Interview | CHUBBY AND THE GANG


“もしも”の話は、しない主義

 2017年の来日公演が好評を博したARMS RACEをはじめABOLITION、CROWN COURT、VIOLENT REACTIONなどのバンドで活躍してきたChubbyことCharlie Manning Walker(vo)を中心に、Maegan Brooks(b | BIG CHEESE, MERE MORTAL, MM & THE PECULIARS, RAPTURE)、Tom Hardwick(g | BIG CHEESE, CULPRIT, FADE, MM & THE PECULIARS, OBSTRUCT, SHRAPNEL, TRUE VISION, VIOLENT REACTION)、Joe McMahon(dr | IMPOSTER, STATE FUNERAL, VILE SPIRIT)、Ethan Stahl(g | DESIRE, GUTTER KNIFE)という当代英国ハードコア・パンクを象徴するようなラインナップで結成され、60sのテイストを軸に多様な音楽性を投入したダーティかつエナジェティックなロックンロールで注目を浴びるウェスト・ロンドンのCHUBBY AND THE GANGが、ヒット作となった昨年の1stアルバム『Speed Kills』(Static Shock Records | Partisan Records)に引き続きFUCKED UPのJonah Falcoをプロデューサーに迎えた2ndアルバム『The Mutt’s Nuts』を今年8月に「Partisan Records」からリリース。80s USスタイルのハードコアからモッシュコア、クラシック・ニュースクール、スキンズまで網羅したキャリアと、古今東西のロックンロールを並列で解釈したかの如きサウンドが、さらに広がりを見せた内容となっています。

 本稿では、Tom Ellis(THE SAUCE, THE SHITTY LIMITS)、Callum Graham(NATION UNREST, NATURAL ASSEMBLY)、Nicholas Sarnella(ABOLITION, ARMS RACE, CROWN COURT, VIOLENT REACTION)、Luke Younger aka Helm(Alter)と組んだTHE CHISELでの活動も話題のChubbyさんに、バンドの成り立ちやアルバム制作にまつわるお話などを伺いました。


通訳 | 竹澤彩子
取材・文 | 久保田千史 | 2021年9月

――ARMS RACEのジャパン・ツアー、観に行きました。
 「うわ、マジか!」

――めちゃくちゃかっこよかったです。差し支えなければ、なぜ解散したのか教えていただけますか?CHUBBY AND THE GANGの結成は、ARMS RACEの解散と関係があるのでしょうか。
 「それはぜんぜんないよ。ARMS RACEが解散に至った理由も、7、8年も一緒にバンドをやっていると、それぞれの興味や優先順位が変わっていったり、他のことで忙しくて時間が合わなくなったりとか、まあ、よくある話だけど、そういう時期が訪れるわけ。このまま一緒にいるよりは、お互い自由になったほうがいい、みたいな。なんかこう、バンドとして、今まで自分たちが共にやってきたことを見送るような気持ち。ARMS RACEは終わっちゃったとしても、みんなバンド自体は今でも続けてるからね」

――CHUBBY AND THE GANGを初めて聴いたときに連想したものを羅列します。MERCYFUL FATEになる前のBRATSや、WARFAREになる前のTHE BLOODみたいなNWOBHM前夜のパンクロック。THE BLITZ。TRIP 6からUNDERDOGくらいまでのクラシックNYHC。MADBALLによるTHE ANIMALSのカヴァー。AC/DC。John Lee Hooker。DR. FEELGOOD的パブロック。BIG BOYS。パワーポップ。どれかヒットするものありますか?
 「今言った全部だろうね(笑)。 一番おっ!と思ったのは“MADBALLによるTHE ANIMALSのカヴァー”(笑)。CHUBBY AND THE GANGというバンドの特徴を正確に捉えてると思う。ハードコア好きのキッズが60年代音楽のカヴァーに本気で取り組むところなんか、まさにうちのバンドのやっていることと一緒だし」

――CHUBBY AND THE GANGのような音楽性の構想は、以前から持っていたのでしょうか。きっかけになった出来事などあれば、教えてください。
 「いや、ぜんぜん何も考えてなかった。昔からいろんなバンドを同時進行でやっていたし、パンク・バンドもさんざんいろんなのをやってきてたから。まあ、年齢を重ねるごとに自分の興味も移ろっていくでしょ?当時ハマっていたのが60年代のバンドだから、それを実践したのがこのバンドっていうこと」

CHUBBY AND THE GANG

――『The Mutt’s Nuts』の6曲目、「Pressure」はめちゃくちゃCRO-MAGSのニュアンスを感じて興奮したのですが、気のせいでしょうか。BIG CHEESE組メンバーの癖が出ちゃってるとか、そういう感じなんでしょうか……。
 「ああ、なるほど、たしかにそうだね。もともとはMOTÖRHEADっぽいノリの曲だったんだ。CRO-MAGSはMOTÖRHEADから影響を受けているから、そのノリがそのまま出てるよね」

――音楽性はぜんぜん違いますけど、ハードコア・パンクのシーンからの突出という意味では、HANK WOOD AND THE HAMMERHEADSやSHEER MAGなどとの共通点があるように思うのですが。
 「ていうか、今言ったバンドは全員友達だから。すごく仲が良いし、共通点もなにも、フツーに繋がってる感じだよ」

――他にシンパシーを感じるようなバンドっていますか?
 「1980年代のアメリカのバンドで、THE BLASTERSとか。パンク出身の連中がロックンロールをやり出したっていう点で、うちのバンドが目指してる方向のお手本みたいな感じ。できるだけいろんな音楽を聴くようにしてるし、可能な限りいろんなものをぶっ込んでやろう、っていう気持ちで、このバンドに関してはやってるよ」

――レイジングなハードコア・パンクに様々な楽器や音楽的要素を持ち込んで、ある種ポップに聴かせたバンドのひとつとして、やっぱりFUCKED UPの存在は大きいと思います。CAREER SUICIDEやLEFT FOR DEAD、NO WARNINGのメンバーが在籍していたという編制はなんとなく、CHUBBY AND THE GANGにも似ていますよね。そういうポイントでJonah Falcoさんのプロデューサーに迎えているのでしょうか。
 「そうだね、ハードコア・シーンとかパンク・シーンとかって、狭い世界だからね。その中にいれば自然と一緒に音楽を作ったり、バンドをやったりするようになるし、むしろ他のバンドと交わらずに完全に独立して活動するほうが難しい。いろんなバンドがあって、それぞれに個性があって、互いに個性を認め合って、みんなでシーン全体を盛り上げている感じ」

――FalcoさんはCHAIN OF FLOWERSの新作も手がけていらっしゃいますが、もう完全にロンドンに住んで、エンジニアとして活躍されているのでしょうか。
 「うん。こっちに来てから、たしか4年とか5年とかになるんじゃないかな。ひょっとしたら6年かも。けっこう長いよ。家が近所なんだよね。Jonah Falcoみたいな人と同じシーンにいるなんて、いいよね。すごくいい人で、周りにバンドをやっている人がいたらいろいろサポートしてくれるし、マジで頼りになる存在だよ」

――資料に書いていないのですが、録音は前作同様にJames Atkinsonさんなのでしょうか。Atkinsonさんて、あのVOORHEESのメンバーだった人物ですよね??
 「そうそう、VOORHEESのJames Atkinsonに今回もお願いしてるんだ。何つたって、レジェンドだからね。もう最高に素晴らしいよ。ものすごい才能ある人だし、スタジオ・ワークもマジ天才的だしさ。マジですごい人だよ」

――Chubbyさんはやっぱり、キッズの頃にVOORHEESやTHE HORRORを観に行っていたのでしょうか。
 「もちろん。もともとJames Atkinsonのやっているバンドが好きなんだ。VOORHEESにしろ、THE HORRORにしろ、GENTLEMANS PISTOLSにしろ。最近また新しいバンドを初めたんだけど、これがまた最高なんだ。本当にすごい人だし、いい人で、みんなから愛されてるよ。しかも友達だし。すごく仲良くさせてもらってるよ。身近にあんな人がいるだけでもすごいのに、マジで恵まれてると思うね。友達としていい人っていうだけじゃなくて、ものすごい才能を持っている人だから」

――AtkinsonさんはGENTLEMANS PISTOLSの一員でもあるわけですが、Bill Steer氏(CARCASS)もCHUBBY AND THE GANGを聴いていると思います(笑)?
 「だといいね、そうであることを願うよ(笑)」

――カヴァー・アートは今回もSpoilerさん(Kevin Alen | IMPOTENTIE, JUSTICE, OMEGAS, PROXY, S.H.I.T., STIGMATISM etc.)ですね。SpoilerさんはアーリーNYHCに異常な愛着を持った人物だと認識しているのですが、どのようなやり取りを経てこの絵が完成したのでしょうか。
 「とりあえず、最初に伝えたイメージは、モノクロはなしっていうこと。それで赤とか青とか黄色とか、色のイメージを伝えたよ。『ザ・フラッシュ』みたいなアメリカン・コミックのヒーローものとか、40~50年代の漫画調にしたくて。そのイメージ通りに描いてくれたし、最高だよね。ほんと素晴らしい作品に仕上げてもらって、マジで感謝だよ」

――僕JUSTICEが大好きで、Spoilerさんが描いたSLUMLORDSのTシャツとかいまだによく着ているんですけど(笑)、
 「おー」

――Chubbyさんも「Lockin’ Out Records」周辺のバンドは聴いていらっしゃったのでしょうか。
 「そもそもSpoilerと繋がったのがJUSTICEとか、Lockin’ Out Records周辺のバンドがきっかけだったんだ。ライヴに通っているうちに顔見知りになったんだよね。MENTALとか、THE WRONG SIDEとかNO TORELANCEとか、アメリカのボストン周辺のハードコア・バンドから影響を受けていたからね」

――CHUBBY AND THE GANGはFUCKED UP同様、ファンなムードがありつつ、レイジングな部分をキープしていますよね。その原因のひとつに、ポリティカルな怒りを失わない歌詞があると思います。『The Mutt’s Nuts』ではどんなことを考えながら歌詞を書いたのでしょうか。
 「いや、あまりそういうのはなくて。単に頭の中に思い浮かんだことを書き殴っているだけ。マジで自分の頭の中そのままというか。ああしよう、こうしよう、って考えながら曲を書くタイプじゃないんだよね。実際、あまり何も考えてないし、ただ自分の言いたいことをそのまま言ってるだけ」

――バンドの運営やアルバムの制作にあたって、パンデミックはどのようなかたちで影響しましたか?
 「ロックダウンがあったおかげで、考える時間が持てたっていうのはあるかな。人生ってそもそも、ままならないものだと思ってるから。何が起こるかわからないし、その都度、自分なりに対処していくしかないよね。今回のコロナだの、ロックダウンだのも、そういうものの一環と思ってるから、取り立てて絶望したり、取り乱したりするわけでもなく、自分の置かれた状況の中でやるべきことをひたすら淡々とやっていくまで、というか。そりゃ、コロナやらロックダウンはマジ気が滅入るけど。しばらくの間は仕事で外に出なくてよくなったせいで、時間的に余裕があったから、自分たちがやりたいことを前よりも突き詰めて考えられたような気がする。頻繁にデモをやりとりしたりね。あと、前よりも一呼吸置いて考えるようになった。ただ発言する必要があるから言ってみた、っていうんじゃなくて、一応自分なりに一度は考えた上で喋る、みたいな」

――Chubbyさんは電気技師のお仕事も続けていらっしゃるんですよね?『Speed Kills』が大ヒットして、バンドとの両立が大変ではありませんでしたか?
 「別にそんなに大変でもないよ。時間があるときに自分の好きなことをやっていて、それがバンドっていう感じ。スケジュールをうまく調整しなくちゃならないから、そこはちょっとしんどくなるときもあるし、いつも少し疲れ気味だったりするけど、まあ、なんとか普通にやってるよ」

――他のメンバーのみなさんはいかがですか?BIG CHEESEも人気者だから、きっとお忙しいですよね……。
 「まあ、忙しいよね。みんな普通に働いてるしさ。ただ、みんなそこまで苦痛じゃないというか、自分の持っている技術だの何だでお役に立てるなら、っていう感じ。みんな忙しく動き回っているのが好きなタイプだしね」

――「Partisan Records」と契約した決め手を教えてください。レーベルメイトの中に、好きなミュージシャンはいますか?
 「共通の知り合いが間に入って、やりとりするようになった感じ。周りの評判がいいからってだけでレーベルを決めたりはしないし、うちのバンドのことをどれだけ良く扱ってくれるかで最終的には判断してるんだ。実際、Partisan Recordsにはものすごく良くしてもらってるからね。選んだのも、それを見越してのことで、スタッフと話したときに好感触で、みんなすごくいい人そうだったし、ていうか実際いい人たちなんだ。今のところずっといい感じだよ。あとは、そもそも自分たちにできないことを期待をされてもらっても困るでしょ?自分にしてやれないことを他人に提供できるわけがないから、ありのままの自分たちを受け入れてもらって、その底上げをサポートしてもらっているような関係というか。たしかに不思議というか、自分でも浮いてるなあ、とは思うけど。実際、Partisan所属のアーティストって、そんなに聴いてなかったから。自分たちは本当に良くしてもらっているし、うちのバンドがレーベルに求めているのもそこだけなんだよね」

――もし仮に、Partisan RecordsではなくてNuclear Blastからオファーが来ていたら、どうしていたと思いますか(笑)?
 「いや、“もしも”の話はしない主義なんだ」

CHUBBY AND THE GANG | Photo ©Jake Lewis
Photo ©Jake Lewis

――これまでChubbyさんと関わりのあったStatic Shock Records、Quality Control HQやCarry The Weight Recordsといったイングランドのレーベルは、それぞれスタイルは異なれど、うっすら協力関係にあるように見えます。それこそ、かつてCANVAS、IRON MONKEY、SORE THROAT、STATEMENT、THE VARUKERS、VOORHEESなんかがうっすら繋がっていたような。Chubbyさんは、現在の英国パンクのどんなところがおもしろいと思いますか?
 「英国パンクって一言で片付けられないほど、今はいろんなヴァリエーションがあるっていうところかな。そこはマジで強みだと思うし、おもしろいことになってるよ。おもしろいバンドがたくさん出てきてて、パンクの概念を広げているバンドもいれば、これぞまさしくパンク的な伝統的なパンク・スタイルをやってるバンドもいて、活気づいている感じ」

――ABOLITIONやVIOLENT REACTIONで一緒だったJimmy WizardさんはHIGHER POWERでイケイケだと思うのですが、今も会ったりしますか?HIGHER POWERのライヴに行ったりします?
 「今でもどころか、ちょうど明日会う予定だよ。今でもフツーにつるんで遊んでるよ」

――せっかくの機会なので、日本の「BLACK HOLE」からもリリースされたTHE CHISELでの活動についても教えてください。THE CHISELではどんな音楽を目指しているのでしょうか。最新作は「Wardance」からのリリースなんですよね?あのCITIZENS ARREST、RORSCHACHを出していた……。すごくないですか?
 「THE CHISELはCHUBBY AND THE GANGとはまた違うパンクの一面を体現しているんだ。曲の作りかたとか構造からしてぜんぜん違ってるし、全く別のバンドなんだ。とりあえずTHE CHISELとしては、11月に13曲入りアルバムのリリースを予定しているよ。ただ、THE CHISELもメンバーそれぞれがいろんなバンドを掛け持ちしていて、こっちはこっちでみんな忙しいし、目まぐるしいんだけど、これから素晴らしいサプライズが待ってるし、おもしくなりそうだから期待しててよ」

――他にも、CHUBBY AND THE GANG以外で進行中のプロジェクトがあれば教えてください。
 「とりあえず、今のところはCHUBBY AND THE GANGのツアーとTHE CHISELとの活動で手一杯。そっちに集中したいから、他には何にも抱えてないよ」

――Brooksさん、McMahonさん、Razorさん、Stahlさんの動向も知りたいです!
 「まあ、MM & THE PECULIARSやBIG CHEESEもいろいろ忙しそうだし、いい感じだよね」

――Brooksさんに、MERE MORTALとRAPTUREのアルバムも聴きたいって、お伝えください!
 「おお、わかったよ。MERE MORTALは、たしか新しいアルバムを予定しているんじゃなかったかな。RAPTUREは解散しちゃったんじゃなかったっけ?わかんないけど、そうだった気が……いや、どうなんだろう。Maeganに会ったときに訊いてみるよ。明日(CHUBBY AND THE GANGで)ライヴなんだ。イギリスではようやくライヴが再開し始めたから、こっちもガンガンにステージに立っていくつもりだよ!」

CHUBBY AND THE GANG Bandcamp | https://chubbyandthegang.bandcamp.com/

CHUBBY AND THE GANG 'The Mutt's Nuts'■ 2020年10月13日(水)発売
CHUBBY AND THE GANG
『The Mutt’s Nuts』

国内流通仕様CD PTKF2198-2J 2,400円 + 税

[収録曲]
01. The Mutt’s Nuts
02. It’s Me Who’ll Pay
03. Coming Up Tough
04. On The Meter
05. Beat That Drum
06. Pressure
07. Take Me Home To London
08. Life On The Bayou
09. White Rags
10. Overachiever
11. Someone’s Gunna Die
12. Getting Beat Again (Eppu Normaali)
13. Life’s Lemons
14. Lightning Don’t Strike Twice
15. I Hate The Radio