Column | パンスの韓国麺生活、の現状


文・撮影 | パンス

 1ヶ月に3回くらいは新大久保に行っている気がする。平日でも、K-POPに夢中であろう若者たちが歩道を埋めるなかをかき分けて、もっぱらどこかに食べに行っている。韓国料理はもちろん、「延吉香」「千里香」といったお店では中国東北部、延辺地方の料理(中華料理と朝鮮半島の料理がうまくミックスされている)を食べることができるし、“イスラム横丁”と呼ばれる一角では、スパイスをまぶした鶏の串焼きや、ネパール料理を楽しめる。食べ終えたら、これまた若者たちでごったがえしている食料品店に入り、韓国のインスタント・ラーメンをごっそりと購入するのが毎度の流れ。いろいろと買って食べているうちに、自分用メモ的な意味も込めて、TwitterInstagramにレビューを書いて、すでに半年ほど経った。
 日本でもっとも流通しているのは『辛ラーメン』なので、そのキャッチフレーズにもあるように“うまからっ!”というのが韓国ラーメンの一般的なイメージになっていると思うのだが、辛くないものも含め、じつに多様なのである。というか多すぎてまだまだ全貌が把握できていない。今回は主要なレーベル(会社)別に軽い紹介を行なっていきたい。新大久保が遠くても、インターネットで手に入るのでぜひ。

| 三養 삼양 サミャン https://www.samyangfoods.com/

 韓国カルチャーに精通しているkagikko氏と以前インスタント・ラーメンについて話していたなかで、1冊の本を紹介して頂いた。村山俊夫『インスタントラーメンが海を渡った日』(河出書房新社)。
 1963年、韓国初のインスタント・ラーメンとして発売されたのが『三養ラーメン(라면 ラミョン)』。朝鮮戦争後の食糧難の時代に、なんとか国民のお腹を満たす手軽な食品を作るため、全仲潤(チョン・ジュンユン)は日本に向かう。そこで出会ったのが明星食品の社長、奥井清澄。韓国の食料事情を知った彼は、無償で技術提供を行う決断をする。2人が麺談義に夢中になり、友情を深めたやり取りのなかで、奥井清澄のこの言葉を引きたい。「過去にあったことは忘れてはならない。でも、我々が作る未来は今、ここから新しく始まるんじゃないでしょうか」。植民地時代の傷痕も残る、まだ国交がない時代に、個人対個人の想いが通じ合った、こんな民間外交があったのだ。いまこそ心に刻みたい。
 三養ラーメンは現在も定番のひとつ。辛さ、麺の太さなど、ほかのラーメンたちの中庸といった立ち位置。最近、韓国のセブンイレブン限定で発売当時のオリジナル・エディションが発売されているそうなので、どんな味なのか気になっている。また最近では激辛の汁なし麺、『プルダックポックンミョン』シリーズが人気で、新大久保でもたくさん展開されている。混雑する店内で、これ美味しいんだよー、辛いよ〜、と盛り上がっている日本の若者たちを見るたびに、全仲潤と奥井清澄のエピソードを思い出すのであった。

| 農心 농심 ノンシム http://www.nongshim.com/

 1967年にインスタントラーメンの製造を開始。1983年に『安城湯麺(アンソンタンミョン)』、1986年に『辛ラーメン』を発売。以降、韓国国内で主流のメーカーとなっている。日本でもコンビニなどで買える辛ラーメンだが、辛過ぎて食べられないという方には、味は似てるけど比較的マイルドな『安城湯麺』を薦めたい。麺は比較的細く縮れてるタイプ。卵との相性もよい。
 辛ラーメンは手に入りやすいので、いろいろとアレンジを試している。卵とシーチキンを入れて水は少なめ、というのが個人的にはベスト。良い酒のつまみになる。韓国のライフスタイルを紹介しているYouTuber(無数にいる)を参照したところ、スーパーで売っている“牛脂”を投入すると美味さが倍増するという情報も。これはまだ試してないのでやってみたら報告します。
 『ノグリ』もカルディなどに売っているのでご存知の方が多いかもしれない。ノグリとは狸の意。パッケージに狸のキャラクターがいますね。こちらはラーメンではなく“うどん”。濃厚な海鮮味(昆布も添付されている)と辛さ。麺は辛ラーメンを凌ぐモチモチ感。韓国でおなじみの“とうもろこしのひげ茶”を冷やして飲むとよく合うかも。
 韓国独自の麺“チャヂャン麺”のインスタント『チャパゲティ』もあり。甘くて焦げ感のある風味に最初驚くが、気がついたらハマってしまっている。

| 오뚜기 オットゥギ http://www.ottogi.co.kr/

 1969年創業。ロゴもかわいいオットゥギは“だるま”“おきあがりこぼし”という意味。黄色中心のカラーリングで統一感あるパッケージ。
 1981年、韓国初のレトルトカレー『3分カレー』を発売。現在に至るまで親しまれている、甘くて懐かしい味。ほか“ご飯にかけて食べる”ナクチポックム(タコ炒め)などのレトルト食品をたくさん出している。70年代からケチャップやマヨネーズ、マヨネーズも初めて発売するなど、韓国食品業界のイノヴェイター的存在。ごま油もイチ推し。ごま100%とのことで日本のよりハードな香りを楽しむことができる。わが家のごま油はこれが普段使いとなり、キッチンに常備中。
 ラーメンで外せないのは、前回の旅行記でも紹介した『スネクミョン』。“スナック麺”という名前の通り、安くシンプルなラーメン。これは韓国のみならず、世界のインスタント・ラーメンのなかでもトップクラスではないだろうか……。むりやり喩えるならば、サッポロ一番みそラーメンを絶妙にあっさりとさせたような。あと『チャムケ(ごま)ラーメン』も! ごま風味のスープに、卵スープの素的なかやくと辣油を混ぜて食べる。
 『ジンラーメン』やチャンポン麺の『ジンチャンポン』も辛うまい。最近現地でめちゃくちゃ流行っているらしい『牛肉わかめスープラーメン』も、牛骨スープとわかめの組み合わせが新鮮。ノグリ同様に昆布が沿えてあるうどんの『オドントン麺』(オドントンは“ぷりぷり”の意)、スパムなどが入った“プデチゲ(部隊チゲ)”を再現したラーメンなどなど、とにかくリリース量が多い。全体的に農心と比べるとスナック感というか、どこかチープな味わいがあるところに魅力を感じる。

| 八道 팔도 パルド https://www.paldofood.co.kr/

 1969年、韓国と日本の合弁会社、「韓国ヤクルト乳業」として設立。2012年にラーメン部門が分かれて「パルド株式会社」に。夏にぴったりなのが『パルドビビンミョン(ビビン麺)』。麺を湯切りして、りんご味のコチュジャンソースと絡めて食べる。きゅうりとゆで卵を乗せると、日本の冷やし中華のように。ハラペーニョ味で辛さ5倍になった限定バージョンもあり、こちらは何だかシャレたパッケージ。広告を見ると“これはラーメンか爆弾か”と書いてある。
 『トゥムセラーメン』もハード。煮込んでいる時点で目が痛くなるくらいの威力がある。現時点で食べたなかではもっとも辛い(ただし、前回レポートしたソウル・新村のラーメンはさらに上をいっていた)。80年代から明洞にあるラーメン店で出されていた“パルゲトッ(唐辛子 + 卵 + 餅ラーメン)”が基になっている。調べてみるとメニューはその他キムパッ(のり巻き)、ライスの3つで、フリーで取れるたくあんと一緒に食べるようだ。お客さんが感想を書いた紙が壁から天井を埋め尽くしている店内も面白い。勇気を出していつか行ってみたい。

 ざっくりと紹介したけれど、これらのメーカー以外のものや、韓国でしか手に入らないものも含め、まだまだ探究していかなければいけない。そのうち、ディスクガイドのようにジャケ(パッケージ)を載せてジンにまとめたいと思っている。
 台湾に生まれた安藤百福によって開発されたインスタント・ラーメン(その料理法のルーツは台湾にあるという説も)は、日本で定着し、韓国に渡り進化をとげ、韓国での消費量は世界一。さらに海外にも展開され、東南アジアやヨーロッパにも独自のインスタント・ラーメンがある。東アジアから世界に放たれた食文化といってよいだろう。とダイナミックなことを言いつつ、今日もラーメンについて調べ、食べている。おすすめなどあればぜひ紹介してください!

パンス Panparth
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パンステキスト・ユニット「T.V.O.D.」の片方。
「百万年書房LIVE!』にて「ポスト・サブカル焼け跡派」連載終了、現在単行本制作中。
東アジアの近現代史とポップカルチャーを追う日々。
DJするのも好きです。