Review | ILLBIENT (NOT ILLBIENT): Music for AirPollution Expanded


AIWABEATZ編

 AIWABEATZとASPARAが、obocoによる制作進行のもとで昨年9月に“イルビエント illbient”がテーマのスプリット・ミックステープ『とあるバンドメンバーの失踪について / 맑은 공기』をリリース。本稿では、同作にまつわる対談記事「ILLBIENT (NOT ILLBIENT): Music for AirPollution」内で作成していただいたイルビエント・セレクションについて、選者ご自身に詳しく解説していただきます。今回はAIWABEATZ編。

序文 | 久保田千史

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とあるバンドメンバーの失踪について / 맑은 공기

Interview | 対談: AIWABEATZ + ASPARA (司会: oboco)

ILLBIENT (NOT ILLBIENT): Music for AirPollution

Photo ©ASPARA

Review | ILLBIENT (NOT ILLBIENT): Music for AirPollution Expanded

ASPARA編

① Sensational『Corner The Market』1999, WordSound + 『Loaded With Power』1997, WordSound

Sensational 'Corner The Market'ローファイ・ジャンクなドラムとベース、たまに入る単発的な上モノ、ヘッドフォンをマイク代わりにしたボソボソとしたラップ。ソロ・デビュー作『Loaded With Power』で打ち出したこのザ・センセーショナル・ワールドとでも言うべきサウンドをさらに推し進め、唯一無二の金太郎飴作品として提示された2ndアルバムにしてイルビエント金字塔。またはMartin Rev『Strangeworld』(2000, Sähkö | PUU)のラップ版と言えばより良くあなたに伝わるかもしれない。

② Slotek『Hydrophonic』1999, WordSound + Spectre『The End』1999, WordSound

Slotek 'Hydrophonic'ドラムの鳴りや質感を聴けばすぐにSpectreの変名とわかるだろうが、こちらはダブの持つメディテーション効果により重きを置いたというか、ニューエイジ要素を取り入れたというか。Spectre名義のアルバム『The Second Coming』(1997, WordSound)や『The End』(1999, WordSound)と併せて聴けば、陰と陽。この人の全体像がより掴めると思います。瞑想ポッドの中での、いかがわしくもスピリチュアルな聴取体験。

③ JUNGLE BROTHERS『J. Beez Wit The Remedy』1993, Warner Bros. Records + CRAZY WISDOM MASTERS『The Payback EP』1999, Black Hoodz

JUNGLE BROTHERS 'J. Beez Wit The Remedy'プレ・イルビエント最重要作。BEASTIE BOYSとTHE DUST BROTHERSの『Paul's Boutique』(1989, Capitol Records)同様、その革新性については当時は“地味”とスルーされ、後年真っ当な評価を受けることとなった典型的な裏クラシック盤。それがBill Laswellがもたらしたものなのか、当時在籍していたSensationalによるものなのか、はたまた彼らを呼び込んだメンバーたちの資質ゆえか。わからないが、ブラックホールなサイケデリアからの手招きがあちらこちらに。

④ Req『Frequency Jams』1998, Skint + 『One』1997, Skint

Req 'Frequency Jams'オールドスクールなヒップホップやエレクトロ、ブレイクビーツを下敷きにしながらもパーティ感覚から離れ、ここまで徹底的に個(孤)と向き合った作品 / 作家もなかなかないと思う。グラフィティ・ライターによるものと聞くと本当に合点がいき、結局自己との闘いなのだなあと。それはまるで不知火とDrifterを足して2で割り、RadioやSnoのエッセンスをまぶしたかのよう。Skintからの1st『One』と2nd『Frequency Jams』ともに必聴。NYイルビエントと同時代性を持つUKからの返答。

⑤ Jigen『Blood's Finality / 狂雲求敗』1998, 不知火 + LEGO BEAST『LEGO BEAST & MANDRILL MIXER』2003, Drifter

Jigen 'Blood's Finality / 狂雲求敗'不知火作品全てを挙げたいし、その意味ではレーベル・コンピの『Shadow World』(2001)が最適かもしれないが、1枚選ぶとしたらやはりJigen。これが2022年に海外レーベル(^ ^)からリイシューされたことを本気で悔しがった日本人が数名いたことをあなたは忘れないでほしい。極北の中の極北。間 章が生きていたら、この音楽をどう評しただろうか。サンプラーを使ったフリージャズの記録として永遠に刻まれることだろう。

⑥ BOREDOMS『Super Roots 6』1996, WEA Japan + Philip Jeck『Loopholes』1995, Touch

BOREDOMS 'Super Roots 6'BOREDOMSの作品としては実験的なEP / ミニ・アルバムのような扱いだった『Super Roots』シリーズだが、この『6』は彼らの音楽性のそれ以前と以降とを分ける決定的なもので、ある人が聴けば音響テクノ、またある人が聴けばポスト・ロック、はたまたある人にとってはエクスペリメンタル・ヒップホップに聴こえるまるで鏡のような作品。EYEがPhilip Jeckの『Loopholes』を95年の年間ベスト作に挙げていたのを知ると、この96年作への理解が進むと思う。どちらもあなたや私のヒップホップ耳に雄弁に何かを訴えかけてくるようだ。

⑦ DUB SONIC『Forward (Version) / Dongima Dub』2001, SONIC PLATE

DUB SONIC 'Forward (Version) / Dongima Dub'上記の『Super Roots 6』に入っていてもおかしくないダブルサイダー7"。レゲエ / ダブの影響をこういったかたちでアウトプットできるのは非常にイルビエント的であり、SpectreやSensational同様ベッドルームから宇宙へと繋がる希有な存在だったんだろうと心底思います。間 章的な“極北”表現を行っていたタケさん(中里丈人)が、村上 龍のようにキューバ音楽に惹かれていったのはすごく興味深く思える。北を目指す者はいつも野垂れ死にだ。

⑧ Moor Mother & billy woods『Brass』2020, Backwoodz Studioz

Moor Mother & billy woods 'Brass'billy woodsや彼の所属するARMAND HAMMERらの大きな影響元として、COMPANY FLOWやMike Ladd、SONIC SUM、ANTI-POP CONSORTIUMらOzone勢が挙げられるのは明白で、それゆえに同時代性を共有したWordSoundの空気も自ずと感じられる。時代が1周してか、彼らのような存在が出てきたのは、Mr. Muthafuchin' eXquireがCO-FLOWのインスト2ndアルバム(『Little Johnny From The Hospitul (Breaks End Instrumentuls Vol.1)』1999, Rawkus)のビートをジャックして浮上してきたとき(そう、「Huzzah Part Two」だ)のような興奮を覚える。とはいえ焼き直しではないからこその輝きで、Moore Motherとのこのジョイント・アルバムは今イルビエントを語る上でも非常に重要な作品に思える。

⑨ Sensational ft. Planteaterz『The Pearl』2022, naff recordings

Sensational ft. Planteaterz 'The Pearl'あなたが近年のSensational作品の熱心なファンじゃなくても、また、あの時代のイルビエント・ムーヴメントを経験していなくても、このアンダーグラウンド・ヒップホップの傑作に惹かれるところがあるならば、今からでもWordSoundの作品を聴いてみてほしい。少なくとも私はこれを聴いてSensationalの1stと2ndを思い出したし、Spectreの諸作やSlotekを思い出した。そして、不知火レーベルやReqのことを思い浮かべ、それから今のNYアンダーグラウンドについていろいろと考えた。不思議とそういうパワーのある作品だと思う。

⑩ DJ Pin『Fudge Of Jazz』2022, Noche Tropical

DJ Pin 'Fudge Of Jazz'この作品のリリースに関われたことを心より誇りに思います。COMPUMAさんがNewtone Recordsのオンライン・ショップにて書いてくださったレビュー内でジャンブラ3rdが引き合いに出されており、ハッと膝を打つと同時に目から鱗が落ち、耳垢がぼろぼろとこそげ落ちていきました。沖縄の偉人がロシアのアンダーグラウンドを妄想したら、NYクルックリンやその他あちらこちらを経由して宇宙へ飛び立っていったなんてめちゃくちゃ痛快じゃないすかね。これを聴いてやられた人はぜひピンさんの生のプレイを見てください。現場からは以上です。

https://nochetropica.base.shop/items/61326209

| 総評 文 | AIWABEATZ | 2024年3月

 基本的には自分にとってイルビエントとはWordSoundとBlack Hoodz、SpectreとSensational。


 “イルビエント”という言葉と1997年から2000年頃の聴取体験とが自分の中で密接に関係しているので、ディスクガイドを作ろうとするとこの時期に聴いたものがほとんどとなる。イルビエントはヒップホップの中のひとつのサブジャンルである(と私は考える)が、いわゆるヒップホップとジャンル分けされるもの以外もヒップホップ耳で捉えること、それはこの時期の聴取体験で育まれたものだった。しかも個人の感覚というよりは一種の時代のムードのようなもので、例えばAUTECHREをヒップホップとして捉える感覚、その感覚は原 雅明さんやDJ KENSEIさんたちが当時推し進めたものだろう。私は虹釜太郎さんからの影響も大きく受け、COMPUTER SOUPやUtah Kawasakiを、またはWOODMANの変名プロジェクトであるMANOHRAAをそういった耳で捉えていた。


 『とあるバンドメンバーの失踪について』に関して言えば、私のサイドはDEV LARGEの「黒船」とSlotekとの類似性がまず大前提で、ビートとSEの混ぜかた、その質感に近いものを感じていた。「黒船」の7inchを33回転で再生すると、その感じが際立つのを発見したのだった。BUDDHA BRANDが日本に輸入した“イル”という感覚は、ラップ面での功績が語られがちだが、インスト曲を今改めて聴くと、ビート面の“イルさ”に改めて気付くことができる。スクリュードでレコードをゆっくりかけることは、即ちゆっくり聴き取ることでもあり、そのイルネスにより細かく耳を澄ますことができるのだった。

AIWABEATZ 'Like No Other 3'■ 2023年12月8日(金)発売
AIWABEATZ
『Like No Other 3』

Bandcamp

[収録曲]
01. Blue (feat. VOLOJZA)
02. Too Salty (feat. 九九時計)
03. Seeds For The Future (Marvy Mix) (feat. EASTERN.P)
04. A$KTAX Free$tyle (feat. Lil.Young.J''Я''® & SIVA JA SATIVA
05. Spit Pain Spit Power (feat. AUGUST)
06. Life Pt.2 (feat. OH!KISS & BLACKMONEY)
07. Jelly Bean (feat. HYDRO as BNJ)
08. Robin Hood (feat. MUTA)
09. Chips (feat. AUGUST, COVAN & IRONSTONE)
10. Memories Of The Town 2 (feat. CRYSTAL BRAIN)
11. Friday (feat. VOLOJZA)
12. コクミンファック '23 (feat. 金勝山)

AIWABEATZAIWABEATZ あいわびーつ
Bandcamp | SoundCloud

DJ / プロデューサー from 西東京。aka TYMESLYCE。

ヒューストン・スタイルを受け継ぎながらも、スクリューがもたらす効果を構造的に捉え、その可能性を模索 / 拡張するDJとして知られ、AKIRAM ENが主催する東京・幡ヶ谷 Forestlimit「ideala」を中心に各地のパーティで活躍。

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