Interview | AZARAK


結局、気持ちが一番大事

 bluebeardとCHURCH OF MISERY。いずれもそのジャンルを語る上で避けては通れない最重要バンドと位置付けられるが、正反対と言っていいほどに志向性は異なり、直接的な接点もまるでない。しかし、新たな胎動は確かなかたちとなって私たちの目の前に姿を現した。それが“AZARAK”だ。両バンドのメンバーが携えてきた音楽的素養と経験値の融合は新たな価値を提示し、満を持して放たれる1stアルバム『DIGGIN'』がそれをいとも簡単に決定的なものとした。私は断言する、これは2023年を代表する快作だと。それぞれのフィールドで確固たる地位を築いてきた者たちはいかにしてひとつの集合体へと結合していったのか。メンバー・TT(b 戸川琢磨 | 以下 T)、IKUMA(g 川辺育磨 | 以下 I)、JJ(dr 成田淳二 | 以下 J)と共にこれまでの歩みを紐解く1stアルバム完成記念インタビュー。

取材・文 | スー (HYPER IRONY) | 2023年8月
Main Photo ©松島 幹


――結成って何年でしたっけ?

J 「2016年とかかな?」
T 「5月?6月?」
J 「月まではさすがに覚えてない(笑)」
T 「2014年くらいにHIGH RISEの成田(宗弘)さんとMAKHNO(IKUMAが過去に在籍していたバンド)がセッションしたライヴを観に行ったときに、そのことをツイートしたらイクマが“来てたんですか?”ってリプを送ってきて。それがそもそもの始まりかな」

――まず、なんでそのライヴに行っていたんですか?
T 「その当時、いろいろな人の手伝いでベースを弾いていたんだけど、自分のバンドをやりたいな、ってずっと思っていて。それはCOMEBACK MY DAUGHTERS(TTが過去に在籍していたバンド)を辞めるきっかけのひとつでもあるんだけど。メンバーを探そうと思っていろんなライヴに行き始めてたのよ。そのうちのひとつがそのライヴ」

――それってジャンル関係なく行っていたんですか?
T 「ジャンルは関係なかったね。とりあえずいろんなライヴに行った。その段階で自分の中ではメンバーのざっくりとしたイメージはあって。例えばドラムは“タムの音がデカい人”とか。そういう人を探しに行ってた」

――その段階でどんな音のバンドがやりたいみたいなイメージってあったんですか?
T 「なんとなくはあったけど、あくまで自分のバンドをやるのがテーマだったから、それに付き合ってくれそうな人を探してた(笑)。さっき言った成田さんとMAKHNOのセッションの後にイクマとはDMのやり取りをするようになっていたから、早々に会って誘ったんだけど、その当時イクマは僕のこと信用してなかった(笑)」

――なんですかそれ(笑)。
T 「それで、ああ、ちゃんと弾けるところを見せないとダメだなこれはと思って。そのときMAKHNOはベースレスだったから、ちょっと弾かせてよって言ったりして。2ヶ月後には一緒にライヴをやったんだけど」

――トガワさんから声を掛けられたとき、イクマさん的にはどういう感じだったんですか?
I 「その頃チャーチ(CHURCH OF MISERY)を辞めたばかりで、早く新しいことを始めたいっていう気持ちはあったんだけど、人に対して疑心暗鬼になったりしていたから……まあ、かなり慎重になってたね(笑)」

――ジュンジさんはそこにどうやって加わってきたんですか?
J 「イクマとはもともとチャーチで一緒にやっていて、まあ……結局一緒に辞めたんだけど(笑)」

――そこはあまり聞かないでおきます(笑)。
J 「そのときの最後のアルバム(『Thy Kingdom Scum』2013, Rise Above Records)のメンバーと、また一緒に何かやりたいとは思ってたのよ。そのタイミングでイクマから連絡が来た」
I 「そう。一緒にスタジオ入りませんか?って」
J 「イクマとなら楽しくできるかもな、と思って参加した感じかな」

AZARAK | Photo ©松島 幹
Photo ©松島 幹

――その誘いってどっちの提案なんですか?
T 「その当時、いろんな人と試しにスタジオに入っていたんだけど、活動が開始できるほどしっくりくる人がなかなかいなくて。そのときに、もうそろそろジュンちゃんに声掛けてもいいんじゃね?って。」

――なんで早い段階でジュンジさんに声を掛けなかったんですか?
T 「チャーチ脱退直後のジュンちゃんは完全にno more doom状態だったから(笑)」

――ノーモアドゥーム(笑)。
T 「あと、チャーチを抜けた後にやっていたバンドでのプレイを観たら、えらいド下手で(笑)。あれ、こんなだっけ?って」
J 「ベロベロに酔っぱらってやってたから(笑)」
T 「そんなこともあって、多少の不安はあったけど、タイミング的にもそろそろいいんじゃないかな?と思って声を掛けた感じかな。結果、問題なかったけどね」

――そこからどうやって進んでいくんですか?
T 「ひたすらセッションしてた(笑)」
J 「俺が入った時点で、トガワさんが“この3人でできる音楽を”って考えていろいろ提案してきてた気がする」
T 「そのときに考えていたのは、どうやったらこの人たちとの距離が縮まるのかな?っていうことだけだよ(笑)。圧倒的に俺、信用されてねえなって。この人たち、本当に人が嫌いなんだな、と思ってたしね(笑)」

――めちゃくちゃ心の距離あるじゃないですか(笑)。
T 「でも、一緒にやったらおもしろいことになるな、っていう予感はしていたから、とりあえずバンバン音出してた感じ」

――そこからどうやって今みたいな音に固まっていくんですか?
T 「バンドをスタートさせるにあたってインスパイアされる音楽はもちろんたくさんあったんだけど、なんかそれだけじゃないものをやりたいな、っていう感じで」

――このジャンルの音楽がやりたいっていうよりも、3人が良いと思えるものを揉んでいったら自ずと今みたいな音になった感じですか?
T 「そんな感じかな。でも、それぞれの趣味がわかってきてからは、ただ僕がやりたいことを投げてるだけのような気もするけどね(笑)。まあ、それをこの3人でやると今みたいな仕上がりになるっていうイメージかな」

――このあたりでアルバムのリリースの話に入っていきたいんですけど、2016年の結成から7年経って単独音源自体が初です。これって想定通りですか?
T 「いや、だいぶ時間かかったね。ひたすらライヴをやってきた中で、自分たち的にもいい感じでバンドが出来上がってきたな、っていう感触もあったから、ああ今だったらいけるかもな、っていうタイミング。時期が来た感じ」

――今回のレーベルはHello From The Gutterですよね。別に変な意味ではなく、3人のこれまでの経歴を考えると他にも選択肢があってもおかしくはないと個人的には思ったのですが、なんでHello From The Gutterに決めたんですか?
T 「僕が松田君(松田隆広 | Hello From The Gutterオーナー)のところから出したかったっていうのが理由だね」

――それはなんでですか?
T 「実は松田君とは付き合いがすごく長くて、僕が10代の頃、当時大学生の松田君とライヴハウスでたまたま友達になって、キッズだった僕からしたらなんでも知っている人っていう感じで。さっき話した、バンドのメンバーを探しにライヴを観に行ったりしている時期に、松田君の企画にも遊びに行ったのよ。そのときに新しいバンドの話もして、結果的にHello From The Gutterのコンピレーション(『Silent Running』2020)にも誘ってもらって。今回のアルバムのタイミングで海外のレーベルとかも含めていろいろ検討はしたんだけど、個人的にあまりリアリティが持てなかったのもあって、国内レーベルからリリースするのであればHello From The Gutterが総合的に考えて僕の中ではベストだと思って」

――その提案をジュンジさんとかはどう思ったんですか?
J 「俺はトガワさんの判断に任せようと思ってたね。AZARAKの中で一番こだわりが強いのはトガワさんだから。それが一番うまくいくと思った。」

――今回のレコーディングはゆらゆら帝国等も手掛けた中村宗一郎さんのPeace Musicで行われてますけど、これはレーベル側からの提案ですか?バンド側からですか?
T 「リリースにあたって松田君とスタジオはどこにしようか?っていう話をしている中で、Peace Musicってどうですかね?って聞いてみたら、松田君も“いいかも!”って言い出して」

――実際に中村さんと一緒に仕事をしてみての感想ってあります?
T 「普通にいいエンジニアだな、っていう感じかな(笑)」

――どういう意味ですか(笑)?
T 「ちゃんと厳しいっていう意味でね。ジャッジも早いし。いろんなバンドを録ってきている経験がすごく伝わってきたね。個人的な印象としては、中村さんは仕事を選ぶ人だろうと思っていたから、今回こういう機会で一緒にやれたのは素直に嬉しかった」
J 「自分のスタジオっていうのもあるんだろうけど、トガワさんも言うようにジャッジの早さを含めたエンジニアとしての仕事ぶりにも早さは感じたかな。基本、晩飯前には終わらせるし」

――イクマさんはどんな印象ですか?
I 「うん、ジャッジが早かった」

――これインタビューなんで、同じ感想言うのやめてもらえますか(笑)。
I 「うーん……まあ日本のサイケとかガレージとかのレコーディングをたくさんしてきている人っていうのもあって、そういう音楽に対するエンジニア的な感覚というか……んー……」

――こっちのことを理解してくれる感じ?
I 「いや、こっちがそれを理解した感じ」
T 「おまえの話かよ(笑)」

――もう次の話題いきますね(笑)。アートワークに関してですが、俵谷哲典さん(2UP)が担当されています。その経緯を教えてください。
T 「友達のSNSを通じて俵谷さんを知って、前々から個展に行ってたのよ。そのときにお互いのバンドの話になって、僕が前にやっていたbluebeardの名前を出したら知っていてくれて。今、新しいバンドをやってるんでリリース時にはぜひアートワークを依頼したいです、みたいな話をふわっとしてたの。アルバムの話が決まったタイミングでFEVER(東京・新代田)で個展をやっていたから、そこに行って正式にオファーした感じ。“トガワさんだったらやりますよ”って言ってくれて」

――単純にもともとファンだったっていうことですかね。
T 「うん、そうそう」

AZARAK | Photo ©松島 幹
Photo ©松島 幹
IKUMA、ドリンクバーでのリフィルのため離席

――そろそろ具体的な曲の話に移っていきたいんですけど、これまで何度もAZARAKのライヴを観ていますけど、「Aphrodite」と「Atlās」って1曲だと思って聴いていたんですよね。アルバムのトラックとしては2曲に分かれているんですけど、これって実際は1曲扱いではないっていうことですか?
T 「言う通り“Aphrodite”と“Atlās”はセットだよ。“Aphrodite”は“Atlās”の前奏部分。でもトラック分けしたの。今回録った“Aphrodite”はパート2」

――たしかに、曲名は「Aphrodite pt.2」になってますね。
T 「ここはイクマが戻って来てから答えようか」

IKUMA、新しいドリンクを持って着席

I 「曲の話?」

――「Aphrodite」と「Atlās」のトラックがなぜ分かれているかっていう話です。
I 「なるほどね」

――何か理由があるんですか?
I 「……ん?」
T 「……ないって(笑)。要はライヴのときに“Aphrodite”の部分だけ違うヴァージョンに差し替えて演奏したりしていて。実際、パート4まで存在しているんだけど、そのときのライヴによって使い分けてる。その源流が今回のパート2」

――トガワさんありがとうございます、理解できました(笑)。KING CRIMSONのカヴァー「Moonchild」についても聞いていきたいのですが、YeYeさんがゲスト・ヴォーカルとして参加されています。このあたりの経緯を教えてください。
T 「なつこ(橋口なつこ = YeYe)とは、Gotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のソロ・プロジェクトのツアー・メンバーとして呼ばれたときに知り合って、彼女の音楽に対する姿勢は見習うべきところがたくさんあったんだよね。いつか何か一緒にやりたいと前々から思っていて。制作に入るタイミングで誘ってみたら、“TTのオファーなら絶対やりたい”って言ってくれたので、お願いしたっていう流れだね。“Moonchild”はライヴのレパートリーとしては前々から持っていたんだけど、僕にはヴォーカリストとしてのメンタリティがないから、この曲を作品にするときには誰かに歌ってもらいたいな、って思っていたのもあって」

――YeYeさん自身の作品って、かなり明るくてポップな印象を持っていたのですが、今回のカヴァーでは楽曲の暗さも相まって、いつもの雰囲気とはだいぶ違いますよね。これって何かオーダーを出したりしていますか?
T 「具体的なオーダーは出していないけど、今回のカヴァーはオリジナルよりもキーが低くて。彼女的にもそういうオファーが珍しかったらしくて、ほぼ丸投げでお願いした。実際のレコーディングはその場でのセッション的な部分も含めて意欲的にやってくれて最高に楽しかったよ。自分たちだけでは完結できなかった部分が、彼女のおかげでうまくまとまったと思う」

中村宗一郎 + AZARAK + YeYe | Photo ©Sho Nakajima
Photo ©Sho Nakajima

――少し全体的な話を聞いてもいいですか?所謂こういうジャンルの音楽って、フレーズの繰り返しや尺の長さとかが悪い意味でのダルさを生んでいるケースもけっこう多いと個人的には感じているんですけど、そういう部分に関して考えている部分ってありますか?
T 「めちゃくちゃ考えてる。主にはキー、あとはバランスかな。イクマと僕の中では当初からそのあたりの普遍的な音像は共有していて、取り憑かれたように延々と繰り返す展開も好きだけど、作っている段階で“これだともうダメだね”みたいな話にもよくなる」

――そういう楽曲のベタさがないことも影響しているのかもしれないんですけど、現在のAZARAKの立ち位置として、どこかのシーンにどっぷり属しているっていう印象がないんです。それって狙っているところがあったりしますか?
T 「メンバーの性格のせいかな(笑)?でも、別に人見知りっていうわけでもないからな」

――人と関わらないっていう感じでもないですもんね。
T 「そうだね、むしろ意見が違う人と話すのも好きなほうだしね。良い音楽を作りたいっていうのが大前提としてあるから、それ以前にどこかに属すっていう意識を特別持ったことがないからかな……。いろいろと面倒を見てくれるんだったら、いくらでも属す覚悟はあるけど(笑)」

――アルバムをリリースした後の話をしていきたいんですけど、現段階で関東圏以外でライヴをしたのはSTORM OF VOIDと行った名古屋だけでしたよね?リリース後にオファーがあれば、全国どこでもっていう感じですか?
T 「まあ条件が合えば」
I 「条件が合えば(笑)」

――相当条件に厳しいバンドだと勘違いされそうですけど、大丈夫ですか(笑)?
T 「お互いの熱意という意味でね(笑)。結局気持ちが一番大事だと思うんで。僕らのスタンスとしてはそんな感じ」

――最後に、今後の展望とかあります?
T 「海外ツアーだね。僕らの音楽が海外の人にも響くようなことがあれば、それは僕らの人生にとってもすごく価値のあることだと思うしね」

――あと、何か伝え忘れたことがあれば。
T 「あ、“Gypsy Lane”っていう曲の歌詞は、2人から聞いたヒデキ君(深沢英樹 | 元CHURCH OF MISERY, BLEED FOR PAIN)の話にインスパイアされて書いてる」

――ヒデキさんの話って何なんですか?
I 「いや、だから、その~ヒデキさんは元消防隊だから~……」

――その情報、何の関係があるんですか(笑)?
T 「イクマはインタビュー向いてないわ(笑)」

AZARAK 'DIGGIN''■ 2023年10月31日(火)発売
AZARAK
『DIGGIN'』

CD HFTG086 税込3,000円
Bandcamp

[収録曲]
01. SEVEN
02. Fresh Leaf
03. Aphrodite pt.2
04. Atlās
05. GYPSY LANE
06. Moonchild
07. 蜂蜜
08. Nectar

EARTHLESS Japan Tour 2023

| 2023年10月3日(火)
岡山 PEPPERLAND
開場 19:00 / 開演 19:30
前売 4,500円 / 当日 5,000円(税込 / 別途ドリンク代)
e+

出演
EARTHLESS / Human Dogs / Ketch

| 2023年10月4日(水)
大阪 梅田 SOCORE FACTORY
開場 19:00 / 開演 19:30
前売 4,500円 / 当日 TBA円(税込 / 別途ドリンク代)
e+

出演
EATHLESS / 秘部痺れ / SLEEPCITY
Light Show: liquidbiupil
DJ: CHAPPY (THE CRANiUM)

| 2023年10月5日(木)
愛知 名古屋 HUCK FINN
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 4,500円 / 当日 5,000円(税込 / 別途ドリンク代)
e+

出演
BLASTING ROD / EARTHLESS / 岡崎幸人

| 2023年10月7日(土)
長野 修那羅山 安宮神社
開場 11:00 / 開演 11:30
前売 4,500円 Sold Out / 当日 5,000円(税込 / 別途ドリンク代)

出演
74 / EARTHLESS / FLOATERS / INVICTUS / STIGMATIZE / YxAxD

| 2023年10月8日(日)
東京 新大久保 EARTHDOM
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,500円 Sold Out / 当日 TBA円(税込 / 別途ドリンク代)

出演
DHIDALAH / EARTHLESS
DJ: genopsydespace

| 2023年10月9日(月)
神奈川 西横浜 EL PUENTE
開場 15:30 / 開演 16:30
前売 4,500円 Sold Out / 当日 5,000円(税込 / 別途ドリンク代)

出演
EARTHLESS / RAZOOLI

| 2023年10月10日(火)
東京 新代田 FEVER
開場 19:00 / 開演 19:30
前売 4,500円 / 当日 5,000円(税込 / 別途ドリンク代)
e+

出演
AZARAK / EARTHLESS