人がコントロールできることなんて、高が知れてる
なおBorisは、『LφVE & EVφL』リリース・ツアーの国内編を全国5都市で開催。2月6日(木)福岡・INSA、7日(金)広島・CLUB QUATTRO、8日(土)大阪・東心斎橋 CONPASS、9日(日)愛知・名古屋 CLUB QUATTRO、16日(日)東京・代官山 UNITの5公演が決定しています。
Photo ©Jacqueline Badeaux
取材・文 | 久保田千史 | 2019年10月
――レーベルの移籍と共に、見えかたが変わりましたね。僕を含め、ストイックなイメージを持っているかたも多いと思うんですけど、今はもう少しフワっとしているというか。TRASH-UP!! RECORDS作成の資料からは、音を全く想像できないっていうのも大きかったですけど。
「それはあると思いますね。そのプレスシートひとつにしても、言葉ってやっぱり、敷居ですもんね。ハードルになっちゃう。そのあたりは、言葉を扱っていらっしゃるから、わかると思うんですけど。見出しとかさ」
――そうですね。言葉から何かしらの切断が始まるのは間違いないと思います。
「敷居が高く見えないようにはしたいですね。眉間にシワ寄せて“こっちだよ”って言ってるのと、小さなウサギが“こっちだよ”って言ってるのだったら、やっぱりウサちゃんのほうに行ってみようかな?って気持ちになるでしょ(笑)?」
――斉藤マミさんのカヴァー・アートもかわいいですしね。
「でも、かわいければいいってものじゃないと思うんですよ。僕はずっと所謂“クールジャパン”的な、“kawaii”文化というものには懐疑的な部分があるので。かわいいだけでいいの?っていう。TRASH-UP!! RECORDSは色々な文化に対して深い洞察を持った2人(シマダマユミ + 屑山屑男)が運営されているので、“kawaii”だけじゃないし、だいぶ懐が深いですね。作品の作り手としては表面的なことだけでなく、人の心に届くエネルギーのありかたを探求したいですよね」
――それがアルバムにも反映されているのでしょうか。『Dear』を踏襲している部分もありつつ、もっと全体的にマイルドですよね。のびのびした感じというか。
「そうですね。何も狙ってはいないんですけど」
――そういうところは相変わらずなんですね(笑)。
「うん(笑)。今は特に、いろんなリミッターが外れて、自分たちのコントロールも効かなくなってきている感じ。なるようになるしかないって部分も受け入れるような。『Dear』の先の、もっと可能性に満ちた領域に踏み込んだ感じですね。このアルバムは最初、自分たちでヴァイナルをプレスして、USツアーの会場限定で手売りするつもりだったんです。ファンに直接届けたい、という感覚でのスタートだったんですよ。ファンクラブ(heavy rock party)の設立はその流れだったりするんですけどね。バンドの運営を足元から見直して、応援してくれている人に対してのもっと直接的なアプローチ、相互に温度感が伝わるようなものにしたかった。それで入稿、プレス代の支払い直前まで進行した段階で、Third Man Recordsからお話をいただいて」
――Third Man Recordsとは、やっぱり2016年にライヴをやったときからの繋がりなんですか?
「そうですね。一見Borisと全然関係ないパブリック・イメージがありそうですけど、MELVINSをリイシューしていたり、SLEEPの新譜を出していたりするんですよ。SLEEPの制作スタッフとBorisのスタッフが共通していることもあって。そういう、友人たちの繋がりで今回のリリースも進行しました」
――ヴァイナルに力を入れているレーベルというのもハマってますよね。
「限定でCDも出していたり、デジタルもがんばってますけどね。さすがにアナログだけで利益を出すのは難しいでしょうし。でも、インディ・レーベルが東洋化成と同じ規模の工場を持ってるのってすごいですよね」
――すごいですよね。なんかスケール違いますよね。
「制作進行も早くてありがたいです」
――Third Manはイベント会場でダイレクト・カッティングができるっておっしゃってたじゃないですか。
「うんうん」
――工場もBlue Roomの近隣にあるんですか?
「Blue Roomはナッシュヴィルのプロダクション・ファクトリーみたいなところにあるんですけど、プレス工場はデトロイトのほうにあるんですよ」
――そうなんですね。モーターシティで製造された作品のCDエディションが、“アイドル”を前面に押し出しているTRASH-UP!!からリリースされるという……落差と言いますか……すごいですよね、ブランディング的に考えたら(笑)。
「でもね、どちらのレーベルも3″ヴァイナルとプレイヤー(RSD3 Mini Turntable)を出してるっていう意外な共通点もあるんですよ」
――あっ、そう言われるとそうですね(笑)!そういえば、あまり関係ない話なんですけど、TRASH-UP!!と親交が深い平澤(直孝)さん(なりすレコード)もRSD3 Mini Turntableを出していて、「売れないと赤字ヤバい」って以前おっしゃってたんですよね……大丈夫だったのかな……。自分がおもしろいと思うものに忠実な人は、反比例的に困窮しているイメージ……。
「そうだよね。音楽って、誰かが“善意”で関わらないと、残っていかないような状況になってきていますよね」
――まあ平澤さんはその代表みたいな人ですね……。音的に語弊があるかもしれないですけど、“アマチュア”っていうことですよね。“アマチュア”の語源て、“愛”らしいんです。
「へえ~。それはいいね」
――そういう意味で、アマチュアリズムが今、大事になってきているのかもしれないですね。
「そうですね。“お金対お金”みたいな数字的な価値の交換ではなくて、もっと、まだかたちになっていない“思い”みたいな漠然としたエネルギーの循環とその実感。そういうのがすごく大事だな、って思って。最近は特に“give & take”とか“win-win”の関係って古いっていうか、見当違いな感じがしてる。愛っていうのは“無償の愛”でしか存在し得ないなって」
――数字的な部分に左右されるやりかたも、仕事として大変だとは思いますけどね。
「大変だろうけど、その方向でしかできなくなっちゃう。利益が出る案件しか動けない。社会とか会社のルールに乗っちゃうとね。考えかた、スタート地点を変えれば、違う方法で利益を作ることだってできると思うんです。ボランティアで、無償の愛だけでやらなきゃいけないということではないですよ。でも愛が工夫を生むとは思うから。やっぱり」
――その過程で、“楽しさ”っていうある種の利益も生んだりしますしね。逆に楽しいことって基本、過程はめちゃくちゃしんどいし。
「そうそう。自分で自分の首を絞めている部分も当然あるんですけど。本当に面倒臭いことが増えたからね、運営を自分たちに戻してから。でも楽しいこともすごく増えた」
――TRASH-UP!!とはそういう感覚の部分でフィットしたのでしょうか。
「うん。僕がイライザ・ロイヤル & ザ・総括リンチのお手伝いをしている流れもあるんですけど、やっぱりMAYUMIさんの人柄が大きいですね、彼女の包容力。結局は人と人との繋がりで」
――やさしさでできていそうなかたですもんね。
「うん。愛に溢れてる。それだけじゃないですけどね。MAYUMIさんも屑山さんも、いろんなことにオタクなんで。知識、経験も桁違い。映画とかね。文化的な背景、奥行があるから。例えばMVだったら、“あの映画の感じで”って言えばちゃんと通じる。そういうスピード感はやっぱり大事ですよね」
――“アイドル”のイメージとの関わりについてはどうお考えなのでしょう。所謂“アイドル・イベント”にも出演されたわけですけど。
「アーティストとして別に、“バンド”とか“アイドル”とかって関係ないじゃないですか。どこに行っても、お互いに確固たるものが見せられないと。そういう世界だと思うんで。Borisはどこに行ってもアウェイだけど、どこに行っても演奏できるっていう自覚はあります。逆に、“バンド”だから“対バン”しかやらないっていうのはすごく嫌なんです。音楽って、すごく限定されたジャンルや要素じゃないですか。映画で考えたら、音楽なんて作品の一部だし、でもそれが重要な意味を持つときもある。だから、“バンドがすべて”という考えは全然ないですね。トータルの表現として、人の心に届くような活動をしていきたいとはずっと思ってますね。そういう意味では、流行り廃りとか、商品性とか本当どうでもいいし、音楽の文脈とか歴史とかも、はっきり言ってどうでもいい。その点でTRASH-UP!!はすごく開かれているところがあって。運営のしかたとかもね。単純にチェキだけでも、僕にはすごく衝撃的なことだったんで。チェキだって、アイドル文化の歴史において非常に重要な要素であったり、意味合いであったり、色んなもの含まれてる。それを感じたり、教えてもらったりするだけでもすごく有意義だし、勉強になるよね。そういうシステムが成立するに当たって、そこに人々が何を求めているのか、とか。TRASH-UP!!とやるのは、いつも刺激があって、広がりがあって、自分も更新できる感じが良いですね」
――僕はフツーにアイドルのライヴを観に行ったりもするので、おっしゃることはとてもよくわかるんですけど、“Atsuoさんのチェキ会……”って考えたときは、さすがに“どうなるんだろ?”って思ってしまって(笑)。でも、先ほどのお話で言うところの、“工夫”にあたるわけですよね。
「ランチェキは500円で、2ショットは1,000円。その差とかね。おもしろいですよね。直に話したり、側にいられる時間に値段がつく。SNSとか見ていると“ライヴの感想を直接伝えられるのが嬉しい”って書いている人がいるんですよね。そういうのは僕も嬉しいし」
――ああ……それはお互いに嬉しいですよね。海外でもチェキやったんですよね?
「海外ではポラロイドだったんだけどね。みんな、その日にしか手に入らないものとか、その日だけの体験とか、複製出来ないようなオリジナルな経験を求めてる」
――なるほど……。僕はBorisのチェキを色モノっぽくしか見てなかったのかもしれないです……。
「うんうん。僕らもそんな、軽はずみに手を出しているつもりはないですよ。実感と必然性を感じないとやっぱり動けないから」
――インストア・イベントも、今までのBorisでは考えられない動きですよね。機材が入りきらなくて出演できないライヴハウスがあったくらいですから。
「そうですね。僕たちとしてもチャレンジングではありました。でも、プレイヤーとして成熟してきているところもあったので。静かな音での表現手法も蓄積できていたし。デカい音じゃないとやれないっていうことはなくなってきていますね。両方できたほうが、僕らの表現の幅を見せられると思うから」
――それは、所謂“デカい音”とは異なる『New Album』での感覚とは違うものですか?
「どうだろう……違うんじゃないかな。あのときは“オーガニック vs 記号”っていう対比だったと思うんですけど、今はオーガニックなフィールの中でのグラデーションの話かな」
――じゃあ、これまでは考えられなかったアンプラグド的なセットも可能性があるということでしょうか。WataさんもTakeshiさんもアコースティック・ギターを持って、みたいな。
「う~ん、その、プラグドとアンプラグドの境界って、僕にはちょっとわからないかな。違いが別に意味を成さないっていうか。大きい音から小さい音までシームレスなものだと思っているので」
――そうなんですよね……う~ん……。
「電気を使うか使わないかっていう話?そこは何か、重要なことなんだろうか」
――そうなんですけど……。世間的な、“ディランがエレキを持った、持たない”的な意味で。
「まあね、世間的にそういうのはありますよね。僕らは昔から“Amplifire Warship”って言ってるくらいだし(笑)」
――そういうことです。プラグを抜くタイミングもあるのかな?って思って。
「エレキを使うとフィードバック、ドローンが演奏しやすいっていうのはありますね。ドラムはもともとアンプラグドだけど、生楽器でドローンを作ることもできるしなあ。弦楽器の表現の探求として、可能性はあるでしょうね」
――仮にそうなったときに、ベタな批評として“曲の良さが際立つ”っていうのがあると思うんですけど、“曲の良さ”って何だと思います?
「“曲の良さ”って、正体がわからないですよね。一般的にはメロディだったりするんだろうけど」
――そうですね、主に歌メロだったり。Borisはそういう側面もあると思います。
「うん。でもアレンジの良さが曲の良さになっている部分もあるから、一概に言えないんですよね。いろいろなタイプの曲を作っているように見えて、実はそんなにヴァリエーションないんですけどね。エンジニアの中村(宗一郎)さんには“またそれ?”ってよく言われますからね(笑)」
――そんな(笑)。しかし、アイドルのみなさんと一緒に出演したTRASH-UP!!の10周年記念イベントでは、いつも通り爆音のBorisでしたね。あのイベントも含め、アイドルのみなさんと接して得られるものも多いのではないでしょうか。
「もちろんもちろん。あのイベントでだけ見ても、すごいギラギラしている人もいれば、TRASH-UP!!の先輩たちはホワ~ンとしてるし、やっぱりアーティストごとに空気感が違う。最初から“アイドル”っていうカテゴリで一括りにするのは良くないですねー。彼女達は楽器も持たないで身体ひとつで多くの視線と対峙してる。ステージ上にはなにもないんです。自分たちは楽器や大量のスモークで視線を外しながら表現したり、フォーカスを合わせてもらうところがやっぱり違ったりしますね。ステージに立つもののありかたとして考えるところは多い」
――そういう環境が、Borisの音楽自体に反映されてくるところはあるんでしょうか。
「それはないですね」
――バンドの動きかたという部分での影響なんですね。
「そうです」
――ちなみに、アルバムはいつ録音したものなんですか?Borisって常に録音していて、いつ録ったものがいつ出るのか全然わからないので。
「そうですね。“LφVE” & “EVφL”曲は『Dear』の頃からですね。『tears e.p』はそのアルバムの後に完成したので、順番が逆なんですよ。でも『tears e.p』も、曲自体は2011、12年頃にはあった曲だったりするので、だいぶこんがらがってます」
――やっぱりそういう感じなんですね。録音のストックがたくさんある中で、今回のアルバムのためにピックアップされたのだと思いますが、どういう基準で選ばれたのでしょう。
「いつもそうなんですけど、特に基準はないですね。曲がどの曲と組みたがるか、みたいな部分が大事で。2枚組になっていった流れもすごく曖昧ですし。対になる“EVOL”と“LOVE”っていう曲が逆のタイトルに入っていることとか。自分たちでも言葉にできない部分が、今回は特に強くて。今もツアーをしながらその謎解きしているような感じなんです」
――曖昧な感じは、マイルドな印象に繋がっているのかもしれないですね。
「そうかもしれないです。でも、ツアーをやっていると、謎が多い曲とかアルバムのほうが飽きないんですよ。その時その時でいろいろなアプローチができるし」
――“LφVE”に対してなぜ“EVφL”なのか、っていうのは気になっちゃいますけどね。“Evil”ならわかるんですけど。
「そうそう、“Evil”にも見えるような風合いにはなってます」
――そうなんですね。時期的に『ジオウ』インスパイアなのかと思ってました(笑)。
「違います違います(笑)」
――似た字面と語感は意識して。
「そうですね。それがなぜかっていうのはよくわかってないんですけど」
――語感や形状からの連想って、日本語的な言葉遊びに近い気がします。Takeshiさんの歌詞も、今回はこれまでよりも脈絡がない言葉の連続になっているように感じました。言葉や文字を使った遊びを楽しんでいるような。
「歌詞は2人でかたちにしていくことが多いんですけど、今回ツアーをしていく中で、その歌詞、言葉たちが自分たちのやりかたとか、生きかたを肯定してくれているような感覚を受けることが多くありました。意識的にそうしよう、と思ったわけではないんですけど。ツアーをしていく中で言葉の意味合い、謎も解けていくいくような。制作過程で意図的に“こうしよう、ああしよう”っていうのは、どんどんなくなっている感じです」
――僕、Atsuoさんはコントロールが好きな人だってしばらく思っていたので、いろいろ意外に思えます。
「コントロールっていうより、何か見えてくるんですよね、風景が。もっと良く見えるよう角度を変えたり、そこに辿り着くようにいろいろなアプローチを試す。アートワークも、バンドの運営とかも含めて。“口寄せ”シャーマンの役割みたいな。そこはわりと誤解されやすいです。ただのコントロール・フリークのエゴイストみたいな(笑)。端から見たら僕の意思で全員を巻き込んいるように見えると思うし。でも、人がコントロールできることなんて、やっぱり、高が知れてますよ。最近はBorisでの活動が作品、商品、デザイン、アートという感覚も薄れてきてる。ただただ“営み”や“旅”という言葉のほうががしっくり来るかな。批評も届かない、関係のないところに入り込んだ感じがありますね」
heavy rock party Official Site | https://nydcollection.com/pages/hrp
■ Boris
LφVE & EVφL Japan Tour 2020
| 2月6日(木)
福岡 INSA
共演: ド・ロドロシテル ほか
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)
| 2月7日(金)
広島 CLUB QUATTRO
共演: ド・ロドロシテル ほか
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)
| 2月8日(土)
大阪 東心斎橋 CONPASS
共演: ド・ロドロシテル
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)
| 2月9日(日)
愛知 名古屋 CLUB QUATTRO
“お年玉GIG 2020”
共演: the 原爆オナニーズ / GASTUNK
開場 16:00 / 開演 17:00
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)
| 2月16日(日)
東京 代官山 UNIT
共演: ド・ロドロシテル
ゲスト: NARASAKI (COALTAR OF THE DEEPERS, SADESPER RECORD)
開場 17:00 / 開演 18:00
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)