Column「たまちゃんのバイクパッキング紀行」


文・写真 | 玉田伸太郎

北海道編 1

 2023年に自転車で旅をした。6日かけて神奈川・鎌倉から三重・伊勢まで。野営をしながら時には人の助けを借り移動した。本業は映像制作であり、趣味もインドアだった自分には大きな変化だった。
 
 なぜ自転車で旅をしようと思ったのか。その頃、初めて仕事が半年なくなって、悩んでいた。人に会わないと忘れられて行くような感覚も毎日怖かった。ちょうど、伊勢のインタラクティヴ・スペース「2NICHYOUME PARADAISE」のマサイさん(正井新吾)のお誘いで、現地でワーケーションをする約束があった。新しいことを始めるタイミングかもしれないし、運動をしていない一般人が400kmも自転車で移動するなんておもしろいと思い、自転車で伊勢へ行ってみよう思った。

 その旅がきっかけとなり、時間があるときは山へ行ったり、走ったり、アウトドアに時間を割くようになった。その頃、早々に疲れて集中力が切れ、思うように仕事を遂行できない悩みもあったが、基礎体力をつけることでその予防になることにも気づいた。

 今度は北海道に行くタイミングができた。浦川の高村牧場から仕事の依頼。ここは寺尾紗穂さんが繋げてくれた縁で、以前「まきばのうた」のMV(2024)を撮りに行ってから仲良くしてもらっている。高村牧場のかたに「家から自転車で行きます」と伝えると、「楽しそう!」と喜んでくれた。

 なぜ自転車で行くのかと聞かれると、伊勢へ行くときに鎌倉にアトリエ兼店舗を構えるK TEAMの阿部くん(阿部隆太)にわざわざオーダーメイドで作ってもらったバイクパッキング・セットを、これからたくさん乗ってどんどん広めていくよ!と言って早2年……。感謝の気持ちを、ボロボロになるまで使って伝えたい。そして歩くよりは辿り着くイメージがある(言葉の出なさに乾杯)。阿部くんには2年越しのフィードバックをして、少し改造してもらった。

 北海道まで仕事しに行く旅。言い換えれば通勤。今回の計画は、
高速バスで水戸へ

自転車で大洗へ

フェリーに乗船

苫小牧に到着

自転車で浦川へ。
合計4日間を使う計画だ。

2025年5月13日 | 1日目

 朝、浦川で使う予定の撮影機材をクロネコヤマトに持って行く。今回は移動に使わない道具は送ることにした(15kgもあった)。昼頃に交通機関を利用して水戸に到着した。ちなみにそのとき、自転車を載せられない交通機関もあることを知る。困っていると、親切な助言をもらってなんとか事なきを得たが、一時はもう“終わった”とひやひやした。事前に調べてもわからなかったが、現場に着いてからわかることはよくあるので、何通りか選択肢を考えておくといいと思った。

 ロータリーの端で自転車を組み立てる。ここから大洗まで12kmで自転車の調整をしながら進む予定。パッキングをした状態で自転車を組み立てるのはこのときが初めてだったので、全てが終わるのに1時間くらいかかった。

Photo ©玉田伸太郎

Photo ©玉田伸太郎

 まだ何も食べていなかったが、自転車を置いておくのが不安だし、せっかくこれから港に行くなら海鮮を食べたいよね、という気持ちで水戸から離れることにした。大洗までの道のりは向かい風と自転車の感覚がつかめずに、たった12kmなのに、途中で寄ったコンビニで座り込んでしまった。コンビニで座り込んで休む感じがかっこいいと思い自撮りしていたら、飲み物もこぼし、チョコはべっとりついた。ナビは一番きつい坂を行けと言うし、ギアの調子も悪い。苫小牧で一度自転車を見てもらおうと決めた。

Photo ©玉田伸太郎

Photo ©玉田伸太郎

 大洗に到着。食事を取る。ここまでの楽しくなさが食事に乗って、2,000円の刺身定食に騙されているような気持ちになる。停めておいた自転車が盗まれたら嫌だと思い、食べてすぐに店を出た。味の記憶がない。

 道中に道の駅もあったので、数日お世話になる牧場へお土産を買う。フェリーの風呂上がりに飲もうと、コーラとドクターペッパーも買った。出発前にまた荷物が増えた。何かあったときのために持ってきた予備のリュックをすでに背負っている。前回もそうだった。

Photo ©玉田伸太郎

Photo ©玉田伸太郎

Photo ©玉田伸太郎

 夕方になってフェリーに乗船。ここから17時間、船で過ごす。到着は翌日の13時だ。フェリーの中は快適。郊外の公共施設のような雰囲気で味気ない感じが妙に落ち着く。コンフォートというランクの寝室で、カプセルホテルと同じような空間。テレビも付いている。

Photo ©玉田伸太郎

Photo ©玉田伸太郎

 売店も食堂も風呂もあり、楽しみ倒しにきているから忙しい。デッキで夕日を見ると風呂に入れない。夕日を追いかけすぎると食事に間に合わない。食事をゆっくりしていると風呂が終わる。一瞬だけ通じる電波を逃さない。数分後の自分が何をするかわからないので船内ではすべての荷物をもって動き回る技を習得した。

Photo ©玉田伸太郎

Photo ©玉田伸太郎

Photo ©玉田伸太郎

 夕食はバイキング。港で食事をしてから時間が経っていなかったので1周でお腹いっぱいになったが、人の盛り付けを見て「それでお腹いっぱいになるだろ」とか「その手があったか」など、頭の中で喋っていると楽しい。ひとりで食べるバイキングはそっけないが楽しみかたはたくさんあった。

Photo ©玉田伸太郎

Photo ©玉田伸太郎

 風呂も広くて快適。大きな窓があり、月に照らされ高速で流れていく波が見える。それ以外は真っ暗。裸でいるのが時々怖くなるがそれも楽しい。飛行機より時間はかかるが自転車よりは速い。とにかくフェリーは楽しい。この日は結局、興奮して3時くらいまで起きていた。

Photo ©玉田伸太郎

Photo ©玉田伸太郎

Photo ©玉田伸太郎

北海道編 2へつづく……

Photo ©玉田伸太郎玉田伸太郎
Instagram | Official Site

Videographer。1983年生まれ。2009年、多摩美術大学院 絵画専攻版画研究領域修了。2011年、東京・高円寺 ASOKOに参加。2014年、本格的な映像制作を始める。VJ、MV、CM、ドキュメンタリーなど幅広く活動中。