Interview | FATHER x Sayaka Botanic x Albino Sound x COMPUMA x MATERIAL x 近藤さくら


不確かで未知で未熟な事象を明るみに出す

 FATHER(以下 F)とSayaka Botanic(以下 S)によるパーティ「Fruitfulness – 豊穣」の第2回が、東京・下北沢 SPREADにて4月29日に開催された。Sayaka BotanicとAlbino Sound(以下 A)による2012年結成のユニットAlbino Botanicから始まり、COMPUMA(以下 C)によるDJ、NANAO KOBAYASHI(FATHER) + MATERIAL(QUEER NATIONS | 以下 M) + 近藤さくら(以下 K)による音とライヴ・ペインティングのセッションという、有り余るほどの内容でとても充実した時間だった。第1回目で感じた緊張感がもたらす集中力とはまた異なる、旧知の仲であり信頼し合っているそれぞれが、さらなる新境地を探していくような高みを目指す集中力で、のびのびとした音や作品を作っていたように思う。そんな心地よい演奏を終えた3組に、イベント終了後に話を聞いた。

 なお今年10月まで隔月で全5回を予定している同イベントの第3回は6月26日(日)にSPREADにて開催。灰野敬二を迎え、FATHERとSayaka botanicとのトリオ演奏が予定されている。インタビュー記事末には、FATHERによる、第2回の開催を振り返るとともに第3回についての文章を掲載。

取材・文 | 鷹取 愛 | 2022年4月
写真 | 池野詩織


――「Fruitfulness – 豊穣 Vol.2」に出演した3組のみなさんに、それぞれの演奏についてのお話を聞かせていただきます。Albino Botanicさんは、今日の演奏についてご自身でどう感じました?

S 「今日はすごく良い流れだったと思います。Albino Botanicは4年ぶりくらいのライヴでした。ライヴをするのがめちゃくちゃ久しぶりだったから、単純に楽しかったです」

――ふたりのユニットはいつからスタートしたんですか?
A 「2012年から不定期でやっていて、今回で4回目かな。高校の同級生なんです。高校の頃は1度も喋ったことなかったんだけど(笑)。大人になってから仲良くなるパターンで」
S 「うめちゃん(Albino Sound)はストラクチャーを作ってプリペアしてくる人だから。私は逆で、完全に即興でやる感じで」
A 「空間と下地はこっちで作って、Sayakaは自由にどうぞ、みたいな感じで」

――Sayakaさんの方から、Albino Soundさんに合わせてきていると感じる瞬間も多くありました。
S 「本当?良かった」
A 「一応動きを見ながら、帯域が被らないようにヴァイオリンが前に出るときは音を削ったりとかしてた。僕、このイベントの1回目にお客さんとして遊びに来ていて。それを観ていたから、こういう空間で、アンビエントとかリスニング方向に寄せてもいいけど、全然違う方向もおもしろいかも、と思って。一応下地だけこっちで作っておいて、出し入れはライヴでお客さんの反応を見ながらやっていました」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.2」Albino Botanic | Photo©池野詩織

――「Fruitfulness – 豊穣」の第2回に、SayakaさんがAlbino Soundさんを誘った経緯があれば教えてください。
S 「全然一緒にやっていなかったから、久々にやりたいと思ったのと、うめちゃんが機材を新しくしたっていうのを聞いていたから。今までと違うものができるかな?と思って今回声をかけてみました。あとは普通にやりやすいし」
A 「そうね。コミュニケーションが取りやすい。居間でテレビみてるみたいなテンションです。サッカーの試合とか一緒に観ていて、ここめっちゃおもしろいね、みたいなテンション。そのフォーカス具合なんですよ多分」
F 「同じ学校だったからかな(笑)」
S 「そうかもしれない」
A 「Sayaka曰く、前世で同じ団地に住んでる」
S 「そうそう、同じ高層マンションの同じ階に住んでるみたいな。それで同級生みたいな」
A 「見ている景色がわりと近い」
S 「そうそう、それ!なんかうめちゃんの音楽は何を聴いても、球体が四角い空間でスウィングしているみたいな、鐘みたいな感じ。毎回そういう音をうめちゃんが作り出してくれるんだけど。それがなんか感覚でわかる。今回はメタルだなとか液体だなとか、なんとなくわかるから、すごくやりやすい」
A 「逆に4年前にやったときはもうちょっとオーガニックだった」
S 「それ私があんまヴィオリンが弾けなかったから」
A 「こっちも機材が違ったりもしたし、技術的なところもあったのかも」
S 「今回はもうちょっとメタリックになるといいな、と思って」
F 「優雅だったね」

――COMPUMAさんはどうでしたか?
C 「2組ともそれぞれがやるべき音を奏でられているのが一番グッときて。意思を感じるというか。押し付けがましくもなく、それぞれがやるべきことをやられている感じがして。そこが心地よくて、自分は2組の間のクッション役というか、両者の歯車役として、音量や雰囲気も含めて居心地がいい空間を作ろうと努めてみました。あとは、こういう現場が久しぶりだったもので、こういうライヴハウス的な空間の匂いとか、色味とか、照明とか、スモークの匂いにもひそかにグッときました(笑)」
S 「嬉しい」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.2」COMPUMA | Photo©池野詩織

――「Fruitfulness – 豊穣」の企画で、DJっていうのはこの先も1組だけなんですよね?
F 「唯一です」
C 「NANAOちゃん(FATHER)とは古いんですよね」
F 「本当に古い。20年くらい……?」
C 「1990年代半ばすぎからスマーフ男組というグループで活動していたのですが、元々は、男組って言っているくらい、Pファンクやヒップホップのクルーみたいに、いろいろな人が入れ替わり入ったりしながらワイワイとやるつもりだったんですけど、結局そうはならずにずっと自分と村松さん(村松誉啓 aka マジアレ太カヒRAW)とアキラ・ザ・マインドの3人だけでほぼやっていたんですね。そんな中で、いきなり村松さんがサポート・メンバーにしたいってFATHERさんをスカウトして連れてきて(笑)。それでライヴを手伝ってもらったり、アルバムのレコーディングに参加していただいたり。ロボ宙さんとZEN-LA-ROCKさんのSpace Mceezとのジャム・セッションにも参加してもらったりしていました。ただ、その後、スマーフ男組の活動が止まってからはしばらく会う機会はなかったんですけど、近年になってごくたまに連絡を取りあったりしている中で“K/A/T/O MASSACRE”で共演して、あらためて何かまた一緒にできたらといいなと思っていたところでコロナ禍になって……そんなタイミングで今回お誘いいただいたので、もうぜひっていうことで。そういった経緯も含めて、今のFATHERさんがどういう音を出すのかということは非常に興味深くて、今回は一緒に音を出してセッションしたわけではないのですが、イベントとして同じ空間や時間、価値観を共有できたといいますか、一緒に何かをできたような気がしました」
F 「DJのゲストを組むとき、COMPUMAさんしか思い付かなかったです」
S 「一択だった」
C 「恐縮です」

――今日のライヴの間の時間も、すごく素晴らしかったです。
F 「異界の扉がウィーンって開きましたね。COMPUMAさんは、ライヴでそれぞれが何をやるのかは知らなかったはずなんだけど、ちゃんと扉を開けてくれて。これはこの後大丈夫だと思って、すごく演奏に入りやすかった」
C 「こういったライヴとライヴの間、転換のDJは久々でした。今回いただいたDJ時間の40分って普通のDJとしては短いじゃないですか。でも20分とかのライヴハウスのものよりは長いから、どうしようかな?ってやる前はすごく考えたんですが、ただ音を出し始めたら自ずと見えてきたと言いますか、今日はあんな感じで、クッション役として」
F 「かなり場を整えてもらえた気がします」
C 「今日のDJミキサーは、Pioneerの最新鋭機種、DJM-V10というものを用意していただいたんですが、このミキサーが自分にとって今現在、非常に興味深くて。やれることが多機能で、指や手が足りないくらいで。ふわっとした気持ちでなんとなく向かうとふわふわっと持っていかれてしまうこともあるのですが(笑)、しっかり地に足を着けるというか、明確な意志やヴィジョンを持って向かい合うと、何か新たなミックス世界の扉が開きそうな可能性を感じていて。まるで宇宙船のコクピット的というか。最近はこのミキサーがあればリクエストするようにしているんですけど、今回はV10と向かい合えたこともワクワクしました」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.2」COMPUMA | Photo©池野詩織

――FATHERさん + MATERIALさん + 近藤さん3人のトリオはどうでしたか?
K 「とにかく楽しんであっという間に終わっちゃったっていう感じでした」

――近藤さんはライブ中、何枚絵を描いたんですか?
K 「わからない……。練習のときは、枚数をわりと決めて描いていたんだけど。10分区切りとか、3、4枚とか。でもテンションが上がっちゃって。あと、机上で描くのと、スクリーンで写されているものとして描くのとは頭が全然違うから。紙の絵だと仕上げようとしちゃう。スクリーンに移したときに映えるように、アクションのほうに振り切ったほうがいいっていうのに途中で気づいて。そっちでいこうって思ったら、すごくあっという間に終わった感じです」
F 「そう、そこら辺で全員が変わったよね。そのアクションがどこで発生したのかわからないんだけど。テレパシーみたいに同時に始まって、そこからすごくやりやすくなった。掴めてきた、みたいな」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.2」Nanao Kobayashi (FATHER) + MATERIAL + SAKURA KONDO | Photo©池野詩織

――最初はひとりひとりの始まりに見えたけど、最後は3人が繋がっている感じがしました。MATERIALさんはどうでしたか?
M 「演奏自体は終始リラックスしていて、なんの緊張もせずにやったんですけど、それはCOMPUMAさんのDJが素晴らしかったので」
F 「本当に素晴らしかった」
M 「COMPUMAさんのDJを聞きながら3人で、僕らはこのDJだったら、無音の時間も何にも怖くないというか、演奏の中でお互いが無音になったとしても全く問題ないっていうことを話しました。音楽としても成立する演奏ができる空間を作っていただいていたので。だから、何も緊張なくできました」
F 「好きなように演奏しました」
S 「本当にフィジカルな感じ。3人で幻の廃墟を探している探検感があって、すごく刺激された」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.2」Nanao Kobayashi (FATHER) + MATERIAL + SAKURA KONDO | Photo©池野詩織

C 「いい音出てましたよね。みなさんそれぞれの出してる音が濁ってなくて、音粒子の純度が高くて。心地良かったです」
S 「すごく良かった……」
M 「ひとりでやっているQUEER NATIONSの時は特に何も決めずに即興で演奏しているんですけど、今回は3回くらい練習して」
F 「練習というか、3回セッションしてみました」
M 「そんなのいまだかつて初めてで。普通はこの人とやるんだな、ってなっても、その日に行ってその場でやるんですけど、今回は世界観の共有をして」
F 「そうだね、共通点があるというのは会ったときにわかっていたから、その先に行けるかな、って思って。もう少し仲良くなろうよという感じで誘いました」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.2」Nanao Kobayashi (FATHER) + MATERIAL + SAKURA KONDO | Photo©池野詩織

――最初から安心感がふたりにはありましたよね。信じきっているというか。
F 「1回目からあったかな」
M 「練習のときも最初からできていたといえばできていて。毎回全然違うんだけど。だから今日も安心して演奏できました」
F 「だけど演奏自体は即興だから、さっき言ったテレパシーじゃないけど、どこかでそれを掴まないことには何も始まらない。だからそのトリガーをずっと探してる感じがあった。最初はやはり場所を読み取ることも同時にやるじゃない?お客さんの感じとか、空間、3人のエネルギーとか。それがどこかで音を含めて今起きている現象にカチカチっとはまっていくのが見えたから、そのときが一番スリルを得たし、感覚がのびのびし始める。その感じを掴まえられてよかったな。ないまま終わることもよくあるからさ」
C 「終わりかたヤバかったですね。ピタッと」
M 「めちゃくちゃすごかったんですよ。ドキッとしました」
K 「私もびっくりしたよ」
F 「全てがあそこに向かっていった感じがあるね」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.2」Nanao Kobayashi (FATHER) + MATERIAL + SAKURA KONDO | Photo©池野詩織

――始まりから完成していくところまでを観られたから、観ている側としてもとても満足感がありました。
F 「違う人間同士だからさ、0から一緒に何かを立ち上げるというのはコミュニケーションとしても基本的に難しいと思う。だけど、即興ってそれをあえて人前でやる、そういうことってすごくおもしろいし、根源的でスリルがある」

――今日全体を通して皆さんどうでしたか?内容が濃厚で、1組ずつでもいいくらい大満足です。
S 「満足感があれば嬉しい」
C 「今回は2回目ですよね。次回もあるわけですよね。このイベントがどういう風に進化、深化していくのかを見ていきたいということもすごく感じました」
F 「 “Fruitfulness – 豊穣”全部でひとつのかたちっていうのを目指していて。2回目にして、だいぶかたちが出てきた気がする」
M 「1回目はお客さんとして観に来ていたんですけど、一緒にやるっていうのは決まってなかった。その後、やろうって言われて、え?いいんですか?という感じだったんです。誘ってもらえてすごく嬉しかったです」
F 「ユニークな回だった」
S 「想像ができない感じで始まって、最終的にこんな色とりどりな感じになって、すごく嬉しい」
C 「参加できて光栄です」
F + S 「今回は本当にありがとうございました」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.2」Nanao Kobayashi (FATHER) + MATERIAL + SAKURA KONDO | Photo©池野詩織

予想以上に多くの人が集まってくれた第2回を終えて、うまくいったのか、いかなかったのか、などという結果はどうであれ、不確かで未知で未熟な事象を明るみに出すことで、自身に返ってくるものの大きさを感じられた回になったと思う。それはまさに、今ここ、この瞬間のできごとであり、それ以上でもそれ以下でもないのだ。

さて、第3回目はつい先日古希を迎えたばかりの灰野敬二さんをお呼びして、FATHERとSayaka botanicとのトリオ演奏です。はじめて灰野敬二さんの演奏を見たのは確か、2006年に東京・中野 plan-Bで開催されたDerek Baileyの追悼コンサートだった。即興演奏界のそうそうたる顔ぶれが揃っていたその日、咆哮のようなヴォイス・ソロを終えた灰野さんが一言「Happy Birthday Mr.Derek Bailey」と言ったのがとても印象的だった。それ以来、何度かコンサートに足を運ぶことになった尊敬する音楽家です。もはや説明不要の灰野さん、その宇宙規模の音楽をライヴで体感しに来てほしいと思う。そして私たちは大先輩の胸を借り、ただただ全力を尽くし楽しむだけです。

最後に第2回目にかけたBGMについて紹介しようと思う。1959年発売のHenrietta Urchenko録音の『INDIAN MUSIC OF MEXICO』である。支配的な文化にとってあまり魅力のない乾燥した山岳地帯であるせいか、比較的ゆっくりと進んできた、ヨーロッパとインディアンの人種的・文化的融合により、かつて音楽があらゆる宗教的儀式で重要な役割を果たしてきた要素も残りつつ、楽器などはヨーロッパに由来するものであったりと、その時代の揺らぎを感じられるものであり、伝統と革新が手を取り合った音楽である。音楽にとって文明の進化とは何だろうか。相も変わらずの状況の今だからこそ、それぞれの祈りのような音楽から手を離してはいけないと思いこの音楽をセレクトした。
――FATHER

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2022年6月26日(日)
東京 下北沢 SPREAD
開場 18:30 / 開演 19:00
着席 3,000円 Sold Out / スタンディング 3,000円(税込 / 別途ドリンク代)
※ 50名限定

出演
灰野敬二 + NANAO KOBAYASHI (FATHER) + Sayaka Botanic

予約
Live Pocket https://t.livepocket.jp/e/g4w65
Resident Advisor https://jp.ra.co/events/1544173
※ 着席チケットはLive Pocketのみでの販売になります。
※ 50名限定のイベントとなります。前売りチケットが売り切れとなった場合、当日券の販売はございません。
※ 着席とスタンディングで券種が異なります。それぞれに販売枚数上限がありますのでご注意ください。
※ 全てのエントランス料金に別途ドリンク・チケット代600円がかかります。
※再入場可。再入場毎にドリンク・チケット代として600円頂きます。