デイリー・テイルズ、都市の音楽
取材・文 | COTTON DOPE (WDsounds) | 2021年3月
H 「いや、前作(『Ground Music』)にはトラック入ってないんですよ」
E 「そうなんだよね。前から2人で作品を作ろうっていう話はあったんですよ。それこそ『Ground Music』の前からあって。おっさん(DJ Highschool)とそろそろやりたいなっていうときに、SoundCloudに今回の“Airplane”の原型となるトラックを上げてたんですね。それで、これでやらせてくれって言ったのが、制作の最初だったんじゃないかな」
H 「本当に僕の主観ですけど、『Ground Music』を聴いていて、あまりしっくりきてない感じがあったんですよね。もう一度俺のトラックでやって欲しいなって思って。その時期に、曲もここ2、3年で今までにないくらい作っていて、1ループとかいっぱいあったから、どんどんトラックができて。最近、サボってるんですけど、毎週木曜日に1曲上げるっていうのをやってたんですよ。そこに上げてた曲がERAが言ってるトラックですね。連絡あって、トラックがたくさんあるからやろうっていう」
E 「最初は“Stride”のトラックが上がってきたんだよね。それが最初だったんだけど、その前には“Airplane”の原型となる“Fantasy Baby”っていうのが上がっていて、それでやりたいとは言ってたんだけど、おっさんが“やってみます”って言って上げてきたのが“Stride”だった。そのときOS3のフィーチャリングは決まっていなくて」
H 「OS3はD.U.O.での音源だから1回くらい登場させようと思って。そもそもラップをやっているのは、自分でトラック作ったときに判定し易いからっていうのがあるんです。“Stride”は俺のほうが先にラップを作ってるんですよ。トラックを作るときにハマりそうなのがあったから、自分が先にリリックを書いてしんご(ERA)に渡したんですよね。“The Day (Remix)”をフィジカルで出すんだったら、配信では存在しないバースがあったほうがいいと思って」
E 「D.U.O.のラッパーですね。D.U.O.スタイルを継承しているD.U.O.のラッパーですね」
H 「本当はO.I.もいてほしかったですね。『Life Is A Movie』(2015)以降からフィーチャリングは基本的にD.U.O.内から入ってない。ソロとしての部分を押し出していると思うんですよ。だからこういう音源じゃないと登場しにくいのかな。一応『Culture Influences』(2018)には登場してるんですけどね(笑)」
E 「登場してるよ(笑)。あの煽りの感じはハマってるよね」
H 「D.U.O.で作品を全曲まっさらから作るのって、今回が初めてかもしれない。前に出したD.U.O. TOKYO『The Best』はありもののトラックを使っていたり、ミックステープみたいな作品ですもんね。今回みたいにD.U.O.のメンバー同士でイチから作る作品は初めてですね」
E 「周りからの反応が良くてアガりましたね」
H 「俺個人的には、ひとりのラッパーと組んでやるのが2作目(MC KHAZZ + DJ Highschool『I’M YA BOY』2018, RC SLUM)。 自分のアルバム(『Make My Day』2015, WDsounds)のときは、わりと色々注文出させてもらったんですけど、ラッパーはリリックの部分では自由にやってもらったほうがいいっていう考えに辿り着いて。今回はフローだったり、こうして欲しいとかは少しだけ言わ
せてもらいました。制作の過程で課題も見えてきて、やっぱり低音とか音色は自分で作っていかないとだめだと思いましたね。最大限に鳴りは引き出してもらっているんですけど、まだまだいけるなっていうところはあって」
H 「俺が単純に作った曲を送ったりなんなりして、ERAがこれ使いたいみたいになって、今回はこれとこれとこれって決めて投げて出来上がった感じでですかね。ボツになったトラックはなくて、ピンポイントで渡した3曲が『Daily Tales』に入ってます」
E 「そうですね。送られてきたトラックにラップを乗せて、おっさんに聴かせて、それで詰めていくっていう作りかたですね」
H 「スムーズに行きましたね。“Stride”のレック日程だけ合わせて、ミックスのやりとりとかはしてないですね。ラップを乗せて、トラックを編集して、っていうのも“Airplane”だけで、あまりないです。今までの“Feel”も“フレーバーB”も、曲のアイディアはしんご君が持ってきて、一緒に曲を作っていたんですけど、今回は俺から全部作った。そこが今まで作ってきた曲とは違いますね。“Airplane”は『Bedtime Beats』(*)の『Vol.6』を作るときに入らなかったトラックなんですよね。インストを想定していた曲だったから、展開がついていたものを簡素にしてくれっていう話で、その調整を“やりすぎ”って言われたりしながら直すっていう」
E 「でも、そういう意見は言ったらちゃんと通してくれて、伝わったからやり易かった。けっこう、おっさんがプロデューサーの役割もありますんで。今まではトラックを提供してもらうだけだったけど、今回は2人の名義なので、プロデューサー視点で全体的な部分をやってもらいましたね」
H 「曲自体は、リリックがどうっていうよりは、録りのテンションですね。ラップのテンションがロウだとか、これをアッパーな感じで、とか。ヴィジュアル面はしんご君のアイデアをもらいつつ、しさん(Anchor Inc.)と相談して作りました」
* DJ Highschoolのライフワーク的インストゥルメンタル集
H 「変な言いかただけど、もともとD.U.O.の音源を聴いている人は、フィジカルが欲しいと思うんですよ。あとは、言う話ではないかもしれないけど、やっぱり配信だけだと厳しい部分があるんで。採算取れないですよね。当初は配信だけっていう話をしたんだけど、リミックスとインストを入れれば盤で買う意味があるのかな、と思って作りました」
E 「配信の再生回数がもっと伸びてくれれば一番いいんだけどね(笑)」
H 「Spotify for Artistsの統計を見ると、あまり若い人には届いていなくて。歌詞を見ると、若い層には向かってないですよね。共感とかなさそう。でも、同世代くらいだと“わかる”ってなるんじゃないですか?っていう内容で。同年代の人たちが自分たちの音楽を一番聴いてる層なんですよ。ヒップホップという手法を採ってはいるけど、都市生活者の歌詞ですもんね」
H 「なんかラップがノってねーなって感じちゃったんですよね」
E 「俺的には気に入ってるんだけどね」
H 「ずっとD.U.O.っていうのをやって、横で見ているっていうのもあると思うんですけど、作品を追うごとにERAのラップが単一化してきてるんですよ。前は曲によってスタイルを変えていたと思うんです。良い意味で言うとスタイルが確立されてきたってことだと思うんだけど。自分としてはもっとスタイルがあったほうがいいと思う。だって、自分で“気分で変えてくスタイル”って言ってたんだから。もう気分で変えてねえじゃん、って思って(笑)」
E 「リリースしてみて、今回は『Ground Music』以前のHighschoolとやっているものも、その先のスタイルも出たんじゃないかって思いますね」
H 「今まではERAとしてトラックも自分が選びたい感じでやってたから、自分のペースでできてたけど、今回は一緒にやっていて、俺のトラックで、言葉に気を遣ったみたいな話をしてましたよね」
E 「おっさんとやるのを意識したリリックになってますね。あまりダサいことは言えないな、っていう(笑)」
E 「『Ground Music』はその部分がたしかに全開でERAですよね」
H 「毎回謎の新しいトラックメイカ―を入れてたけど、それがなくなりましたよね」
E 「トラックを送ってきてくれたんだよね。自分からコンタクトするっていうのはやってるけど、向こうから来るのは少なくなりましたね」
H 「前作と比べて、違った意味での緊張感が少しあったのかもしれないですね。こっちから行ってるところもあるので。言葉の、文章としての意味はあまり外には向いていないけど、外に向いているラップだと思います。内面のことを話してる、だけどよそ行きじゃないですか?前作はとにかく内省的な作品」
E 「自分の作品のキャリアとしては、これをリリースしたことで幅が出たかな」
H 「しんご君の強みって幅だと思ってます」
E 「前回もマスタリングは塩田 浩さん(東京録音)だったんだけど、『Ground Music』はちっちゃめの音にしたかったから、そうしました。今回はそういうところに違いが出てます。2回目ですし、やり易かったですね」
H 「俺は初ですけど、やり易かったです。今の自分が作るトラックの感じだと、アナログ的な質感にこだわる感じのミックスだったり、音を加工するミックスより、一音一音をきれいに出してくれるミックスが好きですね。この音をこう機能させたいっていう意思の疎通が、細かい部分を伝えてゆく中で最終的に出来上がって良かったです。どんどんスムーズに進むようになりました」
E 「音源できてからミキシング / マスタリングの流れはスムーズでした。そんな心配いらないな、っていうのはありましたね」
E 「やりたいことっていうのは表現できたと思います。位置付けはさっき言ったあれですけど、サウンド的にはDJ Highschoolのサウンドで、その良さが引き出されているので、そこに関しては満足できてます。リリックに関して言えば、今までのERAで言わなかったようなことを“Airplane”とかでは言っている感じがあるので、ちょっと挑戦したかな?っていう」
H 「本人にしかわからないでしょうね(笑)」
E 「まあ、そうなんだけど、それが結果として成功したかな?っていう。
E 「プロデューサー的な立ち位置が入ってるんで、意見が入ってるんですよね。今まではそういう、他の人の意見はそんなにない」
H 「『Daily Tales』は、自分が作るトラックの3本柱があるのかな。“Airplane”がハイパーな曲、“Stride”はシンセサイザーで全部作っていて、“The Day”は往年のサンプルを使った曲、みたいな。その3パターンが主軸だぞ、っていうのを再確認した」
E 「おっさんのトラックもバラエティに富んでるよね」
H 「バラエティは今までもあったんですけど、もうちょいそれが固まった気がしてますね。それで課題も見えてきたし。ひとつ思ったのは、どこにも属さないくらい中途半端なんですよ。音楽性が(笑)。それがまとまることによって、捉え易くなったと思う。聴いている側としてはとっつき難い部分があるのかな。ブーンバップでもトラップでもない、みたいな。そのほうが自分的には都会の音楽って感じで。常々思ってるのが、一応東京って世界に誇る都市だけど、トラックで言うところのスタイルって、そんなにあるようでない気がしていて。そういうのを提唱していきたいとは思っています。それができているかどうかは別として」
DJ Highschool SoundCloud | https://soundcloud.com/dj-highschool
■ NEW DECADE
『Daily Tales』Release Live
2021年4月11日(日)
東京 中目黒 solfa
TBA
ERA Twitter | https://twitter.com/erashave
■ 2021年2月10日(水)発売
ERA & DJ HIGHSCHOOL
『Daily Tales』Digital
https://ultravybe.lnk.to/dailytales
[収録曲]
01. Airplane
02. Stride feat. OS3
03. The Day feat. TONAN
■ 2021年3月10日(水)発売
ERA & DJ HIGHSCHOOL
『Daily Tales』CD
ER024 1,500円 + 税
[収録曲]
01. Airplane
02. Stride feat. OS3
03. Gallery
04. The Day (Remix) feat. Tonan, OS3
05. Stuff Happens Tho