文・写真 | 相谷レイナ
ある火曜日の18:50。何だか味気ない一人暮らしの部屋を飾ろうと、徐に向かった立川IKEAの帰り道。吉祥寺駅から徒歩6分ほどのところにあるのは「喫茶ロゼ」。
椅子からはみでるくらい大きなラジカセから流れるラジオのニュースに耳を傾ける。そろそろ初雪の季節みたいだ。小さい頃に愛用していたキティちゃんが描かれたピンク色のラジカセは今頃どこにあるんだろう、なんて奈良の実家に想いを馳せる。早いもので、上京して2ヶ月が経った。
最近は“11月毎週リリース”という名のもと、毎週水曜日にシングルを配信リリースしている。させていただいている。緊急事態宣言が出てSTAY HOME。実家から出られなかった期間に作って、書いて、ときにはトラックをいただいて歌詞をつけて。そんな大切な曲たちが毎週水曜日に世に放たれてる!放っていただいてる!ひとりでは勿論できないことだから、関わってくださっている皆さんには感謝しかありません。
誰かから見ると亀みたいなスロウな歩みかもしれないけれど、それでも私は必死に毎日を“東京”という慣れない街で生きている。
事前に写真で見ていたよりもこじんまりとしたアットホームな店内には温かさが空気に宿っている。ご夫婦で営まれていて、まるでおばあちゃん家に来たかのような感覚に陥る。「東急百貨店おっきい……」「吉祥寺サンロードはもうほぼ心斎橋商店街やん……」と想像以上に都会の街だった“吉祥寺”にて、オアシスを見つけてしまった。
“ロゼランチ(全時間)”なんて言葉からもご夫婦の人柄の良さが滲み出ている(父が商売人の私は思う。ランチが全時間帯大丈夫なんて採算は大丈夫なのですか?と)。A4サイズのメニュー表にびっしりと並べられた、喫茶店ながらも豊富なフード・メニュー。事前の調べによると、ご主人がもともとレストランの料理人だったという噂(人見知りが発動してご主人とはお話しできなかった)。いずれにせよ自家製ハンバーグ、絶品でした。まだまだお子様な私はチーズをトッピングしてしまいました。
箸を通すと肉汁が溢れ出る。なのに油っぽくない。こってりしていない。ケチャップがほのかに香るオリジナルのデミグラスソースがこれまた最高。「少しお腹にずっしり来始めた……」なんて瞬間には胡瓜のお漬物が舌触りをさっぱりしてくれる。“無限くら寿司”なんて言葉が悪い意味でSNSで流行っているが、こちとら「無限ハンバーグ(良い意味)やわ。。」なんてしょうもないことを考えてしまうほどに美味しい。
ふと気付く。「東京に来てから初めてデミグラスソースを食べた!」。こうして知らない間に“食べてなくなってしまったもの”が年々、日に日に増えているのかと思うと、ひとりで食事してばかりもよくないな、と感じた。時には「同じので!」に身を任せて、自分では選ばない食べ物も摂らないと(デミグラスソースはもちろん大好きです。自分で選んでますしね。ただダイエットを始めて少しの期間食べていなかっただけです。またハマりそうです)。
食後にはセットのアイスコーヒーが運ばれてくる。普段ブラック派な私でも「旨苦!」と感じてしまうほどビターなアイスコーヒー。これには“ツロップ”が必要だ。ツロップと少しのフレッシュを溶かしてみる。本当に美味しい。旨苦だからこそ作れるすっきりとした甘みのアイスコーヒーに早変わり。癖になりそう。
突然、「どうして私が喫茶店を好きなのか」わかった気がした。きっとそれは「格好つけてない」から。「格好つけてない」は格好いい。いつしかそんな風に思うようになった。「格好つけてない」のに何かが滲み出ているモノ・人は本当に魅力的だ。惹かれてしまうほどに。「格好良くなろう!」「可愛くなりたい!」「綺麗になりたい!」そんな人はとても愛おしい。「友達になりたいです!」と強く思う。写真を撮ってSNSに載せて皆んなに見せびらかしたいとも思う。「格好つけてない」は常に側に置いておきたい。誰にも知らせずにそっと側にいて欲しい。通いたいお店は「格好つけてない」お店だなア、と喫茶店『ロゼ』に流れる肩肘張らない独特の温かい空気を肌で感じて思った。
帰り際、「インターネットで喫茶店のご飯を紹介する連載をやっておりまして、こちらのお店について書かせていただいいても良いでしょうか?」とご婦人に聞くと「あらぁ。そんなことをしてくださるの?ありがとうございます」とご快諾いただけた。その流れで「私がシンガー・ソングライターをしていること」や「最近東京に来たこと」なんかをお話しすると、昔は「吉祥寺の逆側に店舗があったこと」「当時の時代劇の名優さんに愛されていたこと」「素敵なお色だけどどこのマスクをされてるの?」(「ユニクロのエアリズムです」と返事をする)、「素敵なお洋服ねえ」なんて他愛のない立ち話を15分ほどしてくださった。勿論、ソーシャルディスタンス with マスクでの出来事。チーズのみならず人情もトッピングしてもらった。なんて全然上手くは言えていなくて恥ずかしいけれど、今後このお店にわたしは通うんだろうな。純粋にそう思った。
時計は20:45を指している。気づけば約1時間も滞在してしまった。この感じもおばあちゃん家に遊びに行ったときと似ている。ただ顔を見に行くだけなのに2、3時間ゆっくりしてしまう。あの感覚。
毎日21:00まで営業しているそう。奥さん曰く、「緊急事態宣言でたっぷり休んだからもう最近は毎日開けてるのよ」。だから不定休という名の定休日なしの営業。「遅い時間まで毎日お疲れ様です。温かい時間をありがとうございました」と私は今後通い詰めるであろう喫茶「ロゼ」を後にする。想像していた5倍ほどの灯りがともる“吉祥寺”の街を後にする。なんだか良い1日を過ごせた気がした。
最後に少し私自身の話を。前述した通り、私は今“11月毎週リリース”の真っ只中。担当スタッフさんが以前と比べて急増したSpotifyの視聴回数のグラフを送ってくれた。大前提として「以前があまりにも聴かれていなかった」というのはあるが、それでも「前に進めている感覚」を忘れたくないし大切にしたい、と思った(皆さん是非“相谷レイナ”と検索して聴いてみてくださいね)。
そして、昨晩鑑賞した又吉直樹さん原作の映画『劇場』をまだ引きずっている。人は同じ状況が続きすぎて、進めないと捻くれてしまう。そんな人間の生々しい部分が描かれていて、少し怖くなった(勿論めちゃくちゃに良い映画で、誰にも見せずにひとりでこっそり付け続けている映画鑑賞記録アプリでは星4.8をつけた)。捻くれるのは怖い。大人になってから捻くれるのはもっと怖い。人から見えているその人の状況と、その人が感じる自分自身の状況が同じわけがない。「お前は自分に才能があると信じているのか。ところで、人から才能がないと見られているのはわかっているか」主人公の“相棒的存在の友人”からの言葉が辛辣だった。それでも創造を続ける主人公を見て、自分次第で人生のシナリオを描けることはとても素晴らしくて、同時に恐ろしいことだと感じた。
何が言いたいのかというと、「まだまだ頑張らせてください、頑張るので見ていてください、見えていないところでも必死にもがくから作品ができたら届けさせてください。それが少しでもあなたの人生を彩ってくれたら……なんてことに小さな希望を抱いて、私は音楽との東京生活を続けます。あまりにも捻くれすぎないように。できていないことと同じくらい、できていることにも目を向けてみよう、そんな変化が今月はありました」ということ。
やっぱり上手くまとまらなかったですが、こうして最後まで読んでくださって、今月もありがとうございました!^ ^素敵な喫茶店がありましたら是非教えてください。にこり。
〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-14-1 2F
11:00-21:00
無休 (年末年始等除く)
※ 営業時間は変更となる場合があります。
Twitter | Instagram
Official Site @YOSHIMOTO MUSIC | http://yoshimoto-me.co.jp/artist/aitanireina/
よしもとミュージック所属のシンガー・ソングライター、相谷レイナです。好きな寿司ネタはトロたくです。2020年に上京しまして、東京にフィッティング・インすべく試運転中です。お気に入りのお店をレビューしていきます(マンスリー寄稿)。
■ 2020年11月18日(水)発売
相谷レイナ
『Time』
https://linktr.ee/rainfo