Interview | LITURGY


生きるとは?世界とは?

 ポスト・ブラックメタルという、近年の音楽シーンにおいてもとりわけ刺激的な流れの中で、LITURGYは、クラシカルからエレクトロニック・ミュージックまで多様な要素を取り込みながら、おそろしく独自性の高い音楽を創り続けてきた。最新アルバム『93969』は、その総決算とでも形容したくなる2枚組の大作になっている。ミキシングには引き続きSeth Manchesterが起用される一方、録音を担当したのはSteve Albini。個人的に、このバンドに興味を持ったきっかけが、SHELLACの「Prayer to God」をカヴァーしている動画(「The A.V. Club」というウェブ・メディアによる2012年頃のシリーズ企画「A.V. Undercover」)を観たことだったのを思い出したりして、なかなか感慨深い。同時に、斬新なサウンドで賞賛を浴びながら、問題作として時に議論も引き起こしてきたLITURGYが、10~15年を越すキャリアを重ね、ひとつの高みを示す段階に到達したのだということを実感する。

 中心人物、というかLITURGYそのものであるHunter Hunt-Hendrixが、2020年になってトランスジェンダーであることをカミングアアウトし、名前もHaela Ravenna Hunt-Hendrixと改めたことが、『93969』に大きな影響を与えたことは間違いないだろう。ずっと彼女が標榜してきた“Transcendental Black Metal”の意味が、必然的な起結として完成をみたようにさえ思えてくる圧倒的な傑作を、ぜひ日本でも大勢のリスナーに聴いてほしい。


 どうやら待望の初来日についても話が進んでいるようなので、彼女の積み重ねてきた“音楽 = 哲学”が、生で体感できる日の実現を心待ちにしよう。


取材・文 | 鈴木喜之 | 2023年3月
通訳・翻訳 | 竹澤彩子
Main Photo | ©Alexander Perrelli


――最新作は、80分超のダブル・アルバムという圧倒的な作品となりました。前作『Origin of the Alimonies』は物語に基づいたアルバムでしたが、本作に関しては、制作の前段階で、どのような構想を抱いていたのでしょうか?

 「この作品は、天国についてのアルバム。だから音楽も天国に通じるものでなくてはならなかった。それに、天国っていったいどんなところ?って想像するのは、人類が昔からずっとやってきたことだから。それを音楽を通してやっているというか」

――パンデミックを筆頭に、ここ数年間の社会情勢が、本作のコンセプトに影響を与えたと感じたりはしていますか?
 「そうだね、2020年中に制作を始めていて、かなり練習を重ねたうえで挑んでる。ここまで複雑に作り込んだ長編のアルバムになっているのもそのためだし、どこか世界の終わり、黙示録的な雰囲気があって、それはまさにあの時期と重なっているものだと思う」

――タイトル・ナンバー「93696」は、「93」「36」「696」の3つに分かれたかたちで先行リリースされました。EPでは3つに分けた理由や、それぞれの数字が意味するものについて説明してもらえますか?また、このEPに付けられたタイトル『As the Blood of God Bursts the Veins of Time(神の血が時間の脈を破裂させるかの如く)』は、アルバム本編とどう関わってくるのでしょうか?
 「もともとは違う3曲“93”、“36”、“696”をひとつにまとめたんだ。だからEPでは3曲に分かれている。そうすることによって、同じ曲を違う角度から楽しめるんじゃないかな?と思って。EPのタイトルは、私が2022年に開催したショウのタイトルでもあるんだけど、そのふたつを繋げてみたらおもしろそうだったから」

――これらの数字には、特別な意味が込められているのですよね?
 「そう、神秘的な数字で……でも、詳しく説明するのは、ちょっと難しいな」

――哲学的または文化的、宗教的な意味が絡んでいるのでしょうか。
 「そう、今言ったすべてが絡んでいると思う。そもそもLITURGYの音楽自体が哲学でもあって、その哲学に従ってこういう音楽が生み出されているんだけど、そこには様々な要素が絡み合っている。ただ、最終的にはどこまでもパーソナルなものなんだ」

――先述のEPに収録され、本編には入らなかった(日本盤にはボーナス・トラックとして収録)、サンスクリットのタイトルがついた「संसार」という曲には、どういう役割があるのでしょうか?
 「いい質問。“Sansar”はLITURGYの中でもかなりレアな曲なんだ。アコースティック・ギターを弾きながら私が歌っているスタイルだから。自分としては今回のアルバムのコーダのようなものだと捉えていて、アルバム全体のスピリットをソフトかつシンプルなかたちで伝えてる。しかも、アルバムの他の曲とは違う雰囲気で」

――また、このアルバムには“パート2”という意味なのか、“II”と付いたタイトルの曲が幾つか見られます(「Haelegen II」「Red Crown II」「Antigone II」「Immortal Life II」)。これらは、過去に発表されていた同名の作品との間に何らかの関連性があるのでしょうか?
 「そう、今回はLITURGYの過去作品からヒントやテーマを得た曲が多い。ちょうど私が興味あったことと重なったから。作品数が増えてきたら、かつての自分の作品になぜか妙に惹かれて。それで昔の曲をもう一度弾いて解釈し直してみたり。だから、必ずしも同名曲の続編というわけでもないんだけど、たしかに関連し合ってはいる」

――だとすると、本作はこれまでのLITURGYの集大成とか総決算みたいな性格も有しているということになるのでは。
 「たしかに、“LITURGY最後のアルバム”みたいな雰囲気はあるね。かといって、LITURGYは終了で、ここから先はアルバムを出さないというわけでは決してないけど。ただ、ある意味でラストという気持ちがしているのは事実。今まで掘り下げてきたエネルギーの方向性としては、これで終了かな。この後どういう方向に行くのかまでは、現時点ではまるで見えないけど。まさに言ってくれた通りだと思う」

――では、ここで改めて、あなたの作曲法について教えてください。基本的には、デスクトップの前で、音楽ソフトを使って作っていくような感じなのでしょうか?
 「いくつかの方法があって、ギターから作るときもあればキーボードから始まることもある。プログラムというか、シーケンサーから作り出すこともあるし、ソフトウェアにスケッチとかデモとか、メモ的なアイディアを記録するかたちで残しておいたものを聴き直して、キーボードで弾いたものをギターで弾いたらどうなる?とか、楽器を変えていろいろ試してみたり……。いろんな音源ファイルを保存しておいて、コピペして上書きして、という作業を繰り返しながら、時にはフォルダに集めた音源をすべて重ねて聴くこともある。とりあえずPCに依存していることは間違いないけど、自分の頭では四六時中音楽が鳴っている状態だから、それこそシャワー中とか、街中を歩いているときとかにも、常に頭の中の音をどうやって曲のかたちに還元するか、っていう作業をしてる。だから、曲作りの方法については本当にいろいろだね」

――最新アルバムではデジタル・レコーディングをやめて、アナログ・テープでの録音にこだわったと聞いています。だからこそSteve Albiniを起用したのだと思いますが、どうしてそうしようと思ったのか、その結果どんな成果が得られたと感じているかを教えてください。
 「私のバンドにとってライヴは重要な要素のひとつだし、この音を生で体感してもらうことによって、より大勢の人々をこの作品の世界に引き込むことができると思う。そういう意味でも、今回はバンド・サウンドを捉えたかった。だから、まあ完全には無理だとは十分に承知の上で、できる限りライヴの感覚を忠実に再現しようと試みた。その結果、今回はパンク色がより強く出ていると思う。一般的には、LITURGYってメタル・バンドのイメージが強いし、たしかにそうではあるんだけど、ルーツが実はパンクにあったりするから。そこを全面的に出していったらおもしろいんじゃない?と思って」

――LITURGYは基本的に、あなたのワンマン・グループという性格が強いと思いますが、他のメンバーは、このバンドにおいてどういう役割を果たしているのでしょうか?あなたの書いた曲を彼らに演奏させるにあたり、ある程度は自由にプレイさせるのか、あるいは完全に指示通りに弾いたり叩いたりしてもらいながら、機械とは違う人間的なグルーヴをインプットしてもらうのか、その辺りはどう考えているのでしょう。
 「そうだね、自分ひとりで作曲しているわけだし、かたちとしてはクラシカルの作曲家に近いと思う。様々なパーツを、いかに組み合わせるかっていうことだね。そこを他人が好き勝手にアレンジしすぎると、全体のバランスが崩れてしまう。ギターにしても、他のパートとの兼ね合いで全体を作り上げているから、どこに何が配置されてるかっていうことが非常に重要になる。とはいえ、バンドのメンバーはとても大事な要素で……このバンドはかなり練習に時間を割くんだけど、それが私にとっては大きな喜びになっているし、しかも、かなり高度な技術を必要とする音楽をやっているから、一時停止してから一気にスピードを上げていくような流れとか、実際に演奏するとなると相当なスキルと集中力が必要。そこはプログラミングではカヴァーできない領域だし、この音楽を完璧に理解して、正確にかたちにできるプレイヤーの存在が必要になる」

LITURGY | Photo ©Jessica Hallock
Photo ©Jessica Hallock

――すでに昨年からライヴ活動も開始しており、今作のリリースに合わせて、アルバム完全再現公演も行なう予定ですね。ストリングスや、様々な鍵盤楽器や管楽器、さらに電子的に加工したサウンドまで、通常のロック・バンド編成ではフォローしきれないと思いますが、どのようなライヴにしたいと考えていますか?
 「だいたいは4ピースでカヴァーするかたちになってる。他のプロダクション部分に関しては、あくまでアルバム用の特別な飾りみたいに捉えていて、ライヴでは曲そのものに語らせる方式なんだ。基本的にバンドだけで伝えられるような曲には仕上げているし。ライヴでは、どちらかというと激しさを重視してる。それに、過去の作品に関しても、去年は『As the Blood of God Bursts the Veins of Time』を完全再現したし、前作の『Origin of the Alimonies』もオーケストラのアンサンブルを呼んで再現したことがあるよ。どちらも相当難しい作業だったけど、その時々のステージ設定に合わせながらやっているんだ」

――前作と前々作は、あなたが発表を急いだこともあって、あなた自身のレーベルからのリリースとなりましたが、今作は再びThrill Jockeyからの発売となりました。これにはどんな経緯があったのでしょう?
 「リリース形態を巡って意見の相違があったから、一時期は離れていたけど、今回もう一度声をかけてみたら“ぜひ!”っていうことになったんだ。よかったよ」

――さて、あなたは、学者で活動家でもあるお母さんと、作家のお父さんを持つ名家に育ったそうですが、子供の頃はどんな音楽環境にいたのでしょう?学校ではクラシカルの楽理を学んだそうですが、音楽の道を志したのにはどんな経緯があったのか教えてください。
 「子供の頃からMTVに夢中で、グランジとか、MARILYN MANSON、NINE INCH NAILSに魅了されたんだ。ピアノやギターのレッスンを受けながら、高校生の頃にはパンクやメタルに傾倒していった。同時に、哲学にもね。音楽に向けるのと同じくらいの情熱を哲学にも注いでた。そこはたぶん、父からの影響もある。その手の書物が本棚にズラッと並んでいるような家に育ったから。ちなみに母は、ギターを弾いていたよ。とはいえ、ものすごく音楽好きというわけでもなかったから、子供の頃、音楽が家に溢れていたという記憶はないんだ。両親が音楽好きで、それでミュージシャンになった人もいるだろうけど、私はそのパターンにはあてはまらない気がする。両親共に、そんなに音楽を熱心に聴くタイプではなかったのに……どうしてだろうね?自分がそもそもなんでクラシカルに興味を持ったのかは忘れちゃったけど、少なくとも高校生の頃で、最初はミニマリズムや前衛的なクラシカルから入って、そこから古典派とかロマン派にも惹かれるようになって……まあ、そんな感じかな。大学では哲学を主専攻にしていて、それ以外では作曲をする上で役に立ちそうなクラスをほぼすべて取っていた。まるでパラレル・ワールドにいるような感覚というか……あくまでクラシカルの作曲家なんだけど、そこにメタルの要素とか、クラシカルとはかけ離れた要素を持ち込むことによって、ふたつの異なる世界を繋げている、みたいな。それからだんだん、自分の周りにいる人たちというか、ブルックリン界隈で音楽をやってる人たちの影響もあって、いわゆるロックの世界に自分も身を投じたいという気持ちが出てきた。その一方で、クラシカルの技法にも魅力を感じ続けていたから、それを自分の作曲に応用するようになっていったんだ。クラシカルが自分の曲作りに与えている要素は、おそらく人々がこの音楽を聴いて感じる以上のものだと思うし、LITURGYの音楽 / サウンドの核になっていると言えると思う。私の音楽への大元の影響を辿っていくと、18世紀の音楽にまで遡るんだ」

――クラシカルを学ぶ一方、どのようにしてロック、さらにはエレクトロニック・ミュージックやヒップホップにまで惹かれるようになっていったのでしょう?
 「さっきも言ったように、最初はMTVからで、5歳のときにMTVでNIRVANAを観て完全に心を奪われてしまったんだ。それ以降は食い入るようにMTVばかり観ている子供になった……でも、あの時代にMTVなんか家に入ってたかな?いや、でも入っていたっていうことなのか。とにかく90年代はMTV全盛期だったよ」

――5歳でNIRVANAとは早熟な!
 「たしかに今考えると不思議だよね。そもそも親が5歳の子供に、よく観るのを許可してくれたと思うけど。実際、両親はあまりの熱中ぶりに心配していたみたい。何度かMTV以外のものに興味が向くように画策していたみたいだけど、TVの前から私を引きはがすことができなかったんだって(笑)」

LITURGY

――そこから別ジャンルの音楽にも入り込んでいったのですね。
 「ラップに関しては同じくMTVから入って、当時一番好きだったラッパーは2Pac。それからBONE THUGS-N-HARMONYにも夢中だった。特に初期の頃のBONE THUGS-N-HARMONYって、どこかTHE SMASHING PUMPKINSを思わせるというか、自分が最も多感な子供の頃に初めて大好きになった音楽っていうこともあって、特別な思い入れがあるんだ。中学か高校に上がる頃には周りに音楽をやっている友達も増えて、自然に音楽コミュニティみたいなのができていたんだけど、当時はパンクやポストロック系をやっている人が多かった。その頃はGODSPEED YOU! BLACK EMPERORが好きだったな。あの複雑な構造が、とても魅力的に映ったんだよね。私の曲の聴きかたも関係していると思うんだけど、いろいろなことが同時進行していて、考えさせられるような作りの音楽のほうがより興味を惹かれる。もしかしたら、他の人が曲を聴いて楽しむ感覚とは少し違っているのかもしれない。なぜか私は音楽の構造的な部分に昔から興味があって、音がどんどん進化して、発展していく過程を見るのが好きなんだ」

――メタル、その中でも特にブラックメタルがあなたの中で大きな存在になった理由は何でしょうか。様々なメタルのサブジャンルの中でも、ノルウェーで教会を焼いていた若者の鳴らした音が、ポスト・ブラックメタルという先鋭的な進化を世界中で遂げた理由について、そうしたサウンドを鳴らす当事者として、何か気づいていることなどはありますか?
 「メタルは高校に入って、パンク好きの人たちと知り合ってから聴くようになった。パンクとはまるで違う世界が開かれているように感じたよ。ブラックメタルは、あの神秘主義的なおどろおどろしさに強烈に惹かれたんだ。ロックンロールとクラシカルを、独自の美学と形式で結びつけているように感じられた。本当に奥の深い、豊かな味わいや可能性を秘めている表現だと思うし、まだその可能性が十分には開花していないようにも思える。もっと多くの人たちがブラックメタルの世界に入って、この形式を開発するようになったら、さらにおもしろい流れが今後も起きてくるんじゃないかな。とはいえ、ブラックメタルの中にかなりの駄作が多いことも事実で、強面アピールなのか何なのか、ただ自分たちがブラックメタルということを主張したいがためだけに、やたらブラックメタル感を前面に打ち出したような、そこから自分だけの独自な表現を生み出してやろうという発想がまるでないバンドが多すぎる。それはそれでひとつの形式としてアリなんだろうし、まあ好きにしたらいいけど。ただ、ブラックメタルという形式をむしろ自分たちの表現として利用することで、どこまでもクレイジーな世界観を体現しているバンドもいる。そこは同じブラックメタルでも明確に分けていく必要があると思うよ」

――では、ポスト・ブラックメタルと呼ばれるバンドの中で、共感が持てるバンドはいますか?以前ZEAL & ARDORの、おそらくManuel GagneuxとTwitterで哲学者のイマヌエル・カントについてやりとりしていたのを見た記憶があるのですが。
 「実際のところ、ブラックメタルをはじめ、メタルのコミュニティとはそんなに繋がりが強くはないんだ。そういう人たちと一緒になる機会もあるけど、まるで別世界にいる人たちみたいな感覚に近くて。むしろノイズやクラシカルをやっている人たちとのほうが接点は多いよ」

――FOETUSことJ.G. Thirlwellに以前インタビューしたところ、LITURGYのことを高く評価していました。彼は近年スコア作家として活躍していますが、あなたも映画のサウンドトラックを作ってみたいと思うようなことはありませんか?
 「そう、J.G.とは友人でもあるんだ。素晴らしい才能を持ったミュージシャン、優秀な作曲家で、インスピレーション溢れる人物だと思う。サウンドトラックに関して言うと、前作の『Origin of the Alimonies』は実際にフルスコアで書き上げているから、ある意味、すでにサウンドトラック的なものを実現しているんだ。とは言っても、あのアルバムはあくまでもメタルで、ドラムやギターが主になってるけどね。ただ、それこそ今のJ.G.がやっているように、ゆくゆくはクラシカルのアンサンブルを取り入れていく姿は容易に想像がつく。それは、あくまでも自然な流れで起きると思う」

Haela Ravenna Hunt-Hendrix

――そういえば、前作『Origin of the Alimonies』は映像も制作されているんですよね。いずれ公開される予定はありますか?
 「あの映像の扱いについては、自分でも手をこまねいてるところ。映像と一緒にあの作品をパフォーマンスで披露しているし、いつか何らかのかたちで発表するかもしれない……というか、本来ならすでにリリースしているべきなのかもしれないけど……ただ、今のところは手をつけられていない状態なんだ。たしかにパフォーマンス用の作品としては十分な仕上がりにはなっているけど、映像単体としては、どこまで耐えられるか?っていうことになると自分には判断つきかねる。そこは第三者のアドヴァイスが必要だね。自分としても世に出したい気持ちはありつつ、もう時間も経っているし、今さら過去に戻ってあの作品に着手し直すのも若干おかしな感じもしていて……まあ、今後の展開次第かな」

――ところで、LITURGYの音楽には日本の雅楽も取り入れられていますが、どのようにして雅楽に興味を持つようになったのか、どういうところに魅力を感じているかなどを教えてください。
 「まあ、本格的に学んだというよりは、ランダムに様々な伝統音楽を聴き漁っていくうちに出会ったもののひとつが雅楽で、とにかく芸術的な美しさを感じたんだ。それに楽器の美しさにも惹かれたね。それまでの自分にはない世界が開けたような、しかも激しく心を揺さぶるような感覚があった。どういう流れで雅楽を自分の曲に取り入れるようになったのかは忘れちゃったけど」

――私個人は、キリスト教に基づいた神学には疎く、また哲学全般に関しても、決して深い知識を持っているとは言えません。それでも、LITURGYの音楽には十分に魅せられますし、この音の背景にはどんなものがあるのか興味をかき立てられています。あなたのYouTubeチャンネルを一生懸命見るべきなのでしょうが、ややハードルが高いという気持ちも正直あります。LITURGYをより深く理解するために、押さえておきたい哲学者の名前や本などはあるでしょうか?
 「今のところ私のお気に入りは、Valentin Tombergが著した『Meditations On The Tarot』。そこではキリスト教とカバラと新プラトン主義的な哲学について同時に考察が展開されていて、さらには仏教的な哲学も包括されてる。7、8年前に初めて読んだんだけど、様々な宗教を複合的かつ総合的に描いた、ものすごくパワフルな著書だよ」

――古典的な西洋哲学、あるいはキリスト教の思想は、自身の作品にどのように組み込まれていると思いますか?
 「哲学的思想が音楽に反映されているというよりも、哲学と音楽を同時にやろうとしている感じ。私は哲学の持つパワーにすごく興味がある。哲学には、それをきっかけとして、生きるとは?世界とは?何を癒しとするのか?ひとりの人間として活き活きとした鼓動を発していくにはどうしたらいいのか?そういうことを考えさせずにはいられなくするような力がある。そこから導かれる進化や発展の可能性についても。それが自分と哲学との関係性で、自分の作っている音楽と共鳴しているところ。自分にも哲学のような効果をもたらす音楽が作れないか……つまり、ある種の癒しやインスピレーションをもたらすことで、世界を少しでも良い方向に導くための力にはなれないか、それを音楽を通して実現できないか?ということに挑戦してる。哲学について読んで、考察して、書き記しながら、それを耳で聴いて演奏するという、そのすべてをここで実践してるんだ。そうすることによって、私を介して、私の音楽に興味を持った人が哲学の一部に触れる、あるいは逆に哲学のほうに興味があった人たちが音楽へ開かれる……そういう新たな出会いが生まれることを目的にしてる」

――わかりました。今後、LITURGYの初来日公演が実現する可能性はあるでしょうか?
 「うん、冬頃には行けると思う」

――おお、それは嬉しいです。お待ちしています!
 「ありがとう。春から夏にかけてアメリカとヨーロッパをツアーした後、そのまま2023年は、世界各国で演奏を披露することになる予定だよ」

LITURGY Official Site | https://arkwork.org/

LITURGY '93696'■ 2023年3月22日(水)発売
LITURGY
『93696』

国内盤 CD DYMC401 3,500円 + 税

[Disc 1]
"Sovereignty"
01. Daily Bread
02. Djennaration
03. Caela
04. Angel Of Sovereignty
"Hierarchy"
05. Haelegen II
06. Before I Knew The Truth
07. Angel Of Hierarchy
08. Red Crown II

[Disc 2]
"Emancipation"
01. Angel Of Emancipation
02. Ananon
03. 93696
"Individuation"
04. Haelegen II (Reprise)
05. Angel Of Individuation
06. Antigone II
07. Immortal Life II
08. संसार *

* Bonus Track for Japan