Interview | GIRLS AGAINST BOYS


金が絶対神になったら、人間の尊厳は切り捨てられてしまう

 個性派揃いの1990年代USオルタネイティヴ・シーンにおいてもスペシャルな存在感を放っていたGIRLS AGAINST BOYSが、SOULSIDEとのカップリング・ツアーというかたちで、今年4月に来日公演を実現させた。SOULSIDEとは4名のメンバー中3名(Alexis Fleisig, Johnny Temple, Scott McCloud)が重複しているものの、両バンドが鳴らすサウンドは大きく異なる。SOULSIDEがD.C.ハードコアの流れに位置付けられる音であるのに対し、ツイン・ベース編成を採ったGVSBはニューヨークへと活動領域を切り開き、当時の最重要インディペンデント・レーベル「Touch And Go Records」(シカゴ)に所属、各ローカル・シーンの特質を統合させたかのような独自の音楽性を獲得していった。そうした彼らの音楽は、『Venus Luxure No.1 Baby』(1993)、『Cruise Yourself』(1994)、『House of GVSB』(1996)といった代表作で聴けるが、28年ぶりに実現した今回の再来日公演で、ようやくその本領を生で体感でき、なかなかに感慨深い。

 ジャパン・ツアーの最終公演会場となった東京・新代田 FEVERにて、Alexis Fleisig(dr | 以下 F)、Eli Janney(b, key, vo | 以下 J)、Johnny Temple(b | 以下 T)、Scott McCloud(vo, g | 以下 M)にインタビュー。久々の日本を存分に楽しんでいるようで、全員(特にScott)が明るく饒舌、かなりくだけた雰囲気の内容となったが、貴重な発言記録を残せたと思う。


取材・文 | 鈴木喜之 | 2025年4月
通訳 | 竹澤彩子
撮影 | saylaphotos

GIRLS AGAINST BOYS | Photo ©saylaphotos

――AlexisだけはOBITSの一員として2014年に来日していますが、他のメンバーは28年ぶりの日本ですよね。前回の来日 = 第1回「FUJI ROCK FESTIVAL」(1997, 山梨・富士天神山スキー場)は、もはやイベント自体が伝説みたいなことになっていて……
一同 「(爆笑)」
M 「いやー、あれは強烈だった。あんなの忘れられるはずがない(笑)!」
F 「とにかく雨がひっきりなしに降っていたのを覚えてる(笑)。ほら、あの大嵐だよ」
M 「そうそう、土砂降りの雨の中でもフェスが進行していて、観客が踊ったり、ぶつかり合ったりしている体温で濡れた身体の水分が蒸発して湯気が上がって、そこにまたザーザー降りの雨が打ちつけ、さらに蒸気が上がるっていう、見たこともないような光景だった!人から聞いた話によると、観客から立ち上がった霧に覆われて、後方からはRAGE AGAINST THE MACHINEのステージが見えなかったらしいね(笑)」
J 「人体から発生した霧でね(笑)」
T 「それと、楽屋エリアに入ったときには尋常じゃない数の医療関係者がいたのを覚えてる。レインコートなしでビショ濡れになって体調を崩した人たちがどんどん運び込まれていて」
F 「FOO FIGHTERSのライヴ中にステージ前方が揉みくちゃ状態になって、怪我人が出ないか心底ヒヤヒヤしていた関係者の表情が忘れられない。それで彼らが“全員がうしろに一歩下がるように”っていう指示を出したら、オーディエンスが一斉に後方へ下がったのにも腰を抜かした(笑)!」
J 「10人とか20人の話じゃなくて、2万人だからね!」
F 「しかも、バックパックを背負ってる人はいったんステージ前方に荷物を預けるように指示があって、ステージ前に大量のバックパックの山ができたのも強烈だった。あんな光景、後にも先にも見たことないよ(笑)!」
M 「アメリカのフェスだったら、観客に下がれなんて指示を出そうものなら、“おまえ、この俺に指図するなんて何様のつもりだ⁉”って騒ぐに決まってる(笑)」
T 「まさに日本以外では起こり得ない光景だよね」

Johnny Temple | Photo ©saylaphotos

――いきなり話が盛り上がってしまいました(笑)。では改めて、今回SOULSIDEとのジャパン・ツアーが実現した経緯を教えてもらえますか。
M 「うちのバンド周辺、それこそワシントンD.C.時代からの仲間が、最近になってよく日本でライヴをやるようになって。そんな頃にSNSでImakinn Recordsの存在を知って、フォローしたら向こうもフォローを返してくれたところから繋がって、“日本でライヴしたいんだけど”って持ちかけたら、スタッフのYoshi(今関善貴 | 2 sick worry, Haus, Tongues)から速攻で返信をもらったんだ。そこからメンバーのスケジュールを調整したり、移動予算やプランも含めて地道に戦略を練って、ようやく実現したわけ。何年もバンドを続けていると、ときどきこういうご褒美みたいな出来事に遭遇することがある。長年活動する中で得た仲間との縁が、また別の縁に繋がって、そこから輪が広がり、思いもよらなかった出会いに発展していく……そういうのはまさにDIYならではの良さだよね。普通にマインドや興味を共有する人間同士で気軽に声を掛け合って、その輪から広がっていくんだ」

――4人のうち3人は2バンド掛け持ちなので、倍の時間を稼動することになるわけですが、大変ではないですか?
F 「ツアーっていうかたちでは、今回が初めてなんだよね」
T 「前にポーランドのフェスでは両方とも出演したよね。2年前だっけ?」
Bobby Sullivan(SOULSIDE | 取材の場に少し立ち会っていた) 「いや、4年前だよ」
F 「SOULSIDEとGVSBっていう今回と同じタッグで。でもあのときは一晩じゃなくて二晩に跨ってたけど」
T 「そうだね」
F 「俺は、同一フェスで最高4つのバンドを掛け持ちした記録を持っているんだ!」
M 「チェコのときだろ?このバンドのファミリー集結みたいなイベントだったよな!」
J 「あれってScottの50歳の誕生祝いのときだっけ?」
M 「そう、プラハだった。俺は今オーストリアのウィーンに住んでいるから、よくプラハに行くんだよ。そしたら現地の知り合いが誕生祝いのイベントを企画してくれてね。GVSB、SOULSIDE、PARAMOUNT STYLESっていうラインナップで……あのときはAlexisが大忙しで、あちこちに駆り出されてた。ほぼ全員が掛け持ち状態で、自分のバンド以外でも駆り出されてたよな」
F 「猫の手も貸してくれ状態で (笑)」

Alexis Fleisig | Photo ©saylaphotos

――そんなときは、脳内のスイッチをどう切り替えてるんですか?
F 「自分でも知りたいくらいだよ(笑)!」
M 「まあ、今言ったフェスみたいな特別な例は除いて、今回みたいに本格的に一晩2バンドでやるのは初の試みなんだ。なかなかおもしろい体験をさせてもらってるよ。初日はさすがにテンパってミスを連発したけど(笑)、大阪は楽しかったし、何の問題もなかった。とはいえ、普段使わない脳味噌までマックスでフル回転させてるけど(笑)。やっぱり目の前のバンド、音、パフォーマンスに全神経を集中したいからさ。普段だったら本番前に数時間かけてピークをそこに持っていくわけだけど、それが今回は一晩に2つ相手にしなくちゃならないわけだからね(笑)。でもメンバーはかぶってるし、全員が身内みたいなものだから、そのおかげでこなせている部分もあるよ」

――MCで「靴を履き替えた」と言ってましたよね。
M 「あれはジョークだけど、まさにそんな感じかも(笑)。ステージ上で靴を履き替えるとか、あるいは別人に変身するみたいな感覚。“靴を見ればその人がわかる”って言うくらいだし。あれの元ネタってCMか何かのキャッチコピーだっけ?ツアー中って気が狂いそうになると、ジョークやユーモアで乗りきっていくしかないから、靴を履き替えるって表現もそこから出てきたんだ。いっそSOULSIDEとGVSBで衣装チェンジでもしたら、一瞬で脳内の切り替えができるようになるかもね(笑)」

――SOULSIDEとGVSBを同時に観て、改めてそれぞれ音楽性がかなり違うと実感しました。DCからNYへ拠点が変わったことでサウンドが変わっていったのでしょうか?それとも新しい音を鳴らしたくて場所を変えたのですか?
J 「土地からの影響も大きいだろうね。ニューヨークとD.C.ではシーンもまるで違う。ニューヨークに移ってから、より音楽性が広がったように思う」
M 「D.C.の音楽シーンはコミュニティを中心に回っていて、そこが良さだったりもする。バンド同士がみんな知り合いで、互いにサポートしながら同時に良い意味で競い合ってるっていう。ニューヨークの音楽シーンは、巨大なブラックホールに右も左もわからないまま飛び込んでいくようなもので、まさに手探り状態。頼れるのは自分たちだけで、本当に自らの足で立つしかない感じなんだ。地方からニューヨークに出てきた人間なら、多かれ少なかれ誰でも一度はその感覚を経験してるんじゃないかな。頼りになるのが自分しかいないから、必然的にとことん己と向き合うことになるし、結果的にそれまで気付かなかった自分自身を発見して、そこから自分の音楽や表現にまで変化が訪れる……やっぱりニューヨークに出てくる目的って、以前は知らなかった自分の可能性を見つけたいからっていうのもあるんじゃない?だから、SOULSIDEとGVSBで表現が変化してるのも当然といえば当然なんだ。今でも覚えているのは、まだD.C.から引っ越したばかりの頃、ニューヨークのむさ苦しいクラブで現地のバンドのライヴを観ながら、曲や歌にリピートを取り入れるっていう発想が生まれたこと。ライヴに行っても何について歌っているのか一言も聴き取れないことがよくあったから(笑)、とりあえず一番ポイントになるフレーズだけ何度もリピートして確実に伝えるべきじゃないか?って思ったんだ。そうして生まれた曲が“Kill the Sexplayer”(『Cruise Yourself』収録曲)。タイトルだけは確実に観客の脳に刻み込まれるようにって(笑)」

T 「SOULSIDEのときは、パンク一色みたいな感じだった。対バンもみんなパンク・バンドだし、周囲がパンク・ロックで固められていて、ある意味で閉じた世界の中にいたんだ。それとは違う方向性を自然に求めていった時期と、ニューヨークに出てきたのがタイミング的にちょうど重なったんじゃないかな。“なるほど、そういう方向もあるのか”っていうことを探っていったのがGVSBというか。そういうことはSOULSIDEではなかなかできなかったんだ……ちょうど休みを設けていた時期でもあったし。その中で、それぞれが違う可能性について摸索していた時期だったんだと思う」
M 「うん、マジでそれはあるね。あと、SOULSIDEはオールエイジズのマチネで演奏することがほとんどだったんだ。単純に“夜のステージで演奏したらどうなるんだろう?”っていう好奇心からニューヨークに出ていったのかも(笑)。でもニューヨークに行ったら行ったで、すでにバンドなんて掃いて捨てるほどいるわけで、その中に食い込んでいくのは難しい……そういう葛藤もあった。しかもD.C.時代のようにコミュニティ的な横の繋がりも一切ないわけだから。ありがたいことに、そこでも折れずにバンドとして存続していくことができて……徐々にニューヨークでも自分たちの居場所を切り開いていったんだ。ただ、そこに行くまでが思っていた以上にしんどかった」

――ツイン・ベース編成を採った独特のサウンドを、どのように確立していったのでしょう?
J 「でも、2人で同時に低音を弾くことはほぼないからね。たまにあるとしても、何回かに一度あるかないか……1人が高音を弾いていたら、もう1人は低音に回る、みたいな役割分担が自然に行われてる。ただ、明確に役割が分かれてるわけでもない」
T 「そうだね。2人で低音を弾いていたら、ぐちゃぐちゃでとんでもないことになる」
J 「片方が低音を担当してくれているから、もう片方がメロディを探求する方向に回る、みたいなバランスも働いてるね」

――さて、ライヴがとても良かったので、新しいスタジオ音源を作ってもいいのではないかと思うのですが、2013年の『The Ghost List』以来となる新曲に取りかかる予定はないのでしょうか?
M 「よく話には出るものの、なかなか難しくて。メンバー全員が離れて暮らしていることもあるし」

――昨年、26年ぶりに新作を出したTHE JESUS LIZARDにインタビューしたんですが、彼らも今みんな別の場所に住んでいて、アルバム制作は大変だったと言ってました。でも、彼らにはできたのだから、あなたたちにもできるんじゃないですか?
J 「ああ、Alexisの名前を冠した曲が入ってるアルバムだね(笑)。たしか彼らも来日するんだよね?」

――10月に来日します。その曲「Alexis Feels Sick」については、David Yowが、Alexisの探してる不動産の物件を一緒に見て回ったときの発言から付けたタイトルだと話してました。彼らとは、それぞれのバンドが休止中でも、ずっと交流があったのでしょうか?
F 「そうなんだよ。ここにいる全員がそうだよ(笑)」

――ちなみに、あなたがたの最近のセットリストをチェックすると、メジャー・デビュー以降の曲は、あまり演っていないようですが、それには何か意図があったりするんですか?
T 「いや、レーベルどうこうっていうよりは、単に自分たちがやりたい曲をやっていたらそうなっていたというか」
F 「『Venus Luxure No.1 Baby』の記念ツアーをやって、そのあと『House of GVSB』の記念ツアーもやって、その2枚のアルバムの曲のほうが練習して身に付いてるから、っていうのもある(笑)」
T 「初期の曲もそんなにやってないしね。とりあえずTouch And Goから出した3枚が個人的にはベストだと思っていて、ファンからの人気も高いから。Touch And Go時代の作品が黄金期だという認識で、自ずとあの時代の楽曲はセットリストでの比重が大きくなってる。それに加えて、たまに別のアルバムからの曲をやることもあるけど」
M 「あと、これは完全に内輪の事情になるけど、機材関係が理由でもある。93年から96年くらいまでの作品って、ベース2本とキーボードっていう、シンプルで削ぎ落とされた音が中心だから。“Basstation”(『You Can't Fight What You Can't See』2002, Jade Tree)とか“Park Avenue”(『Freak*on*ica』1998, DGC)とか、少しあとの時代の曲をやることもあるけど、そっちはもっと音が凝っているというか……ヘタにあちこちいろんなサウンドに手を出すより、一番肝心な部分だけ抽出するのに徹してるというか」

T 「SOULSIDEでもおそらく同じことをやっているよね。1stアルバムからの曲はほぼ演奏していないし、基本的にEPの曲とニュー・アルバムから何曲かっていう構成が中心になってる」
M 「なにしろ作品数が多いからね。そこから10何曲かのセットに絞り込むのは難しい。ライヴのスタートからラストまで一貫してないといけないから。比較的最近の曲の中にも相当良い曲はあるんだけど、ライヴ全体の統一感っていうところでセットリストから漏れたり……。それで結果的に90年代の曲が中心になりがちなんだ」

――あなたがたの音楽は、これまで映画やゲームのサウンドトラックとして使われることがかなり多い印象を受けますが、これには何か理由があると思いますか?
T 「感情を搔き立てるからね(笑)!」
J 「ドライヴ向きだよね。ドライヴ関連のゲームとか。どうやらスピードものとの相性が良いらしい」
M 「『グランド・セフト・オート』シリーズとか、映画のサントラで曲を使いたいっていうオファーはしょっちゅうあるね。でも、どういうかたちで曲が使用されるのか、事前に確認するようにしてる。危うく過激なシーンに使われそうになったことがけっこうあったからね(笑)‼ 際どいシーンに曲が使われたら、ライヴで演奏するときに気まずいだろうし(笑)」
J 「殺人の場面とかね(笑)」
M 「ほら、あの映画、何だっけ?Facebookのマーク・ザッカーバーグの話」

――『ソーシャル・ネットワーク』(2010, デヴィッド・フィンチャー監督)?
M 「そうそう、一瞬あの映画に採用されるかもっていう話があって。結局、別の曲が使われることになったんだけど、あとからTouch And Goのスタッフから聞いた話によると、ザッカーバーグが完全に精神崩壊して暴走する場面を想定していたらしいよ」

Scott McCloud | Photo ©saylaphotos

――ところで、つい先日はKARATEが来日しましたし、来月にはUNWOUND、秋にはTHE JESUS LIZARDも来ます。現在、90年代のアンダーグラウンド・シーンにおいて活動していたバンドが、一斉に復活へ向かう空気感のようなものがアメリカ現地で生まれたりしているのでしょうか?
F 「最近になってから取って付けたように日本に行っているわけじゃなくて、もう何年も前からアプローチしてきてはいるんだよ。ここにきて、なんでいきなりとんとん拍子に話が進むようになったのかは謎だけど」

J 「パンデミックの影響もあるんじゃない?うちに限らずコロナ禍が明けてから、ジャンル関係なく全体的にライヴ需要がコロナ前より増えた気がするし、その縁で日本と繋がったラッキーな面々が実際に来日を果たしてるって感じなんじゃないかな」
M 「他にも、いろんな要素がきっかけになってるんだろうけど。アナログ・レコード復活の流れから、最近また再発盤がたくさん出るようになったから、それがきっかけでバンドも“またライヴするか”っていう気になる、みたいなところもあるんじゃないかな。昨今のリイシューの流れとは確実に連動してるよ。昔に比べたらプレス数がはるかに少ないとはいえ、そもそも音楽の聴きかた自体が90年代とは全く違っているからね。ある意味、かたちあるものとして所有するっていう気持ちで過去のレコードをコレクションしている層に向けて発信していて、“実際に所有できるアート作品としての需要”が高まってる。今名前が挙がったKARATEは、The Numero Groupから新作(『Make It Fit』2024)を出しているけど、Numeroはリイシューにも力を入れてるからね。他にも、90年代には無名だったバンドを発掘して再発するレーベルがいくつもあって。大量生産ではないにせよ、ミュージシャンやバンドにとっては励みになるよね。KARATEなんかは当時から知られていたから、このケースにはあたらないかもしれないけど、90年代の無名バンドがリイシュー・カルチャーによって発掘されて、新なたリスナーの元に届くチャンスがあるし、それに背中を押されて、また久々にみんなで集まってライヴをやってみようかっていう勢いに繋がっているんじゃないかな。そういう良い感じの連鎖反応が起こっている気がする」

――なるほど。では、日本ツアーを終えた後は、GVSBの予定はどんな感じですか?
T 「とりあえず6月に東海岸をツアーする予定だけど、その後は未定」
M 「リユニオンのイベントのことに言及しなくちゃ」
T 「そうだね。D.C.にPositive Force(*)っていう地元のパンク・バンドが中心になってやっている団体があって。僕たちがガキだった頃から40年近くに亘って活動している団体でね。ホームレス問題、人種差別、同性愛嫌悪といった社会問題に取り組むための資金を集めるチャリティ・イベントを主催しているんだけど、今年6月にD.C.で大規模な記念イベントが開かれる予定なんだ。その中の1日でGVSBがヘッドライナーとして出演して、別の日にはSOULSIDEも出演するよ。すでにチケットはソールドアウトで、今から本当に楽しみにしてる」
* 編集部註: 1980年代初頭に米リノNVにて7 SECONDSを中心に試みられた組織に端を発する活動家団体。「Dischord Records」と密接な関係にあり、SOULSIDEやFUGAZI、IGNITION、SCREAM、SHUDDER TO THINKらが参加した同レーベルのベネフィット・コンピレーション『State of the Union』(1989)はPositive Forceの活動の一環としてリリースされている。

Eli Janney | Photo ©saylaphotos

――今の話に出た、ホームレス問題、人種差別、同性愛嫌悪といった問題について、ますます状況が悪くなっているという危機感を覚えますか?
M 「まさにピンポイントで、ここ最近になって間違いなく悪化しているよ」
J 「何とも言い難いところだけど、確実に悪化しているだろうね。でも、その危機感ゆえに現政権への関心度が高まっているのも事実で、先週末にアメリカ全土で開かれた大規模な抗議デモには多くの人々が参加している。つまり、現政権がアメリカ国民の大多数の声を反映していないことを証明しているわけで、今後いかに政権を奪回するかが重要な課題になっていくね。悪しき政治がごく限られた少数の人間によって行われてることは歴史的にも明らかだ。そう考えると現状も歴史的には珍しいことではないのかもしれない」
M 「要するに、すべてが操作されまくってるんだよ。アメリカ政治はビジネス戦略による利権争いみたいなもので、巧妙なレトリックによって“おまえが苦しんでいるのは、あいつら余所者に権利を奪われているせいじゃないか?”っていう無意識の刷り込みで差別意識や同性愛嫌悪を煽って、ヘイトを焚き付けて利用している……。打ちのめされるというか、まるで現実とは思えなくて愕然とするよ。60年代から70年代にかけて公民権運動に深く関わってきた両親のもとに育った人間としてはね。ガキの頃から、そういう闘争の歴史を目撃してきたわけだから。どんどん状況は良くなっていくはずだって心から信じてたよ。宇宙が拡大して成長していくように、社会もどんどん良い方向に開けていくものだって。今になって、そんな夢みたいにはいかなかったっていうことを思い知らされてる。むしろ反動によって退化しているようにすら感じるし、ショックというか、こんなシナリオを誰が予想していた?っていう話」
一同 「(頷く)」
M 「しかも自由が逆に利用されるというか、アメリカの右派は今や左派の論法を逆手に取って、ヘイトスピーチも自由な言論の一部であるという議論を展開してる。たしかに言論の自由は尊重されるべきだけど、それはヘイトスピーチを許すこととは本質的に違う。あいつらの物言いを論破したいがために、俺なんかオンラインのディベート・コースを受講したくらいだよ!テレビのニュースとか、いろんな場面で起こる議論についても、他人の立場をあえて誇張したり、わざと相手の主張を曲解させる方向に持っていったりっていうことが往々にしてある。世の中にはいろんな立場の人間がいて、様々な議論がなされているけど、対話によって互いに理解し合うどころか、溝が深まっていく一方だ。ひとつにはインターネットのせいもあるんだろうな……もはや日常の一部になった、この小さなスマ-トフォンが原因になっているね。まだインターネットが登場したばかりの90年代とは明らかに状況が違ってる。あの頃は誰もがインターネットの可能性に色めき立っていたよね。ネットによって世界がひとつになって、薔薇色の未来が開かれるって誰もが夢見てた。たしかにインターネットは良いものもたくさんもたらしたけど、90年代にはその裏側の暗い部分については誰も想像もしていなかった。少なくとも自分はそこまで深く考えていなかったな」
F 「当時のDavid Bowieのインタビューを読んだら、90年代の時点でインターネットの恐ろしさについて語ってたよ。さすがだよね。社会について鋭く見抜いてる。まさか今みたいに3〜4社の大企業によって世の中のすべてが牛耳られるなんてね。スタートしたての頃はもっと多様性があって、経営も小規模だった気がする」
M 「MicrosoftにしろGoogleにしろ、最初は新しい発想を持ったおもしろい連中の集まりで、“オフィスに卓球台があるなんて最高じゃん!”みたいな感じだったのが、所詮中身は昔からある営利主義企業と何ら変わらなかったっていうことが今になって露呈してる。オフィスに卓球台を設置したところで何が変わるでもなかった(笑)」
F 「金儲けが最大の目的になって、カルチャーにまで浸食してる。結果、金持ちが勢力を増して、ますます一極集中化が進んだ。金が唯一絶対神になったら、人間の尊厳なんて真っ先に切り捨てられてしまうのに。今こうして日本に来て、金よりも人間に価値を置いていると感じる場面が多々あるから……そりゃ日本にだって商業主義はいたるところに侵入しているけど、日本人の本質的な価値観はまだ失われていない気がするよ。ただアメリカでは、大元になる共通の価値観が何なのかを特定しづらいんだよね。なにしろ多様性がある国だから。そこはアメリカ人として誇りに思っているところでもあり、素晴らしいことなんだけど、同時に我々は常に揺れ動いているんだ」

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