みんなと同じように変わってきている
いつもバンドという関係性の奇妙さに惹かれる。長い時間を共にする同志、友人という言葉では言い表せない絆で結ばれ、家族のようと形容するにはあまりに繊細で脆弱な関係。ともに同じ絵を描く筆と絵の具でありながら冷酷無情の音楽産業をサバイヴするためのビジネス・パートナーでもある。誰ひとり欠けずに制作、レコーディング、ツアーというルーチンを幾度も繰り返すことが容易ではないことは音楽史が証明している。
撮るものと撮られるものの関係性を色濃く写し出す写真は、局外者が介入しているインタビューや映像よりもバンドの関係性を理解するのに有効な手段であると思う。RADIOHEADを10年間に亘って撮りためた写真集『How To Disappear – A Portrait of Radiohead』を昨年10月に刊行したベーシスト・Colin Greenwoodに話を聞いた。
取材・文 | 小山田米呂 (Homie Homicide) | 2024年12月
通訳 | 原口美穂
Photo ©Colin Greenwood
――どういう経緯でこの写真集を発表するに至ったのでしょうか。写真を撮り始めたときには本にまとめるというアイディアはすでにあったのでしょうか?
「出版をやっている友人がいて、彼からのオファーで始まった企画なんだ。だからこの写真集のために撮り溜めていたわけではないね」
――いつ頃からバンドの写真を撮り始めたのでしょう。
「僕もいつ、なんで写真を撮り始めたのか曖昧だったんだけど、この写真集を作るにあたって思い出せた。2001年頃、自分たちのスタジオを作ったんだ。その頃としては珍しくみんながひとつの場所に集まっている時間がまとまって取れたから撮り始めた。一番最初の写真はそのスタジオの写真だね。その後からツアーや他の場所でも写真を撮るようになったんだ」
――こだわって作られたスタジオだと本書の中でも語られていましたが、美しく居心地の良さそうな場所です。他にもカントリーハウスなどが多い印象です。制作のロケーション選びにはどういう基準があるのでしょうか?
「いい質問だね。プロデューサーのNigel Godrichが選んだんだ。彼はいつも僕らが住んでいるところから離れた場所でレコーディングをしたがる。“17時に帰らなきゃ”とか“子供を迎えに行かなきゃ”とかを考えず、集中するために」
――スタジオにみなさんが集まるときにはアルバムの原型がある状態のことが多いですか?スタジオやカントリーハウスでの作業の中で成形される?
「Nigelはプランを立てておいてほしいタイプだから、だいたい作ってからスタジオに入ることが多いね。80%作っておいて、20%をスタジオで仕上げる感じ。でも、演奏してみたらうまくいかないこともあるから、一からやり直すこともあるね」
――スタジオには他にどういうメンバーが集まってくるのでしょう?
「アシスタントのエンジニアやスタッフもいたりするけど、基本的にはNigelと僕らだけだね。Stanley(Donwood | RADIOHEADのアートワークを手がける芸術家)はレコーディングのときにジョインする感じ。彼が立ち会ってくれることによって音楽とアートの素晴らしいコンビネーションが生まれていると思う」
――p67にStanley Donwoodが写っていますね。
「『Hail to the Thief』(2003)のジャケットを描いてくれているね。僕もこの写真は好きだよ。いろんなことが起こっていて。あと新幹線の写真が大好きなんだ。たしか1998年に日本に行ったとき、雪がすごくて長野で新幹線が止まったことがあって。同じ電車に乗っていたファンと雪合戦をしたんだ!」
――本著の中でもそのエピソードに言及されてましたね。いい思い出ですね!写真は日常的に撮られますか?
「今は実は撮りたいものがなくて、あまり撮っていないんだよね。何かオススメがあったら嬉しいな(笑)。来年くらいから自然とかを撮れたらな、って思っているけどね」
――やはりポートレイトが好き?
「フレームの中にたくさんの情報が詰まっている状態が好きだから、今回の写真集はランドスケープの写真も多いよ。ポートレイトも好きだけど、僕はカメラに関してすごくシャイだから被写体に近付くのが得意じゃないんだ。レンズでどうにかごまかすことはできるかもしれないけど、近付いて撮るっていうのは僕にとって恥ずかしいんだよね(笑)」
――被写体との距離感にユニークさを感じます。本書にもカメラに関してシャイだと書かれていましたが、それは撮る相手によっても変わる?p69とp70のJonnyの写真はとても親密に感じました。
「そうだね。もちろん彼は兄弟だし、RADIOHEADの写真集じゃなくてJonny Greenwoodの写真集を作ればよかったと思うくらい彼の写真がたくさんあるよ。シャイになってしまうのはシチュエーションも影響があると思う。例えばコンサートのときは忙しいし、みんなが準備している中で時間を取らせるのが申し訳なく感じるから撮りにくかったりね。Charlotte Cotton(キュレーター)も言っていたけど、その写真を5秒見ていてもそれ以上のものが伝わってくるような、感じ取れるような写真があると思うんだ。今回はそういう写真を選んだよ」
――文章も魅力的でした、レディオヘッド回顧録的な一面もあると思います。刺激的な体験ではなく、ツアーや制作の間の出来事を精細に書かれているように感じました。ご自身が語りたくなるエピソードにはどういう共通点があると思いますか?
「我々RADIOHEADについてとても重要な出来事を選んで書いたんだ。初めてのレコーディングや、R.E.Mと一緒にやった最初の大きなツアーだったり。その写真から連想した出来事や、写っている出来事を全て知っているのは僕自身だから、語り手としてみなさんに伝えるのが僕の仕事だと思っている。この本は、オックスフォードの小さな村でプレイしていた5人のイギリス人が、どのようにして世界で活動するようになったかというのが大まかなストーリーだね」
――ColinさんのRADIOHEAD以外の活動についても伺いたいです。Nick Caveとのツアーはどういう経緯で実現したのでしょう?以前から交流があった?
「僕らはマネージャーが一緒なんだ。過去にも一緒にプレイしたことがあって、前回のアルバムにも数曲参加したんだ。BAD SEEDSのベーシスト(Martyn P. Casey)が病欠して、代わりにヨーロッパ・ツアーも回ったこともあって、彼からのオファーでピアノとベースでのツアーが実現した感じだね。でも長い付き合いっていうわけではないんだ、1990年代から好きで聴いてはいたけど、2017年にベルギーでBAD SEEDSを観たのがはじめましてだったと思う。近年の曲は暗くてあまり聴いていなかったけど(笑)。質問なんだけど、日本でもNick Caveは人気?」
――もちろん有名だと思いますよ。
「彼はとてもいい人で頭もいいんだ、ぜひNick Cave in Japanを実現させてほしいね」
――最後に、2003年から2016年はみなさん子育てなどライフステージも大きく変わった10数年だったと思います。制作への向き合いかたやツアーのやりかたなど、変化はありましたか?
「そうだね。マネージャーも言っていたんだけど、バンドっていうのは最初は同じ方向に進んでいくし、やりたいことだったり好きなことも近いけど、歳を重ねてみんな別の人に出会い、パートナーができたり子供ができたりしていつの間にか違うことを望むようになって、それぞれのストーリーを生き始めるから、まとめるのがすごく大変になってくる。それがきっかけで解散してしまったりっていうのはよくあることだしね。僕らもライフステージに応じて変わってきているんだと思う。でもそれはミュージシャンであるかにかかわらないんだ。みんなと同じように変わってきているんだと思うよ。今日はありがとう!興味を持ってくれてとても感謝しているよ!ハッピー・クリスマス!」
RADIOHEAD Official Site | https://www.radiohead.com/
■ 2024年10月15日(火)発売
Colin Greenwood
『How To Disappear – A Portrait of Radiohead』
全136ページのイラスト入りハードカバー。そのほとんどがこれまで未公開である97枚に及ぶレディオヘッドの舞台裏写真、及びレディオヘッドとしての生活についての一万語の私的なエッセイが収録されています。
レディオヘッドのベーシストであり、写真家、作家としても活躍するコリン・グリーンウッドが20年の歳月をかけて完成させた初の写真集である本書では、21世紀で最も影響力のあるバンドであり、音楽の世界を支配し歪めながら、その幅を大きく広げた「奇才集団」の真髄へと私たちを誘います。
ステージ上、舞台裏、リハーサルルーム、ツアー中の様子、仕事やプライベートまでもをとらえたコリン撮影の写真と、それに紐づく物語や記憶は、「喜びと疑い、自信と不確実性の間で常に揺れ動いていた」というバンド活動中期における、日常的なレディオヘッドの様子が垣間見えるポートレートとなっています。「ここ数年、私はレディオヘッドを隠し撮りしています。私の小さな黒いYashica T4 Superで友人たちを記録し続けています。ステージやリハーサルスタジオでは、彼らはパフォーマンスに没頭していて、私がカメラを持っていることには気が付きません」
[W.A.S.T.E. Store Japan Powered by Wonder4U]
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[通常版]
税込6,900円
136頁 | 600g | 197 x 237 x 18.5mm
| 高品質のガルダパット・キアラFSC紙(135gsm)にプリント。
| 表紙はCialux社製リアルクロス1色刷り(ブラック)、表裏に白の箔押し。
| ハーフジャケットは150gsmコートFSC紙、グロスラミネート、2色刷り(ブラック | PANTONE#7655C)。
https://waste.wonder4u.jp/products/colin-greenwood-how-to-disappear-standard-edition-was
[限定版]
税込14,900円
136頁 | 1.2kg | 208 x 245 x 20.5mm
| 高品質のガルダパット・キアラFSC紙(135gsm)にプリント。
| 表紙はCialux社製リアルクロス1色刷り(ブラック)、表裏に白の箔押し。
| ハーフジャケットは150gsmコートFSC紙、グロスラミネート、2色刷り(ブラック | PANTONE#7655C)。
| 著者直筆サイン入り。
| 限定のコリン撮影による写真集『light show』(全32頁)付属。
| コリンによるエッセイの日本語訳ダウンロードコード付き。
| Cialux社製、布装丁ブックケース入り。
https://waste.wonder4u.jp/products/colin-greenwood-how-to-disappear-limited-edition-was