Interview | Geordie Greep


矛盾が共存するのはいいことだと思う

 2024年はblack midi活動休止の衝撃から一転、鮮烈なソロ・デビューを飾ってみせたGeordie Greep。各方面で高く評価されたアルバム『The New Sound』リリースを受けての大々的なワールド・ツアーでは、アメリカ / ヨーロッパ / アジアと地域によってバック・バンドのメンバーを変えるという大胆なコンセプトも話題を呼んだ。

 以下のインタビューは、2月の日本ツアー(Greep以下、松丸 契 sax、梅井美咲 pf、Michael Dunlop b、Akio Jeimus drというラインナップ)がスタートする2日前、都内の某スタジオにて行なわれたもの。現在のミュージック・シーンで最先端を走る若き才能が、どんな意識のもとで自らの表現をさらにその先へと突き詰めようとしているのか探ってみた。


取材・文 | 鈴木喜之 | 2025年2月
通訳 | 青木絵美
翻訳 | 網田有紀子
撮影 | Kazma Kobayashi


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――ここはスタジオで、先ほどバンド・メンバーの姿も見えましたが、明後日から始まるジャパン・ツアーに向けてリハーサルをやっていたんですよね?

 「その通り。最初のリハーサルだった。他のメンバーは、この2日間、僕が来る前から先にリハを始めていたんだけど、僕が一緒にやるのは今日が初めて。すごくいい感じだよ。明日もあるし、木曜までにばっちり仕上がると思う」

――これまでアメリカやヨーロッパでやってきたツアーとは、また違うメンバーになるわけですけれども、この、ツアー先によってバンドの構成員を変えるという試みについて、現時点でどんな手応えを感じていますか?
 「今のところ、最高にうまくいっているよ。やってみる価値は十分あったと思う。特にアメリカで一緒に回ったバンドは良かった。ツアーを重ねるうちに、どんどん良くなっていったっていう意味でね。ヨーロッパでのバンドも良かったけど、それほど長い間ツアーしたわけじゃなくて、ある週はあっちで、別の週にはこっちでっていう感じだったから。アメリカのバンドとは1ヶ月以上を共にして30公演くらいやったんで、回数を重ねる毎に良くなっていった。みんなミュージシャンとしての自分に誇りを持っていて、例えば、ある曲がうまくいかないと、次の日にもう一度やりたい、次のショウでうまくやるためにリハーサルを20回やりたい、みたいなことを言ってくる。普通のバンドだとメンバーがもっとのんびりしていて、“えー、これリハーサルしなきゃダメ?”みたいなケースもよくあるけど、このプロジェクトに参加してくれた人はみんな本物のミュージシャンで、僕にとってもいい経験になっているし、すごく新鮮なエネルギーをもらえた。そして今日、日本ツアーのためのメンバーとリハーサルしてみたら、アメリカでやったときとはまた違うフレイヴァになった曲もあってね。ある意味、この曲はこうなるはずだっていう思い込みを見直さなきゃいけなかったりした。他にも、この曲って、こういうふうにもできるんだ!とか、長い間ずっと気付かずにいたようなこともあって新鮮なんだ。それって最高なことだよ」

――日本のバンドでまた変化があったという話が興味深いので、もう少し詳しく聞きたいのですが、まずバンドにサックスが入るのは今回が初めてですよね?
 「うん、それについては、言ってみれば意図的にやったことで、理由は同じことを繰り返したくなかったから。アメリカではパーカッションとギターをもう1人追加していたけど、今回はそのどちらもなしにして、代わりにサックスを入れたんだ。そうすると曲のアレンジを変更しなきゃいけないところがたくさん出てきて、再調整が必要になる。そこから新しいものが生み出されるんだ。同じことを毎回やっても意味がないし、どこか変えてみよう、違うことをやってみないかってね。いろいろ考え直さないと、クルーズ・コントロールみたいに自動制御になってしまう。でも実際、今回のバンドには様々なスタイルのミュージシャンが集まっていて、特に松丸 契の演奏法はクレイジーというか、クレイジーなアタックで、それでいてあらゆるスタイルに適応できる才能が彼にはある。おもしろいのは、彼とドラマーのAkio Jeimusが、2人とも専門って言っていいくらい、フリー・インプロヴィゼーションのアヴァンギャルド・ミュージックばかりやっていること。だから、僕がやってみてって言う曲は、彼らにとっては普段とは違うタイプの曲になるわけで、すごくおもしろいことになるんだ。2人ともメロディがある曲を全くやっていないわけじゃないけど、ほとんどは即興音楽をやっているからね。そんなわけで、彼らは曲に全く違うフレイヴァとか、新鮮なアタックとか、雰囲気とか、その他諸々を与えてくれることになると思う。うん、今のところすごくうまくいっているよ」

――この後の日本公演も含め、今回のツアーでの経験が、自分の新しい表現、次の作品へのひらめきや糸口につながる予感がしますか?あるいはすでに掴んでいますか?
 「そうだな、曲によってはライヴでやると30分とか35分くらいにまで長くなったりするし、即興のパートも入るし、メンバーと一緒に違ったサウンドを試してみたりもする。それ自体から新しい方向性やインスピレーションを得て、曲が生まれることもあるんだ。まずそれがひとつ。もうひとつは、ライヴでやるうちに、曲がどういう構成になるべきかがわかってくることもある。つまり、家で1人で聴いていると、曲がつまらなく思えてきていろいろと手を入れたくなってくるんだけど、100人を前にライヴでやったとき、1曲の中にたくさんのことが詰め込まれ過ぎていたり、変化を加え過ぎていたりする場合、聴いているほうは大変で、ストレスにさえなってしまうケースもあるっていうことがわかるんだよ。だから、焦っちゃいけないな、って思ったりする。そんな感じで、すでに考えていることもたしかにあるね。いろんなミュージシャンとやってきて刺激を受けているし、近いうちにそれぞれのバンドとレコーディングしようっていう計画もすでにあるんだ。アメリカではショウの半分をレコーディングしてある。その上に何か付け加えて新しい曲にするのか、もしくはライヴ音源としてリリースするのかは決まっていないんだけどね。日本でも、韓国公演のあとに戻ってきて、レコーディング・セッションとかをできたらいいなと思ってる。新曲をレコーディングしてみてもいいかもね」

――それはすごく楽しみです。
 「うん、僕も楽しみだよ。おもしろいものになるだろうね」

Geordie Greep | Photo ©Kazma Kobayashi

――これまでのような、自分1人で書いた曲を、集めたメンバーに渡して演奏させるのとは違って、揃ったメンバーとセッションしながら曲を完成させるイメージに変わってきたという捉えかたでいいのでしょうか?
 「いや、今でも状況としては、長い間レコーディングして取り組んできた曲がまだたくさんあるんだ。例えば、90%くらい完成していても未完成で、どう完成させればいいのか悩んでしまう場合は少しプレッシャーがあったほうがいいと思う。そんなときは、スタジオをブッキングするのがいいんだよ。スタジオ入りの予定を立ててしまえば、なんとか完成させてレコーディングしなきゃ、っていうことになる。そうなると、うまくまとめるしかない。その関連で言うと、USツアー中、現地のバンドとプレイしてるうちに“あ、このメンバーでやるのにぴったりな曲がある”って思ってやってみたことがあった。パーカッショニストのSantiago(Moyano)がコロンビア出身で、サルサの曲をたくさん歌えるから、僕たちがバック・バンドみたいになって彼に歌ってもらったんだ。これからも、そういうコラボレーションはやっていくと思う。でも、うん、今はまだ完成させていない曲を完成させる状況を作ることのほうが必要かな」

――90%ほど完成させてある曲をとにかくレコーディングしよう、という状況になった場合、バンドのメンバーが決まっているのと決まっていないのとではプレッシャーの度合いに変化が生じるものでしょうか?
 「やっぱり決まっていないほうがプレッシャーは大きいよね。USツアーでは、去年の9月に同じメンバーで何回かやってから、同じ曲を50回、60回と重ねてプレイしていくうちにどんどん演奏がタイトになっていったけど、今また日本ではゼロからのスタートになるわけで、“おお、そうきたか”っていう感じというか、それってリスクでもある。うまくいかない可能性もなくはないからね。でもやってみる価値は十分あると思う。そのぶんもっとがんばらなきゃいけないっていうことだし、全員に緊張感が生まれるし、以前のバンドとの違いを見る機会にもなって、音楽の基準が変わってくる。だから現時点ではゼロからのスタートだけど、10年後には世界中のミュージシャンとどれだけ多く知り合えてるんだろうって考えると、すごくワクワクしてくるんだ。関係性を築くと、できることも多くなるしね。これまでもいろんなコラボレーションをして、違ったやりかたをいくつも試してきた。ブラジルでアルバムをレコーディングしたときも、勢いを大事にしたというか、ミュージシャンのみんなと会った当日にリハーサルをして、レコーディングして、今と同じ状況だった。僕が思うに、プレッシャーを受けて急かされているくらいの状況でやったほうが、何百回もやってみるときより良いものができることが多い。本気で集中するし、注意を向けることになるから。ほとんどの場合、最初にちゃんと演奏できたら、レコーディングでも何にしても、それがベストなテイクなんだ。何度もテイクを重ね過ぎると退屈になるというか、気が抜けてしまう。最初にちゃんとできたときのテイクこそが最高なんだよね。だから気を張り詰めておくこと、勢いを失わないことが大事なんだ」

――わかりました。ではここで、今回の日本のバンドについて質問したいと思うのですが、各メンバーはどのようにして選ばれていったのか、どんなふうに知り合い、交流を深めて、一緒にバンドをやろうということになったのか教えてください。
 「松丸 契は、何度かblack midiのサポートをやってくれたDos Monosでサックスをプレイしていて、いい人だなって思った。それで僕が以前日本に来たとき、何度かセッションしたんだよ。もう1人ドラマーも加えて、リハーサルというか、ジャム・セッションみたいなことをやったんだ。そのドラマーがAkio Jeimusだった。3人でやってみたらなかなかいい感じで、そこからは連鎖反応みたいに、Jeimusがロンドンに来たときに一緒にやらないかって誘ってくれて、OKって答えた。たしか5人くらいで、フリー・インプロヴィゼーションのライヴをやったら、それも楽しくてね。彼は非常にいいプレイヤーで、次に僕が日本へ行くときも一緒にやろうって誘ったら、“もちろん”って言ってくれたんだ。そして梅井美咲は彼らの友達で、“彼女は最高のプレイヤーだよ”って勧められて、美咲も僕の音楽を聴いたことがあって気に入ってくれたっていうから、じゃあやってみようっていうことになった。ベース・プレイヤーのMichael Dunlopはイギリス人で、タイミング的に好都合だったというか、僕は今回アメリカから直接日本に来たんだけど、あまり時間がなかったから、先に使者を送ることにしたんだ。つまり、Michaelをイギリスから先に送り込んで、僕が日本に到着する数日前からリハーサルを始めてもらったっていうわけ。おかげで助かったよ。彼もいい奴だし、僕の音楽をよくわかっているから、バンド・リーダー的なことをやってくれたんだ」

Geordie Greep | Photo ©Kazma Kobayashi

――今回のメンバーが関わっているバンド、betcover!!とかgoatのライヴを観て、あなたが褒めていたという話も聞いたのですが、そのあたりのことも教えてください。
 「betcover!!は2年前に日本に来たときに観たんだ。ちなみに、今は松丸 契もbetcover!!と一緒にやっているけど、僕が観たときはそうじゃなかった。たしか石橋英子との対バンで、最高だったよ。すごく良かった。それまで聴いたことなかったんだけど、ああいう1950年代のドゥワップのパスティーシュみたいなのが好きなんだ。ヘヴィでハードコアな曲もたくさんプレイしつつ、こういう感じの曲(歌ってみせる)もやっていて、シンガーも素晴らしかった。オルタナティヴ・ミュージックとか実験的なアンダーグラウンド・ミュージックって、わざと歌いかたをぼんやりさせることが多いけど、僕は目的を持ってエモーショナルで本物の歌いかたをするシンガーがいると好きになる。彼はすごくいい声をしていて、歌いかたも良かった。クールなバンドで、いつ観ても楽しいよ。それから、goatはロンドンで観たんだ。ロンドンのICAでやったんだけど、ここ数年で最高のライヴだと思った。実はJeimusがいたから観に行ったんだよ。彼はgoatのセカンド・ドラマーをやっていたんだ。あのツアーではドラマーが2人いたからね。Jeimusがぜひって誘ってくれたから、よく知らないけど行ってみるか、って思って。そうしたら、それがめちゃくちゃ良かったんだ。ライヴのあと、そこにいた全員が“ワオ、すごいもの観ちゃった。最高だ”っていう感じだったよ。彼らの音楽は、全体的にミニマル・ミュージックなんだと思う。つまり徐々にビルドアップしていって、リズムの上にいろんなサウンド・エフェクトを乗せていく感じ。ただ、ミニマリストの音楽で問題なのは、基本的に同じものを何度も何度も繰り返してクールに聴こえるまでやっていくっていうことで、それはそれでいいんだけど、時には繰り返しが単調になり過ぎることがある。でもgoatのいいところは、それとはちょっと違って、常に少しずつ変化が加えられているところ。ものすごく複雑なリズム・パターンを使いこなしていて、ほとんどモールス信号みたいだ(歌ってみせる)。驚くほど良かった。あの年に観た中で一番いいライヴだったね」

――さて、ソロ活動が始まって以降のあなたを見ていると、ヴォーカリストとしての表現を広げていこうという姿勢が感じられるのですが、ここまでソロでやってきて、自身の歌い手としての成長を実感できていますか?
 「うん、たしかにそうだね。楽器の演奏には音楽的な意味で練習が必要になるけど、歌うことに関しては、ツアーに出ると練習せずにはいられないというか、毎晩ライヴをやること自体が練習になるんだ。基本的に、やっていくうちにどんどん楽に、うまくできるようになっていく。だからblack midiのツアーを重ねるにつれて、スタートしたときは実質的にヴォーカルの正式なトレーニングを全く受けてないところから始まったのに、5年後には、自分の声をもっとコントロールできるようになっていた。それに従って、自分が書く曲もヴォーカル面での要求が厳しくなっていったというか、もっとメロディがあるものになっていったんだ。歌を理論的に捉えるというより、シンガーの視点から曲を考えるようになったから。ほとんどのバンドにとっては、ヴォーカルが先にくるわけじゃないというか、曲全体、つまりサウンドの部分が出来上がったあと、これに合わせて歌わなきゃいけない、じゃあ何か作るか、っていうことになっているけど、それに比べて今回のソロ・アルバムではもっとこう……少なくとも過去の僕の作品よりは、アルバムの大半の曲において、歌が中心に置かれたものになったと思うよ」

――メロディックな歌というのはキャッチーで親しみが持てる要素のひとつだと思いますし、逆にフリー・インプロヴィゼーションというのは難しい、とっつきにくい印象があります。これら真逆の要素を自分の表現の中でどうバランスをとっていくか、という点についてどれくらい意識しますか?
 「今回のアルバムでも、これから先に関してもそうだけど、妥協する必要はないと思ってる。両方とも押し進めてみたっていいじゃないか、って。だから今回のアルバムでは、本気でメロディックな曲を作ってみようとした。そういう曲は本当に聴き心地がいいものに、でもクレイジーなところはとことんクレイジーにして、単にそういう雰囲気にするだけじゃなく、本当に狂ったものをやってやる、って。だから、曲作りにおいては両極端にやろうとしたというか、一方ではきれいにまとまっていてメロディックでコーラスの構造もちゃんとした美しい曲を作りながら、もう一方でめちゃくちゃ激しい、強烈な曲を作ってみたんだ。僕はそういう矛盾が好きなんだよ。常にそのふたつが共存しているのは、いいことだと思う。どちらかに偏り過ぎてもおもしろくないし、いずれにしても中途半端なのが嫌なんだ」

Geordie Greep Official Site | https://geordiegreep.com/

Geordie Greep 'FThe New Sound'■ 2024年10月4日(金)発売
Geordie Greep
『The New Sound』

Beat Records | Rough Trade
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14318

[収録曲]
01. Blues
02. Terra
03. Holy, Holy
04. The New Sound
05. Walk Up
06. Through A War
07. Bongo Season
08. Motorbike
09. As If Waltz
10. The Magician
11. If You Are But A Dream
12. Aching Knees *
13. I love My Family *

* Bonus Track For Japan

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2025年4月3日(木)-
タワーレコード対象店舗 / オンライン

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