文・写真 | sunny sappa
こんにちは。お久しぶり、気がついたら5月になっていました……。さて今月は、かねてから楽しみにしていた『サブスタンス』をピックアップしてみましたよ。各映画祭でも絶賛され、話題になっていましたね。わたくし公開初日にノリノリで観てまいりました!あらすじざっくり↓
元トップ人気女優エリザベスは、50歳を超え、容姿の衰えと、それによる仕事の減少から、ある新しい再生医療<サブスタンス>に手を出した。
接種するや、エリザベスの背を破り脱皮するかの如く現れたのは若く美しい、“エリザベス”の上位互換“スー”。抜群のルックスと、エリザベスの経験を持つ新たなスターの登場に色めき立つテレビ業界。スーは一足飛びに、スターダムへと駆け上がる。
一つの精神をシェアする存在であるエリザベスとスーは、それぞれの生命とコンディションを維持するために、一週毎に入れ替わらなければならないのだが、スーがタイムシェアリングのルールを破りはじめ―。
――オフィシャル・サイトより
主人公は50歳の設定だからほぼ同世代じゃん。ってことでわかるわなー。ある一定の年齢になるといきなり自己肯定感がガタ落ちしてしまう感覚。見た目を売りにする芸能人ならともかく、一般人の私ですら加齢による容姿の衰えを感じる瞬間、それは本当にショッキングなものなのですよ。もちろん自分で鏡を見て皺や白髪に気づくのもそうだけど、人の態度や言動(とりわけ男性に多い)で思い知らされるとショックを通り越して本当にムカつく!誰でも歳は取るのにさ!!
加えて昨今は年齢や性別問わず、SNSや韓国アイドルブームなどで以前より加速して完璧な容姿を求める風潮が強まっている気がします。整形の技術進歩や美容医療なんかを手軽にできる背景もあるしね。大切なのは中身だと頭ではわかっていても、開き直ってるつもりでいても、世間の求める“定型の美”の概念を振り払うのはなかなか難しい……。そんな私たちの生きにくさ、違和感に対する不安や憤りを代弁してくれるかのように登場したこの映画は、若さや見た目を重視する、いわゆる“ルッキズム”や“エイジズム”を痛快に風刺しています。わーい、よくぞやってくれたー!
ここ10年くらいの流れとして、社会的なテーマとジャンル映画を融合したニューウェイヴで個性的な作品が続々と出てきているのは興味深いですよね。資金面でのハードル低さもありそうだし、真面目な映画よりホラーのほうが多くの人が観るから、プロバガンダ的な着眼点でも実は合点がいく気がします。
コラリー・ファルジャさんは名門校で政治学を学んだ経歴を持つ女性監督。フェミニズムの思想やメッセージをホラー / ジャンル映画として表現するスタイルが持ち味……というと同じくフランス出身のジュリア・デクルノー監督(『TITANE / チタン』2021, 『RAW 少女のめざめ』2017) を引き合いに出さずにはいられないのですが、フェティッシュで特異な要素の多いデクルノー監督と比較するとより物語がシンプルでテーマも明解なイメージ。エンタメ性も強いです。
長編デビューの前作『リベンジ』(2018)では、尊厳を奪われた立場の弱い女性がサヴァイヴァルを経て覚醒し、成長しながら血みどろの展開で男たちに復讐を課す……という、どストレートな内容ながら、無意識にある女性への偏見を用いて示唆に富んだ設計が見事でした。そして限られたシチュエーションと少ない登場人物で、セリフに頼らず、ちゃんと脚本と映像でおもしろく組み立てていくテクニック、象徴的な色使いで見せる美しく力強い画力はこの時点ですでに確立されていますね!
そんな前作の要素も引き継ぎつつ、本作『サブスタンス』が多方面で高く評価され、傑作として特出している理由はなんと言ってもデミ・ムーアの存在が大きいでしょう!エリザベスのキャラとシンクロするかのように、一世を風靡した若い頃はアイドル女優として消費され、その後子育てのため第一線から退き、半ば忘れられた存在になりつつあった62歳(!)のデミ・ムーアにこんなかっちょいいカムバックのときが来るなんて誰が予想しただろうか、てか本人もびっくりじゃない?! 彼女がこの役を引き受けたことで、もう作品のメッセージがより強烈なものとして我々に響いてくるわけですよ。もちろん、ある意味一線を越えた体当たりの演技もそうですが、ありのままの自分を画面上に晒す = 受け入れる勇気。メディアの影響力が時代の価値観や世論を形成するという意味でもこの映画は革命的な意図をもつカウンターとして本当にうまくできているんだな。
さて、ストーリーについて、この場でのネタバレは避けますが、後半は開いた口が塞がらないくらいとんでもない展開になっていきます(笑)。あ、ちなみに個人的な見解ですが、グロ描写が苦手な人でもギリ許容範囲な気がしますよ。まあ、とにかく、誇張しまくった過激な表現こそが本作の肝なのでね。だって、諸悪の根源的象徴であるTVプロデューサーのハーヴェイみたいな奴らはそれくらいしないとわからないからねっ!
まさに、グロテスクでちゃんちゃらおかしい世の中の構図を、絶妙なキャスティング含め、まるで入れ子のように、ホラーともコメディとも取れるジャンル映画の枠組みに落としこんだ監督の知性とユーモアに勇気をもらいました。最高!!
■ 2025年5月16日(金)公開
『サブスタンス』
全国ロードショー
https://gaga.ne.jp/substance/
[監督・脚本]
コラリー・ファルジャ
[出演]
デミ・ムーア / マーガレット・クアリー / デニス・クエイド
[製作]
コラリー・ファルジャ / ティム・ビーバン / エリック・フェルナー
[製作総指揮]
ニコラ・ロワイエ / アレクサンドラ・ロウイ
[撮影]
ベンジャミン・クラカン
[編集]
ジェローム・エルタベット / ヴァランタン・フェロン
[美術]
スタニスラス・レイドレ
[特殊メイクアップ]
ピエール=オリヴィエ・ペルサン
[メイクアップ]
ステファニー・ギヨン
[ヘア]
マリリン・スカーセリ
配給: ギャガ
2024年 | 142分 | R15+ | イギリス・フランス合作|原題: The Substance
©2024 UNIVERSAL STUDIOS

東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。