Interview | 高山 燦 x 前田流星 x 九鬼知也


遊びがほんまになっていく感じ

 2015年に京都精華大学の学園祭“木野祭”に出演するために結成された、男女デュアル・ヴォーカル、トリプル・ギターの7人組バンド“バレーボウイズ”が、“5年続けてきた「なつやすみ」を終える決断”をし、2020年9月30日に解散。同日にラストとなる新曲「オバケな彼女」「風のように」を発表。この2曲を収録したCDが付属する100部限定のジン『ブルーハワイvol.5 タイムカプセル』は即完売となりました。

 バンド活動の一環としてハンドメイドのジンを定期的に刊行するほか、個々でのアート活動も盛んだったバレーボウイズの元メンバーから、バンドのカヴァー・アートを手がけてきたグラフィック・デザイナーの高山 燦 aka チャッキー(g)、アーティストとして活動する前田流星(vo)と九鬼知也(g)の3人に、これまでのバレーボウイズの活動を振り返ると共に、解散後のそれぞれが目指す道、今後の展開などを語ってもらいました。


 なお「AVE | CORNER PRINTING」では本インタビューを記念して、CORNER PRINTINGが制作した3人のアイテムを後日発売予定。高山の4曲入りカセットテープ『cassette』、前田による『マンダラバンダナ』、九鬼による『ドクロとグーcap』の3アイテムです。


進行 | 鷹取 愛 | 2020年12月
文 | 仁田さやか
写真提供 | 高山 燦・前田流星・九鬼知也
バレーボウイズ『なつやすみ'18 猛暑』(2018) Designed by 高山 燦
バレーボウイズ『なつやすみ’18 猛暑』2018 | Designed by 高山 燦

――バレーボウイズ解散後、みんながどうしているか気になっていて。今回はお話を聞けて嬉しいです。まずはそれぞれお名前と、今やっていることを教えてください。
前田 「前田流星(まえだ りゅうせい)です。今はずっと続けている絵を中心に作品作りをやっています。展示は2021年にできたらいいな、って感じで動いてますね。音楽は遊ぶ程度で、たまにサンプラー触るくらいになってます」
高山 「高山 燦(たかやま あき)です。今はグラフィック・デザインの仕事をフリーでやっていて、音楽も続けています。去年の年末にソロのバンド・セットを初めてやりました。リズム隊だけ元バレーのメンバーにやってもらって」
九鬼 「九鬼知也(くき ともや)です。絵はずっとやってるし、もともと京都精華大学で陶芸を専攻していたこともあって、最近は陶芸も始めて。それでまあまあ楽しくやれてる感じです。音楽はなんか何かしらかたちになったらやりたいな、くらいで。急いでやりたいとかはないですね」

――3人は京都精華大学で知り合ったんだよね?
前田 「僕が後輩で、九鬼くんとチャッキー(高山)が1つ上の学年です」

――在学中はお互いの作品を見てたの?
高山 「流星と何人かでギャラリーをやっていたときに、そこで九鬼くんの作品を初めて見て」

『無題』(2014)35×25 紙に色鉛筆、水彩、ボールペン ©九鬼知也
『無題』2014 | 35×25 紙に色鉛筆, 水彩, ボールペン | ©九鬼知也

前田 「そこでちょっとしたイベントをやったり、フリマをやったり。チャッキーは一緒に運営をやっていて」
――お互い知り合ったときはどうだったんだろう?
九鬼 「僕はチャッキーと知り合ったときに、クラスメイトとか、身の回りにいなかったタイプ。当初、チャッキーは身近な日用品やモノを題材に、平面や立体でなにかわからないけどおもしろくて気持ちいい表現をしていて、いいなと思った。興味のある物事や芸術が似ていて、制作の起点や作る楽しみが共感できたり、互いの作品について会話できる。よく会いに行ってたのを今思い出しましたね。めっちゃ会いに行ってた」

――学部も違うけどって感じ?
高山 「そうですね。食堂前の広場みたいなところでバケツドラムをやっている九鬼くんを見たのが最初だった気がする」
九鬼 「音楽をやっている友達も全然いなくて、ひとり遊びみたいな感じで、ゴミを拾ってきて(笑)。友達作りたいなと思って、いろいろやってましたね」
高山 「それを見たらおもろくて、作品もめちゃめちゃかっこよくて。流星は、もともと学科が一緒やから同じ感じのところにおって、知ってはいて。デザイン学部ビジュアルデザイン学科ってとこだったんですけど。流星っていう派手なやつがいるって思ってた(笑)」
前田 「僕はわりと先輩といることが多かったですね」
高山 「共通の友達も多かったしね」
前田 「そういうので、チャッキーが九鬼くんを展示に誘ったりして、バケツドラムも見てたし、それで知り合って」

――そのときもみんな音楽やってたの?
高山 「うん。軽く弾き語りをやる感じで、頭を九鬼くんに手伝ってもらったりしてた」

――ふたりは同じ学科だったんだね。
前田 「僕は、デザイン学部ビジュアルデザイン学科のデジタルクリエイションコースで、チャッキーは同じ学科のグラフィックデザインコース。僕は映像を習ってたんですけど、絵を描いたり、シルクスクリーンを刷ったりもしていて」

©前田流星
©前田流星

――バレーボウイズが出していたジン『ブルーハワイ』は、デザインを含む記事制作もハンドメイドで、そもそもバンドがジンを出しているというのもおもしろい試みで。何でもやりたいっていう考えかたなんですか?
前田 「そうですね。おもしろそう、楽しそうなことにはなんでも遊び感覚でチャレンジしてみようって感じです」
高山 「バレーボウイズっていうバンドを組んで活動してる以外は、わりと他の美大生と変わらなくて。ただバレーボウイズだけが、異質だったんだよね」
九鬼 「それ、どういう感覚?」
高山 「おもろいことがあったら進んでやる、っていうノリみたいなのが結果的にバンドになったけど、それとは別に、絵は自分でやっていることとしてあったから。流星が4回生のときにバンド組みたいって話になって。僕は精華大学の卒業生が住む、クズが集まるシェアハウスに住んでいて、特に仕事があるわけでもないしっていう、そういうタイミングで。“木野祭”っていう、精華の学祭に出たかったっていうのがあって。その前に、僕が卒業してからすぐ音楽はやり始めていて、九鬼くんと、もともとメンバーだったネギちゃんと、最初のドラムやったきみちゃんとかと1、2回ライヴをして。それが終わったタイミングくらいで、メンバーまるごと引っこ抜いてバレーボウイズに移行した」

「ブルーハワイ’19 あとのまつり大阪編・東京編」フライヤー(2019)Designed by 高山 燦
「ブルーハワイ’19 あとのまつり大阪編・東京編」フライヤー 2019 | Designed by 高山 燦

――それぞれがバンド以外にも個々でいろいろなことをやっている個性の塊みたいな人たちで集まって、しかも7人という人数で、チームでずっと続けてたのがすごいなって思ってた。
前田 「限界、もうやばいっていう状態のときは何回もあったけど、なんとかみんなで支え合ってたところはあったんです。個性の塊が7人も集まってひとつのことをする、それが一番のおもしろみではありました」
高山 「振り返ると、懐かしい」
九鬼 「懐かしんでるやん(笑)」
前田 「こんだけパタンと離れると、やってたかな?くらいに思う」
高山 「それは思う、夢っぽかったなって。ようやく地に足ついてる感じ」

――そうか、解散したのは9月末だから、まだ3ヶ月経ってないんだね。
高山 「まあでも5月には決めてたからね」

――告知までの4ヶ月はどんな過ごし方をしてた?
前田 「最後どうするかっていうのを考えて。ラジオも残っていたりもしたし、あと最後のジン『ブルーハワイvol.5 タイムカプセル』の制作をしたり」
高山 「一番仕事量あったんちゃうかな(笑)?あのとき」
前田 「録音してた曲があったので、それをどうするかっていうのを、5月から9月に向けてやっていた感じですかね」

――『ブルーハワイvol.5 タイムカプセル』は、バンドのみんなを詰め込んだボックスだったよね(* 1)。バンドってヴォーカルが主役に捉えられるところがあるけど、全員をそうやって尊重して、全員が主役って思える内容ですごく良かった。あれは誰が考えたんですか?
高山 「あれはアルバムを録っていて、1曲だけレコーディングした状況で解散が決まったから、宙ぶらりんになっている曲がいくつかあって。それをどうにか形にしたいっていうのがあって、解散するというのがあってリリースするものではあるけど、どうやったらハッピーに出せるかっていうのを考えていて。そもそも僕ら自身は個々がおもしろいことやっているっていう、バンドと個々の活動が一緒に盛り上がっていければいいなっていうのはずっと思っていたから、全然そういう点でいうとまだまだできてなかったとは思うけど、最後にこれからも、っていう気持ちを詰め込めたらいいなという思いがあって。みんなの意見も一致してかたちにしたという。出す口実と一緒に」
* 1 「オバケな彼女」「風のように」収録CD 、「ひとみ」収録カセットテープ、ジンのほか、「ネギの歌詞」「流星のポスター」「ツヅミの短編小説」「九鬼のステッカー」「ムコの曲」「武田の叩いてみた」をパック。高山がプロデュースを担当。

――即完売だったよね。
前田 「もともと僕らがジンを売ってたのも、みんなの活動も個々のことも知ってもらおうっていうイズムがあって作ってて。最後もそういう形で作ったっていう感じです」
九鬼 「自然な流れです」
高山 「それに関してはもっともっとがんばれたかなあって思うけどね」

――それが終わってから個々の活動への思いが強くなってきたのかな?それとも迷ってるところもある?
前田 「バンドが終わって今まで以上に絵のことを考える時間ができたし、いろんなアイディアも出てきてます。よし、やろうって感じです」
高山 「もともとそのデザインでやるみたいなのはずっと思っていたから、そこで飯は食いたいなと思っていて。今よしやるぞって変化は特になかったけど、普通に仕事もらったときに現実を突きつけられるっていう。自分の現状っていうか。スキルアップしないとなって思ってる」
九鬼 「絵や自分の作品でやったろうっていう気持ちはたぶんバンドやる前からずっとあって。でもなんかどんどんバンド中心になってきて、バンドが終わった今の気持ちとしては、やったろうの時間のズレがすごすぎて、すごい難しい心境。でも、そことは全く違う楽観的な気持ちもあって、すごい壮大やと思います(笑)。すごくいろいろな感情になるんですけど、楽しいことしたいなって感じですね」

『無題』(2020)26×36.5 紙に色鉛筆、水彩、ボールペン、クレヨン ©九鬼知也
『無題』2020 | 26×36.5 紙に色鉛筆, 水彩, ボールペン, クレヨン | ©九鬼知也

――九鬼くんが2019年10月に京都・VOU/棒でやった展示『DEATH DREAM』のインタビュー『金田金太郎のアートウォッチメン!』に、バンドを始める前は外側をずっと描いてたけど、バンドを始めてからは内側の絵を書くようになったって書いてあったのが印象的で。
九鬼 「そうですね」

――それって恥ずかしいこととかも含めて、内側の心のところを描いているって感じ?
九鬼 「バンドをやっていたらそっちに力を注ぐので、バンド以外の部分で、しっかり自分で管理できるキャパがなくなってしまって。それで、絵はしっかりやろうっていう部分で描かずに、とりあえず描いておこうみたいな感じに変わっていったというか。やっぱり美術が好きやから、美術に好かれたいっていうような“外側”の絵は、時間が経ったら描けたらいいなとか思ってますけど」

『無題』2020 | 36.5×26 紙に色鉛筆, 水彩, 油性ペン, ボールペン | ©九鬼知也
『無題』2020 | 36.5×26 紙に色鉛筆, 水彩, 油性ペン, ボールペン | ©九鬼知也

――九鬼くんは、なんのために絵を描いたり、作品を作っていますか?
九鬼 「自分のためにですかね。それしかないですね」

――展示ってなんのためにやってるんだろう?
九鬼 「自分に対することですね。自分の深いところを表現しないとどうにかなりそうやなって感じですかね。伝わりますかね?発言することに代わるものですかね。展示はたぶん」
高山 「だいぶ時間は経っているけど、卒業制作のときの図録に九鬼くんが“社会をまったくわからんから、それをわかるために描いている”みたいなことを書いていて。6、7年前だけど、印象的だからよく覚えてる」
九鬼 「そういうコメントは起点ではあるかな」

――九鬼くんは絵が見るたびにどんどん変わっていて、今後はどんなふうになっていくんだろうと楽しみにしてます。
九鬼 「ありがとうございます」

――流星は、学生時代から描いている白黒いの人のモチーフをこれからも描いていくんですか?
前田 「白黒で書くことは多くて、でも最近はそんなこともなく。いろいろ実験的に試してるって感じですかね。今はあまりとらわれへんように」

――流星はずっと描いていることが楽しそうに見えるけど、どうですか?なんのために描いている?
前田 「自分のために描いてるんやと思います。想像したことが形になるのは楽しいし、展示をして普段会わない人に会えたりするのも好きかな。自分でやってることが一番感動できるし楽しいです。絵以外にもおもしろそうって思ったことには何でもチャレンジしていきたいと思っています。人と一緒に何かをするのも好きやし。絵はずっと続けていくもの、ずっと描いていこうって感じですかね」

©前田流星
©前田流星

――チャッキーはデザインだから、人と作るものって感じだよね?
高山 「そうなんですけど、事務所とか入ったことないし、別に大学のときもそんなにデザインのこと勉強していたわけじゃないから、セオリーが全然わからんくて、自分のできる範囲の中でやっちゃってるなーっていうのがありますね。だからちょっとずつ今はやれることを増やして、もうちょっと大きな規模のものに関わっていけたらなと思っていますね。あとは音楽を続けたいから、それの兼ね合いもまだまだ模索中ですけど。音楽はやりたい」

――バレーボウイズの活動では、いろいろな大人にも会うことが多かったと思うけど、そこでどんなことを学んだ?
前田 「エンジニアの葛西敏彦(* 2)さんとか、プロデュースしてくれた相対性理論の永井聖一さんとか、ほんまに第一線でやってる人と一緒に作品を作れたのは、なかなかできへんことやったなって。自分たちが好きな、当たり前のように聴いてきたアーティストの作品を手がけてきた人たちで」
高山 「シンプルにプロフェッショナルに触れたことが一番大きかった。最初は遊びでバンドを始めたから、音ひとつにしてもこう弾けば良い音になるっていうのも知らんままだったから。あ、これが世に言う良い音なんだっていう、遊びがほんまになっていく感じはやっててすごいおもしろかったけど」
* 2 バレーボウイズのほか、D.A.N.、青葉市子、東郷清丸、蓮沼執太、スカート、大友良英などの作品を担当

©前田流星
©前田流星

――流星が27歳?
前田 「そうです。ふたりは29歳。ネギちゃんが31」

――大人やん!
高山 「そうなんすよ、年けっこういってますよ」

――最後の曲、大人っぽいよ。うまくなったなって思った。
高山 「しごかれまくってたもんな」
九鬼 「地獄のレコーディングがあったもんね(笑)」
高山 「ちょっとずつ毎回できてきてるのが聴いてわかってたやんか、それをデザインで最初からやってて。もう29なのに(笑)」

――いや、まだまだ29は若いよ!80歳くらいまでみんな元気でがんばろう。
高山 「うん、そうですね(笑)」

京都・平旅籠ひばり(Hibari Hostel & Books)展示「森と、眠る」フライヤー(2020)Designed by 高山 燦
京都・平旅籠ひばり (Hibari Hostel & Books) 展示「森と、眠る」フライヤー 2020 | Designed by 高山 燦

――みんなのその後が聞けて嬉しいです。今後の予定があったら教えて下さい。
前田 「今年展示ができたらなと思っています。あとバンドをやっていた時は京都にいることが当たり前だったけど、自分自身で言えばどこにだって行けるし選択肢も増えたので、住む場所を変えるのも全然ありやなって。コロナの状況が落ち着いた時のためにいろいろ準備をしているところです」
高山 「僕は京都で地に足つけて仕事やっていきたいですね」
九鬼 「4月中旬から京都でメモリー・シーというお店を始めます。かわいいぬいぐるみや懐かしいフィギュア、食器など、“ただの物”ではない記憶を集めた場所にしていきたいです。そこで陶芸教室もやれたらいいなと思ってます。ぜひInstagramをフォローして遊びに来てください!よろしくお願いします」

『陶器フィギュア』(2021)全長13.5cm ©九鬼知也
『陶器フィギュア』2021 | 全長13.5cm | ©九鬼知也

――今回、このインタビューを記念して、CORNER PRINTINGでそれぞれグッズを制作してもらうことになっていますが、どういうのを作りたいとかありますか?
九鬼 「キャップに刺繍するとか、刺繍のグッズいいなーって思いました。あとメッシュのポーチや透明のかばんにプリントするのいいなーとか、いろいろ想像してます」
高山 「カセットもいいな。2曲くらい入れるカセットにしようかな!」

――3人のグッズが揃うのを楽しみにしてます。10年後とか、何年後でもいいので、バレーボウイズのみんながまた集まって、音楽に関わらず、展示等、なにかやってほしいなって思う。
前田 「九鬼くんとかチャッキーはよく会ってるから、どこかで交わる可能性は全然あると思う」
高山 「続けてたらそういうのはあり得るよね」

マガザンキョウト「春のステッカー祭り」 マガザンキョウト
春のステッカー祭り
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2021年2月11日(木)-3月11日(木)
京都 マガザンキョウト裏手の町家
〒602-8126 京都市上京区中書町685-3
木金土日祝 13:00-19:00
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入場無料 | 入退出自由

参加アーティスト
umao / ヒグチキョウカ / 6KON / 森 丈人 / 宮嵜 蘭 / STOP & GO / 久保悠香 / VOU / 井上みなみ / オフクワケ / 霜田哲也 / RURIKA / liberta / NC4K / kuh (KYOTO URAYAMA HIKING) / JEREMY & JEMIMAH / たにこのみ / MOTEL / 九鬼 知也 / 前田流星 / ホホホ座 ほか