『Melody Thought』発売記念鼎談
GRINGOOSE(ETERNAL STRIFE | prillmal)によるヒップホップのミックスCDが「Dogear Records」より2024年末にリリースされた。詰め込まれた空気は様々な場所に染み込んだ記憶と音楽。
GRINGOOSE(以下 G)、「Dogear Records」からISSUGI(以下 I)、仙人掌(以下 S)とミックス『Melody Thought』の話をした。
取材・文 | Lil Mercy (WDsounds | Riverside Reading Club), DJ HOLIDAY | 2024年12月
I 「もともと俺と仙人掌がGRINGOOSEのレコード置き場に遊びに行かせてもらうようになって、普段クラブとかでかけている感じとはまた違う曲、ヒップホップとかを聴かせてもらっている中で、“GRINGOOSEのヒップホップのミックスを聴きたいよね、出したいよね”っていう感じになってきて、進んで行ったって感じだったんですよね」
G 「以前からふたりに洋服をサポートっていうかたちでギフトさせてもらっていて、みなさん忙しいのでいつも自分のほうから洋服を送っていたんですけど、あるときに仙人掌がレコードをそのお礼で送って来てくれたりして、“こういうやり取りをしていると申し訳ないな”って思って。小倉の門司港で仙人掌と一緒になっていろいろ話をして、東京に戻って合流したときに、できた洋服を渡して話していて、“付き合いが長いわりには(一緒に)何もしていないよね”ってなって(笑)。自分の年齢もけっこういいところまで来ちゃったんで、生前の思い出を何か作れればいいかなと思って(笑)。最初は“何か作ろう、何か作ろう”って話していて、何も進行しないみたいな(笑)。ISSUGIと僕のスプリット、仙人掌と僕のスプリットでお互い好きな曲入れて作ってみるみたいのを“どう?”って聞いたら、“いや、ヒップホップで”って。それで躊躇したり(笑)。その後、正式にオファーをいただいて、引き受けさせていただきました」
――それでヒップホップのミックスを出そう、ってなったのが1年くらい前ですか?
G 「去年のGW明けくらいですね。みんなライヴで各地どこかに行っていたのも落ち着いて、自分のところの商品もできたんで、“ちょっとふたりにお渡します”みたいなときにゆっくり会って話して。ふたりが制作中とはつゆ知らず(笑)。あんなに素晴らしい作品を作っていても、ふたりとも何も言わないから(笑)」
――Dogearから具体的にヒップホップのミックスを作ってほしいとオファーしたのはどういった考えからだったのでしょうか?
I 「俺は個人的に、“確実に中高生くらいの時に聴いたことあるんだけど今までアーティスト名や曲名などが分からなかった”という曲が、レコード置き場で聴かせてもらったヒップホップの中にたくさんあったんですよね。そういうのがどんどんGRINGOOSEのレコード置き場から出てきて、その都度教えてもらって“俺の記憶に確実に結びつく何かがここに漂ってる”っていう感じになってきて。“こういうミックスをGRINGOOSEに作ってもらって、もちろん自分も聴きたいし、いろんな人に聴いてほしい”っていう気持ちがすごく出てきて。“GRINGOOSEのヒップホップのミックス”って普段作っているわけじゃないと思うので、そういう作品が Dogearから出せたら光栄だな、と思うようになりました」
S 「僕はやっぱGRINGOOSEのプレイを普段聴いていて。知り合った当初はどういうルーツがあってとか知らなかったんですけど、どういう曲をかけても“GRINGOOSEは絶対にヒップホップが好きなはずだ”って思いながら聴いていて。回を重ねて会ったり話したりする中で、その予想が徐々に明確になってきて。ルーツはむちゃくちゃヒップホップがあるかたなんだって確認して、そこからさらに話したりして。Dogearで何かやろうとか、スプリットで、っていう提案もしてくださったんですけど、俺もISSUGIと目を合わせて“それはさすがに”って。普段一緒にDJ HOLIDAYとETERNAL STRIFEでやられてるし、表現が正しいかわからないですけど、自分たちにはおこがましいというか。もちろんかたちにできたら素晴らしいけど、ちぐはぐになっちゃても良くないから。それだったら、自分たちから逆オファーというかたちで“GRINGOOSEのヒップホップ・ミックスをDogearから出すっていうのは最高だと思わない?”みたいな感じで。”これは勇気を出して俺らから逆オファーしてみよう”っていう感じでふたりで意を決して。そうしたら興味持ってくださって、“ちょっとやってみようか”ってなっていただけて」
G 「Dogearはふたりだけじゃなくてみんなで運営しているので、ちゃんとみんなに確認をしてもらってからからオファーをいただいて、レコードを選ぶときにふたりが好きそうなものとか、“こういうのがいいのかな?”みたいなものを、コミュニケーション取りながらやっていった感じで。構成は自分が考えたかったんで、いろいろふたりに提案して、シャウトだったりふたりのバースをこのミックステープだけでしか聴けないものとして入れたい、という自分の提案をみんな受け入れてくれて。最初は、ふたりがどんなインスト上でラップしたいかっていう、それから決めていった感じでしたね。ある程度、自分が好きなのと、ふたりが好きそうなインストを選んで。10枚くらいISSUGIに預けて、“ふたりでスタジオとかにいるときに聴いて、どれが良いか教えてください”って伝えて。それが決まって、返って来て、それから選曲を組んでいった感じです」
――ちょっと変則的な作りかたではありますよね。
G 「そうですね。僕はいわゆるヒップホップのDJっていう枠だと、スクラッチとかビートジョグリングとか、そういうスキルはゼロに近いと思うんです。だからどういう風に構成したら良いかなと思って。それでTape Kingz、僕らの世代ではオフィシャルなりブートなりを持っていたりしたと思うんですけど、いろいろなタイトルを聴いていて。その中で俺が“この人やべー”と思ったのがあって。DJ S & Sっていう人がいて、たぶんそんなにタイトル数は出ていないと思うんですけど、1本好きなのがあって、今回作ったような内容のヒップホップとR & Bがうまく混ざっている感じだったんです。でもそのテープはもう持っていないので、記憶を辿ってシャウトが入っていたのを思い出して。それでシャウトも入れたいなと思って」
――最初にミックスを聴かせてもらったとき、GRINGOOSEに連絡して「我々が子供の頃に聴いていたミックステープみたいですね」って伝えて。装丁の話とかもしましたよね(笑)?
G 「黄色い色紙でコピー(笑)」
――音楽を知る機会というか、そのためのミックステープそのままだったから。Dogear側から最初に「ヒップホップ縛りでお願いします」って言ったときに、提示する側として頭の中にイメージみたいなのはありましたか?
I 「自分の中にはなんとなく。GRINGOOSEから聞いている話の中で、ちょっと細かいんですけど、“~年くらいまでにしてほしい”とか話させてもらって。そういうイメージというか、漠然としたものは持っていました」
S 「僕は“ヒップホップのミックスでこういう感じだろ”っていうのはあまりなかったです。ちょうど3人でやり取りしてる中でも話していたんですけど、GRINGOOSEがミックスに収録したいって選んでくださった曲は、ちょうど僕がヒップホップに思いっきりハマって聴き出した頃より、それ以前の音楽がチョイスされていたんで。自分がヴァイナルとして手にしていなかったものとか、“聴いたことあるのかな、ないのかな?”っていうラインだったので、自分もどういう曲が収録されるかっていうのは想像できなかったですね。ましてやミックスされているかたちとかっていうのは、過去のGRINGOOSEにそういう作品がなかったと思うんで、仕上がりはまだまだ想像できなかったというか」
I 「自分にとってもヒップホップにがっつりハマるちょい前というか、そのあたりのをGRINGOOSEが知っていらっしゃるというか。初めてクラブに行ったときに歳上のDJがかけている“この曲わかんねえけどすげーかっけー”って思っていたのを、今になって教えてくださって。そういう瞬間が自分の中に多々あるので。“この曲、これだったんですか”っていうのを、今味わえるのってすげー最高だなって思って。そういう感覚を残したいというか、物になったらいいなと思いました」
S 「“このレコードのジャケット、中古のレコード屋さんで見てたけど、まさかこれだったんだ!”っていうことの連続で、GRINGOOSEが聴かせてくれるヒップホップがすげーかっこよくて。内容どうこうっていうよりも、“絶対に、間違いなく良いものになるはずだ”っていうのは確信としてありました」
I 「俺だったらスケボーのビデオで聴いたことがあるけど全くわからなかった、っていうのが突然ここでかかるっていうのが何度もありました」
――最初にGRINGOOSEのDJを聴いたのはいつか覚えてますか?
S 「僕だったら最初にNEW DECADE(東京・池袋 bedで隔月でLil Mercy + DJ HOLIDAYで開催していたパーティ)に呼んでもらったときだと思うんですよね。自分もレビューを書かせてもらったときに“いつが一番最初のコンタクトだったかな?”と思ったらやっぱりNEW DECADEで。そのときはライヴが多くて、DJは3組とかしかなくて、そこにGRINGOOSEの名前がクレジットされてたんで、そのときに聴いていると思います」
I 「俺もそうだと思います。NEW DECADEでbedだったと思います」
――それから何回も聴いていく中で印象的だった回は?
S 「NEW DECADEの明け方とかに聴いていたスロウジャムとかが、自分の中では。失礼かもですけど、それを聴きに行くっていうときとかあったくらいに。なんですけど、一番印象的だったのはUNIT(東京・代官山)でREFUGEE MARKETをやっていたときだと思うんですけど、あのデカいフロアの横じゃなくてステージのほうで、それこそLeon Haywoodとかをかけていて、“こんなにこの曲が!”って。誰のネタでしったっけ?」
G 「“Nuthin' But A "G" Thang”」
S 「そのネタを聴いたときの空気の作られかたがすごい衝撃で。“めちゃくちゃやばい!”って。それとかめっちゃ覚えてますね」
――あのときのDJがすごかったのは印象に残っています。
G 「たぶんSORAとCENJUからお誘いがあって、 ETERNAL STRIFEだったらああいうところでできるけど、恥ずかしいから“本当にやりたくないな~”って(笑)。あの日のことは俺もすごく覚えていて、Barry Whiteの“It's Only Love Doing Its Thing”をかけたんだ。“21 Questions”っていう50 Centのネタを。そのときにJJJが真横に来て、“これって!さっきの頭のところ!ですよね!”って(笑)」
I 「自分はわりと最近のGRINGOOSEのプレイを覚えていて、俺Ella Maiってアーティストがけっこう好きなんですけど、SHALAMARでしたっけ、“This Is”で使っているっていう。その話をしたあとにTimeOut Café(東京・恵比寿)でかけていらっしゃって、その日のもこともすごく覚えてますね。ヒップホップだけじゃなくてGRINGOOSEが好きなR & Bの曲も印象に残っています」
S 「思い出に残っている曲があり過ぎて」
――DJをしているときにどういうことに気を付けていますか?
S 「僕はその時その時で自分の気分だったりとかがあるんですけど。そういうのもGRINGOOSEやみなさんから影響を受けているのがあって、こういう場所だったらこういうテンポで聴いてほしいとか。会話ができるようにしようとか。こういう空間だったらみんなが体を動かせるような感じ、とか。それはパーティによって自分は変えています」
I 「イベントによって、雰囲気だったり、他のアーティストさんとのバランスとかあると思うので、今日は俺はこういう感じかな?とか考えます。共通しているのは遊びに来てくれてる人を楽しませたいっていう考えですね。基本自分の好きな曲をかけている感じなんで、その中の流れだったり、タイミングだったり、それを楽しんでもらえたら嬉しいなと思っています」
G 「TPOによって変えるっていうのももちろんあるんですけど、俺の場合はみんなで共有したいっていうのがあって。一緒に聴きたいなっていう感じですかね。ひとりで聴いて“この曲いいな”ってなっても、レコード置き場だと音量もそんなに出せないし。ブースからみんなが話しているのを見ているのがやっぱ良いなって」
――セットは組んでいますか?それともその場で全部100%決めてやっていますか?
S 「どっちもあります。完全に20曲、25曲、30曲をこういう順番でっていうときもありますし。ざっくり持って行って、その中で“この感じだったら次の曲はこうしよう”っていうときもあります。自分の場合、最近レコードでやらせてもらっているっていうのもあって」
I 「俺はプレイリストみたいなのにデータをぶち込んで、そこ行って始めるっていう感じなんですけど。ちょっと何曲かかけて、雰囲気違うかな?ってなったら違うのもかけられるようにしたりとか、調整しながらやっている感じですね」
――SLOWCURVより16FLIPの方がちょっとクイックに繋いでいるイメージはあります。
I 「そうですね。どれくらいにしてるんだろう。全部を最後まで、っていうよりは2番くらいで変えるみたいな。ざっくりですけど(笑)」
S 「2バース目!」
I 「2バース目のフックで変えることが多いですね(笑)」
G 「ETERNAL STRIFEのときは組まないですけど、自分単品のときも最初の2、3曲は決めたりしますけど、そのあとは持って行ったやつで、タイミングとか雰囲気とかですかね。先ほどのREFUGEE MARKETでやったときは怖いから完全にセット組んでました(笑)。(会場の)大きさというか、規模と周りの演者の人とかを考えちゃうかもしれないです」
――ISSUGIと仙人掌はDJ以外にもラッパーとしての側面もあります。ライヴとDJとの違いっていうのはありますか?
I 「ちょっと先にひでお答えて(笑)。その間にちょっと考える時間もらっていい?」
S 「ライヴのときは冷静に、ライヴ前はあまり酒とか飲まないで、パフォーマンスとしてしっかりやりたいと思っています。でもDJのときに関しては、場の空気と自分の温度感を合わせたいので、酒も飲むし、まさにそれを共有するじゃないですけど、そういう感じの意識の違いっていうのは明確にあります」
I 「もしかしたらDJのほうが少し気楽かもしれないですね、ライヴはもうちょっとやるぞ!っていう気持ちが出ているかもしれないです」
――DJって、場の匂いとかもだけど、場所を作るというか、その場に混ざるっていうか混ぜないとっていうのはあると思うんです。それが難しいところでもあるし、おもしろいところでもある。
G 「それが融合して笑い合っているときがなんかいいかなって思う」
――DJのプレイとシュチュエーションは違うと思うんですが、ミックスCDも再生したらひとりでも何人かでも共有するというのがあると思うんです。ミックスCDとクラブでのDJ、向き合うときの違いはありますか?
G 「自分はDJをやらせてもらうときは、自分が聴きたいもの、みんなで共有したい曲、それがうまく融合できればと思ってプレイしていて、ミックスに関して今回は特に、本当に今まで1回も言ったことないんだけど、わりと特定の人に向けちゃっているのかもしれない。“あなたのことです、この曲は”みたいな(笑)、そういう意識で作っているかもしれないです。今回自分が選曲しているときとか、自分が20歳から26歳くらいの頃の曲だったんで、聴いていると、宅録したテープを友達にあげたりしていたことを思い出して。今回は、ふたりの後輩に“先輩、なんか調子良いミックス作ってくださいよ”って言われて、“わかった。少し待っていて”ってふたりに向けて作って渡したっていうような感じです。自分はそういう特定、思い浮かぶ人っているから、そういうので選曲を進行している場合があるかもしれないです」
I 「今の話を聞いて、作っているときから節々で感じていました。あたりまえなんですけど、ひとつひとつ意味と理由がちゃんと存在してるんですよね。それが今の話の“1曲かけるにしても誰かに”っていうのがあるんだなって改めて感じました」
――仙人掌のレビューにあったけど、制作中に一緒でふたりで目があってニヤニヤしていたそうですね(笑)。
S 「“確実にこの空気と匂いを知ってる”みたいな気持ちにさせられて。何度もそういう瞬間があって。言葉にはしなかったんですけど、“これは間違いないよな”って。制作しているときも、その前からいろいろ聴かせてもらっているときも、“うわまじか”っていう瞬間が何回もあって、それってどういう感覚なのかって説明し難いんですけど。たぶん、僕とかも中学生くらいのときにそういうカルチャーが好きになってきて、街に出て、自分だと上野くらいが行ける遊び場という感じで。それを制作の間に話していたら、GRINGOOSEは間違いなくそこにいて。“あそこの店でかかってたミックステープのあの感じとか、もしかして、あれってGRINGOOSEだったの?”って。それくらい、いろいろ繋がってしまって。それこそISSUGIがスケート・ビデオで、とか秋葉原で、っていうのも一緒で。自分たちがティーンエイジャーの頃の記憶と、“すでに確実にそこにいた”っていうGRINGOOSEの影が間違いなくその空間にあって。それが、自分の中ではすごい体験だった」
I 「今、仙人掌が言ってくれたけど、中学のとき、毎週秋葉原の駅前の広場にスケボーし に行ってたんですよ。そこにいた一番ちっちゃいのが俺らだったと思うんですけど、あそこって場所毎に軍団じゃないですけど、分かれていて、もちろんそのときはGRINGOOSEのことを存じ上げていないけど、確実にそこにいた自分より歳上のかたがやっていらっしゃったことやスタイルに影響を受けていたし、今に繋がっていると思っています。それこそ俺がまだスケボーしか知らない頃、すでに上野のCISCOとかにいらっしゃってたっていうのがあって。“俺もう絶対その流れにいて今があるじゃん”って。スケボーだったり、ヒップホップだったり。レコード置き場にいるときに改めて思っちゃって。部分部分で東京のそういうカルチャーを受け継がせてもらっているんだなって感じました」
――その頃、背伸びして触れていた文化の中枢っていうか。その人達だったんだ、っていう。
S 「本当にその通りで、一番かっこいいと思っていたところの、そこにいたかたなんだって。最初のほうで話したのがメインストリームっていうか、例えば雑誌とかで自分たちが見ていたものと、そういう人たちとはまた違う。本当の東京のB面のことを、決して表に出ずに今も」
G 「B面収録希望です(笑)」
S 「その話をしていて、選曲とかにしてもそうなんですけど、“A面はみんな知ってるんだけど、このB面がやばいんだよ”っていうのを教えてもらえるというか。本当そういう気持ちだったっすね」
G 「職場も上野だったし、休みの日も上野に行かないと、とかもあったんで、週7で上野にいた頃(笑)。自分の職場のお店かCISCOのどっちかにいるみたいな」
――GRINGOOSEの「OWN」でのインタビューでも、ヒップホップにハマって、そこから聴く音楽が広がって行ったとおっしゃっていたんですけど、そのきっかけを教えてもらえますか?最初は完全にヒップホップだけを聴いてたんですか?
G 「最初は完全にヒップホップだけ聴いてた。聴く音楽が広がったのはKEN SPORTとかのテープで聴いて。元ネタがたくさん収録されているんだけど、ネタとして使っているブレイクの部分だけだから、すごく短くて“ここだけじゃないんだよな、曲を全部聴きたいんだよな”ってなって。友達が“俺このレコード買ってさ、これってあれのネタなんだよね”っていうのを。友達の家とかで曲の最初から最後まで聴いて“ほうほう”みたいな。そうなるとdiskunionとか中古があるところに行かないといけない。友達が中古レコード屋に行くときに一緒に行って、欲しいものが安い値段であれば買ってました。情報を今みたいにサクッと知ることができないから、新譜レコードのジャケット裏のクレジットを目を凝らして見て、“書いてある!これあれだよな”って。ヒップホップに関しては先輩みたいなのが自分の周りにはいなかったので、けっこう地元の友達とかで、それぞれ共有し合っていた感じかな。誰かの家に行って知るっていうのが多かったですね」
――新譜の店から入って、中古の店に行くようになっていったんですか。
G 「そうです。中古屋があるのはわかっていたんだけど、ヒップホップにしか興味がないから、ひたすらCISCOで買って。でもやっぱり年齢が変わるにつれて聴くものも変わってきたりして、中学生のときに姉が9歳、10歳上で、周りの従兄弟とかもそれくらいの歳上の人が多くて、1988年位にSADEとかが流行っていて、そういうのもちょっと知っていたから。“こういうのいいな”って思う、馴染みが早かったかな。あとは映画を観るとそういう曲が後ろで流れたりしてるから。『ポケットいっぱいの涙 Menace II Society』(1993, アレン / アルバート・ヒューズ監督)とかも大きかったかもしれない。Al Greenだったり、主人公のお父さんの時代になるとMarvin Gayeが流れていたりするから、そういうのあるかもしれないですね。『ジャッキー・ブラウン』(1997, クエンティン・タランティーノ監督)とか。映画で古い曲に興味を持っていたのもあるかもしれない」
――ISSUGIと仙人掌が当時通ってたレコード屋はありますか?
I 「unionに行っていた気がしますね。新品ももちろん買っていたと思うんですけど、unionに行ったら200円とか300円とかのレコードを中古で買ったりしていましたね。けっこう出てすぐ中古に流れていることもあったよね。最初はそういう感じで。ただラップするためにインストが入っているレコードを買ったり。アーティストは知らないけど、インストが入っているっていうだけでレコードを買ったりしていました」
S 「自分も上野のCISCOに行き出して、そこからレコード屋に行くためだけに渋谷とかに行き出して、それこそ宇田川町とかのお店に行って。中古盤とかはそこまで買うっていう意識はなかったんですけど、自分もラップするためだけにインストゥルメンタルのレコードを買うようになって」
――今回のミックスCD『Melody Thought』の話を聞かせてください。GRINGOOSEは「こういう感じがいいです」っていうリクエストを事前に言われて作ったんですか?
G 「ミックスに入れたいなっていうレコードを棚から出したら、ミックスを3回くらい作らなきゃいけない枚数で(笑)。ISSUGIと話して、“こういうの入れたいんだよね”って言ったら、“いや、それは2002年だからダメです”って(笑)。“確実にスタジオの機材も変わるから音の雰囲気もガラッと変わるんですよ”っていう話をされて、それはそうかもって聴いていて思って。その辺は排除しようかっていうので、1999年まで残す作業をまずやって。“これは今回採用されません、落選です”みたいなやつ(笑)。あとはさっき言ったインストを先に決めてくれたんで、そこを決めてあとはやってみます、っていうので調整していった感じでした。インストを入れる部分はISSUGIが先で仙人掌が後で、っていうのをお願いしたくらいで。あとはデモを聴いてもらえるくらいの段階まで特にふたりとミックスの話はしてなかったです」
――そのデモがレビューに出てくるふたりで聴いていたっていう場面ですか?ふたりは初めてそのときに聴いてこうなんだって。
I 「GRINGOOSEがレコード置き場に呼んでくださって、“こんな風にやろうと思ってるんだよ”って。そんな風に見せてやってくれるかたってなかなかいないじゃないですか。これからミックスCDをリリースさせていただくっていうときに、(一般的には)いないところで作って。でもGRINGOOSEは“こんな感じでやろうと思ってるんだよ”って、やり出してくれて。GRINGOOSEはもちろん後ろなんて振り返らないから、全然気付いていないんですけど、俺と仙人掌はふたりで何回も頷いて」
G 「静かだから“俺滑ってんのかな?”って思って(笑)。一瞬だけ振り返ったら、あ、ふたりとも首振ってますねって」
I 「レビューの通りなんですけど、ふたりとも目を合わせていて」
S 「そこでは割愛したんですけど、デモ・プレイのときに衝撃的なGRINGOOSEスキルみたいのがあって、繋いでいるときにちょっとちげえなって思ったら、スネアのところをチャカチャカチャンってやって、1小節がズレたりすると気持ち悪いっていう感覚がヒップホップのDJってあると思うんですけど、GRINGOOSEは余裕でズレてると思ったら、チャカチャカチャンって合わせて、それがめちゃめちゃナチュラルに繋がっていく。そのミックスのやりかたとか、初めて知ったっていう」
I 「それが超かっけーなと思って、仙人掌と頷いてました(笑)」
G 「やってる俺はズレてる、おかしいな、おかしいなと思って(笑)。あれ俺リズム感ないのかなと思って、オチ的にはターンテーブルのピッチが片方ぶっ壊れたっていうのもあるんですけど(笑)」
S 「それを平然とやってるんで、あ、ズレてるな、チャカチャカチャンって、ミックスしながら両方音出しながらそれをやっていて、それがすげーな、その感覚って」
I 「超ヒップホップだと思った。スタイルが」
S 「自分の頭が堅かったなって。そうであるべきっていうのを、“おかしくないでしょ、これが普通でしょ”っていうのをさらっとやれている姿がめちゃくちゃ衝撃的でかっこよかったですね」
G 「他にやりかたがわからなくて。他の人はどうやってやってんの(笑)?」
I 「俺はそれも含めてフラッシュバックしたっす。ヒップホップを聴き始めた頃の感覚っていうか、囚われていないっていうか。だから、すげーアガる瞬間でしたね」
G 「しばらくの間DJをやっていないときに、“DJやらないんですか?”ってDJ HOLIDAYが誘ってくれたときもそういう話をしていましたよね。DJ論って、DJはこうあるべきっていう定義が謎にあるけど、そんなの人それぞれだからって思ってた。スキルに特化している人はスポーツ競技っぽくなっちゃうじゃないですか、それはライヴ・パフォーマンスで見るべきだなって。でも、“見る”ってなってる。“聴く”っていうほうを自分は重視したいので。内容でまずはふたりが納得してくれないと。あと、一発録りだったんで、“やり直したい”って言ったらISSUGIが(笑)」
I 「このままで、そこも残しておいてほしい」
G 「まあでも、ふたりが良いって言ってくれてるんだったら大丈夫かなって」
――ノリというか、勢いは残したいということですか。
I 「そうですね。レックするときも俺と仙人掌とDJ 49がずっとそこにいて、ライヴ・ミックスしていくっていうか、通しでやってるんで、それを調整しちゃうとその良い空気が、レックしてる空間自体が好きだったから。それをいじらなくても、これをこのまま取っておきたい。針飛びしている箇所が1箇所あったと思うんですけど、全然そんなの俺はそのままいきたい、っていう感じで作らせてもらってました」
G 「俺が“気になるな”っていう繋ぎの部分が何箇所かあったんですけど、俺が嫌だなって思っているところをMASS-HOLEから“悶絶でした”って連絡が来たりして(笑)。もうなんかわかんないなっていうか、本当にそれでわかんなくなった(笑)。人それぞれだから、自分が嫌だなって思うところをやり直したほうがいいっていうわけでもないんだなって思って。みんなの意見を聞けて良かった(笑)」
I 「やっぱライヴでミックスしないと出ない雰囲気っていうのが確実にこのミックスCDにはあると思います」
――Dogearからリリースするにあたって、この作品を聴く人にどう捉えてほしいですか?
I 「堅苦しく言うつもりは全然ないんですが、自分が好きなことの元を辿っていくのってすごい楽しいことだと思っていて、それ自体が好奇心をそそるものであったりします。特に自分にとってはヒップホップってそういう楽しさを自分に教えてくれたものでもあって、例えば今自分が好きで聴いているアーティストが子供のときにこのネタをリアルタイムで聴いていたんだろうな、だから今使うんだろうな、とか思わせてくれる瞬間ってわくわくしたりするんですよね。だから点じゃなくて、線的なものでヒップホップを感じてもらえたら嬉しいかもしれません。初めてこれくらいの年代のヒップホップを聴く人がいても、確実に感じるものがあると思うんで。匂いだったり、漂っている雰囲気だったりを含めての」
S 「自分も本当にそうで、言ってしまうとGRINGOOSEの作品なんですけど、自分たちが成長していく過程を見てもらってるような気持ちも自分の中にはあって、その成長譚をみんなに披露してるみたいな。だから、それこそ若い人たちとか、今そういうものに触れていない人たちとか、自分たちもそうなんですけど、収録されている曲に辿り着いている人も少ないと思うんで。ISSUGIも言っていたけど、今あるものを紐解いていくとこういうものがあるっていう、繋ぎ合わせられるようなものに触れてくれれば自分としては一番やる意義があると思っていますね」
――自分が子供の頃とか、大人が聴いている音楽より俺らが聴いている最新の音楽のほうが絶対かっこいいとか思ってたけど、経験を重ねると、全然そっちもいいっすねみたいのありますもんね。
S 「本当に同世代とかもそうなんですけど、どっちかっていうと自分たちは自分たちより歳下のアーティストをリリースしてきた経緯があると思うし、ここまで先輩のかたの作品をリリースさせてもらうことが初めてなんで、これが記念碑的なものだと思ってるし。逆に、俺たちがかっこいいと思っている空気だったりっていうのをシェアしたい。こういうものが好きだし、こういうものがかっこいいと思うっていうのを。東京のそういうものを見せたいっていうのはめちゃくちゃありますね。若い人にも、同世代にも、さらに上の人にも、知ってもらいたいっていうのはあります」
――特色としてたくさんのシャウトが入っているのはどのように出てきたアイディアですか?
G 「構成は全部自分に任せてくれたんで、最初はISSUGIと仙人掌のこのミックスでしか聴けないバースを収録して、シャウトはMr.PUGとDogear周辺の人でいいかなと思ったんですけど、選曲してルーティーンを作ったときに、意外とインストを多く入れないと、今回のヒップホップ・ミックスができないなって思って、他の人にバースを入れてもらうってなるとDogearから出す感じではなくなっちゃうし、俺はスキットが入っているアルバムが好きだから、“じゃあ、たくさんシャウトを入れてもらえればな”って思い、会った人たちに直接お願いしていって、入れるインスト全部にシャウト入れたいって思って、構成していくうちにあれ?ちょっと足りないかもってなり。それで多数の方々にお願いして。最終的にそれでも足りないなってなって、MIKUMARIとMIKRISに締切2日前にお願いの緊急連絡をして。これで本当に揃ったって感じだったす。JJJとKID FRESINOは俺の希望としてふたりのシャウトをもらえればバッチリだなと思って、ここ数年2人に会う機会がなかったので、Dogearにお願いして。シャウト専用のメールアドレスを作ってISSUGIに一括して受け取ってもらって。ミックス音源ができたあとにISSUGIとシャウトを入れる作業をしていたんですけど、“あれ?S-kaineがないです”って。当日作業中になって」
I 「俺がアレ?揃っているはずなのに、みたいに焦り出しちゃって、その場で速攻電話とかしましたよね(笑)」
G 「その場で電話して“今送ってよ”って。あんなに焦ってるISSUGI初めて見た(笑)」
I 「kaineごめん(笑)」
G 「そうしたらその何分後かに送ってくれて。みんな個性があって。インストのビートと合うような感じで数人を固められたらと思っていたので、良い感じに纏まって良かったです。シャウトを誰に頼もうかなと考えたり、選曲していてfebbのこと思い出したりして、もちろんfebbにもシャウト入れてほしかったなっていうのと、出来上がったものに対してダメ出しとか、“ここダサいっすよ、やり直しです”とか言ってほしかったな(笑)。そんなことを思いながら選曲している時期に、特に探していたわけでもなく偶然に1,500円くらいでレコード(Tom Scott『Blow It Out』)が手に入ったので、ヒップホップではないけれど、これは絶対入れたほうがいいなって」
S 「あそこはアクセントですよね」
I 「シャウトを一緒に並べさせてもらったとき、この3人で1セットでしょとか、その並べかたに愛情を感じて」
――さっきスキットの入っているアルバムが好きって言っていましたが、今回のシャウトの入りかたはシャウトっていうよりアルバムのスキットに近い感じがしました。
G 「当時はシングルを買うよりもアルバムのほうを買ったりしてスキットを聴くのが好きで、今回もアルバムに入っている1曲目とか、アルバムに入っている何曲目っていうのが収録してる曲の中にもあるから、シングルになってなくて。そのアルバムの中には大ヒット曲が入っているんだけど、それじゃないのを入れて、その人たちのアルバムの良さをわかってもらいたくて。アルバムを通して聴いてくださいみたいなのも。サブスクにあるから聴けるじゃな いですか。通しで聴くと良いですよ」
――最後に聞きたいことがあります。これを聴いてくれた人がDJをやりたい とか、ミックスCDを作ってみたいと思ったときの、アドヴァイスというか楽しみかたを教えてほしいです。
I 「DJをやりたくなったら、始めちゃうのが一番だと思います。きっとその時点で音楽が超好きなはずだから、自分が好きな曲を人に聴かせたいという気持ちがあればいいんじゃないでしょうか。好きな曲を人に紹介する、教えるっていうシンプルなところがDJの原点的なものだと自分は思っていて、人を通すとその曲を好きな気持ちが乗っかって元の曲以上に良く聴こえる、かっこよく聴こえる瞬間があると思っています。あとは、他の人は別に好きじゃないかもしれないけど、誰が何と言おうが自分はこの曲が好きなんだという感覚を大事にしてほしいです」
S 「今でも欲しいものを探して見つけるときの喜びとかはあるんですけど、なんて言ったらいいんだろうな。ちょっと先にお願いします(笑)」
G 「もし身近にイケてるなって思う人がいたりしたら、その人に質問する のも良いと思うし。今、仲良く喋れるレコード屋の店員さんってあまりいないじゃないですか。それがいたりというか、見つけられると、幅が出るし。レコード屋さんに行く楽しみもできるし。教えてもらうのもそうだし、探すのもそうだし。なんかそういう店を自分で見つけるのが一番いいんじゃないかなって。大阪だとEBBTIDE RECORDSに行ったらそういうことがいろいろと起こると思うんですよ。東京だとTRASMUNDOとかDJ 49がやっているレコード屋(1/8oz CLOTHING | FRUIT ROLL RECORDS)に行ったりとか。でっかいところに行くのもいいですけど、個人でやっているレコード屋さんとかに行って、そこで楽しみを広げるというか。レコード以外のものも置いていたりとかするから。そういう様々な文化に触れたりとか、知らないことをひとつ知って家に帰れるというか。買い物をしなくても、そういうコミュニケーションで知ることができるものがあったりすると思うから、そういうお店、個人経営のレコード屋さんとか良いんじゃないかなって思います」
S 「あと、もう1回自分が持っているレコードとかを聴き直すと、その当時は引っかからなかったのに、“こんなものまで持ってたんだ俺”ってなることが間違いなくあるんで。新しいものを探すのもいいけど、持っている中からもう一度洗ってみるっていうのも自分の中では大事なことなんじゃないかって思います」
G 「今回すごく聴き直し期間が長くあって、“俺こんなの持ってたんだ”って思ったら、シールドのレコードが出てきたりして(笑)」
I 「ありますよね(笑)。まじでGRINGOOSEのレコード置き場、シールドのヒップホップのレコード出てくるから(笑)」
G 「25~30年前のレコードが(笑)」
prillmal Instagram | https://www.instagram.com/prillmal_official
■ 2024年12月28日(土)発売
GRINGOOSE
『Melody Thought』
Dogear Records
CD 1,500円 + 税
https://7tree.shop/items/67406421be2d120782704deb
[Melody Thought, CHILLIN' ALLDAY INSENCE Set]
CD + Insence 2,500円 + 税
https://7tree.shop/items/674064c7edfbca07850499e1