“良い曲”ってなんだろう、どんな歌を聴きたいんだろう
取材・文 | 村尾泰郎 | 2024年3月
Main Photo ©渡邉光平 (Schuwa Schuwa)
――おふたりはどんな風に出会ってsorayaを結成されたのでしょうか。
T 「大学時代に一度セッションをしたことがあったんです。そのとき、紅奈はまだ歌っていなくて、ベーシストとして参加していました。同い歳だし、ジャズのコミュニティは狭いので、お互いに名前は知っていたんですよね。そのあと、僕はバークリー音楽大学に留学してボストンで暮らしていたんですけど、YouTubeで紅奈がはっぴいえんどの“風をあつめて”を歌っている動画を観たんです。その歌が当時の僕の気持ちにすごくマッチして印象に残ったんです」
――当時はどんな状況だったのですか?
T 「バークリーを卒業して働き始めてすぐにパンデミックが起こって、外に出られなくなったんです。仕事も全部飛んでしまい、ずっと家にいました。それまでは複雑でエネルギッシュな音楽を聴いたり、演奏したりしていたんですけど、そういう音楽に疲れてしまって、温かみがある歌に惹かれるようになったんです。例えば、Carole KingやJames Taylor、矢野顕子さん、大貫妙子さんとか。そんなときに紅奈が歌う“風をあつめて”を聴いたんです」
――それは胸に響きますね。
T 「紅奈が歌っていることを知らなかったのでびっくりしつつも、その歌声に惹かれたんです」
――石川さんはどういう経緯で歌おうと思われたのでしょうか。
I 「コロナ禍が大きなきっかけです。私もコロナの影響で仕事がなくなってしまって、家にいる時間が多くなったんです。それで自分のルーツに改めて向き合ってみようと思って、いろいろ聴き直している中でStevie WonderとかMinnie Ripertonとか、ソウル・ミュージックが好きだということを改めて感じたんです。ライヴの機会が減り、演奏を動画で投稿するミュージシャンが増えていた頃、壷阪くんも“港にて”というシングルをデジタル・リリースしたんですけど、それが細野(晴臣)さんからの影響を感じさせる曲で、“こういう音楽もやるんだ!”って驚いて。私も練習のモチベーションにしたいと思って、歌った動画を公開してみたんです」
――ジャズではなく、はっぴいえんどや細野さんの歌がふたりを結びつけたんですね。しかも、お互いが、偶然、相手の作品を見つけて興味を持った。運命的なものを感じさせます。
T 「そうですね。お互いに連絡を取り合っていたわけではないのに、同じようなことを感じていたんだと思います。それで僕が日本に帰ってきて、初めてライヴをやったときに紅奈が観に来てくれて、いろいろ話をしたんです。それがsorayaを結成するきっかけになりました」
I 「メッセージを通じて“一緒にやらないか”って誘ってくれたんですけど、嬉しかったですね。“港にて”を聴いて以来、SNSで壷阪くんを追いかけていましたから」
――sorayaとして最初に作った曲は?
T 「最初のシングル曲“ひとり”です。どんな音楽がやりたいのか、ふたりで話をしながら作りました」
――作曲は壷阪さんですが、ドラムがタイトなビートを刻んで石川さんのルーツであるソウル・ミュージックからの影響を感じさせますね。
T 「僕もソウル・ミュージックはとっても好きで、Minnie Ripertonの“ミニーの楽園(Adventures In Paradise)”(1975)に影響を受けました。僕らは音楽のスタイルで曲作りをするわけではなく、まずは自分たちの考える“良い曲”ってなんだろう、どんな歌を自分たちは聴きたいんだろうという思いから制作を始めています。もし良いメロディ、ハーモニー、リズムで心に残る曲が書ければ、どんなアレンジや編成にも対応できると思うので」
――たしかにそうですね。石川さんはどんなイメージで歌詞を書かれたのでしょうか。
I 「生まれて初めて書いた歌詞なんです。壷阪くんからメロディとリズムを打ち込んだ音源が送られてきて、それを聴いたときに海と運河とか雄大な自然を感じたんです。そのイメージを基にして、強いメロディにはまる言葉を考えていきました」
――作詞は主に石川さんが担当していますが、2ndシングル曲「BAKU」は悪夢を食べる想像の生き物、獏(バク)が登場する童話っぽい世界ですね。
I 「この曲は獏のワークソングを書きたいと思って、まず短いお話を壷阪くんに送ったんです。その物語からイメージを広げて曲を作ってくれました」
T 「獏が夢から夢へと飛び移って夜通し働くという話なんです。夢をバクバク食べる。そのリズムを考えている時にアフリカのピグミー族の音楽を思い出しました。あと、その頃Maestroの『Rhythm King』っていうリズム・マシーンを使った坂本慎太郎さんの音源にはまっていたので、打ち込みも入れて。さらにアコースティックな雰囲気を出すためにパーカッションをオーヴァーダブで加えたりもしたんです。曲の中でキューバンだったり、ブラジリアンだったり、さらにピグミー族のアイディアが入ってきたりといろんなスタイルを織り交ぜながら全体的なバランスを調整していきました。こんな風にサウンドが広がっていったのは、紅奈の歌詞が持っているイマジネーションのおかげだと思います」
――途中でラップになったりもして、いろんな仕掛けがある楽しい曲ですね。
T 「そうなんです。イントロで目覚ましが鳴って獏が起きる。そして、夜通し働いて朝になり、曲終わりにまた目覚ましが鳴って今度は僕たちが起きるんです(笑)。この曲には絵本みたいなイメージがあって、シングルのジャケットは絵本作家の桃戸栗子さんにお願いしました。童話や絵本の持っている茶目っ気と僕らの音楽的バックグラウンドを組みわせた曲を作りたいと思いました」
――「ゆうとぴあ」は壷阪さんの「港にて」に通じる無国籍感がある曲ですね。ストリングスやマリンバの味付けがエキゾチックなムードを醸し出しています。
T 「もう一度エキゾチカの曲をやろうと思ったとき、細野さんからスタートするのではなく、(細野さんが刺激を受けた)Martin Dennyとか、ボレロやムード音楽に遡ってsorayaとしてどんな音楽にするべきかを考えました。歴史を遡って当時の音楽を勉強していく中で、自分のスタイルを見つけ出す。それって、ジャズ・ミュージシャンがよくやるアプローチなんです」
――おふたりのジャズのバックグラウンドがストレートに出ているのが「耳を澄ませて」で、心地よくスウィングしながら親しみやすいポップ・ソングに仕上がっています。
T 「ジャズというと一般的にロマンティックとかムーディみたいなイメージもあると思うんですけど、僕らはそんな風には感じていなくて。良いジャズを聴いたときは、とても温かい気持ちになって心に染みる。それは良いポップスを聴いたときと同じなんです。例えばCarole Kingの“Music”っていう曲は、スウィングしているけどジャズという“スタイル”を演奏しているようには全く感じさせない。まさにCarole Kingの音楽なんですよね。それがすごく印象的で。そういう曲にチャレンジしたくて、この曲を作りました」
I 「私も壷阪くんと同じように感じていて。Joni Mitchellの曲も、Jaco Pastoriusが参加したりしてジャズを取り入れているけど、歌がしっかり伝わってくる。演奏する人のエネルギーが伝わってきて温かなものを感じるんです」
――アコースティックなサウンドでカヴァーした「愛のしるし」を聴くと、sorayaがジャズやポップスというジャンルを超えて、音楽から“温かなもの”を見出そうとしていることが伝わってきます。
T 「ありがとうございます。この曲は、まずPUFFYさんのヴァージョンが思い浮かぶと思うんですよね。ティンパニの響きが印象的なアレンジはスタイリッシュで格好いいんですけど、草野マサムネさんが書いたメロディを純粋に取り出していろんな角度から見ると、こんなに味わい深い曲はないと思ったんです。sorayaが目指す歌に合っているんじゃないかと思って」
I 「この曲は壷阪くんが選曲してくれたんですけど、何度も聴いているうちに、こんなに温かな気持ちになる曲だったんだって再発見しました。壷阪くんのアレンジが、その温かさを引き出していて、スッと心に入ってくるんですよね。そんな原曲の魅力を伝えるように歌おうと思いました」
――そういう温かさが伝えられるのは、石川さんの歌声の力も大きいと思います。壷阪さんが初めてYouTubeで石川さんの歌声を聴いた時に感じた魅力が、sorayaの音楽のベースになっているのでしょうか。
T 「歌詞やメロディがまっすぐに入ってくる紅奈の歌声は、sorayaの音楽を表現する上で欠かせない質感そのものです。パンデミックのときに彼女の歌を聴いて感じた“歌って素晴らしいな”という気持ち。それがsorayaの根底にあるので、紅奈の歌声はとても重要なんです」
I 「sorayaで歌うようになってから“伝えたい”という思いが強くなりました。自分たちで書いた歌詞を歌う、ということも、気持ちの変化の理由のひとつだと思います」
――石川さんは昨年メジャー・デビューされたばかりですが、壷阪さんもソロ活動をしていて、sorayaの活動も並行することでより音楽性が広がりそうですね。
I 「それぞれの活動で得たものを、sorayaに持ち寄って影響を与え合っていければいいな、と思います」
T 「紅奈の歌声もアルバムを作っている間に変化しているんです。でも、アルバムを作っていて不思議だったのは、お互い別々に活動してきたのに共感するところがたくさんあったことです。“こういう音があったらいいな”と思っていると、それが同じだったりする。お互い自分にはないアイディアに刺激されながらも同じ方向を見ている。そういう頼もしい関係を続けながらsorayaとしても変化していきたいですね」
■ 2024年3月13日(水)発売
soraya
『soraya』
CD DDCB-13056 3,000円 + 税
https://ssm.lnk.to/soraya
[収録曲]
01. ひとり
02. 風の中で
03. ルーシー
04. ゆうとぴあ
05. BAKU
06. ちいさくさよならを
07. レコード
08. 耳を澄ませて
09. 愛のしるし
■ soraya 1st Alubum Release Live
ゆうとぴあは そこに
2024年3月29日(金)
東京 鶯谷 東京キネマ倶楽部
開場 19:00 / 開演 19:30
指定席 / 親子席 5,000円(税込 / 別途ドリンク代)
e+
※ 指定席は4枚まで。
※ 親子席は1枚まで。1枚につき中学生以下のお子様1名同伴可能。チケット本券1枚につき副券が1枚付きます。
※ 学生キャッシュバックあり。当日「学生受付」にて1,000円キャッシュバック対応いたします。小学生は公的身分証、中学生以上は顔写真付き学生証の確認をさせていただきますので、必ずご持参いただくようお願いいたします(有効期限内のものに限る)。
※ キャッシュバックは当日ご来場いただいた方に限ります。
※ 4歳以上チケット必要。3歳以下でもお席が必要な場合はチケットが必要。