言葉がなくても届くような祈り
取材・文 | 小嶋まり Mari Kojima (@bubbacosima) | 2022年2月
――先日はGinza Sony Parkでのライヴを拝見しました。一連がひとつのアートピースのようで、とてもかっこよかったです。ジャーに水を注いだり、水音を生かすパフォーマンスがあったんですが、込められた意味は?
Hikam 「私たちの大きなモチーフとして水のようなものを使うことが多くて、ヴィジュアルでもよく使っています。そういうものを使って、音と一緒にライヴ・パフォーマンスをしたことがないのに気がついたので、自分たちのライヴ・スタイルとしてGinza Sony Parkでパフォーマンスしたようなかたちで用いていきたいと思っています」
――ちょっとした儀式のような感じでしたね。水を注ぐのが始まりの合図的で。
Hikam 「そうですね。水を注いで、私たちのライヴの始まり」
――ライティング、スモークなども併せて物語が組み立てられていましたが、アイディアはお2人が考えたんですか?
Hana 「そうですね、照明希望を出して。今まで私たちの頭の中にあった桃源郷的なイメージで、ずっと私たち2人が話しているだけの空間があったんです。水っぽさもそうですし、ちょっと霧がかっていて、現実離れした空間というか。そういうものがずっとあって、今回それを企画側にこんなことできませんか、というお願いをしてみたら、初めて私たちの頭の中が現実に現れたみたいな感じでした」
――とても素敵でした。ライティングの基調が青色だったのは、水っぽいイメージがテーマだからというのがあったからですか?
Hana 「tamanaramenを始めてからしょっちゅう青を使っていて、個人的に2人とも青が好きっていうのがあるので、青を中心に使いました」
――そしてたまに赤のライティングをパキッと入れていたりしたけど、そのときの意図は?
Hana 「赤はやっぱり人間に流れている血とか、生きてることがすごく赤だなって思う瞬間があるので、そういう差し色として、静かだけど生きてるよ、みたいなイメージで使っています」
――赤い照明を使ったときの曲で人間的なことを描いているんでしょうか。曲に合わせて赤を使った感じ?
Hana 「曲にも合わせつつ、全体も見つつで入れています」
――スモークを焚いたところありましたよね。あれにもなにか意味がある?
Hana 「tamanaramenの楽曲は、具体的だけどすごく抽象的みたいなバランス、なんかうまく言えないんですけど、そんな感じのバランスがあると思っていて、そういうのを視覚的にも表現したいと思うと、スモークみたいにもやがかるのが、やりたいことにとても近いのかな?と思っています」
――浮遊感というか、ぼんやりさせるみたいな。
Hana 「そういう感じです」
――曲にもいろいろ意味が込められていると思います。社会的なことを考えて曲を作ったりとか。
Hikam 「新曲の話になるんですけど、今回のライヴで3月26日にリリースする『new perfume』をやったけど、当初は“自分らしさ”みたいなものをテーマに、“自分らしさって何だろう?”ってすごく思っていた時期に作った曲だったんです。自分で選ぶことの連続がパフュームだな、って思って。香水が匂いがその人の身体の一部になったり、記憶に残ったり。そういうのが選択の連続だと思っていて。今までtamanaramenになかったセクシー・チューンとしてもライヴで演奏していました。Sony Parkの前日にあったこと(ロシアのウクライナ侵攻)に関して語るには、ライヴまでに間に合わせることはできなかったんですけど、リリースまでには時間があったので、自分で選ぶこと、私たちが世界に出せる選択の表明として、大幅に書き換えたりもしました。『new perfume』を書き換える、書き足すという選択をするっていうことを自分らしさだと捉えていて、この曲は“選択する”ということを表した曲だと思います」
――変更した内容はやっぱり、戦争に関連すること?
Hana + Hikam 「そうですね」
――2人がウクライナの状況を汲んでセットを組んだんだな、と実は感じていました。『new perfume』を情勢にあわせて変更する選択をしたと聞くと、2人が想いを伝えたいという更なる力を感じます。ちなみに、内容は変更されたけど、初めてのセクシー・チューン『new perfume』は不協和音的なサウンドがありながらポップでなんともクセになるような曲でしたが、“自分らしさ”というテーマをどのように曲にしたのでしょうか。
Hikam 「ちょっと不思議な感じで、自分らしく、でも新しいこともしてみたい、っていう、揺れ動く不安定な気持ちもありつつ、新しいことに挑戦する不安な気持ちもありつつ、どうしたらいいんだろう?みたいなことをぐるぐる考えていたときにできました」
――新しいチャレンジというのは、音楽的な側面ですか?それとも他に何か挑戦したいことがあって、なんでしょうか。
Hikam 「新しいチャレンジというのは、“自分で選ぶ”っていうことで。たくさん間違えることもあって、ずっと覚えていたいこともあるし、ずっと覚えていられないようなこともあったり。“選ぶ”ということによって、自分が自分らしくいられる状態でいることの難しさみたいなのを感じていて。“自分らしくいる”っていうことがすごく不明瞭な、揺れ動くようなことだと思ったり」
――自分らしくいるのが難しいというのは、社会からジャッジされるとか、例えば、もしレーベルに所属していたら本当に思うことを言っちゃいけないとか、そういうしがらみが付き纏うが故の息苦しさを感じたりするかもしれないし、自分自身が持っている自分自身のイメージからまだ遠いところにいるっていう焦りみたいのを感じたり?
Hikam 「自分が自分らしいって思っていたけど、自分らしいということがまだわかっていない状態だったことに気付いたりとか、選び続けなきゃいけないことに不安になったりとか。すみません、ぐるぐるしちゃって」
――自分自身を、自分らしさを真摯に考えるようになったきっかけはあります?
Hikam 「自分がいつの間にか、支えられて生きていることを忘れていたりとか、そういうことを最近感じたのがきっかけです」
――Hanaちゃんと姉妹で一緒にtamanaramenとして活動するようになって、さらにそう感じるようになった?
Hikam 「どうだろう……(考え中)」
――ちなみに、2人でtamanaramenとして共同作業するようになったきっかけは?
Hikam 「もともと2人でやっていて、私の力以上にHanaが活躍してる部分が大きいので、Hanaも前に出ることでちゃんと2人でやっているのを表明するというか」
Hana 「私、ずっと顔を出すのが嫌だったんですよ。自分は前に出る側の人間じゃないって思っていて、だから今もこうやってHikamと一緒にインタビューを受けたりしているのが不思議な感じではあるんですけど。でも、出たからには人生賭けるぞ、みたいな気持ちの切り替えにはなったかもしれない」
――Ginza Sony Parkのライヴの冒頭で、パフォーマンスとしてお水を注ぐのもHanaちゃんがやっていて、Hanaちゃん新しい旅路の始まり的な感じがしました。
Hana 「すごく緊張しました。なんか、こぼしたらどうしよう……みたいな(笑)」
――tamanaramenに対しての注目度が上がると共に、ステージに上がってパフォーマンスをどう見せるか?という部分での迷い、みたいなのを感じますか?
Hikam 「2人になって新しいことに挑戦したけど、なんかぐるぐる迷ったりしちゃったりもあったりで」
――ステージングをどうしていくかというのも、2人で考えたりしてますか?
Hikam 「Sony Ginza Parkでやった、真ん中に水槽を置いて始めるというのは2人で考えた新しい試みだったんですけど、もっといろんな儀式というか、tamanaramenのライヴ・パフォーマンスが作品として、言葉がなくても届くような祈り、どこに行っても伝わるような状態で、あらゆる境界を取り払って、人の力を信じていけたらと思います」
――中国のミュージシャンでHowie Leeっていう人がいて、その人も似たようなことを言っていたのを覚えています。もともとクラブ・シーンで活躍していたんですけど、自分のパフォーマンスは作品だから、ギャラリーや美術館とかでしかライヴをしたくないとインタビューしたときに教えてくれたことがあって。パフォーマンスが一連の作品っていうところに注視してやっていたから、お2人に似たような感覚を覚えました。ちなみに、HikamちゃんがSNSでよく使っているかもしれない“魔女”っていうワードはどこからやってきたんですか。テーマ的なもの?
Hikam 「音楽は魔法みたいだな、っていうのがあって。それが良い意味のときもあるし、そうじゃないときもある。それがなんか魔女に近いな、っていう感覚があるんです。それをもっと高めていけたら」
――2人でさらにタイトに共同作業するようになって、変化を感じていることなどありますか?
Hikam 「これまで以上に、一緒にいる感じが強くなったかな?って思います」
Hana 「2人っていうより、3人っていう感覚なんですよ。tamanaramenっていう架空の人格というか、2人の理想郷みたいなかたちがあって。Hanaと、Hikamと、tamanaramenの3人でいるみたいな。そういう感覚があるかもしれない。でも、人格ともちょっと違って、場所みたいな感じかな。抽象的なんですけど」
――社会情勢だったり、コロナだったり、気が滅入るような時代になってしまったと思います。お2人の息抜き、または落ちてしまったときの回復方法は?
Hikam 「それをすごく悩んでいて。Hanaはありますか?」
Hana 「回復方法かはわからないんですけど、ひとりの声って小さいじゃないですか。だから、連帯に意味があるっていうこともすごくよくわかる。実際デモに行っても、その数の人が集まっているのがすごく心強いな、って思う一方で、自分は無力だなって思って。社会に出せる声って何にもないじゃん、ってすごく悲しくなっていたときに、さっきの『new perfume』の書き換えとか、その作品を作れることっていうのが、実際それすらも微力かもしれないんですけど、それができることが嬉しいと思って。例えば歌詞を書いたり、Hikamと一緒に録音や制作をしているときに、ちょっと救われるような気持ちがするっていうか。変えることはできないけど、意思表示がちゃんとできるっていうか。やれることがないけどあるみたいな。それが回復方法かな?って思ったりしています」
――2人はどんどん注目を浴びる存在になってきて、影響力があると思うんです。だから、その2人がそうやって活動したり、作品を、自らの力を表明するっていうのはすごく大事なことだと思います。そして、今このご時世で、世界がみんなにとって住みやすくなるために、必要な変化はなんだと思います?
Hana 「想像力を持つことかな?って思います。つらいときって自分本位になっちゃうけど、その自分自分になっているときって気づかないうちに周りの人を傷つけたりとかするから。他者への想像力は、自分に対してもそうですけど、ちょっと想像したらいろんなことが見えるな、って思います」
Hikam 「自分らしさとか、内に内に向いちゃう感情に捉われずに、周りに配慮を忘れない心とか、それは本当に大事だと思う」
――今後、自分自身をどう表現していきたいですか?音楽に限らず他のものでも表現したいとかってありますか?本を書きたいとか、絵を描きたいとか、演劇をやってみたいとか。
Hana 「恥ずかしいんですけど、小説を書いてみたくて。書こうと思っています」
――物語の構成を練ったりしていますか?
Hana 「テーマだけ決めている段階で、書き始めるまで腰が重いな……って思っている状態です」
――Hikamちゃんは何かあったりしますか?
Hikam 「やっぱり自分が一番やりたいのは、音楽をもっと突き詰めたいっていうところにあります。もっとHanaとボーダレスになりたいっていう話を最近していて。私だけが音楽を作るんじゃなくて、Hanaも音楽を作って、私もヴィジュアル制作をして、みたいなのもだんだんやっていきたいな、って思っています」
――では最後に、お互いを一言で表すと?
Hana 「めっちゃ誉めちゃってもいいですか(笑)。天才だと思います。普通、私だったら緊張したり、物怖じしてしまう出来事に対してHikamは堂々としていて、肝が座りまくっているのを見ると、天才なんじゃないかって本当に思うんですよ。尊敬しています」
Hikam 「それを言ったら、Hanaもそう(笑)。作っているヴィジュアルもそうだし、新しい感情とかに対峙したときにどう対処するか?っていうのはやっぱりHanaが見本になるし、いつも優しく受け入れてくれるし、本当にこの人って私の2歳上なのかな?って思ったりする。人間的にも尊敬できるし、天才だと思う。人を信じる天才、人を信じる強さがある」
■ 2022年3月26日(土)発売
tamanaramen
『new perfume』
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■ 2022年1月2日(日)発売
tamanaramen
『glowing arcade』
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