Interview | HAMMER BROS | KAK-A Recordings


今よりも世界がシンプルだった

 1990年代の黎明期に活躍した日本におけるガバ / ハードコア・テクノのイノヴェイターとしてのみならず、楽曲 / ヴィジュアル / 活動スタイルのすべてにおいてオルタネイティヴを貫き、4年という短く思える活動期間に鮮烈な印象を残した伝説・HAMMER BROS(Shit da Budo + Tatsujin Bomb + Tokyuhead)。その根城となっていた「KAK-A Recordings」の貴重音源をコンパイルしたカセットテープ『KAK-A Rec. Rave Classics vol.1 The Phuture』を、梅ヶ谷雄太主宰「Murder Channel」がリリース。これにあたり、当時の活動の流れやスタンスなどについて、HAMMER BROSにメールでお伺いしました(どのメンバーが答えてくださっているのかは不明)。今なお謎めいた部分が多い存在ゆえ、謎を謎のまま、ティーンだった当時の記憶を軸として臨んだ取材だけに至らぬ質問ばかりとなってしまいましたが、活動時の熱量が伝わるご回答をいただいて筆者は非常に興奮致しました。

取材・文 | 久保田千史 | 2024年12月

――HAMMER BROSは東京のグループと認識していますが、みなさんそれぞれ具体的にどのエリアで生まれ育ったのでしょうか。
 「ぼくらが兄弟になったのは日本の東京だけれども、出身は関東、関西、ドイツとバラバラだよ」

――ガバ / ハードコア・テクノの情報は当時どのように入手していましたか?「avex trax」が手掛けていた「Rotterdam Records」流れのあれこれから広がりがあったのでしょうか。
 「それは、時代によっても変わってくるね。日本国内での情報は、ほとんどなかったよ。残念ながら大きな広がりは感じられなかったね」

――みなさんはメインストリームのテクノに対して徹底抗戦の構えという認識なのですが、テクノのフィールドには例えばJoey BeltramやAdam Xみたいに、橋渡し的な存在もけっこういたと思います。線引きとしてはやっぱり、いわゆる「ソニテク」とか、(当時の)『ele-king』とかが破壊対象だったのでしょうか。
 「1990年代に“日本のテクノ・シーン”っていうカテゴリが生まれた印象だね。当然、シーンの内部 / 外部を分ける線が引かれたという意味になると思う。その外部にいたのがぼくらだった。当時のテクノ・シーンは、知的で精神的な価値観をブランティングとして投影している印象だった。ぼくらは、もっと即物的で具体的で、陳腐にも見える方向性もあるんじゃないかと思っていた。ぼくらが好んでいたジャンルやアーティストを誰もメディアで紹介やレビューをしない中、それらを紹介しないといけない責任感をぼくらは持ったんだ。これは、何かおかしな力が働いているとね」

――DJ Ishiiさんやスズキナヲトさんらは先達にあたるのでしょうか。彼らの活動から影響を受けたりしましたか?
 「ぼくらが活動を始めたとき、すでにDJ Ishii氏は大阪を中心に主催していたガバのイベントなどで活躍していた。出会ったのはちょうど彼が上京した頃だったと思う。スズキナヲト氏も、ぼくらより先に東京で活動していたと認識しているよ。当時、日本のシーンでは活動を共にしていなかったけれども、彼とメンバーとの個人的な繋がりはあったよ」

――『ハードコア・テクノ・ガイドブック オールドスクール編』掲載のインタビューによれば、東京のテクノ・パーティ「ROBOT」にてお3方が出会い、HAMMER BROS結成に至ったとのことですが、これはすべて1994年の出来事ですか?
 「最初に4人が出会ったのは1994年だよ。正確にはROBOTの前身イベントだよ」

――HAMMER BROSという名称は任天堂由来だと思いますが、なぜこの名前に決定したのでしょうか。他に候補になった名前はありましたか?
 「当時読んだ英語の媒体で、ガバキックのことを“hammer beats”と表現していたものがあったので、たしかそこから発想したんだ。一番最初はROBOTのファイナル・パーティで、B2BでプレイしたDJユニットの名称(DJ Hammer Bros.)だったんだ」

――機材は結成してから購入したそうですが、最初に手に入れた機材は?また、そのマシンを選ぶ上で何か前情報があったのでしょうか。
 「最初に買ったのがRolandのサンプラー『MS-1』。他のサンプラーに比べて安価だっからね。サンプリング・ベースの曲を作ることしか興味がなかったので、しばらく2台3台と『MS-1』ばかり買い足していったよ。機材自体への興味があったわけでは全くないので、他に機材を検討したか覚えていないね」

――翌1995年には早くもOUT OF KEYとのスプリット作品が名門「Shockwave Recordings」からリリースされて、そのスピード感に驚かされます。初めて触れるマシンで曲を作る時間もそうですし、当時はクラウドではなく郵便だったと思うので、ドイツとの時間差を考えても。HAMMER BROS結成からここまで、どんな動きをしていたのかを教えてください。
 「ぼくらはやりたいことが明確にあったので、すぐできたんだと思う。内容はともかくね。また、同じようなことを誰もやってくれないので、自分たちでやるしかなかったんだ。東京には他に同意識の知人も当時はあまり見当たらず、関西圏(WAXHEAD氏ら)やドイツ(ShockwaveのMartin Damm氏)とコンタクトを取ることになった。動きが速いというか、それしかやることがなかった。今よりも世界がシンプルだったんだ」

――OUT OF KEYとの出会いや関係性について聞かせてください。当時高校生だった私の個人的な印象としては、OUT OF KEYのほうがフロア・ミュージックとして洗練されていて、HAMMER BROSはもっとノイズ・ミュージック寄りのメンタリティで受け止めていました。完全に主観なんですけど……。ご自身では俯瞰的に見て、どう思われますか?
 「OUT OF KEYはフロア対応したクオリティの高いアウトプットを出しつつ、コアにあるコンセプトは過激でブルータルなものだった印象だね。逆にぼくらのアウトプットは粗野なテイストだったけど、核にはフロア向けレイヴ・ミュージックへのリスペクトが大いにあった。そのへんのねじれた感じは全く理解されなかったけど、ぼくらなりには楽しんでいたよ。OUT OF KEYもメンバーごとに音楽性や出自がだいぶ異なる印象だよ。だから、イメージとしては単純に“ガバ”だけではなかったと思う。一方ぼくらは“ガバ”だと思われながら、出来上がりとしては違ったアウトプットになっていた。意外かもしれないけれども、当初影響を受けたのはRob Geeだよ。ミュージシャンではなくガバが好きなアメリカ人というセンスで、あまり機材に執着がなさそうなところにとても共感したよ。OUT OF KEYのYam Yam氏とかSpeedFreakみたいな実践的なミュージシャンではなくても、曲を作ってよいのだと思わされたよ」

――同年にはフリー・ファンジン『裏口入学 ’83』の刊行をスタートしていらっしゃいますよね。今も実はよくわかっていないんですけど、「Gen Production」はそのためのプロダクション名義だったのでしょうか。「Pikadon Group」って、他に所属アーティスト / レーベルなどはいたのでしょうか??
 「ぼくらが所属するプロダクションとしての正式名称は“1995 Gen Produciton”だ。組織構造としては以下の通りだよ」

Pikadon Group
┗ 1995 Gen Produciton
┗ 各レーベル (KAK-A, MEGANE RECORDS, HILLPOINT 417, ITAIITAI Rec. etc.)
┗ 各ユニット / アーティスト (HAMMER BROS, Tyson Times, Johnny Ice Cunt, Mike Coldrave etc.)

――“Gen”が『はだしのゲン』から引いたものであることは明らかですが、『はだしのゲン』ひいては広島 / 長崎への原子爆弾投下はHAMMER BROSが繰り返し扱うモチーフです。そこにポリティカルな意図はありますか?
 「曲のモチーフとして使っただけなので、そうした意図はないよ。当時、ぼくらが思う日本のテクノ・シーンは、テクノ = future、ファッショナブルなマンガ、ジャパニメーションとの親和性を、逆輸入的にそのまま受け入れるような印象だった。決してファッショナブルじゃないマンガ / アニメである『はだしのゲン』の採用は、端的に言えばそのアンチテーゼ。クールジャパンじゃない、その土着的で、民俗的な感じ、荒々しいタッチの数々、作者の中沢啓治氏の伝えたいことがある語り部的な感じに、ぼくら自身を投影していたところはあるね。それは怒りだったのかもしれないね」

――『裏口入学 ’83』は猛烈な手書きで、ガバキックが聞こえてきそうなくらいノイジーなレイアウトですよね。これは意図的なものでしょうか。また、個人的にはハードコア・パンクのステンチィなファンジンとの近似を感じたのですが、影響はありましたか?
 「ぼくらが知る限り、あの頃の体験したシーンでは、紙製のジンはすでにDTPなどPCを活用してデザインを作成するような、とても洗練されたものが多かったんだよ。一方、ぼくらにはそういうスキルがないし、目の前にあったのは紙とペン、それに糊とハサミ、コピー機だけだったのさ」

――『はだしのゲン』をはじめ、『コロコロコミック』や藤子不二雄作品などからの引用が印象的です。これもやはり、大友克洋さんや士郎正宗さんがファッショナブルな層に受容されてゆく過程へのアンチテーゼだったのでしょうか。
 「ぼくたちの記憶を辿ると藤子不二雄先生のサンプリングは、プロゴルファー猿の姉だけだった気がするね。君のいうアンチテーゼ……それ自体が目的だったわけではないと思うよ。いろいろな取りかたはあったはずだ。それは君次第だよ。ぼくらが紹介したいと思ったガバ・シーンのイメージとの親和性が高かったから使っただけというのも本質ではあるのかな。すでにテクノ・シーンがサンプリングしているようなイメージを使うつもりは毛頭なかったよ」

――プレスリリースのテキストでも少し触れましたが、みなさんは東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(広域重要事件117号)の衝撃をリアルタイムで受けた世代だと思います。その余波で当時はアニメや同人誌に対する差別意識がかなり根強かったと個人的な経験では感じています。初代『エヴァンゲリオン』をリアタイで観てるなんて、友達にも言えなかったですし……(笑)。そんな中で、例えばルウリィ(『スプーンおばさん』)を扱うのとかって恐怖だと思うのですが、みなさんはどんな感覚だったのでしょうか……。
 「ぼくらにはその感覚はわからないな。そもそも日本の同人誌やコミケのような閉じたカルチャーと関係のない文脈にいる意識下だったよ。サンプリングと一緒で、無意味性と意味性を散りばめるようなことをイメージしていたよ」

――Alec Empireや「Digital Hardcore Recordings」についての記述も多かったと思いますが、当時日本のガバ / ハードコア愛好家の間では、Alec EmpireやDHRってどう受容されていたのでしょう??
 「これはわからないな。ちなみにだけれども、AlecはDHR以前のForce Inc時代や、その他のサブレーベルの楽曲のほうをよく聴いていたよ」

――1996年には単独EP『Shin Gen EP』を発表していらっしゃいますが、これが「KAK-A Recordings」の初作品という認識で合っていますでしょうか。
 「YES。素晴らしいね」

――これも今でもよくわかっていないのですが……「メガネレコーズ」と「KAK-A Recordings」の関係性は?そして超初歩的な質問で恐縮なのですが……“KAK-A”って何なんですか?? レーベル設立にあたってのコンセプトなどがあったのであれば教えてください!
 「僕らも同意見だよ。レーベル・オーナーであるOILHEAD氏のみが知ることだね。僕らは、ただ曲を提供しただけだよ。メガネレコーズは、YOSHIZAKI ARMY氏のレーベルなんだ」

――私のHAMMER BROS初体験は『Shin Gen EP』だったのですが、レコード店で発見した際、「KAK-A Recordings」のロゴがとにかく不気味に感じられたのを覚えています。棘皮動物かワカメみたいなフォントとサングラス男はどのように誕生したのでしょうか。この男にはどんな意味があるのでしょうか……。また当時、同種の不気味さを感じたのは「Kotzaak Unltd.」のロゴだったのですが、影響などはありましたか?
 「あの顔は、レーベル・オーナーのOILHEADの似顔絵だよ。ブランドロゴのデザインも彼によるもの。僕らも似ているなと思っていたよ!」

KAK-A Recordings

――NYCスピードコアもそうですが、HAMMER BROSは特に、ヴォイス・サンプルの扱いかたがオールドスクールなゲットー・ハウスに通じるように感じます。サンプリングワークにあたってのリファレンスなどはありましたか?
 「リファレンスといえばそれまで聴いたもの全部ということになってしまうね。グローバルなガバの“文脈”に乗ることで、シーンの一部になろうとしていたよ。我流の新ジャンルを作りたかったわけではない、あくまでそのジャンルの一部に、ぼくらは日本からなりたかっ
た。サンプリングを使って同じ文法で喋ろうとしていたんだと思うよ」

――今回の『KAK-A Rec. Rave Classics vol.1 The Phuture』で言うと「Rave In Hiroshima」が顕著ですが、メタル・ギターのサンプリングも印象的です。Delta 9、D.O.A.、Lenny Dee、DJ StickheadがCORROSION OF CONFORMITYのリミックスをやったり、「Mokum Records」からChosen Few、DJ Dano、TechnoheadのFEAR FACTORYリミックスが出たりしていましたが、メタルとガバ / ハードコア・テクノって親和性高いと思いますか?
 「SEPULTURA、CANNIBAL CORPSE、MORBID ANGELなどはよく聴いていたので、自分たちの中での参照としてはあったかもしれないけれども、基本的にはシンセ・フレーズ同様、ガバを作るためのサンプリングの対象だった。親和性は高いと思っていたよ」

――HAMMER BROSは「ZK Records」のオフシュート「Kill The Rest」の設立に関わっていますし、いわゆるロック・バンド・フォーマットのアーティストとの共演もあったと思います。共演した中で印象に残っている、好きだったバンドがあれば教えてください。
 「Kill The Restは、OILHEADが関わっていたね。みるく(東京・恵比寿 | 2007年閉店)のMurder Houseで観たSLIGHT SLAPPERSはとても印象的だったね」

――「KAK-A Recordings」は1998年にHAMMER BROSが活動を休止してからも続き、2006年には初のCDフォーマットでのフル・アルバム『Air Raid Your Ass!』が発売されています。同作のリリースに至った経緯を教えてください。
 「DJ CHUCKY氏(GUHROOVY)らが働きかけくれたんだ。ぼくらはビールを飲んでいただだけだよ。多くの若いファンに届いたみたいで、とてもありがたいことだね」

――同作のカヴァー・アートを手掛けた岩屋民穂さん(GraphersRock)とはどのように出会ったのでしょうか。再び『KAK-A Rec. Rave Classics vol.1 The Phuture』のアートワークを依頼するにあたってのエピソードなどあれば聞かせてください!
 「ぼくらは、当時の活動ノートをMr.Umegatani経由で提供しただけだよ。とても素敵なデザインで気に入っているよ」

――「KAK-A Recordings」は2021年にBandcampを開設し、『Air Raid Your Ass!』以来となるリリースを継続しています。再び動き出すきっかけがあったのでしょうか。
 「ぼくらがオーナーではないからわからないな。OILHEADがコロナで暇だったのかもしれないね」

――レーベルの設立から間もなく30年が経過するわけですが、活動のスタンスにはこの30年でどんな変化がありましたか?また、今後の展望なども聞かせていただけると嬉しいです。
 「ハンマーブロスは1998年以来、引き続きバケーション中だよ。このシーンで、今も若い人を中心に多くのアーティストが活躍しているのは、とても嬉しいことだね」

KAK-A Recordings Bandcamp | https://kak-a.bandcamp.com/
Murder Channel Bandcamp | https://murderchannel.bandcamp.com/

MURDER CHANNEL presents
RAVE IN JAPAN Vol.1
"Not as good as History of HAMMER BROS & KAK-A Rec" at DOMMUNE

2025年1月14日(火)
東京 渋谷 SUPER DOMMUNE

19:00-21:00
スタジオ観覧 2,000円(税込 / 別途ドリンク代)
https://murderchanneldommune07.peatix.com/

[出演]
GraphersRock / 井手宣裕 / DJ IIJIMA (MURDER HOUSE) / 梅ヶ谷雄太 (MURDER CHANNEL) / 篠田利隆 (異次元TOKYO)

'KAK-A Rec. Rave Classics vol.1 The Phuture'■ 2024年12月中旬発売予定
『KAK-A Rec. Rave Classics vol.1 The Phuture』
Murder Channel
Cassette Tape + DL Code MURCT-006 1,500円 + 税

https://mxcxshop.cart.fc2.com/ca2/171/p-r-s/
※ 1月下旬発送開始

KAK-A Rec Limited Set
12,000円 + 税
『KAK-A Rec. Rave Classics vol.1 The Phuture』Cassette Tape
『KAK-A Rec. Rave Classics vol.1 The Phuture』T-Shirt
『HAMMER BROS IS DEAD』T-Shirt
DJ Lib & MC Shit B feat. DJ Tact『It's Tight Like That Remixes』12" Vinyl

https://mxcxshop.cart.fc2.com/ca0/172/p-r-s/
※ 2月上旬発送開始

[Side A]
01. Da fat with no hat | KAK-A SHADOW AUGUSTA
02. Haus of GPYS | KAK-A SHADOW AUGUSTA
03. 1234 all the ladies on the floor | KAK-A SHADOW AUGUSTA
04. release Yo' DELF (Yo ARENA, U SAY Ho!) | KAK-A SHADOW AUGUSTA
05. RAVE IN HIROSHIMA (TOUR 1989) | OIL HEAD
06. PAUL THE POWER | OIL HEAD
07. Nokori 6 Yard | 10 Yard Fight
08. We Are Here | Johnny Key

[Side B]
01. Somethin 4 Ya Mind | DJ Lib & MC Shit B
02. Bataan Death March | DJ Lib & MC Shit B
03. Its Tight Like That (TRU-LIVE) | DJ Lib & MC Shit B
04. Most Famous MF (Jump) | DJ Lib & MC Shit B
05. South Side | DJ Lib & MC Shit B
06. Calling Enola Gay "Jump A Little Higher" (Remixed By Mike Coldrave) | HAMMER BROS
07. Let It Be Harder | HAMMER BROS