陳腐だと思っていたものを受け入れる感覚
2ndアルバム『Banana Games』(2013年)からちょうど10年を経て、昨年(2023年)配信リリースされた3rdアルバム『Extasy』は、そんな藤井洋平の10年と現在が、ひとつの結晶として実体化した傑作だ。すでにファンは狂喜しているが、まだ足りない。もっと聴いてほしい。2024年1月17日に実現するアナログLPとしてのフィジカル・リリースを前に、藤井洋平自身が語った10年越しの「extasy」をここに公開する。
取材・文 | 松永良平 | 2023年11月
写真 | 山口こすも
――10年ぶりの3rdアルバム。この10年は長かったですか?
「長かったですね。制作途中、いったん飽きました(笑)。それくらい長かった」
――とはいえ、前作『Banana Games』(2013)以降も、“いい曲”を着実に作ってライヴではやり続けていた。新作は、その集積だとも言えますよね。
「それは、そうですね」
――後半はコロナ禍という不運もあったし……。思えばコロナ禍突入の直前に『i wanna be your star / 意味不明な論理・方程式』を渡辺省二郎さんをエンジニアに迎えてレコーディングし、カクバリズムからの初7"としてリリースしたけど、その発売日がまさに緊急事態宣言下だったという(2020年4月22日)。もっと早くにアルバムを出すべく、全体像も構想していたんですよね。
「ええ。でも、こんなに年月が経つとは思っていなかった。シングルのリリパも20年の年末までできなかったし」
――結果的に、コロナ渦中のライヴは2回だけ。世間からはずいぶん身を隠した感じになってしまいました。とはいえ、アルバムに向けて動き出してはいて。
「曲は揃っていたし、すんなりいくだろうとは思っていたんですが、やっぱりコロナであんまり気分が上がらないし、それが尾を引いた感じはありました」
――でも、そのなかで新曲「Can't Stop The Music」(9曲目に収録)ができたじゃないですか。以前からあった曲ですけど、アルバムに入ることで新たに生命を得た「extasy」(3曲目に収録)は、結局、アルバム・タイトルにもなりましたしね。
「(“extasy”は)自分の中で毛色が違う曲だったんですよね。甘酸っぱい感じじゃないですか(笑)。でも、“これもいいぞ”という気分に今はなれたというか。ライヴでときどきやっていた頃は、もともとのデモにあったエンディングの部分をカットしていたんですよ。それを今回の音源では復活させて、思い描いていた通りに入れられたら最高じゃないかと思った次第です」
――制作の途中で、共同プロデューサーとしてceroの荒内 佑くんが参加しますよね。
「たぶん、このままじゃダメだと思って周りの人が薦めてくれたんじゃないですか(笑)?ただ、個人的には自分の手で最後までやりたいというのはあったんですけどね。当初の予定では(荒内には)1、2曲で手を加えてもらう、くらいの感じだったんですけど、最終的には結局、ドラムや他の楽器の録りまで付き合ってくれて、ありがたかったですね」
――心強かった?
「そうですね。いろいろアドヴァイスもくれますし。荒内くんのキャラも大好きなので。たぶん、僕ひとりだとかなり殺伐とした録音風景になっていたと思うんですけど、それも変わってよかったんじゃないかと思っています」
――ということは、音源をデータでやりとりしたというより、スタジオに一緒に入ってがっつりやる時間もあった?
「“OH, NO”はスタジオで、ああでもないこうでもないと言いながら作業しましたね。がっつり音自体に関わってもらったのは“OH, NO”と“D.T.T.M.”の2曲です。あとは、自分が録った音源を聴いてもらっていろいろ意見をもらい、ヴァイブス(の調整をした)っていう感じですかね。まあ“荒内くんがいいって言うんだったら、(俺も)いいよ”っていう感じ(笑)。大好きですね」
――どういうところが好き?
「うーん。とにかく、突っ込んでくる音が素晴らしいので、改めて彼の才能を思い知る機会でもありました」
――荒内くんも、もうひとつの側面というか、ここまでPrince的という音楽性を藤井洋平を素材にして発揮できてうれしかったのでは?
「そうですね。ひょっとしたら最近はそこまで(自分とは相性が)合わねえんじゃねえかとも思ったんですけど、彼の懐の広さを感じましたね」
――ふたりの関係も実は意外と古いですからね。
「僕とceroとの出会いの最初は円盤(東京・高円寺)ですからね。ceroもまだオリジナルの4人で、カクバリズムからリリースするずっと前でした。荒内くんは『バナゲ(Banana Games)』にもちょろっと参加してもらっていたし」
――荒内くんとの作業をもう少し聞きたいんですが、たとえば「OH, NO」をめぐってはどんなやりとりがあったんですか?
「具体的には“OH, NO”の中間から後半にかけて少し悩んでいて。1980年代の音楽でよくあるサンプリングされた声の“オ・オ・オ・オ”みたいな使いかたっていいよね、みたいな話を彼とはしましたね。本当にくだらないアレですけど、そういうのが大事でした」
――ひとりだと自問自答してしまうけど、どちらかが「いいね」って言えたら作業って前に進み出しますもんね。
「まあ、なんていうか、(荒内は)Brian Enoみたいな感じなんですかね。Enoが何をする人なのか具体的にはよくわかってないんですけど(笑)。こないだ改めてTALKING HEADSを聴いていて思っただけなんですけど」
――アルバムをまとめていくにあたって、前作『Banana Games』は意識しました?
「そうですね。今聴くと『バナゲ』はけっこう渋くて、個人的にはもっとポップな音楽にするつもりだったんですけどね。だから、今回はもっとチャラい方向、歌詞も曲調も、もっとブラック・ミュージックっぽいチャラさを醸し出せたらいいな、と思っていました。まあ、このアルバムも改めて聴くと渋いと思うのかもしれないですけど(笑)」
――最初から勢いがすごいから、渋いとは感じないですね。そこは振り切ったなと。
「そうですね。絶対に(アルバムで)使いたいと思ったのが、ディストーションの効いたギターをギンギンにやること。それは達成できたと思っています」
――ギタリスト・藤井洋平の魅力はあちこちに出ていますよ。
「ギターは全部自分でやるぞ、という決意は最初からありました」
――ずっと藤井くんにはPrinceの『Purple Rain』みたいなアルバムを作ってほしいと思っていたんですけど、今回の切れ味は『Purple Rain』というより、その前作にあたる『1999』みたいな感じ。以前に取材したときも『1999』が一番好きと言ってましたし。
「まあ、そうですね。2曲目の“extasy”が“Little Red Corvette”みたいなポジションかも(笑)。(『1999』は)曲も長いですしね。制作初期には、1曲1曲が長いことに悩んだというか、現代的ではないと思ったんですよ。悩んでもしょうがないことなんですが(笑)。短くしようと思っても無理だし、流れがあってそれぞれの長さになっているので」
――では、ここからその1曲1曲について藤井くんのコメントを聞いていっていいですか?1曲目「Welcometomyextasy」は、イントロダクション的な短いトラックですが、これは前作にもあったギミックです。やっぱりこういう幕の開きかたが好き?
「まあ、マストですね。『1999』がそうだし、『Purple Rain』がそうだし、導入で煽って煽ってドーン。これもギリギリでできた曲ですかね」
――この曲は、プロデューサーが荒内くんと藤井くんの共同クレジットですね。
「最初から“OH, NO”と繋げる予定だったので、あの曲のイントロをうまくいじって、モア・ドラマチックにしてもらった感じですね」
――犬の声がしますが。
「あれは荒内くんのライブラリーから。当初はスタジアム感を出したいと言っていたんですが。荒内くんの解釈的にはあの犬の声でワサワサした感じということなんですかね。『Pet Sounds』(THE BEACH BOYS)へのオマージュみたいなのもあるかもしれないですが、僕にはわかりません」
――そして2曲目「OH, NO」。
「僕のなかでは“洋平ちゃんのOH, NO”が正式なタイトルなんですが(笑)。まあ、ダジャレの曲です」
――とはいえ、“OH, NO”と“金の斧、銀の斧、洋平ちゃんの斧”と繋げる感性は今どきなかなかいないと思います。
「発見してしまったな、と(笑)。自分のなかではかなり気に入ってます。音源を作っている最中はちょっとパンチ不足かな、と思っていたんですが、荒内くんのおかげもあって無事にアルバムのトップバッターに成長してくれました」
――パンチを加えるにあたってどんな具体的な作業を?
「ミックス時に荒内くんとエンジニアさんにいろいろお願いしました。けっこう大変でしたね。音を言葉で表現してメールで伝えるという作業は、気が狂いそうになりました。dBとか音楽用語の知識が僕にはないので、“もっとスペーシーに”とか(笑)。荒内くんは音楽の言葉をけっこう持っているので、そういうときに“やるなー”という感じでした」
――続いて3曲目「extasy」。
「いい曲だと思います。これは80sのサウンドにしたいと思って、ドラムのスネアにもゲートリヴァーブをかけました。それでギンギンのディストーション・ギターを入れて。あそこはすごくエクスタシーな感じでした」
――アルバム・タイトルにするっていう流れは?
「いつの間にかそうなってましたね。“10年ぶりのエクスタシー”というキャッチコピーで言いたいという話をカクバリズムからも聞いていたし、自分もそのタイトルになるんだな、と思って作業していましたね」
――前2作のアルバム・タイトルは独立したもので、タイトル曲が存在してないんですよね。
「そうですね。昔だったら、収録曲をタイトルにするのは自分でもバカにしていたと思うんです。何のヒネリもない!みたいな感じで。でも、もう奇をてらうのも疲れたなと(笑)」
――いいじゃないですか、その変化は。そしてシングル曲だった4曲目「意味不明な論理・方程式」。
「これと“I wanna be your star”は録った時期が離れているので、今はコメントしづらいところもあるんですが、曲としてはイカした小唄を作りたいと思ったんですよね。ライヴでは最終的にはめちゃエモい感じになってしまうんですけど」
――次の5曲目「Go Die Go」は、できてから長いことタイトルがなかったですよね。ずっと“変拍子”と呼ばれていて。
「まあこれは、イントロを逆再生するとタイトルの元ネタがあるんですが、それはわかる人だけわかってくれという話で。最終的には、アルバム・タイトルの『Extasy』から導かれて付けたんです。記号みたいなもので、意味にこだわらず、という。それに、もともとデモのタイトルが“go die go”だったので、そこに立ち戻ったというのもあります。“さよならの何たらかんたら~”みたいな変なタイトルにしようと思った時期もありましたけど(笑)」
――5拍子に聴こえるところがあるから、そこからつけたタイトルかなとも思ってました。
「いや、もっと複雑な拍子のところもあるので」
――あの複雑な構成をライヴではよくバンドでやってましたよね。
「僕もはっきり言って拍子なんて覚えていないんですけど、メロディとして覚えていったら追えるんです。簡単ではないですけど」
――そうか、歌を追っていったら自然にも思える。変拍子って普通は奇数拍子のことを言いますけど、この場合は、文字通り“変”な拍子のことなんでしょうね。
「カンタベリー・ロックをよく聴いてたときにできた曲ですから。NATIONAL HEALTHとかめちゃいいな、と思って(笑)」
――カンタベリー・ロックが藤井洋平を通過するとこうなる。最高じゃないですか。そして6曲目、レコードで言うとA面ラストはシングルA面だった「i wanna be your star」です。
「このポジションがいちばん美しいかな、と思って」
――でも、ずっとライヴを見続けてきた人たちにとって、この前半の並びは藤井洋平のベストヒットという説得力があるし、初めて聴く人たちにもわかりやすいと思うんです。いい構成ですよ。それで、次の7曲目「D.T.T.M.」からレコードではB面。よりディープな藤井洋平の世界に入ります。
「そうですね、ええ。やっぱりAB面で考えたほうが曲順は考えやすいんです。『バナゲ』もレコードにするならという感じで曲順を意識したらうまくハマったので」
――B面の1曲目「D.T.T.M.」は?
「この曲も荒内くんが大暴れしているので。彼のドープな処理が効いていると思います。ヘヴィではあるけど一筋縄のヘヴィではない、そこに貢献してくれています」
――ふたりの間にコンセンサスがあるというか、ただワンループのファンクでヘヴィにすればいいというのは全然違うという了解がある気がします。
「途中でエレピだけのパートになるところがあるので、そこだけ荒内くんに考えてもらおうと思ってお願いしたら、他にもいっぱい考えてくれて。ヘヴィだけどキャッチーでもあって」
――“引用”もいろいろいい具合にハマっていて。
「これでまた誰か訴えてくれたらいいんですが」
――え?前に訴えられましたっけ?
「前回の『バナゲ』のとき、ジョ〇〇・ベ〇〇ンに訴えられたら(話題になって)勝ちだな、と思っていたんですが、そうならなかったんで。今回はモ〇〇ス・ホ〇〇トの遺族とかに訴えられたらいいなと(笑)」
――バズるのはいいけど、レーベルは困るでしょ(笑)。でも、あの“引用”には、「これ、やっぱりやるんだ」って見てる側が解放される部分がある。そこがいいんですよね。
「まあ単純にあの“引用”は一般的に言えばダサいっすよね(笑)。僕はすげえかっこいいと思ってやっているんですけど。この流れしかない、と」
――8曲目「Vibrator」は、ライヴとは一番雰囲気が変わった曲ですかね。
「リズムが打ち込みになりましたし、ここでまさかの厚海義朗(cero)をベースで起用したというのがデカいんじゃないですか(*1)。この曲にはベコベコ跳ねるベースの要素が欲しいと思って。今のベースの村上(啓太)くんはそういうタイプじゃないし。そうしたら知っている人で適任がいたと思い出して、参加していただきました。それでライヴとは違う雰囲気になったかな。あとは、前の曲とも繋がるんですけど、“D.T.T.M.”で荒内くんがブラスのサンプルを乗っけてきてくれたのが最高にハマっていたんですよ。“あ、偽物の音でもいいんだ”と思ったので、僕もこの曲にもチャラくて安っぽいストリングスのサンプルを使いました」
*1 厚海は藤井のバックバンドThe VERY Sensitive Citizens of TOKYOの前任ベーシスト
――たしかにそれで80sの自主制作モダン・ソウルみたいな感じが出ているかも。
「エンジニアさん(柳田亮二)がミックスでうまく馴染ませてくれたというのもあるんですけどね。あとは、この曲でもヘヴィなギターをフィーチャーしたのもライヴとは違います」
――スタジオ・ヴァージョンで試したことが逆にライヴにフィードバックされることもあり得る?
「ぜひともそうしたいとは思っているんですけど、メンバーの資質もあるので、そこは探りながらですね」
――以前のライヴではひとりの男の煩悩をいつも突きつけられる曲でしたが、今回のアルバムではラヴソングのようにも聴こえ、感覚がヴァージョンアップしました。
「最初は収録するか迷ったんですが、入れてよかったな、という感じです」
――続いて、2ndヒット曲、9曲目「Can't Stop The Music」。アルバムのために書き下ろされた新曲です。
「新しくアルバムを作るにあたって、何かしらライヴで披露していない曲があったほうがいいという思いがあったので、これを書きました。直接的なインスピレーションの元になったのは、コロナ禍になってから最初にやったライヴ(*2)。あのライヴの前までは“俺もこれ(コロナ禍)で店じまいだな”という気持ちが強かったんですけど、あれで熱狂を感じたのが大きかった。あえてこういう陳腐なタイトルもいいんじゃないかと思ったんです」
*2 2020年12月26日に東京・渋谷 7th FLOORで開催した「"i wanna be your star" Release Oneman Live Show "At Last I am Free"」
――覚えてますよ。コロナ禍の谷間のライヴ。「コロナのバカヤロー!」って何回も言ってた。
「本当はもっとアグレッシヴな曲になる予定だったんですけど、あのライヴのいい体験もあって、普通にいい曲になってしまいました(笑)。あと、これもさっき言った“D.T.T.M.“での荒内くんによるブラスのサンプルに影響を受けてストリングスを入れました」
――いい曲!いいじゃないですか。藤井洋平って、こんなにストレートでいいんだと、初めて聴いたときも思いましたよ。
「そうですね、アルバム収録曲をアルバム・タイトルにしたのと同じような、陳腐だと思っていたものを受け入れる感覚です。いい意味で、ガバガバになってきた(笑)」
――それがあっての10曲目「ballad」ですから。後半を加工のないライヴ音源にしたのには驚きました。
「個人的には、Frank Zappaの“Muffin Man”っていう曲があるじゃないですか、あれですね。あの曲はスタジオ録音かと思いきや、エンディングに向かってライヴ音源になっていく。それにインスパイアされたんです。10代の頃に衝撃を受けたことをようやく今できたということです。ザッパはけっこうスタジオ録音とライヴをシームレスにつなげるんですけど、僕はここでようやくそれをできたんです」
――あのライヴはいつ録ってたんですか?
「いや、自分でもいつのものか確認していないんですよ(笑)。でも、あの録音は名演すぎたし、ちょうどうまくきれいに繋がったんです。編集していたのがコロナの真っ只中でもあったので、あれは自分でもちょっとグッときましたね。“こういう光景は2度とないんだな”と思いながら編集していました。ああしたことでエンディングにきれいにハマる感じも出てきたし、感動大作ですね。僕は自分の作ったものに厳しいというのはあるんですけど、あれは感動してしまいますね。ぜひ聴いてほしいです」
――髙城くん(晶平 | cero)が、自分の声が聞こえると言ってました。DJで参加していたときの録音かな?
「まあ、(髙城は)ほぼいつもいてくれてたから(笑)」
――実際のライヴでは再現できない音像を作ってアルバムに並べていって、最後に裸の藤井洋平が出てくるっていうのはずるいけどかっこいい。
「光永 渉(ドラム)には“ダサい!”と言われたんですけど(笑)」
――いやいや、みっちゃんは陰で感動して泣いてますよ(笑)
「最初はフェードアウトでと思ってたんですが、配信作品ということで、いくらでも長くできるだろうと。だからフルで12分超入れました。このご時世では10分超えの曲なんて敬遠されるかな。“10分”という表示を見ただけで、もう聴かないと思うんですよ(笑)。まあでも、他の収録曲も全部すでに長いんで、まあいいやと」
――あのエンディングで大正解。
「本当に、みんなに聴いてほしいですね。全世界に届けたい曲です」
――タイトルもシンプルの極み。
「デモの段階からこれだったんです。B'zの“愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない”みたいなスピリットを受け継いでしまっていたところですが、そこは大人になったので。もう変にいじるのはいいんじゃない?と」
――大人になったから、なんですかね?
「どうなんでしょうね?老化はあると思います。ガバガバになっているので(笑)」
――こだわるところはこだわりつつ、許せるところも増えてきた。
「本当に、昔の自分が見たら許せないようなタイトルの曲ばかりですね(笑)」
――でも、昔の自分を切り離してしまっているわけでもないですから。
「まあ、それはできないですから」
――そこには“良い意味で”と付け加えたいですね。ライヴに行くと、ファンの人たちも昔の藤井くんと今の藤井くんを自然に繋がったものとして見ていると感じます。
「そう思ってくれているのならありがたいですね。自分のなかでは一応流れとしては順当なんですけど。何か一本貫いてるものを感じてくれたら嬉しいですし、それを願うだけです」
――レコードで30cmになったジャケットのインパクトは大きいと思います。
「まあ、何らかの感情は呼び起こしますよね。“え?何?“とか“え?やだ!”とか。“はいはい”みたいに素通りされる感じじゃない」
――実は藤井洋平は1st、2nd、3rdと、アルバム・ジャケットはすべて顔出しなんですよ。
「そうですね。最終的には上半身裸で撮りました(笑)。でも、今回のジャケット写真は奇跡の1枚です」
――あの布切れは、ピシャッと顔にひっついた瞬間?
「とりあえず顔に置いていじってください、みたいな。どういう状況だったかは覚えてないですが、すごくイマジネーションの湧く写真ですよね」
――女性に何かを投げつけられた瞬間のようにも見えるし。
「何なんだろう?フォトセッションがエキサイティングだったんですが、まさかこんなふうになるとは1mmも思っていなかった。坂本龍一の『左うでの夢』(1981)を意識したのがこんな感じになっていったという(笑)」
――デザイナーのMATERIALさん、フォトグラファーの山口こすもさん、ヘアメイクさんのトヨダ・ヨウスケさん、そしてレコーディングに関わったすべての人たちの尽力が実った、会心の1枚だと思います。配信は昨年からスタートしていますが、こうしてフィジカルでもインパクトを出していける。ライヴも2024年は増やしていきたいですよね。
「これ(レコード)が一石を投じてくれたらいいですね。祭(フェス)とかも出たいですし」
――藤井洋平の音楽って、自分の脳内の音を再現しようとするものだし、音源としては架空なんだけど、ライヴを通じてそれが現実になるのが最高なわけじゃないですか。それはこのアルバムでも貫かれているし、架空と現実の両方ですごい魅力を放っている存在って、今はなかなかいないと思うんですよ。だからぜひもっとこの存在を音楽で感じてほしい。
「感じてもらわないと困っちゃいますから!」
――でも本当に、このアルバムの10曲は10年をかけて磨かれてきたものだし、全部に現時点の藤井洋平がほぼ全部出ている。そういう意味では嘘がない10年なんですよ。変化もあったけどずっと付き合ってくれてた人たちがいて、そこもすごく感動的。ドラマチックなんです。まあ、これからですけど。1月14日(日)のリリース・パーティ「What a beautiful world this will be, What a glorious time to be free」(東京・下北沢 LIVE HAUS)が、2024年のいいスタートになりますように。
「いや本当に。『バナゲ』を作ったときにミックスをしてくれたツボイさん(illicit tsuboi)から“次のアルバムが出るのは10年後だね!”と言われたのが本当になってしまった。それは自分でも腹立たしい事実なんですが(笑)。次はもっと時が経たないうちに早く出したいと思います。とりあえず今は、この無法の世界に旅立ったこのアルバムを“最初から最後まで聴いてくれ!”としか言いようがないです。両手を縛った状態で(笑)」
藤井洋平 Instagram | https://www.instagram.com/fujiiiyohei/
■ 2023年11月17日(金)発売
藤井洋平
『Extasy』
https://kakubarhythm.lnk.to/Extasy
Vinyl KAKU-173 税込3,960円 | 2024年1月17日(水)発売
[収録曲]
01. Welcometomyextasy
02. OH, NO
03. extasy
04. 意味不明な論理・方程式
05. Go Die Go
06 i wanna be your star
07. D.T.T.M.
08. Vibrator
09. Can’t Stop the Music
10. ballad
■ 藤井洋平 ワンマンライブ
What a beautiful world this will be, What a glorious time to be free
2024年1月14日(日)
東京 下北沢 LIVE HAUS
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 3,500円(税込 / 別途ドリンク代) Sold Out
一般販売: 2023年11月25日(土)-
e+ | LIVE HAUS livehausticket@gmail.com
[Live]
藤井洋平 & The VERY Sensitive Citizens of TOKYO
[DJ]
高城晶平(cero) / MINODA(SLOWMOTION)