Interview | FATHER x Sayaka Botanic x Matsubara aka Romy Mats (SPREAD)


そこでしか絶対に起きないこと

 コロナ渦になって、オールナイトのイベントも、ぎゅうぎゅうのライヴ・ハウスやパーティも、体感としても忘れつつあるような気がする。ただ純粋に音楽を楽しむってなんだろう。それでも、音楽が好きで、足を運ぶのを止めたくはないから、少しずつかたちは変わっても、ずっと新しい“生”の体験をしていきたい。そんな新たな始まりを予感させるプロジェクトが、もうすぐ始まる。

 映画音楽を手がけるほか、電子音楽、ドラム・ソロなどのライヴ・パフォーマンスを中心に活動するFATHER(以下F)と、国内のみならず独ベルリンなどでアンダーグラウンドなパーティからフェスティヴァルまで多数出演してきたgroup Aのメンバーであり、ソロではヴァイオリンとサンプラーを多用した演奏で、現在は東京を中心に活動中のSayaka Botanic(以下S)がタッグを組み、東京・下北沢 SPREADで開催される新しいパーティ「Fruitfulness – 豊穣」。2月23日(水・祝)に、日野浩志郎によるソロ・プロジェクトYPYを迎えて初回を開催し、その後は4、6、8、10月に開催予定。初回の開催を迎える前に、イベントを企画したふたりと、会場のSPREADでブッキングを担当するMatsubara aka Romy Mats(以下M)に話を聞いた。

 なお今後、同イベントの出演ゲストを迎えてのインタビューもAVE | CORNER PRINTINGに掲載予定。

取材・文 | 鷹取 愛 | 2022年2月


――まずはみなさんの自己紹介をお願いできますか。

F 「FATHERです。私はドラムやパーカッション、電子楽器・声を使ったセットをソロで演奏することが多いです。あとは様々なミュージシャンとセッションしたり、たまに映画音楽に関わったりもしています」
S 「Sayaka Botanicです。私はいろいろ録音した音をサンプラーに入れてビートを組んだトラックを作って、その上にヴァイオリンを被せるかたちで音楽を作っています。たぶんジャンルで言ったら電子音楽に近いけど、生楽器を多用した音楽をやっています」
M 「SPREADのブッキングのMatsubara aka Romy Matsです」

FATHER
FATHER

――今回の企画「Fruitfulness – 豊穣」をやることになったきっかけは?
F 「まずひとつはシンプルに、やってみたい人と共演するのに自分たちで企画するのが一番早いと思ったこと。もうひとつは、コロナ渦前にヨーロッパ・ツアーに行って、私は電子楽器のセットでツアーを回っていたんだけど、そのときに様々なスタイルの人と共演することがあって。エレクトロニクスの人もいたけど、例えばサックスとサンプラーに合わせて歌を歌う人とか、生音でピアノとチェロとバイオリンのバンドだったりとか、シチュエーションはもちろんのこと、音量も手法もバラバラの人たちと対バンすることが多く、お客さんの年齢も20代から70代くらいの人もいて、それが自分には妙にしっくりきた感じがあって、イベントとして開けているというか、すごく心地が良いと思ったんです。まあ、年配のかたは自分の演奏のときに耳を塞いで出て行っちゃったんだけど……(笑)。わりと東京だと手法やジャンルとかの括りでイベントが開催されることが多くて、それも楽しいけれど、演奏者の眼差しや、何を大事にして音楽をやっているのか?など、目に見えない部分での共通点が同じ場所に集まって重なっていくと、場が有機的に広がるのを体感したから、そんな場所を作れたらっていう思いがあって。自分もそういう場所で演奏したいと思っているし」

Sayaka Botanic
Sayaka Botanic

――ふたりでやることになった経緯を教えてください。
F 「Sayakaちゃんは、昨年4月に対バンしたときに、初めてちゃんと観て」
M 「それはお互いに?」
F 「そう。かなり最近。そのときに楽器の選びかただったり、使っている機材だったりが、彼女のやりたいこととすごく一致していると思って。好きなことを好きなように彼女の世界観でやっているっていうのにシンパシーを感じた。でも、それと同時に何か物足りなさを感じているだろうな、っていうのを私は直感的に拾った。だから終わった後にちょっとお茶しようって誘いました」
M 「そのときにsayakaさんもFATHERさんの演奏を初めて観たんですね」
S 「ライヴのオファーをもらったときに、私とFATHERさんを同じイベントにブッキングしようとしてくれている人が他にもけっこういて、なんでお互い知り合いじゃないのか?って言われていたんです。それで、その日は楽しみだなあと思って観に行って、FATHERさんがライヴしているのを観たときに、“わかる、やりたいことがわかる”って思って」
M 「同じこと言ってる(笑)」
S 「そのイベントでFATHERさんはドラム・ソロだったんだけど、私とテンテンコちゃんでFATHERさんを挟むっていうすごくストイックな内容で。私が“面”で音を作っているとしたら、FATHERさんは“点”で、なんかその潔さが私はおもしろいと思った。テンテンコちゃんは“層”だし、私は面とか線だけど、ひとり“点”の人がいて。その対比がめちゃくちゃおもしろかったから、すごく興味を持って。FATHERさんが持っている“間”みたいなのがすごくわかるし、なんかできる気がするな、と思って。それで、話をしたときにぜひお茶をしようっていうことになって、今に至る」
M 「そんでお茶しましょうってなって、イベントすることになった感じですか?」
F 「1回目のお茶会でイベントの話をしていたよね。最初にも話していたようなことをSayakaちゃんに伝えて、ひとりよりもふたりのほうがおもしろいし、これはけっこうすぐやろうってことになって」

――イベントの話を初めて聞いたときのSayakaさんの印象は?
S 「ぜひやりたいと思いました。私は昨年はあまりライヴをしていなかったんですけど、ちょうどいい場所がなかったというか。今ちょっと休止中だけど、今までgroup Aというデュオでヨーロッパをずっとツアーしているときに、いろんなイベントにぶち込まれることが多くて。裸の人が沢山いるフェティッシュなクラブでライヴをやることもあれば、格調高いアート・ギャラリーでやったこともあって、なんかすごくいろいろなイベントに出ていたのが楽しかったというか、経験値になったと思っていたんです。でも日本に帰ってきたら電子音楽は電子音楽のイベントだし、それはそれで楽しいし、私も行くんだけど、誰かひとりキュレーターがいて、その人の趣味が反映されてるだけの変なイベントがあったら喜んで出たいってずっと思っていて。それをFATHERさんから聞いたときに、自分たちでそれができるならめちゃくちゃ楽しそうって思って」
F 「うん」

――今回の企画のタイトル「Fruitfulness – 豊穣」に込められている意味は?
F 「豊穣。豊かな実り」
M 「何かの引用ですか?」
F 「これとは別に、少し前にふたりでユニットを始めて、この企画の何回目かに演奏する予定なんだけど、その言葉はそのユニットの中で使われている歌詞の一節から取った」
S 「“豊な実りのフンボルトの海”っていう一説があって、それがすごく頭に残っていて、それが一応ユニット名にもなったんだよね。FATHERさんが作ってきてくれたその詩というか、文章は、銀河の誕生の話なんだけど」
F 「月と太陽と地球と銀河の話」
S 「でも、何も食物が育たなさそうな月に“海”とか“豊かな実り”とかのアンバランスさみたいなのが頭に残っていて。それが出てきた」
F 「“豊穣”っていうタイトルだから、そこで何か実りのようなものが生まれるといいな、と思っていて。それはそれぞれの演奏だけでなく、もっと全体に起こる場のエネルギーだったり、何というか豊かな現象みたいなことを“実り”と私たちは例えていて。回によって様々な“実り”が生まれて、演奏者も収穫するし、来た人もそれぞれ好きに収穫してほしい。さらに回を追って新たな“実り”の収穫を増やしていってくれたらおもしろいな、っていう意味もあります」
S 「始まりは本当に歌詞の一部分がなんとなく残っていて、それがフックになって言葉遊びじゃないけれど、“豊穣““実り”“収穫祭”と連想していって、実りがある音楽祭とか、豊かな収穫祭とか、そういう連想がどんどん広がっていって、最終的にコンセプトに辿り着いた。1回目は電子音楽だけど、2回目はラッパーと一緒にやったりとか。普段聴かない音楽もそこで聴けたりしたら、すごい収穫だし」
F 「とにかく枠のあるものが好きじゃないから、それをどんどん払っていきたい。それぞれの解釈で、体感してもらいたいっていうのがある。自由とか豊さみたいなものに対して、精度とか強度を持ったかたがたにオファーして、出演していただくことになっているので。本当に自分たちも何が収穫できるかっていうのにワクワクしている。でも全部私たちの主観なので……。傍から見たらかなり偏っているかもしれないけど、自由に好きなことやっている人たちがいるっていうだけで、窮屈な時にも少し楽な気持ちになってくれたらいいな」
S 「それはめっちゃあるよね。けっこうしがらみのある世の中を生きているけど、この時間くらいは好きなように過ごしたい。灰野(敬二)さんのライヴを見ていると、70歳間近でああいう音楽やパフォーマンスをやっているということにすごい勇気づけられるというか。すごく好きなことをやっているように見えるから、自分もやっていていいんだ、っていう気分になる。イベントに遊びに来てくれる人たちにも、そういう気持ちになってもらえたら嬉しい」
M 「僕が個人的に思ったのは、イベントをオーガナイズしている人もお客さんとして来ると思うんですけど、そういう人たちが、一定のジャンルや表現方法で集めた企画をやるのではなく、もっといろんなアーティストを混ぜてみようと思ってくれたりするかな、って。あとSPREADでやる意味としては、普段DJのパーティが多いから、そういうイベントに遊びに行ってる人たちに来ていただいて、自分のイベントにライヴ・アーティストを呼びたいって思ってもらえたら一番いいかな」
S 「それはめっちゃいい、広がる」
F 「東京は場所が沢山あって、細分化できる。地方じゃそうもいかないから。それは良さでもあるけど、でも、ちょっとそろそろ違うかたちでもっと混ざりたいと思っていて」
S 「前にスウェーデンで、すごい吹雪いているところに1軒だけある謎の倉庫みたいなところで、私たちとメタル・バンドのおじさんたちが出演するイベントがあって。そこにしか箱がないから、みんなそこに来て、自分がどんなジャンルを好んでようが、とりあえずあの箱ならおもしろいことをやっているから行こう、みたいな感じでみんな来ていて。私たちが裸で鉄を殴るみたいなライヴやっても”わー”って盛り上がって、パンクスみたいなおじさんが踊っていたり。そういうめちゃくちゃだけどこんな音楽あるのか、みたいな盛り上がり。そういうのが一番豊かだと思って。そういう世界があるといいよね」
F 「まあ、このイベントにメタル・バンドは出ないけど(笑)」
M 「いつか出るかもしれない(笑)」
S 「あってもいい(笑)」

YPY
YPY

――2月23日(水・祝)にスタートするイベント初回は、どんな構成を予定していますか?
F 「今回は日野浩志郎さんのソロ・プロジェクトYPYを迎えて、3組ともあえて電子セットです。それぞれ全然違う電子音の捉え方をしているので、そういうところも楽しめるのではないかと思います。まだ確定してないことも多いから、すべては話せないけど。次回以降は、例えば私はドラム・ソロをやったり、ゲストを交えて3人でセッションしたり、ふたりそれぞれが、一緒に演奏したいゲストを迎えてデュオっていう日もある。あとはさっき話したユニットで演奏する日もあるし、幅広い編成と組み合わせ。立って見る日もあれば、着席の日もあるし、大きい音のときもあるし、静かな音のときもある」

――イベントはどれくらいの周期で開催予定ですか?
S 「2ヶ月に1度、隔月で、2、4、6、8、10月。偶数月にやります」
M 「何か意味はあるんですか?」
S 「偶数ってすごく実りがありそうだよね。奇数より偶数は。一応10月はすごくしっかりした収穫祭っぽくなるのはいいなあ、ってなんとなく逆算したというのがある」

――なぜSPREADでやろうと思ったんですか?
F 「かなり個人的な理由だと、音が響く。私はドラムやパーカッションの生楽器も演奏するから、本当に響かないところは演奏することを楽しめない。そういう意味で響く場所が好きというのがあって。あとは初めて行ったときに、こういうところがあるんだ、って。そんなに大きくないのに天井が高くて、小さいけど閉鎖的でもないし、あとは新しいから色がないのがすごくいいと思った」
S 「私もそれめちゃくちゃ思った。偏りすぎていないというか、ラインナップ見てもパーティもあるしライヴもあるし、ちょくちょくアコースティックの人も出るし、ドラムもあるし。その偏らなさがいいなと思って。内装も好きだし。程よく暗いみたいな。なんか乾燥しすぎず、湿っぽくもない程よい湿度感で」
F 「逆に他が思いつかなかったかも。最初からやるつもりだったので……。ありがとうございます」
M 「最初にSPREADに来ていただいたのはいつですか?」
F 「それ全然思い出せなくて……。でも最初から場所の印象がすごく残ってた」
S 「私は灰野さんのパーカッションのときが最初」

――SPREADとしては企画を聞いたときにどう感じましたか?
M 「素直におもしろそうだと思ったのと、嬉しかったです。長くなるんですけど、2020年の3月くらいにSPREADが完成て、僕がSPREADでブッキングとして携わり始めたのはその年の9月ぐらいで」
F 「できたのって、ほんとコロナ渦に入ったときくらいだ」
M 「そうなんです。僕は最初にSPREADがオープンしたての3月ぐらいにDJとして出演したんですけど、今一緒にブッキングをやっているYELLOWUHURUっていうDJが、もともとオープンのときからブッキング・スタッフとして働いていて。彼に誘われて僕もSPREADでブッキングをすることになったんですが、最初に頼まれていたのは、夜中のオールナイトのイベントでテクノのパーティを組むというのがメインで。2020年9月に営業を再開してからその年の年末までと、2021年はほとんど休業していたんですけど、基本、営業している間はそういうイベントだけを担当していて。一方でYELLOWUHURUが灰野さんや石橋英子さんのイベントを組んでいたのを見ていて、徐々に自分もこういうイベントをブッキングできるようになりたい、デイ・タイムのおもしろいイベントがやれたらいいな、っていう思いが募っていた部分もあったんですね。そういうタイミングで、ちょうど僕が担当してるオールナイトのパーティでSayakaさんをブッキングさせていただいて、そのときに今回の企画の話をいただいたという経緯ですね」
F 「あの日に、今日話そうって思っていて」
F 「何でもありとか、いろいろなことをやりたいわけではなく、表面的に同じでもバラバラでもそれはどちらでも良くて、本質的な共通点を繋いでいって、そういう事象が集まっていくとどんなものになるのか、それを私たちは見たいっていうのがある。自由の姿みたいなもの」
M 「そこに何を提案していけるのかっていうのが、僕の課題だと思っています。僕のSPREADでの活動においては、デイ・イベントをこうして企画すること自体ほとんどやってこなかったので。でも自分がSPREADとは別で企画している“解体新書”っていうパーティは、当初からライヴ・セットのアーティストを入れるのを大事にしていて。ダンス・ミュージックか非ダンスかを問わず、そういう人たちをブッキングするっていうのは心がけてやってきたことではありました。だから最初にFATHERさんが言っていた、表現方法がコミュニティ化するという話は、すごくわかる。僕はパフォーマーじゃないけど、そこに生じている閉塞感には大いに共感できるし、コンセプトにもめちゃくちゃ共感しました。そこで自分がSPREADのブッカーとして何ができるかっていうのは今すごく考えていることです。結果にも繋げたいし、数字化されない部分での実りがあるようにしていきたいと思います」 
F 「もう感性の実りでしかないね、目には見えないものだし、音楽は。何も優劣もつけられないし」
M 「何か今後の展望とかあるんですか?」
F 「まずはいいライヴがあればそれで十分だと思う。それが一番難しいけれど、いいライヴをする。それに尽きる」
S 「それ、ストイックに思ってるかも。上質な実りの回にしたくて、せっかくSPREADっていうぴったりの場所も見つけたし、受け入れてもらえたし、この人とやりたいっていうミュージシャンもいるし、運よく声かけられる場所にいるし。すごいシンプルな欲が湧いているから、真面目にやりたい。なんか毎回違うことができたらいいな」
F 「緊張するなあ」
S 「個人的には毎回そのイベントの色にあったようなものを作ったり、毎回違うもの、いろんな方法を試せるようになりたいって、真面目に思ってる。私の目標」
F 「いま思ったのは、試したいことをできる機会があること自体がすごく贅沢。いくらでも試せるし、スリリングだね」
S 「そういう場になったらいいな」
F 「うん」
M 「それを目撃しにきてほしいですね」
F 「いっぱいいっぱいだと思います」
S 「うん、いっぱいいっぱいです」
M 「毎回1回しかない感じですね。その回しかない」
F 「そうなの。その回でしか絶対に起きないこと、っていうのを仕掛けてあるから」
S 「楽しみにしていてください」

「Fruitfulness - 豊穣 Vol.1」Fruitfulness – 豊穣 Vol.1

2022年2月23日(水・祝)
東京 下北沢 SPREAD
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 / 当日 2,500円(税込 / 別途ドリンク代)
※ 30名限定

出演
YPY / FATHER / SayakaBotanic

予約
spread.ticket@gmail.com
件名に「02/23 チケット購入希望」と記載の上、本文に氏名と人数をご記入ください。
※ ご予約される方は 2月22日(火)23:59 迄にご連絡ください。
※ ご購入いただいた方は開催当日お名前の分かる身分証明書を受付にて確認させて頂きます。
※ 止むを得ずキャンセルされる場合は必ずご連絡頂きますようお願い致します。