場そのもの。日本語表記はないので覚えたてのハングルをなんとか読んで、味付豚カルビを頼んだら、大きな一枚肉が出てきて、自分で焼いてハサミを使って切る。一緒に焼くじゃがいもや玉ねぎ、キムチとテンジャンチゲ(味噌汁のようなマイルドなチゲ)がついてきて、1人1,200円ほどでお腹いっぱい食べられた。ソジュ(焼酎)も1本頼んで、ストレートで飲みながら豚肉をつまむ。店で飼っている?猫も突然現れて、僕が座っているテーブルの空いている椅子にちょこんと座り、周りを眺めている。そんなシチュエーションでどうして酔っ払わずにいられようか。すっかり気分が良くなり、店を出て、散歩がてら広興倉(クァンフンチャン)駅まで歩き、地下鉄で梨泰院(イテウォン)まで。
米軍基地を擁する梨泰院は、外国人がたくさんいて六本木のような雰囲気。夜遅くの時間でも若者たちが酒を飲んだりしてウロウロしている。気候もよいので、コンビニの前にテーブルが出てて、みんなそのあたりに座って涼んでいた。クラブも多く、今回の目当ては「Cakeshop」というお店で開催されていた「86BABIES」。韓国と日本の1986年生まれのDJが出るというパーティー。たどり着くやいなや、韓国と日本の友達に次々と会えて、とても不思議な気分だし、こういう瞬間がいちばん好きだ。Selfieさんのベースライン的なセレクト、okadada氏のトライバルな展開から、OG氏のダンスホール・セットまでなだれ込む流れにグッときた。テキーラも次々と出てきて、飲めなくなっちゃった人の分まで代わりに飲んだりしていたら、すっかりヘロヘロになってしまった。
朝方駅に向かうと、始発はまだ出ておらず、遊び尽くした若者たちが階段などに寝っ転がっている。どうしようかなと思い一旦外に出たら映像作家の玉田(伸太郎)君たちにバッタリ出会ったので、そのまま梨泰院の街に舞い戻り、酒場に入って朝5時からまたチャミスル(焼酎)を呑み、プデチゲの辛いスープを流し込む。スパムとつみれのようなものが大量に入っていた。
数時間寝て起きるとひどい二日酔い。ベッドでゴロゴロと悶えたりするが、時間がもったいないのでなんとか起きて、東大門の「タッカンマリ通り」へ。鳥やじゃがいもを丸ごと煮込んで食べるタッカンマリ、じつは初めて食べた。甘めの酢醤油のようなたれや、よく漬かったキムチを合わせて。最後には細めのうどんのような麺を入れる。食べてるうちに二日酔いも完治。これぞ韓国料理のミラクルで、二日酔いのためにセッティングされているのかと思えるほどよく効く。細い路地に多くのタッカンマリ店が立ち並び、食べ終えてウロウロしているだけでも楽しい。隣は「ホルモン通り」、あと「焼き魚通り」という、シンプルな焼き魚定食を出す店が並ぶ通りもある。全部食べたいが、さすがにそこまで腹の容量はない。
東大門から歩いて乙支路三街(ウルチロサムガ)まで。若いクリエイターによるお店と呑み屋が連なる下町の風景が同居していて大好きな街。なかでも知られているのが「新都市(シンドシ)」というスペース。この日は女性DJやアーティストによる「Bazookapo」というパーティが行われていた。以前DJで共演したArexiboさんやKisewaさんもメンバー。うららかな昼下がりに雑居ビルの階段を上がってドアを開けると、いきなりドラムンベースがガンガンかかっていて最高の気分に。屋上ではチルアウトできるので、(まだ昨日の酒が抜けきってないため)コーラを飲んだりして過ごす。
しばしゆったりしたのち、地下鉄で新村に行き、DJのMoondancer君と合流、彼の案内で、ソウルに古くからあるラーメン屋へ。
韓国における“ラーメン”は、いまでこそ日本風の麺を出すお店もあるけれど、基本はインスタント・ラーメンを指している。最近僕は韓国のインスタント麺にハマっていて、いろいろ買って食べているのだが(詳しくは僕のInstagramやTwitterにて“#パンスの韓国麺生活”というハッシュタグを付けてレビューしているのでチェックしてみて)、「フェドラ(フェードラ)」という名のこのお店でも、辛ラーメンをアレンジしたものが出てくる。TANGERINE DREAMのアルバムか?と調べてみたところ、同名の映画があって、そこから取ったらしい。
70年代にオープンしたこの店は、民主化運動が盛んだったころから学生たちに愛好されていたという。辛ラーメンの時点で辛いのはもちろんだが、さらに赤・青の唐辛子もたっぷり入っていて強烈。涙を流しそうになりながら食べる。デモで浴びる催涙弾になぞらえて“催涙弾ラーメン”と呼ばれていたそう……。付け合わせのキムチとたくあんが癒しとなってくれた。ほかにも卵焼き、焼酎などがあり。
店を出て、新村のCD店に行ってみる。新星堂のような趣だが、お客さんは僕ら以外皆無であった。続いて駅前の書店へ。ラインナップを見て思ったのは、韓国のブックデザインはとても洗練されているということ。
「新都市」の運営にも携わっているパク・ダハム君に誘われ、また乙支路三街に戻り、広蔵市場(カンジャンシジャン)まで歩く。有名なタコの活け造りのほか、チヂミなどを食べ、体調も完全復活したのでビールを飲む。薄味のスープに油揚げやネギ、そうめんが入った麺料理が美味しかった。にゅうめんにも近い。ダハム君によると、直訳すると“盆踊りそうめん”。夏に好んで食べられるとのこと。栗のマッコリも注文。香ばしい甘さでガバガバ飲んでしまう。これはぜひ日本でも売ってほしい。「86BABIES」の面々も合流してひとしきり呑み、何人かに分かれて、僕はタクシーでまたしても「テンテン通り」へ。「空中キャンプ」というライヴハウス兼バーで一杯飲む。むろんフィッシュマンズのアルバムから取られていて、日本からも多くのバンドが出演している。去年だとVIDEOTAPEMUSICさんやエマーソン北村さんのライヴもあった(それも観に行きました)。
終電でホテルに戻り就寝。次の日は朝からまだまだ食べたいと近所のシュポ(商店)に行き、僕が一押しのカップ麺『スネクミョン』を買って朝から食べる。店の軒先ではサラリーマンやおじさんがのんびり座っていてイイ雰囲気だ。そしてすぐチェックアウトし、合井(ハプチョン)まで行って再びダハム君と合流して、「無限リピルカンジャンケジャン」の店へ。“無限リピート”すなわちカンジャンケジャン(蟹の醤油漬)が無限に食べられるということだ。蟹に食らいついて、余った蟹味噌をご飯にかけて食べるのが至高。無限だけど2ターンでお腹いっぱいになってしまった。ほかに海老の醤油漬(セウンジャン)、キムチやテンジャンチゲも食べた。
店を出て、近くのスーパーで大量のインスタント・ラーメンを購入し、トランクに詰め込む。そこからタクシーで、かねてより行きたかった延禧洞(ヨンヒドン)にあるZINEを扱う独立系書店「YOUR-MIND」に。オルタナティヴなコミックや写真集、社会問題を扱ったものまで色々とあり、どれも欲しくて迷っちゃう。ダハム君に詳しい内容を解説してもらいながらなんとか数冊選んだ。
なかでも良かったのは『中華屋 – ピアノ調律師の老舗中華料理店探訪記』というコミック + グルメガイド。全国を飛び回りピアノの調律を生業とする男の、仕事終わりの楽しみは中華料理を食べに行くこと――、という、『孤独のグルメ』式のストーリー。日本の中華料理が日本風にアレンジされているように、韓国の中華料理も韓国風になっているのだ。チャヂャンミョン(ジャージャー麺)やチャンポン(日本のチャンポンとは違って辛い)などが有名。と偉そうに書いたけどまだ食べに行けてないので、実在の店が紹介されているこの本を参考に、次こそは巡りたい!
2年ほど前に初めて行って以来、ソウルという街に夢中になり、気が付いたらもう4回目だ。そんな僕のハマりっぷりが、この記事で少しでも伝われば幸い。
韓国の友達にレコードやZINEをプレゼントしてもらったりトレードしたり、一緒にDJしたり酒を呑んだり、音楽や社会について話をするのはとても楽しい。とにかく遊びながらガンガン状況を変えていきたい。いままでもそうしてきたし、これからも続けていく、そう思ってます。
パンス Panparth
https://twitter.com/panparth/ | https://www.instagram.com/panparth/
テキスト・ユニット「T.V.O.D.」の片方。
「百万年書房LIVE!』にて「ポスト・サブカル焼け跡派」連載終了、現在単行本制作中。
東アジアの近現代史とポップカルチャーを追う日々。
DJするのも好きです。