文・写真 | sunny sappa
こんにちは。久しぶりの寄稿になってしまいました。すみません~。さて、今月は『動物界』というちょっと変わった映画を紹介しますね。あらすじざっくり↓
近未来。人類は原因不明の突然変異によって、徐々に身体が動物と化していくパンデミックに見舞われていた。“新生物”はその凶暴性ゆえに施設で隔離されており、フランソワの妻ラナもそのひとりだった。しかしある日、移送中の事故によって、彼らは野に放たれる。フランソワは16歳の息子エミールとともにラナの行方を必死に探すが、次第にエミールの身体に変化が出始める…。人間と新生物の分断が激化するなかで、親子が下した最後の決断とはーー?
――オフィシャル・サイトより
これね、あらすじを読む限りだと、よくあるパニック映画であろうと軽くスルーしてしまいそうなのですが、土曜お昼の情報番組でたまたま観たヴィジュアルに惹かれるものがありましてね。上記の“動物化”とか“新生物”って、『スプライス』(2009, ヴィンチェンゾ・ナタリ監督)みたいな奇妙な未知生物的風貌を想像していたら、ん、え?! おお!! これは……と。しかもロマン・デュリスがお父さん役で出てるではないか。息子を演じたポール・キルシェはイレーヌ・ジャコブの息子さん(面影が……!)。そう、これフランス映画なのです。
お話は動物化して失踪した母を探すために主人公の父子が南仏に引っ越すところから始まります。料理人の父は現地のレストランで働き、息子は新しい学校に転校して友達や彼女もできたりするんですけど、どうやら僕も動物化してるっぽい……どうしよう?! となります。突然すごい力が出たり、聴覚が異常に発達したり、自転車に乗れなくなったり、牙や鋭い爪が生えてきたり、背中にたくさん毛が生えたりしていくんです。この変異の過程の描きかたや、彼が森で出会う鳥人間やカメレオン少女など、キャラクター造形がリアルかつユニークで素晴らしい。ほかにもタコ人間(私はこれが一番好きだった!)やセンザンコウ(アルマジロみたいなやつ)、セイウチ、カマキリなども出てくるので動物好きは要チェックです!
しかしながら人が動物になっていくという謎の現象が蔓延している社会って……よくそんなこと考えたなぁと思いますが、その状況に観客は否が応でもコロナ禍を彷彿とさせられるでしょう。また、動物人間を差別し、排除しようとする者、共生 / 共存を唱える者との意見の対立は移民問題が深刻化するヨーロッパ社会のメタファーとも受け取れますし、環境問題を喚起させる部分もあります。そもそも、物語の軸には思春期の少年の成長物語があり、親子の絆やそれぞれの葛藤など、心情の部分が大きな割合を占めているので、感情移入して、このファンタジー的な映像表現も突飛な設定も、現実の恐怖として感じられるのではないかと思うのです。
はたして、これはホラー?SF?パニック・ムービー?人間ドラマ?社会派スリラー?どのジャンルにも当てはまるだろうし、エンタメ要素も併せ持ち、テンポよく観られるけど、やっぱりフランス映画的だったり。
前述のように『動物界』は、人間が動物になっていく姿を映像化するために特殊メイクやVFX、CGも使っています。少し前までこういったフランス映画(アニメ以外)ってちょっと珍しかったかも。そういった意味でも、ジュリア・デュクルノー監督の『TITANE / チタン』(2021)は本作を語る上でも外せないのでは?! 『動物界』のパンフレット内でも幾度となく触れられていますが、『TITANE / チタン』も『動物界』も明らかにいわゆるボディ・ホラー(= デヴィッド・クローネンバーグ監督に代表される身体の変形や損傷に対する不安や恐怖をテーマにしたジャンル)という体を採っていて、身体の変容を具体的に映像として見せているからです。
フランスのジャンル映画といえば『マーターズ』(2008, パスカル・ロジェ監督)、『屋敷女』(2007, ジュリアン・モーリー + アレクサンドル・バスティロ監督)、『ハイテンション』(2003, アレクサンドル・アジャ監督)といったフレンチ・ホラーのムーヴメントはあるものの、あくまでサイコパス、スプラッター、フェティシズムなど、人の心理や現実の延長線上にある恐怖がメインのホラー。具現化された怪獣や宇宙人が登場したり、超常現象やファンタジー描写を取り入れた作品って意外と少ない気がしませんか?それは予算や技術の問題?いやいや、やはり現実主義というか、文化や国民性もあるんじゃないかと思います。ありえない、いかにも作り物な世界にそこまで魅了されないのかもね。その部分は私も同じだからフランス映画が好きなんだろうな。
しかし、そんな系譜をぶち破ってカンヌのパルムドールに輝いた『TITANE / チタン』が出てきたのには本当驚きましたよね!ゲテモノ感満載なのにあそこまで行くと逆に神聖ささえ感じてしまうという……未知の世界を切り拓いてます(笑)。とにかく強烈な作品ですが、興味のあるかたはぜひ観てほしいです。きっと価値観覆されますよー!
まあ、『動物界』はあそこまでぶっ飛んでないんでね、『TITANE / チタン』とは全く異なる作風ではあるんですけど、どちらもボディ・ホラーでありながら、その奥に社会的な内容や人との関係性など様々なテーマが垣間見られ、勧善懲悪ではなく、私たちに疑問を投げかける。フレンチ・ホラーにしてもただただ残虐というよりストーリー性や芸術性の高さが特徴ですし。そこは実にフランス映画らしいですね。
今月の最後に……振り返ってみたらこのレヴューのコーナーを始めて、まる3年経っていました。す、すごい、本当にすごい、自分を褒めたい(たまにサボってるけど)!何事も続けることが大切だと思って生きているので、身に染みますね。人の評論とか読んで、「あー、もっとまともに批評しないとな……」とか、いろいろ考えちゃったりすることも時々あるけど、もとは素人が好き勝手書いて、自由にやっていたわけじゃないですかっ!と、開き直ってこれからもマイペースでやってこ!! みなさま、どうぞよろしくです!!!
■ 2024年11月8日(金)公開
『動物界』
東京・新宿ピカデリー, ヒューマントラストシネマ有楽町, ヒューマントラストシネマ渋谷他ロードショー
https://animal-kingdom.jp/
[監督・脚本]
トマ・カイエ
[出演]
ロマン・デュリス / ポール・キルシェ / アデル・エグザルコプロス
字幕翻訳: 東郷佑衣
配給: キノフィルムズ
提供: 木下グループ
2023年 | フランス | フランス語 | カラー | スコープサイズ | 原題: LE RÈGNE ANIMAL | 英題: THE ANIMAL KINGDOM | DCP | 128分 | PG12
©2023 NORD-OUEST FILMS – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINÉMA – ARTÉMIS PRODUCTIONS.
東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。