ただ生きるためだけじゃなくて
そうしたバンドの着実な前進には、シンガーのKeith Buckleyが持つ、社会問題から哲学的な命題まで考え詰める資質、メタル外のジャンルにも向いた音楽の素養などが重要な背景となっていると、以下のKeithとのやりとりを読んでもらえればわかるだろう。『Radical』リリース後最初のツアーでは、終盤に入ってKeithが離脱するとかしないとかでいくつかのショウがキャンセルになる騒ぎもあったものの、このインタビューはその後に行なわれたもので、すでに事態は落ち着いており、今後の活動も問題なさそうだ。
取材・文 | 鈴木喜之 | 2021年12月
Main Photo | ©Michael Watson
――最新アルバム『Radical』は2年前に完成していたものの、コロナ禍の影響などもあってリリースを延期していたそうですね。世界中が災厄に見舞われたこの2年間は、バンドにとって、そしてあなた自身にとってどんな時期となりましたか?また、コロナ以前から、アメリカは特に激動の時代と呼ぶべき状況を迎えていたと思いますが、その空気も新作に反映されていると思いますか?
「アメリカの残念なところは、失敗から学ばないこと。パンデミックに関してはまったくの想定外だったとしても、自分の国で暮らしている人達の生活が悲惨な状況に置かれているのは普通に見ていて気が付いていたし、これまでにもさんざん同じパターンが繰り返されてきたのを目撃しているからね。『Radical』の歌詞は、その“繰り返されるパターン”について歌っているんだ。俺の目に映った“真実”についてね。今パンデミックを振り返ってみると、人生で初めてゆっくり腰を落ち着けて自分自身について振り返れた時間だった。自分は一体何者で、自分が本当に必要としているものは何なのか、ただ生きるためだけじゃなくて、成長し続けるために必要なものは何なのか。そこで自分なりに辿り着いた真実に従って、日々、1日1分を生きるように努力してる」
――「Planet Shit」という曲は「何世代にもわたって続いてきた不公平から生まれる、避けられない社会的な混乱を冷静に見つめる曲」とのことですが、ここで歌われているのも、そうした反映のひとつと捉えていいのでしょうか。
「まさに。あの曲は、すべての人々に与えられている基本的な権利である自由が否定されて、我慢の限界に達したとき、避けられない時代の重要な転換期について歌ってるんだ。それがアメリカという国で現在に至るまで繰り返されてきた歴史なんだけど、今では世界中の人々がそれぞれの暮らしている国や地域でそれと同じ光景を目撃している。そもそも、自由を抑圧するような法律を定めるシステムの内側にいる限り、そうしたシステムを変えることなんて不可能なんだから。“Planet Shit”は、2021年1月6日に起きたホワイトハウス襲撃事件よりもずっと前に書かれた曲で、間違ってもあの場の決断なり行動を断罪する目的で書いた曲ではない。むしろ“革命”という考えかたについて書いている曲なんだ。もしあのとき政府に反旗を翻した人間が誰かを自分に判断できるとしたら、自分は間違っても共和党の輩を選んだりはしない。ただし、その判断を下すのは俺じゃない。人々の我慢が限界に達するポイントは、あくまでも当事者である人々によって決定されるものであって、それ以外にはあり得ないからね」
――これまでも作品ごとに音楽的な変化を見せてきたEVERY TIME I DIEですが、『Radical』を制作するにあたっては、どういう作品にしようと考えていましたか?メンバー同士で事前に話し合っていたことなどがあれば教えてください。
「メンバー同士で具体的に話し合って決めたとかじゃないから、あくまでも自分自身に課していたことだけど、ただ心から真実だと思う言葉だけを語っていくっていう気持ちだった。自分にとっての真実を堂々と声にして、それを知性とパッションとユーモアを持って伝えてやろうって」
――今作は、新ドラマーClayton “Goose” Holyoak(FEAR BEFORE THE MARCH OF FLAMES, NORMA JEAN)が参加して初のアルバムとなります。彼が加入することになった経緯と、今作で果たしてくれた役割について教えてください。
「Gooseはマジで最高だよ。まさに新体制で生まれ変わったバンドに必要とされているドラマーで、ドラマー不在のままツアーが控えてる時期に加入が決まったんだ。 最初はたしかAndy(Williams | DARKER DAY TOMORROW)が共通の友達を介してコンタクトしたとかじゃなかったっけ。そこから、かたちだけ一応オーディション的なものをすることになって。その時点からマジで最高だったし、ものすごい熱意が伝わってきてね。今回のアルバム以前の曲も完璧にこなすしさ。ただ、実際にスタジオに入ってバンドとして一緒に曲を書いたときに、あいつの本来の魅力が輝き出したと思ったよ。まあ、うちにぴったりの奴なんだ」
――ドラマーといえば、「Post-Boredom」のビデオクリップが非常におもしろかったのですが、これを作ったのは、前任ドラマーのDaniel Davison(LUTI-KRISS, NORMA JEAN, UNDERØATH)なんでしょうか?このビデオの冒頭でラジオから流れる曲に、NIRVANAの「Heart-Shaped Box」を選んだ理由は何故ですか?
「Daniel Davisonと相棒のTess Hashの共同制作なんだけど、まさに名コンビといった感じの2人で、しかも、あの“Heart-Shaped Box”のサンプルが、作品全体のトーンを前フリ的に盛り上げてくれてるよね。2人の友達が作ったサンプルを、本人の了承を得た上で拝借させてもらっているんだ。あのどことなく奇妙な感じが、作品全体に何とも言えない味を醸し出してくれているよね」
――「“Post-Boredom”は、自分が書いてきた曲の中でも、初めてリアルな真実に触れた感覚になった曲だ」と発言していますね。この曲が出来上がった背景にはどんなことがあったのでしょうか?この曲に関するあなたの発言にあった、“So, what are YOU going to do about it if given the gift of death(死という贈り物を与えられたとき、おまえ自身は一体どうする?)”という問いかけの意図を、日本のファンにもわかるように説明してくれませんか?
「あの曲は自分の心の内をすべて洗いざらしにさらけ出すことについて歌っている。表立って自己弁明をしなくちゃならないとき、そこにほんのひとかけらでも自尊心が残っているか、どんな醜い場面においてもそこにほんの一瞬でも美しい瞬間が存在し得るか?それを自分なりに問いかけた結果、確実に存在していると思ったわけ。だからこそ、この曲には希望が残されてるんだよ。自分が過去に犯した罪が全部帳消しになるとしたら、同じ間違いを繰り返すか?俺は恐らくそうはしないだろう」
――同じくビデオが非常に印象的な「Thing With Feathers」は、哀愁の漂う雰囲気がアルバム中でもとりわけ耳を惹きつけます。ビデオの最後にはあなたの妹さんの名前が映し出されますが、この曲はどのように書かれたものなのでしょうか。
「あの曲は、生涯レット症候群に苦しみながら2015年に他界した妹のJaclynについて歌った曲なんだ。ただ愛を与える以外のことは何もしていないような、自分がこれまでの人生で出会った中でも最も純粋な人だった。自分自身が困難を抱えていたにもかかわらずね。いつか彼女のことを曲にしたいと思っていたけど、いつ、どういうかたちでやるかまではわからなかった。そうしたら、メンバーが送ってくれたこの音源を聴いた瞬間に、言葉やメロディが自分の内側から次から次へと溢れ出てくるようで。そのときも思ったし、今でもそう信じてるけど、この曲は彼女への贈り物であると同時に、彼女からの贈り物なんだよ」
――2020年に先行リリースされた「Colossal Wreck」と「Desperate Pleasures」は、前者が悲観的、後者はより楽観的な内容という対比がつけられているそうですね。あなたは近年になって、リスナーに絶望感だけでなく同等以上の希望も与えたいと感じていたりするのでしょうか?
「それはもう絶対に。自分史上最強に楽観的になってるから。愛と真実がすべてに打ち克つ姿を、実際に自分自身がこの目で目撃してるからね。俺がその生きた証だよ」
――あなたは以前、英語の先生だったので、文学にも親しみがあると想像しています。あなたの歌詞に影響を与えたと思う作家や詩人、文学作品などを教えてください。
「まあ、わかりやすいところで言ったらシェイクスピアとか。ジョン・ダンの作品も好き。あの形容学的な雰囲気とか、彼自身と神との奇妙な関係性に惹かれるんだ。小説なんかでもわりと精神世界に関わる作品に惹かれることが多いから、そういう意味ではヘルマン・ヘッセが、今のところ文学界における自分にとって最大のインスピレーションだろうね」
――EVERY TIME I DIEは、以前から特徴としてサザン・ロックの要素を指摘されていますが、あなた個人が特に好きなサザン・ロックのバンドや曲、その理由などを教えてください。
「あまりにも多すぎてキリがないんで、ここでは有名どころとして、THE ALLMAN BROTHERSの“Midnight Rider”を挙げておくよ。放浪者のライフスタイルのキラキラとした生きる喜びをどこまでも詩的に捉えているという点においてね」
――あなたのサイド・プロジェクト、Finale、Tape、SOUL PATCHなどは、あなたの音楽的な資質がさらに幅広いものであることを示していると思います。子供の頃、どういったジャンルを夢中になって聴いてきたのかなど、改めてあなたの音楽的な背景を教えてもらえますか?
「80年代育ちだから、とにかくエレクトロニック・ポップが大好きでね。だから、自分が何かしらの音楽をやろうぜっていうときは、自然とそっちに傾きがちなんだ。実際にエレクトロニック・ポップを歌うのも好きだよ。SOUL PATCHはもともと“皮肉めいたジョーク”のつもりで始めたものなんだけど、それがいつしか真剣になって、自分自身、あのプロジェクトを通して音楽の全体像みたいなものをより深く理解できるようになったと思う。実際にカヴァーしてみることで、自分がガキの頃アイドルとして崇めていたミュージシャンたちについて、当時は気付かなかった面が見えたりもする。自分は心から音楽が好きなんだっていうことを改めて気づかせてくれるような経験になったよ」
――FALL OUT BOYのメンバーとTHE DAMNED THINGSというバンドをやったり、前作ではPANIC! AT THE DISCOのメンバーがゲスト参加していたりしますが、こうしたポップパンクのミュージシャンとの交流が、あなた自身の音楽表現に影響していると感じることはありますか?
「そりゃもう、確実に影響を受けてるよ。Brendon(Boyd Urie)の声に惚れちゃってるのもあるし、もともとの人間の素質っていう部分で、今のところ自分が出会った人の中で一番華がある人物なんじゃないかと思う。そんな人と共演する機会を与えてもらえるなんて、いろんな意味で自分にとってものすごく良い経験になったね。もともとは向こうが EVERY TIME I DIEのファンだっていうことがきっかけで実現した企画だったんだ。Brendonだったら、うちのバンドが満足するかたちにしてくれるだろうって信頼していたし、実際その通りの結果を出してくれたことに感謝してる。THE DAMNED THINGSに関しては、 Joe(Trohman | ARMA ANGELUS)が根っからのメタル好きっていうことからスタートしていて、その上FALL OUT BOYの最高に優れたポップ・ソングの書き手ときてる。JoeとAndy(Hurley | FOCUSEDxMINDS, KILLTHESLAVEMASTER, RACETRAITOR, SECT, VEGAN REICH)とその上 Scott(Ian | ANTHRAX, MR. BUNGLE, STORMTROOPERS OF DEATH)までが自分自身のイメージをかなぐり捨ててTHE DAMNED THINGSでクリエイティヴな才能を発揮してくれるなんて、文学の大家がペンを絵筆に持ち替えて目の前で絵を描き始めるのを目撃するような特別な経験だった」
――これまでEVERY TIME I DIEのアルバムは、Adam Dutkiewicz(AFTeRSHOCK, KILLSWITCH ENGAGE)、Machine、Steve Evetts、Joe Barresi、Kurt Ballou(CONVERGE, KID KILOWATT)と錚々たるプロデューサーを起用してきており、こうした人選はバンドの音楽的な進化を実践するためのものだと感じられます。今回は前作から引き続き、Will Putneyのプロデュースとなりましたが、彼の仕事ぶりで、最も良いことはどんなことですか?
「Will Putneyと一緒に曲を作っていて何が最高かって、自分とまるっきり同じ視点から曲を見られる人物が自分以外にもう1人いるっていうことだよ。そういう特別な能力の持ち主でね。曲について普通にアドヴァイスしたり、改善点を指摘してくれるだけじゃなくて、自分と同じ立場から共感してくれて、自ら判断して行動してくれるから、それこそ自分では気付かなかったような可能性すらも掘り起こしてくれる。常に俺の5歩前を歩いてるみたいな人なんだ」
――ついでに、歴代プロデューサーとの仕事の中で、特に印象深かったことなどについても教えてください。
「Will もそうだし、 JoeやKurtやSteve、Machineなんかもまさにそうだけど、 音楽作りの法則みたいなものについて、多くのことを学ばせてもらった。何が上手くいって、何が上手くいかないのか、その理由も含めてさんざん教え込まれたし、音楽にはアートだけでなく数学的な側面もあるんだってことを思い知らされたよ。俺は数学はてんでダメだからさ。そんな奴の可能性を信じて、賭けてくれたプロデューサー陣の心意気ってやつだね。結局、成長するためにはそれ以外の方法はないからね」
――ちなみに、Will Putneyは近年ものすごい数の作品に携わっていますね。個人的にはZEAL & ARDOR『Wake Of A Nation』やVEIN『Errorzone』などが特に印象深いですが、あなた個人は、彼が手がけた作品の中で、特に気に入ったものなどあれば教えてください。
「最高のチョイス!!! 両方とも俺の中でトップ5に入るね。ついでにそこに『Radical』も入れておいてくれないかな?いやもうマジで、今回のアルバムのギターのトーンとか、めちゃくちゃ好きすぎてヤバいっていうか、まさにWill Putneyさまさまって感じだよ」
――本作はEpitaphからの第5弾となります。社主のBrett Gurewitz(BAD RELIGION)からものすごく気に入られて契約したとのことですが、この老舗レーベルの居心地はいかがですか?
「パンクロックというものを真の意味で体現しているレーベルだと思う。Brettがビジネスマンとして天才なのは疑いようのない事実だけど、感受性っていう部分でも天才肌の人間でね。“パンクロック”という言葉の真の意味を理解している人で、それは決して見た目やサウンドなんかじゃないっていうことを知っている。しかも、本物のパンクロックを直感的に見抜く才能があって、その直感に従って行動する度胸がある、非常に稀有な人物だよ」
――最近あなたたちが行なったCAVE INとの共同企画も、大いに楽しめました。彼らとコラボレートしてみた感想を教えてください。
「残念ながら、すべてリモートで行なわれたんで、対面での共演はまだ実現していないんだけどね。もともと個人的にあのバンドのことを知ってる身としては、CAVE INは“音楽界のアインシュタイン軍団”とでも言うか、もしくは“パンク・メタル界のアインシュタイン軍団”と言うべきか……ちなみに今の、バンド名にしたら最高だと思わない?」
――バッファローNYという出身地と、そこで育った経験が、このバンドの表現に何か影響を及ぼしていると思いますか。
「もちろん、このバンドに関わるすべてにおいて影響してると思ってる。あの環境で生まれ育ったことが、このバンド結成当時の若かった頃の自分にありとあらゆる面で影響を与えてるよ。自分は何に価値をおいていて、何を必要として、何を欲しているのか、何を愛して、何が嫌いなのかを、自分に気づかせてくれた場所なんだ。いずれにしろ、どうやったら自分は良い人間になれるのか、あるいは何をしたら悪なのか、そういうことは地元で過ごしてた時代に形成されたようなものだしね。あの頃、自分はどんな友達に囲まれてたのか?幸せだったか?誰かと恋に落ちてたか?家族との関係はどうだったか?身体は健康だったか?その頃すでに精神世界の道へ歩み出していたか?これまで出したその作品もその時代のスナップ写真みたいなものなんだ」
――ところで、メンバーにプロレスラー(Williams)がいることで得られる、バンドにとって特別にいいことがあるとしたらなんでしょうか?
「誰もうちのバンドにケンカをふっかけてこなくなったことだね」
――今後は、ようやくツアーを実現できるわけですが、どんなステージにしたいと思っているか、ライヴに向けた意気込みを聞かせてください。
「これまで以上にマックスで盛り上がってるよ。今までで最高のパフォーマンスを見せてやるつもり。今まで以上に気合い十分だよ」
――まだパンデミックの状況は見通しが不透明な部分もあるものの、近い将来には来日公演を実現してほしいと願っています。日本のファンに向けて何か一言お願いします。
「自分の持ってる力の最善を尽くして、すぐにでも日本でのライヴが実現するように努力し続けるって約束するよ。自分の書いた小説のプロモーションのためでも、バンドのツアーでも、どんなかたちであれ近い将来日本に行ける日が現実になることを願ってる。大好きな国だし、文化についてもマジでリスペクトしてるんだ」
■ 2021年10月22日(金)発売
EVERY TIME I DIE
『Radical』
https://silentlink.co.jp/radical09
[収録曲]
01. Dark Distance
02. Sly
03. Planet Shit
04. Post-Boredom
05. A Colossal Wreck
06. Desperate Pleasures
07. All This And War
08. Thing With Feathers
09. Hostile Architecture
10. AWOL
11. The Whip
12. White Void
13. Distress Rehearsal
14. sexsexsex
15. People Verses
16. We Go Together