クーランディアからユートピアを経て今
新たに始まったソロ・プロジェクトは、硬派でいかついノイズであることに驚かされた。C.C.C.C.やGovernment Alphaといった同国の伝統的なノイズミュージシャンを彷彿とさせるものの、それは彼女が得た音楽的な経験から引き出されたものだ。解き放たれた制作欲求とエネルギーは、自由奔放でありながら綿密に練られ、融合されてゆく。
これまで独「Syrphe」のコンピレーション『Uchronia』をはじめとする多くの作品に参加していたArakiが、今年1月にインドネシア「Gerpfast Raw Tape Division」から発表したソロ・デビューEP『I』の続編となる『II』を、イタリア「Commando Vanessa」から美しいデザインのカセットテープでリリースする。今後はさらにYuko Arakiの名前を見かけるようになるだろう。
取材・文 | Uwe Schneider (African Paper) | 2019年9月
初出 |
Main Photo | ©Tatyana Jinto Rutherston
――ソロ作品『II』の制作が終わったところだそうですが、他にも様々なバンドで活動されているので、実り多い日々かと思います。次のツアーの準備以外には今、なにをしていますか?
「東京での生活を保ちつつ、新しいライヴセットを試したり、それぞれの新作に向けて曲を作ったりしています。今年の前半はツアーでいろいろな国に行ってすごく忙しかったので、ようやく一息ついて次はなにをしようかな、と考えているところです」
――あなたの幅広い音楽性は、それぞれのプロジェクトにも反映されていますね。それらはどのくらい影響し合うものですか?干渉し合うことや、アイディアをはっきりと分けるのが難しいと感じることがありますか?
「化学反応みたいなもので、どれかの作業をしている間に違うプロジェクトのアイディアを得て、それを散布しているような感覚です。同時進行でいろんなプロジェクトを進めるのは、強迫的なアイディアを実現するための機会を保ち続けることでもあります」
――ソロ・プロジェクトを始めたきっかけは?
「長谷川 洋さん(ASTRO, C.C.C.C.)から“企画にソロで出てみないか”と誘われたのがきっかけです。声をかけられたことがとても嬉しくて、即興演奏をしてみようと決めました。できる限り同時に演奏できる機材を並べて、それが初めてのライヴになりました」
――『II』は前作『I』よりもさらにシンセサイザーにフォーカスした音作りとなっているようです。それぞれの制作アプローチについて教えてください。
「『I』のA面では、自分の声と壊れかけたシンセを使って、ポップでローファイな音作りを目指しました。出演が決まっていた今年1月のインドネシア“Jogja Noise Bombing Festival 2019”に向けてのリリースだったので、現地にいる自分がどんなに楽しいかを想像して、わくわくしながら作りました。B面のテーマにした5拍子とフィードバックは『II』にも続き、『II』ではさらに12平均律に捕らわれない和音を作ろうと考えました」
――新しい素材を作り始める衝動は、技術面と感情面のどちらから来るものですか?
「先日、実家で祖父が使っていた三味線を見つけて、新しいアルバムを作りたいと思いました。自分の身に起きたことを結び付けて制作するのが好きです」
――制作する際は、先に特定のアイディアを得ますか?それとも即興的に試行錯誤しながら進めますか?
「どちらの場合もありますが、最近はまずどの楽器を使って録音するかを決めることが多いです」
――ノイズ・ミュージック(ノイズロック、ハーシュノイズ、ジャパノイズなどのサブジャンルも含む)は長い伝統を持ち、1970年代から続く典型的なフォームとも言えます。それは過度のインスピレーションとしてプレッシャーにはなりませんか?
「もともとはそれほどノイズの熱心なファンではなかったんです。それよりはもっと、多様なロックのファンでした。でも東京はノイズやエレクトロニック・ミュージックのシーンがおもしろいので、遊んでいるうちに影響され、昔母親に買ってもらったKORGのシーケンサーを引っ張り出したりして、電子機材で演奏することに傾倒していきました。だから歴史からプレッシャーを受けることなく、新鮮な気持ちで始めました」
――特別影響を受けたノイズの音源やミュージシャンはいますか?
「Astro、Pain Jerk、ENDON、黒電話666、Government Alpha、Like Weeds、INCAPACITANTSなど、実際に観た数々の素晴らしいライヴに影響されました」
――あなたのバンド、KUUNATIC、Concierto de la Familia、YobKissについてそれぞれ紹介してください。
「KUUNATICは“クーランディア(Kuurandia)”という架空の国の新しい民族によるトライバル・ロック・バンドです。Concierto de la Familiaはブラックメタルやネオクラシカルに影響されたダーク・アンビエント / コールドウェイヴ・デュオで、YobKissはPaul Borchersがプロデュースするアシッドハウス・デュオです。Borchersの勧めでシンセx0xb0x(TB-303クローン)を演奏し始め、それがソロ・プロジェクトの機材になりました」
――幼少からピアノを習っていたそうですが、その他の楽器は独学ですか?
「レッスンを受けたのはピアノだけです。それは様々な楽器を演奏する基盤となりました」
――KUUNATICであなたは日本の呪術的な音楽(典型的な西洋側の表現に聞こえたらごめんなさい)を用いて実験的なことをされていますが、どんなものにインスパイアされていますか?日本での反応はいかがですか?
「わたしたちは日本に限らず、世界中のトライバリズムやシャーマニズムにインスパイアされています。日本でもとてもいい反応をもらっています。時々巫女に例えられることもありますが、特定の伝統に影響されているわけではありません。おもしろいことに、聴く人によって全く違うジャンルにカテゴライズされるので、結局のところ分類できないもの……それはわたしたちが純粋なクー人(クーランディアの民族)であるということです」
――KUUNATICは日本人の女性アーティストを集めたコンピレーション・アルバム『Seitō: In the Beginning, Woman Was the Sun(青鞜: 原始、女性は太陽であった)』(仏Akuphone, 2019)に参加しています。同作のタイトルは明治時代に発行されたフェミニズムの雑誌から採られていますが、当時と比較してクリエイティヴな女性のありかたは変わったと感じますか?また、男性のミュージシャンと比べ、女性のミュージシャンはどのように受け入れられていると思いますか?
「日本はたしかに男性が支配する世界で、女性が平等に扱われるにはまだ遠いでしょう。大きく変わったようには思えません。わたしの場合、男性ばかりの中で育ち、同じものを好む人物に男性が多かったので、ある意味、変化に対して敏感ではないのかもしれないです。KUUNATICはわたしにとって初めて女性の仲間と組んだバンドです。メンバー(Fumie C Kikuchi, Shoko Yoshida)とは素早くシンクロできて、世界観の創出や合唱が容易だと感じます。この、わたしにとっての新しい経験には、社会規範の歴史から逸脱した、原始的な感覚を覚えざるを得ないのです」
■ 2019年10月17日(木)発売
Yuko Araki
『II』
https://commandovanessa.bandcamp.com/album/ii
[収録曲]
01. Vermilion Bullets
02. The Lathe of Eden
03. Marooned on Mars
04. Taklamakan
05. Blind Temple
■ Yuko Araki
Fall Europe Tour 2019
| 10月12日(土)イタリア ローマ Klang
| 10月13日(日)イタリア レッチェ Officine Culturali Ergot
| 10月14日(月)イタリア ボローニャ Freakout Club
| 10月15日(火)オーストリア ウィーン Fluc
| 10月17日(木)オーストリア グラーツ ARTist’s
| 10月18日(金)イタリア ボルツァーノ Bunker
| 10月19日(土)イタリア トリノ Living Room
| 10月20日(日)イタリア ヴァルデンゴ Vecchio Mulino
| 10月21日(月)スイス チューリッヒ Boschbar, co-headliner with Sugai Ken
| 10月23日(水)スイス ローザンヌ Humus
| 10月24日(木)フランス メス La Chaouée
| 10月25日(金)ベルギー コルトレイク Living Room Sessions
| 10月26日(土)イギリス プリマス Union Corner – Stonehouse Action
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10月27日(日)イギリス ロンドン Cafe Oto opening for NEGATIVLAND
| 10月28日(月)イギリス ロンドン Cafe Oto opening for NEGATIVLAND
| 10月29日(火)オランダ ロッテルダム Antenne
| 10月30日(水)ドイツ ベルリン Kiezsalon