Interview | 村田タケル (School In London)


謙虚な姿勢で驕ることなく、丁寧に

 インディ・ミュージック・コレクティヴ「School In London」を主宰し、DJを軸にライター活動や、海外インディ・バンドのオーガナイズにも携わる村田タケル。自分のペースを崩さないことや、新しい音楽への追求心、現場への愛と熱量が、穏やかながらも野心的な活動を続けている秘訣だと知った。筆者が特に勉強になったのは、音楽ディグの方法の幅広さ。

取材・文・撮影 | SAI (Ms.Machine) | 2022年4月


――自己紹介をお願い致します。

 「村田タケルです。出身は愛知県、大学生のときは大阪に住んでいて、就職してからは千葉、東京、京都を転々として今は川崎に住んでいます。“School In London”というプロジェクトをやっていて、その中でDJをやったり、プレイリストを作ったりしてます。他にも、最近はライターも少しやっています」

――「School In London」のDJメンバーは3人ですか?
 「レジデントのDJは3人です。もともとは遠藤(孝行)さんと2人体制だったんですけど、遠藤さんが仕事で基本的には出演できなくなってしまい、タイラ(ダイスケ)さんにお願いして加入してもらいました。だから基本的には2人でやっているんですけど、遠藤さんが出られる回は3人で、っていう感じです」

――なるほど。音楽を聴き始めたきっかけはどういったものだったのでしょうか。
 「自分が中学生の頃、高校生だった姉が当時の下北系ギターロック界隈の音楽にハマっていて、CDが家にいっぱいあったんです。それで自分も聴いてみようかな、みたいな感じで。その中でも自分が最初にハマったのがACIDMANだったんですが、そこからオルタネイティヴ・ミュージックというか、一般的には知られていないけどカッコいい世界があるんだな、というのを知ってのめり込んでいった感じです」

――それから洋楽のインディにハマったんですか?
 「高校生の頃、THE VINESというオーストラリアのバンドの2ndアルバム『Winning Days』(2004)が姉のコレクションにあって、その収録曲“Ride”を聴いてめちゃくちゃカッコいいな、とハマっていったのを覚えています。中学生の頃にも姉のコレクションからNIRVANAやOASISとかを聴いていたんですけど、当時はハマるほどは熱中しなかった……ハマったのはTHE VINESがきっかけです。

そこから、海外の音楽も聴いてみようかな?ってマインドとして変わっていった感じです。2004年とかそれくらいの時期だったんですけど、FRANZ FERDINANDとかKASABIANとかBLOC PARTYとか、当時“第2次ブリットポップ期”で括られていたバンドがどんどん出てきて。ちょうど盛り上がってる感じもあって、めちゃくちゃ良いバンドが出てくるじゃん、っていう感じで海外の音楽をさらに聴くようになりました。当時は日本のインディも聴いていて、ART-SCHOOLがすごく好きだったんです。木下理樹さんの『狂人日記』っていうブログがすごくおもしろくて。海外のアーティストのことも書いてあって、チェックしていたら、いいなって思えるバンドも多かったり。それも、海外インディの曲をすごく好きになったきっかけになりました」

――ミュージシャンがブログに好きな音楽を書いて、リスナーの人がそれを聴いてくれるという広がりかた、いいですね。
 「好きな人の、好きなものを知るというか」

――School In Londonはいつ頃からスタートしたんですか?
 「2013年6月からです。個人的には社会人2年目の頃ですね」

――来年で10年ですね。長く活動を続けていらっしゃって、すごいです。始めたきっかけは?
 「当時、DJをやったことがなくて。やってみたい気持ちはあったし、社会人になったときの給料で機材とかは買って、家ではおうちDJみたいなことやっていたんですけど、人前でやるっていうのは、どう始めたらいいのかわからなかったんです。それで、自分で始めたほうが早いかな、っていう謎のマインドになって。当時住んでいた千葉のHUBに、DJイベントをさせてもらえませんか?って、企画書みたいなものを作って持っていったら、意外と好意的に受け入れてくれて、スタートしました」

――その当時、千葉駅のHUBでDJをしていた人っていましたか?
 「いや、いなくて」

――それはすごいですね……!
 「機材も当然なくて。だから千葉のHUBでやるときは、機材も全部持ち込んでやっていました。今はそんなガッツないですけど(笑)」

――やりたいことを始めたいときのガッツってありますよね。
 「小さいイベントに遊びに行って、そこでオーガナイザーや出演者、同じように興味を持っているお客さんと知り合いになって始める、という感じが一般的だと思うんですけど。あまりそういう考えに行き着かず、知り合いも少なかったので、どう始めたらいいかわからない状態だったんです。当時は小さいイベントにもほとんど行ったことがなかったんですけど……」

――なるほど、でも小さいハコって、すでにコミュニティが出来上がっていたりして、なかなか入りにくいところでもありますよね。
 「当時はSNSが今ほど活発ではなくて、mixiからTwitterにみんなが移っていく過渡期くらいだったと思うんです。今だったら、小さいコミュニティに入りにくいにしても、事前にSNSで中の人を知ったりできますけど、そういうのがなかったので、ひとりで入っていくのは今以上に勇気がいるというか……」

――それはそうですよね……。HUBでの開催から、どういった経緯で現在の「School In London」の形態になっていったのでしょうか?
 「主にTwitterで告知をする中で、“こういうのがあるんだ”っていうのが東京の人にも伝わっていく感じがあったんです。そこから、自分が東京でもDJをやらせてもらうようになったりして、少しずつ知り合いが増えていったときに、東京でやってもいいんじゃないか?って思うようになりました。それで、School In Londonが始まって1年くらいの2014年8月に初めて東京でやったんですよ。東京でもやるし、千葉でもやるし、っていう時期が3年くらいありました。その後、自分が千葉から東京に引っ越したのもあって、千葉での活動は終わって、東京をベースとした活動に切り替わっていきました」

Photo ©SAI

――DJをするうえで、曲をディグると思うんですけど、どういう方法をとっていますか?
 「DJをするうえで、というわけではないですが、思い返してみたら、普段やっていることが主に7つありました。1つ目は、SpotifyとかBandcampで好きなアーティストをフォローしておけば、新曲がリリースされたとき通知がくるので、それをチェックする。2つ目はプレイリスト。毎週金曜日に更新されるSpotifyのRelease Radarという機能は、その人の聴いてる傾向で、今週はこの曲がリリースされたよというプレイリストが出来上がるんです。アルゴリズムに従ってる感じは少し癪ですが、基本的には毎週チェックしています。他のプレイリストでは、UKの現行DIYシーンを作り上げたと言っても過言ではない“So Young”というメディアがあるんですけど、そこが作っているプレイリスト。

“Fire Talk”っていうニューヨークのレーベルが作っている“Music We Like”っていうプレイリストもおすすめです。基本的にはFire Talkには所属していないアーティストが中心だけど、Fire Talk的にいいなっていう曲が入ってるプレイリストなんですよ。So YoungがわりとUK中心であるのに比べると、けっこうワールドワイドにセレクトされているので、すごく重宝しています。あとは、余力があればSpotifyの公式が作っている“Hot New Bands”っていうのもチェックして、という感じです」

――プレイリストを聴くと、自分がチェックしていなかったアーティストの曲も聴けるのがいいですよね。
 「そうですよね。それから3つ目は、けっこうみんなやっているとは思うんですけど、Twitterでフォローしている信頼できる人が発信している音楽を聴いてみる。4つ目は、Bandcampの“Essential Releases”っていう今週のおすすめみたいな記事があって、それをけっこう読んでいます。Bandcampのいいところは、いろんな国の新しい曲がセレクトされているところで、他の記事もおもしろかったりしますね。5つ目は、BIG LOVE RECORDSの入荷情報とか、noteとか、ラジオとかをチェックするっていう」

――やっぱりBIG LOVEは、みなさんチェックしてますね。
 「はい。あと6つ目は、インスタで好きなアーティストをフォローしているんですけど、そのアーティストの共演したバンドとかの演奏している姿が、ストーリーズに上がっていたりすることがあって。なにかしら魅力があって、自分の好きなアーティストがアップしていると思うので。チェックしてみたら、全然知らないけどめちゃくちゃいい、みたいなのがちょくちょくあるから、いいなって最近思ったディグりかたです」

――インスタだと、誰かを介すわけではないから、情報の入りかたがすごくタイムリーですよね。
 「そうなんですよ。ローカルでがんばっているバンドって、メディアに出てこなかったりもするから、そういうバンドが知れるような気がしています。7つ目は、パーティに行くっていうのが、良いディグりかたのひとつだと思います。自分もDJをやる前とかは、“Freak Affair”というイベントに遊びに行って、そこでたくさん音楽を知りました。パーティで聴くと、音が大きいというのもあるけど、聴こえかたが変わったりするし、いいなって思う曲に出会えたりするので」

Photo ©SAI

――イベントを開催するやりがいを教えてください。
 「やりがいは、お客さんが遊びに来て、楽しそうにしているというところに尽きると思います。School In Londonって、リアルタイムの海外インディのおもしろさを共有したいというコンセプトは確実にあると思うんですけど、お客さんによっては、知らない音楽ばかりでおもしろくないって感じる人もいると思うんです。特にロックっていうジャンルは曲そのものが強くて、曲がリスナーの記憶に結び付くことで盛り上がるみたいなDJの現場は多いと思っているんですけど、School In Londonはそこを狙っていない。リスナーがほとんどまだいないような新しい音楽だとしても、自分がコレだと思えばそれを一番良い位置でDJでかけてお客さんと共有したいと思っています。こうした自分の方針を貫きたいと思っている中で、School In Londonを見つけて、楽しんでくれるお客さんがいるっていうのは嬉しいです」

――大変なところはどういうところですか?
 「やりがいでもあるんですけど、まずDJの選曲。例えば1時間のプレイタイムがあったら、自分の場合はだいたい25曲になることが多いんです。その25曲をどう選んでいくかというときに、このタイミングでこの曲は絶対かけておきたいっていう曲が毎回あるので、それをどう落とし込んでいくのか、っていうのを注意して考えています。新しい音楽を積極的にかけていくっていうスタイルは……悪い言いかたをすると、押し売りのような感じでもある気がするので、普通にDJとして楽しんでもらえるように、どの曲をどういう順番でどう繋げるかは、当たり前ですけど、やっぱりすごく重要だと思っています。お客さんに楽しんでもらうことが前提にはあるので」

――その塩梅、難しいですよね。
 「いかにグルーヴをキープしながら、このタイミングで、この曲を一番いい感じでかけたい、みたいなところに行けるかっていうのは、腕の見せどころだと思うので。そういう中で選曲を組み立てていくというのが醍醐味でもあり、工夫しているところです。古い曲をかけるにしても、リアルタイムの音楽として聴こえるように選曲しています。ちょうど先週のイベントで、FOLLY GROUP、GANG OF FOUR、deep tanっていう順でかけて。FOLLY GROUPとdeep tanはUKの新しいバンドで、GANG OF FOURは前の世代のバンドじゃないですか。でも、あの繋ぎだったらGANG OF FOURもリアルタイムの音楽として聴けるようなかたちでかけられたのかな?って。

あとは、School In Londonだけの話ではないと思うんですけど、大変なことと言えば、集客に尽きるとは思っています。やっぱり新しいお客さんにどうアプローチしていくのか、っていうのはすごく難しいと思っていて、今だったらSNSからアクセスしてくれる人もいるけど、実際に遊びに行くとなるとハードルを感じちゃうのはあるかもしれない。来たら楽しい場所なんだと知ってもらうために、現場以外のところで頑張らないといけないな、っていうのはあります。その意味で、セットリストを毎回ホームページに載せたり、こういう音楽が流れてこういう雰囲気なのだと知ってもらえるように、間口が少しでも広がるよう工夫をしていて。他のイベントだとYouTubeをやっていたり、それぞれいろんな工夫はしていると思うんですけど」

――イベントを打ち続けるって、モチベーションがないとできないですよね。
 「School In Londonは不定期ではあるんですけど、最近は年間10回くらいやってるんですよ。ずっとやっているイベントって、傍から見たら新鮮味がなさそうに見えちゃうだろうし。実際、告知が開始した時にSNSの反応が悪いと、主催側としては不安な気持ちだったり、どうしてもプレッシャーを感じてしまいます。ただ、蓋を開けたら来てくれるお客さんもありがたいことに多いので、大変さを日々感じつつも、お客さんには毎回救われている気持ちがします」

――バンドのライヴもそういうところがあります。それでも、やり続けるというのはすごく大事なことですよね。
 「アーティストの活動も、こういうことをしたい、とかいろいろ目標があると思うんですけど、続けることが一番難しいのかな、って思ったりします」

――最後に、今後の展望を教えていただきたいです。
 「大きいことをしたいとか、そういう気持ちは全然なくて。とにかく謙虚な姿勢で驕ることなく、丁寧なSchool In Londonの運営をこれからも続けていきたいというのに尽きます。あとは、やれるかわからないんですけど、School In Londonのスタッフだった大谷という者が去年ロンドンに移住したので、将来ロンドンで開催できたらいいな、っていうのは考えたりします。このインタビューが世の中に公開されて、向こうのアーティストが何かしらのきっかけで読んでくれて、“自分も出たいです”みたいなことを言ってくれたら嬉しいな……ご連絡をお待ちしております」

School In London Linktree | https://linktr.ee/School_In_London
村田タケル Twitter | https://twitter.com/yuy822

School In LondonSchool In London

2022年8月27日(土)
東京 新宿 SPACE
17:00-22:00
当日 2,000円(税込 / 1ドリンク込)

DJ
村田タケル / タイラダイスケ

Guest DJ
ナカシマセイジ (Alffo Records)