Interview | ERA


“ラップはできるぞ”みたいな感じになってきてて。自然体で。完成してる感じで。

 ERAの5thアルバム『Reaching』が2022年12月に自身のレーベル「HOW LOW」よりリリースされた。2023年2月中旬にアナログで発売される1stアルバム『3 Words My World』(2011, WDsounds)から12年の時を経てのリリースとなる本作品では、漠然とした希望や未来ではなく、自らの足で歩いて感じてきた日常への祝福が詰まっている。聴いたときにすっと人生を生活を肯定してくれる、そして、街の見かたをほんの少しだけ変えてくれる。久しぶりに昼間にサンドイッチを食べながらコーヒーやビールを片手に話したことは本作品、ERAのラップを理解するのに少しだけ役立つはずだ。

 ERAがラップで一貫して表現してきたことの到達点。


取材・文 | COTTON DOPE / Lil Mercy (WDsounds) | 2023年1月
取材地 | CUP OF JOE LUNCH TIME SANDWICHES


――今作『Reaching』は最初からゲストなしのソロ・アルバムを想定して制作をしてきたんですか?

 「『Daily Tales』(ERA & DJ Highschool 名義)が2021年2月なんですよ。それが終わった後から作り始めたから、制作期間はけっこう長くて。8割方できたときに、ひとりでやるか、誰か入れようか、悩んだんですよ。結局ひとりでもいいかな、と思って。最後に録ったのがDJ Highschoolの“Going Up”、SULLENの“Little Love”も後半のほうで、そのあたりでフィーチャリングどうしようか迷ったんだけど、結局ひとりでやりきった」

――今まではゲストを入れるときってどういう風に考えて制作していたんですか?
 「やりたい人に声かけてるっていう感じですね。ISSUGI、Campanellaと作った“Ism”のときは、そのメンツでやりたいなって思っていたときがあって、DJ Highschoolにビートを聴かせてもらって、“これ”っていうのにハマったっていう。DJ Highschoolのトラックでフィーチャリングっていうのが多いと思うんだよね。やりたい人がいて、DJ Highschoolにトラックを聴かせてもらって、その中から探していく」
* 筆者註 | DJ Highschoolのプロデュースでは『Life Is Movie』(2015)収録のクラシック「Passport feat. 仙人掌」「Sunny feat. Campanella」、『Culture Influences』(2018)収録曲「Ism」など、数々のゲストを迎えた楽曲を作ってきた。DJ HighschoolはERA初のMVともなった、現在もライヴでパフォームされる代表曲「Feel」のプロデュースも手がけている。

――今回は初めて名前を聞くトラックメーカーもいます。
 「2曲目の“Float”はSkvllkidっていう東京の人なんですけど、インスタで相互フォローになって、SoundCloudがあったんで聴いてみたんですよ。その中にかっこいいのがあって、この曲お願いしますってなって。Vis The Kidはタイプビートのやつですね。最初はYouTubeかなんかで聴いて、貼ってあったリンクから飛んでみたらビートセールのサイトにすごくたくさん曲があったの。その中から選んでる」

――どういうときに新しいビートをチェックしているんですか?
 「自分の曲の作りかたはビートがあって、その後リリックなんで。まずビートを探す感じ。今回はWDsoundsの協力もあって、DJ FreshもDJ Scratch NiceもENDRUNもTatwoineもマーシーが送ってくれたんだけど」

――ビートを選ぶときに、送ったビートの中から選ぶことが多いじゃないですか。オーダーしてビートを作ってもらうこともありますか?
 「ほとんどないっすね。ストック聴かせてもらって作るみたいなのが好きなんですよね。ビートが集まってきて、ライフワークとしてリリックを作っていたみたいな感じなんですかね」

――リリックを少し引用させてもらうのですが、「ライフは二度はないだろ」「ポジティヴになろう ネガティブだから」。なんていうんだろう、一度自分に言ったセリフを外に向けて話しているように感じていて。街を歩いていて、自身に一回言ってから話しているような。そんな印象を受けました。自分との対話というか。以前『Culture Influences』のリリース時に、「ラップの表現方法をいろいろと試しながら考えて作っていた」って話してくれたじゃないですか。今作はそれが自分のものになってるじゃないけど、どうやってラップすればいいかがわかってるって感じたんです。トラックもラップがあって統一感が出てるって思います。
 「けっこう作っていて、ラップ職人じゃないけど、もう10年以上経ってるし、“ラップはできるぞ”みたいな感じになってきてて。自然体で。完成してる感じで。やっぱ、タイトルの“reaching = 到達”っていうのは、ラップがけっこうそういう域に到達したっていう意味なんですよね。アルバムを5枚出して“到達”、そこまでできるようになったというか。ある意味パターン化しちゃってるんですよ、できちゃってるから。そこのフレッシュさが今後の課題かな」

――今回の作品、さっきもここに向かいながら聴いていたんですけど、中毒性があって繰り返し聴いてるんです。ちょうどよさがあると思ってます。最後のENDRUNのトラックがオーセンティックでアゲてくる。
 「ENDRUNの“Go On”は最初にできた曲だった。トラックを送ってくれたのが3年くらい前なのかな。そこから選択するのに時間がかかったけど、録ったのはけっこう前だね」

――その時点でさっき言ってたラップができる到達点っていうのは感じてたんですか?
 「その感じにはまだなってない。1曲だけではそうなってなかったけど、何曲かできて、並べてみて思ったの。最後のほうに1曲目と2曲目が決まって、それでアルバムけっこういけるかも、って思ったんですよ」

――ERAは“アルバムを作りたい”っていうかたちで作品を作ってますよね。2015年の『Life Is Movie』からはだいたい2年に1枚はアルバム出してますよね。毎回自分で構成は作っていくんですか。
 「そうですね。アルバムとして作ろうとしているのが基本ですね。曲順は今回ギリギリまで練りました。後半アガってくる感じ」

――曲の話ですけどBushmindの「Cream」のベースの出かたもいいですよね。そこにリリックも呼応しているように感じて。
 「いい感じですよね。自分でもあると思います。ちょっとそれこそ、『3 Words My World』の頃のERAじゃないけど、そういうのを意識してやったっていうのはあると思います」

――サイケデリックというか、そういう言葉も感じました。ドリーミーと言うんですかね?外にいるんだけど内に向いているような、外と中が混ざっているような感じを受けました。さっき、ラップができるようになったって言ってましたけど、ラップによって生活の見えかたが変わっていくみたいなところはありますか?ラップがあることで生活が少し前に進める、そんな風に感じました。自分に対して言っているように聞こえるけど、聞いている人にも純粋に伝わってくるというか。
 「そんな感じですね。その通りというか。他の人はわからないですけど、自分の場合、自分のためにやっているっていうところがけっこうあって。だから、なんかそうなんですよね。うまく言えないな。みんなはほら、“もっと売れて”とか。もうちょっと金になればいいなとは思ってるけど」

――でも「もうちょっと金になれば」って自分のために思うことですもんね。今回、そういった外向きの派手さを求めていないのも感じた。
 「自然と集まった感じなんですけど、何枚か出していく中でこうなってるな、って。よかったですね。いいビートが集まってくれたな」

ERA

――またラップの引用をさせてもらうのですが、「涙が出るのはなぜ これはリアルなシットだぜ」っていうのすごく好きなんですけど、自分が日常ハッとする瞬間をラップだから表現できると感じました。
 「たしかにラップだからできるよね」

――ラップという表現も、自分で探し当てて、模索しながら自分のものにしていく到達点っていうことですよね。
 「そうです。そうですね。まさにその通りですね」

――「LIKE MOMA」とか「でかい絵を」とか、そう思った瞬間を知ってるから。
 「あれはマーシーと一緒にニューヨークに行って、MOMAででかい絵を見た話なんですよ(笑)」
* 筆者註 | 2011年に1stアルバム『3 Words My World』リリース後、ERAと筆者はニューヨークを旅行した。Curren$yのライヴを見たり、普通に買い物に行ったり、MOMAに行ったり。着いた日の夜に「Takeoff prod. febb」という楽曲を発表。あ!ブルックリンでProdigy(MOBB DEEP)にも遭遇しましたね。

――会話の中で言ってたけど、曲として成り立つ言葉になってると思いました。“アートにしている”っていう表現を自分はあまり使わないですけど、アートにしていると思いました。
 「ENDRUNの話に戻ると、スクラッチが入ってると思うんですけど、最初は入ってなくて。ラップを乗せてエディットしてく中で入れてくれて、それでブラッシュアップされてあのかたちなんですよね。アガるっていう」

――今回のアルバムにはDJ Scratch NiceとENDRUN、オーセンティックなヒップホップを代表するトラックメーカーが参加してますよね。
 「有名プロデューサーですからね(笑)。かなりバラエティには富んでると思う」

――そのバラエティに富んだトラックによって、ERAの世界観が色濃く出ているように感じました。ラップはどういう風に書いてるんでしょう?
 「普段、思ったことを書き溜めてる感じですね」

――日常を愛しているように感じました。“9時から5時の仕事から抜け出すぜ”じゃなくて。大切にすることで前に進めるようなメッセージというか。
 「そうですね。あまり強いワードを使ってないかもしれない。意識もしているし、使えないっていうか、自分がラップするときはそういうことは言えないっていうか。優しい感じにはなっていると思うんですよ」

――自分の100%の言葉を書くっていうこと?
 「そうそう。ディスったりするようなことはしない。自分的にそのほうが好きだから、自然にそういう感じになってる」

――今回の作品って自分でもよく聴いているのかなって感じたんですが、どうですか?
 「今回はけっこう聴きましたね。特に、これはさっきも言ったんですけど、1曲目と2曲目の強度がかなり出てたんで、何回聴いても飽きないな、って思いましたね」

――アルバムの中の世界は時間帯だと、ものすごい朝もなくて、夜の曲もないと思うんですよ。その間の、夕方だったりとか色で言うとネイビーとオレンジのような。
 「とりあえず、夜はすぐ寝ちゃうんで、深夜とかはないんですよ(笑)。“MIDNIGHT 高速を飛ばして”みたいなのもやりたいんですけど。あるじゃないですか(笑)。静かなんだろうな、そこを飛ばして気持ちいんだろうな、っていう」

――深夜に高速飛ばすのはたしかに気持ち良いですからね、スイッチ入りますよね(笑)。アルバムはまだまだ続いてくような空気を感じました。制作しながら先のことって意識してますか?
 「そうですね。やりたくなったりはするんですけど、自分の場合はビートありきなんで、ビートがないとできなくて。探すか、集まってきたりとか。自分が使うビートって、けっこう繋がりもでかいと思うんですよね。マーシーに頼んだりとか、インスタで相互フォローになった人とか。全く知らんところでっていうのはないんで、繋がりで集まってくるっていうのはある」

――そういう範囲の中でやりたいっていうのはありますか?
 「範囲内で作りたいってわけではないと思うんですけど、コネクションの問題だって思うので」

ERA

――「フレンズにファミリー、それはかなり」って言ってるじゃないですか。ふとひとりのときに、周りのことを考えているっていう描写だと思って。ひとりで作っている感じも出てると思うんです。
 「ひとりで作っていくタイプですね。いろんな人がいると思うんですけど、自分はひとりで作っていくほう」

――さっきラップとしての到達と言っていたけど、自分の作るものをコントロールできるようになったっていうのもありますよね。
 「そうですね。そこはサウンドが変わった要因の大きなひとつではあると思いますね。昔と比べるとマイクとかの録り音は良くなったと思う」

――ひとりで作っている感はより強く出ていて、その音楽を世界に出すことを前提にしているように感じます。普段ラップ、音楽のことを考えている時間って、どういうときですか。
 「ぶっちゃけ全然ないですよ。週末とかはあるし、平日は移動時間に音楽を聴いて、そのときにちょっと自分のことを思うけど、そこでリリックを考えたりとかはあまりない。考えられないんで。そこがダメなところ、弱いところかなって。バンドをやっていたときはずっと音楽のこと考えてたんだよ。常にバンドのことをずっと考えてやっていた頃と比べると、そこがやっぱり変わったところではあるっすね」
* 筆者註 | 2022年にはオフィシャル・ブートというかたちで、以前ERAと筆者がヴォーカルとして活動してたWIZ OWN BLISSの音源がBandcampで公開されている。自分たちのことだけれど、改めてこの時代に圧倒的なクオリティのものを作っていたと思う。全てがバンドに集約されるのではなく、日々の暮らしのひとつひとつにもフォーカスする、そんなERAの作るヒップホップもまたフルタイムの音楽だと筆者は強く感じている。

――まとまった時間で作るときは、曲を作るっていうかたちでやってるんですか?そのときにトラック聴きながら曲を作る?
 「そう」

――きっちり制作の時間を分けて作ることで変わる部分ってありますか?
 「やっぱりそこがダメな部分っていうか。常に考えている人と比べちゃうと、やっぱりな……とは思っちゃいますね。今回の期間はリリックを書くことが日常化していたというか、ルーティン化して、週末にリリックを書いて」

――でもそれって、毎日考えているのと変わらなくないですか?曲の中でパッと出てくる言葉は日常で出てくるんですか?「フィンセントの糸杉」は?
 「何年か前に東京でゴッホ展をやっいたときに観に行って、“糸杉”もめちゃくちゃ種類があるんですよ、1種類しか飾られてなかったんですけど。それがやばくて。生で観たときのやばさがすごくて。たまたまライミングの中で“糸杉”踏めるってなって、自分の中にあったんでしょうね、観ていた経験が。ハマったから書けた」

――前にインタビューしたときに、映画がリリックに出てくるな、と思って聞いたんですけど、“あまり観てない”って言ってたじゃないですか。それもそういう風に出てきたってことですよね。
 「一応出てくるっていう。映画は定番系なんですよね(笑)。マニアックとかじゃなくて。実際そうなんですけど」

――ラップをすることで自分の中にあるものが出てくる。“糸杉”でいけるからその記憶を引き出してくる。
 「それがあると嬉しいですね。あ!みたいな」

――続けることによって自分が得たものってなんだと思いますか?
 「やっぱ、自分自身が変われたっていうか、それが一番でかいですね。ラップがあるのとないのとでは全然違うことになっていたと思うので。“到達”って付けたのもあるし、ラップに対してもここまでできるようになったぞ、とか、そういうのすかね」

ERA

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ERA Live Schedule

| 2023年1月28日(日)
東京 小岩 BUSHBASH

COTTON DOPE "...AND LONG LIFE" Mix CD Release Party

| 2023年2月10日(金)
東京 代官山 晴れたら空に豆まいて

TRASMUNWDO NIGHT vol.2

| 2023年2月26日(日)
東京 小岩 BUSHBASH

FACE

| 2023年4月30日(日)
福岡 北九州 BRICK HALL

LAEDBACK 5TH ANNIVERSARY PARTY

ERA 'Reaching'■ 2022年12月21日(水)発売
ERA
『Reaching』

CD HOWLOW-009 2,400円 + 税
https://t.co/LU7VwEKJAL

[収録曲]
01. Life Is prod. DJ Fresh
02. Float prod. Skvllkid
03. Like This prod. Tatwoine
04. Cream prod. Bushmind
05. Chase prod. DJ Scratch Nice
06. 夕陽 prod. Vis The Kid
07. Going Up prod. DJ Highschool
08. Little Love prod. SULLEN
09. Go On prod. ENDRUN

ERA '3 Words My World' Vinyl■ 2023年2月中旬発売予定
ERA
『3 Words My World』
Vinyl Edition

Vinyl LP JSLP168 4,000円 + 税
https://www.jetsetrecords.net/i/414006101389/

[Side A]
01. Intro (feat. O.I.) prod. DJ Highschool
02. Space Colony prod. Golby Sound
03. Era Town (feat. O.I.) prod. Special Time
04. Win Card (feat. OS3) prod. Golby Sound
05. Hello prod. Bushmind
06. Baby (feat. O.I., OS3) prod. Golby Sound

[Side B]
01. Skit prod. Tonosapiens
02. Feel prod. DJ Highschool
03. カモフラージュ (feat. Lil Mercy) prod. Tonosapiens
04. Moon Life prod. PK
05. Show Window prod. PK
06. リンク prod. Bushmind

CUP OF JOE LUNCH TIME SANDWICHES Instagram

ERA『Reaching』をはじめJ.COLUMBUS、JUMANJI、Kapsoul、MASS-HOLE、仙人掌らのカヴァー・アートや数々のフライヤー・アートを手がけ、SAWSKと組んだアパレル・ブランド「WANDERMAN」のデザイナーも務めるSHOW5が、11:00~16:00のランチタイムに運営するサンドイッチ・ショップ。シーズンで変化するサンドイッチ・メニューに加え、クラムチャウダーもサーブ。

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