どんなに大きくても、潰せないものはない
その強烈なサウンドは、同郷ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンで鳴らされてきたノイズや、エレクトロニックな要素という点でインダストリアル・ロックの系譜に位置づけられるが、近年に広がりを見せるポスト・メタルの流れも汲んで、単なる焼き直しではない説得力を持っている。音楽のみならず、映画や文学にも深い造詣を示すBerdanの、個人的な葛藤や懊悩と正面から向きあって絞り出す叫びが、その原動力となっていることは間違いないだろう。
前作『The Long Walk』で、元LITURGYの超絶ドラマーGreg Foxをゲストに迎えたことをふまえ、パーマネントなメンバーとしてMike Sharpが加入し、最新作の『Shame』は、トリオ編成になって初めてのアルバムとなった。2020年のリリース作品の中でも、特筆すべき1枚である力作を完成させた彼らにインタビュー。今回は、サウンドの要を担うGreenbergが答えてくれた。
取材・文 | 鈴木喜之 | 2020年8月
――ニューヨークは一時の厳しい状況を抜け出したと聞いていますが、どのような日々を過ごしていますか?
「一方では恐ろしく混乱し、他方では想像以上に刺激的な毎日だった。多くの人とたくさんのエネルギーに囲まれていることに、ものすごく感謝してるよ。時に圧倒されることもあるけれど、最近ではそれが自分の人生やニューヨーク・シティに特有のものではないんだろうな、って思っている」
――初めてのインタビューなので、いくつか基本的な質問をさせてください。まず、どのような音楽環境で育ったのか、自分自身も音楽をやろうと決心したきっかけなどについて話してもらえますか。
「僕は、ライヴ・ミュージックにとって非常に奇妙な時期のニューヨークで育ったんだ。ちょうど自分がライヴ・ショウに行き始める年齢になった頃、当時のニューヨーク市長がキャバレー法と呼ばれる古い人種差別的な一連の法律を復活させて、それを口実にロウワー・マンハッタンの小さなヴェニューをたくさん閉鎖へ追い込んだ。そのせいで、14歳前後のかなり若い頃から、ショウのために街の外へ出かけるようになった。初めてミュージシャンになりたいと思ったのは4歳の頃で、Jerry Lee Lewisが演奏している古い映像を見て、親にギターをせがんだんだ。ウソっぽく聞こえるかもしれないけど、本当の話だよ(笑)」
――UNIFORMを結成した時、Michaelと同じ通りに住んでいたそうですが、初対面の印象や、どのように意気投合したかなども含めて、そのときのことを教えてください。
「UNIFORMを始める何年も前からお互いを知っていたんだ。00年代初期、MichaelはDRUNKDRIVERというバンドで歌っていて、僕はPYGMY SHEREWSというバンドに所属してた。双方のメンバーは被っていて、同じようなサークルで活動し、DRUNKDRIVERがリリースしたほとんどの曲を僕が録音したんだ。バンドは解散してしまい、僕らは何年か会わなくなってしまったんだけど、しばらくしてMichaelの家の近くに引っ越したら、ある晩、夢を見てね。ドラム・マシンを使いながら、ふたりでステージに立って、ぶちかましている夢だった。次の日、道で彼に会ってそのことを話して、すぐ実際に音楽をやり始めることになった」
――作曲プロセスについて教えてください。プログラミング、ギター、ヴォーカル・パート、サウンドの加工など様々な要素があると思いますが、メンバー間でどのようにコミュニケートしながら作業を進めていくのですか?
「このバンドのプロセスは何年にもわたって大きく変化してきた。今のところ、物事はかなり流動的だね。僕たちはたっぷりコミュニケーションをとっていて、いっしょにやっていくうえで欠かせない信頼関係を築けてる。通常、自分たち自身の強みに合わせて演奏する傾向はあるけれど、現時点では誰が何を持ち込もうと、ドアは大きく開かれているんだ」
――前作でGreg Foxがゲスト参加した流れから、ドラマーとしてMike Sharpが正式加入し、最新アルバム『Shame』はUNIFORMにとって、制作段階の初期から生のドラムがある初の作品になりました。実際これまでにないダイナミズムを持ったサウンドになったと感じますが、以前までの作品と比べ、作曲やレコーディングなどにどんな違いが生じたか、Mikeがどんな貢献を果たしてくれたかについて教えてください。
「ダイナミックという言葉がぴったりだ。音楽とは言語の一形態であり、すべての生きとし生けるものの間で共有されている。機械は僕たちがプログラムしたり、教えたりしたのと同じくらいしかダイナミックにはなれないし、人間のミュージシャンがもたらすものに取って代われるものは未だない。Gregは驚異的なミュージシャンで、素晴らしい友人だ。ラッキーなことに、彼をスタジオに招き、しばらくの間ツアーも一緒にやることができた。そして、言われた通り『Shame』は、3人目のバンド・メンバーと本格的にコラボレートした最初のアルバムだ。だから、これまでとは全く異なるプロセスだった。Mikeは驚異的なプレイヤーであることに加え、非常に鋭く具体的なソングライティングのセンスを持っている。アレンジ、空間創出力、リズム・キープ、そしてもちろんダイナミクスのセンスが本当に違うんだ。彼がいなかったら間違いなく、このアルバムは全然別のものになっていただろう」
――1stアルバム以来どんどん音楽制作の手法が変わってきていると思いますが、逆にUNIFORMの普遍的な部分として、どんなところを保とうと意識していますか?
「まあ、僕は今でも同じギターを使っているし、Michaelは今でも狂った声を出している。正直、バンドとしての僕たちを作っている音楽的なコンセプトの中心部分は、あまり変わってないと思う。反復、極端な音量、ある種のハーモニックな感性、予測可能なものへの焦り。これらを探求し、アプローチを拡げてはきたけれど、僕たちの音楽はいつだってそういうところに根ざしているんだ」
――世界的なコロナ禍でのロックダウン、さらにアメリカに関してはBLM運動など、今年に入って現実世界は大きく揺れ動いています。『Shame』は、そんな状況下で鳴り響くのに相応しい音楽だとも思うのですが、自分たち自身としては、現実の世の中に自分たちの表現が、どのように反映してきていると感じていますか?
「『Shame』の曲を書いたのは2019年だから、特に今年の出来事についてというわけじゃないけど、今日僕たちが直面している問題は、決して目新しいものではないんだよね。この世界は記憶の限り、ずっと混乱していて、不公平で、恐ろしい場所だった。このレコードは、ほとんどがパーソナルなもの、あるいは個人の話であり、個人的な痛みだ。僕たちが脆弱であることと、その痛みについて話すことが十分に心地良いとき、他の人々はそれを聴いたり、観たりして、そこに自身を見つけることができる。僕たちは関係性のポイントを提供することができるんだ。どんなに悪いことであろうと、良いことであろうと、僕たちは共にあるんだよ」
――前作『The Long Walk』のタイトルは、Stephen Kingの小説から取られるなど、ホラー文学やホラー映画をインスピレーション源とするあなたたちですが、今作『Shame』に関しては特に何か参照したものなどがありますか?
「『Shame』というタイトルに関しては、特定の作品に結び付けられるものではないよ。それは僕たちとって本当に文字通りの意味」
――これまでのところUNIFORMは、ノイズロックとかインダストリアルといったジャンルを引き合いに語られることが多いですが、自分たちとしてはそうしたカテゴライズに違和感を覚えたりはしないのでしょうか? 現在、自分たちが本当に共感できるアーティストを挙げるとしたら、どういった人たちになりますか?
「いろんな呼ばれ方をされてきたね(苦笑)。エレクトロニック・ハードコア・バンドみたいな感じかな? 本当に言い表し難いんだ。UNIFORMを始めて、どんなバンド?って訊かれたときは、いつも“ラウド”って答えていたよ。
最近では、自分自身の物語の詳細を掘り下げることを恐れないバンドやアーティストに共感していることに気がついた。特定のジャンルではなくて、パッと思い浮かんだところでは、Dreamcrusher、COUCH SLUT、TOO FREE、SHOW ME THE BODY、DREAMDECAYあたりだね」
――THE BODYとの共作はまた実現する可能性があるでしょうか? あるいは、他にコラボレーションしてみたいと思うようなアーティストはいますか?
「アメリカでロックダウンがはじまった時、ちょうどTHE BODYとツアーに出ていたところだったんだ。だから、いつかそのツアーを完遂したいと思ってる。他にもいくつかのプロジェクトが進行中で、それについて情報を公開するのをとても楽しみにしているんだけど、ちょっとまだ明かすことはできない」
――最新アルバムのジャケットは、久々にバンドのロゴを大きくフィチャーしつつ、とてもインパクトのある刺激的なデザインになっていると思います。どのようにしてこのロゴが出来たのか、どんな意味を込めているのかなど聞かせてもらえますか?
「ありがとう!これはMichaelがアイデアの原型を出して、それをMark McCoy(Youth Attack)がデザインしてくれたんだ。その時は特に何か意味があるとは思ってなかったけど、何年か経つうちに、“nothing is too big to fail(どんなに大きくても潰せないものはない)”ということを意識するようになった。好きなように信仰を持つことはできても、最終的には、みんな同じところへ巻き上げられてしまうんだ」
――ところで昨年、来日したDEAFHEAVENのKerry McCoyにインタビューしたのですが、彼は取材時にUNIFORMのTシャツを着ていました。彼らともいっしょにツアーしていましたが、ブラック・メタルを土台に新しいサウンドを作り出している人たちについてどう評価していますか?
「Kerryのことは大好きだよ。あいつは地獄のようにソリッドだ。DEAFHEAVENは間違いなくゲームを変えたね。全世代のバンドを代表する存在だと本気で思うし、ファンもそれがわかっていて、本当に彼らのことを愛していると思う」
――それから、あなたはMETZの新作を共同プロデュースしたとのことで、そちらも楽しみにしています。彼らとの仕事はどうでしたか?
「そう、METZも大好きだ!僕らはあのレコードをバッチリ作り上げたよ。彼らは本当に特別なバンドで、Alex Edkinsは信じられないほどのソングライターだ。さっきの“共感できるバンド”に、METZも付け加えなきゃいけないね。彼らはスタジオでは絶対的な喜びを感じていて、一生懸命に働くし、ミュージシャンとしての自分たちについてよく理解していた。常に何が起こるか見極めるために、とにかく自分たちを追い込むんだ。僕のことを信頼してくれていて、必要な時にはいつも僕が作業をするスペースを与えてくれた。本当に達成感を持っているし、彼らのアルバム全体をみんなに聴いてもらえるのが待ち遠しいよ」
――また、以前、THE MENのメンバーだったこともありますよね。在籍時の思い出深いエピソードなどもあれば教えてください。
「THE MENのレコーディングを始めたのは2007~2008年、Michaelと僕が初めて会った頃だった。最終的に僕は2011~2012年にバンドへ加入し、さらに何枚かのレコードを一緒に作ってから、文字通り車輪が落ちるまでツアーをしたよ。共に数年のツアーを終えた頃には、誰もが休息を必要としていたんだと思う。よくあることさ。彼らはキラー・バンドだし、本当におもしろい連中だ。Rich Samisは宇宙人!」
――あなた方が所属しているSacred Bonesは、現在アメリカでも最も注目すべきレーベルのひとつだと思っています。彼らの仕事をどう評価していますか?
「Sacred Bonesは家族だよ、いつでもそうだった。彼らがやっていることは、レコード・レーベルをはるかに超えているね。(設立者の)Caleb Braatenは本当に全プロジェクトに心血を注いでいる。スタッフの人数がどれだけ少ないか、彼らのしていることがどれほど本当に凄いか、人々は知らなすぎると思うよ」
――ニューヨークを拠点に活動しているわけですが、この都市のアンダーグラウンドなノイズロック・シーンから生まれた偉大なバンドたち、例えばSWANS、SONIC YOUTH、PUSSY GALORE、UNSANEなどの系譜にいると意識するようなことはあるでしょうか?
「それらのバンドはどれも大好きだ!ただ、実際のところ、ニューヨーク出身のバンドの中ではKISSが一番好きだね。おそらく、UNIFORMが最も影響されているのは、その全てが完璧というわけではないにせよ、SUICIDEだと思う」
――昨年には、Borisとのツアーが行なわれましたが、そのときの感想を教えてください。また、バンドに限らず、日本の文化で特に興味を持っているものなどはありますか?
「Boris、彼らへたくさんの愛を!彼らは真にすごい。彼らとのツアーは、絶対的にバンドとしての僕らを変えた。彼らのプレイを毎晩観ることができたのは、マスタークラスにほかならない。信じられないほどヘヴィで、なんとも深い音楽の歴史を感じさせられた。2005年以来、日本には行けていないのが、とても寂しい。音楽、食べ物、都会と田舎どちらの建築物も。日本への旅の思い出は、僕の心の中でとても特別な場所を占めている。いつかまたショウをやりに行けることを祈ってるよ」
――最後に、なかなか見通しを立てにくい状況かとは思いますが、現時点で考えている今後の計画について教えてください。
「『Shame』をリリースした後、今はネットだけでもいいから、何かしらの方法でパフォーマンスができればいいなと思ってる。ステージに戻るのが本当に待ち遠しいね。僕たちは常に新曲や、その他のプロジェクトに取り組んでいるし、いつでも世界と共有できることはあるはずだよ」
■ 2020年9月16日(水)発売
UNIFORM
『Shame』
国内流通仕様CD SBR-258JCD 2,200円 + 税
[収録曲]
01. Delco
02. The Shadow of God’s Hand
03. Life in Remission
04. Shame
05. All We’ve Ever Wanted
06. Dispatches from the Gutter
07. This Won’t End Well
08. I Am the Cancer