Interview | HORSEGIRL


3人だけで何ができるのか

 1980~90年代のインディペンデントを強く想起させるサウンドを極めて当代的な感性でまとめあげ、ローカルのコミュニティから世界へと支持の厚みを拡げてきたイリノイ・シカゴ出身のトリオ・HORSEGIRL(Gigi Reece + Nora Cheng + Penelope Lowenstein)が、今年2月に2ndフル・アルバム『Phonetics On and On』をリリース。同作を携えて9月に開催された初来日ツアーは東京 / 大阪 / 京都の全4公演が軒並みソールドアウトとなり、熱狂を以って迎えられました。

 本稿は、ツアー2日目の東京・恵比寿 LIQUIDROOM公演直前に行われたインタビュー。近年再び脚光を浴びるギターロック / インディロックの要と目される中、活動の拠点をニューヨークへと移して転機を迎えたバンドの現在について、ドラマーのGigi Reeceさんに語っていただきました。


取材 | 南波一海 | 2025年9月
通訳 | 青木絵美
撮影 | 山口こすも

序文 | 久保田千史

Gigi Reece (HORSEGIRL) | Photo ©山口こすも

――先日のライヴでは、NoraさんとPenelopeさんが楽器を持ち替えながら、ツイン・ギター編成になったり、ギターとベースとドラムのオーソドックスな3ピースになったり、ひとりでギターと鍵盤を同時に演奏する場面なども見られ、3人で生演奏することへの強いこだわりを感じました。
 「私たちは完全にライヴ・バンドとしてスタートしたんですね。バンドを始めた当初、最初のレコードを作るまではレコーディングのことなんてほとんど考えたこともなかったんです。曲作りをするときは同じ部屋で一緒に演奏するんですけど、例えば私のドラム・パートを録音して、次にPenelopeが別のパートを録音する、みたいなことは今もしていないんです。だから、ライヴでは3人で演奏することが私たちにとっては自然なことのように思えます」

――自分たちにとって自然にやっていたら、ああいう柔軟な編成になったということなんですね。
 「バンドを聴く上で録音された音楽というのはとても重要だけど、それをライヴで観る際、その曲を作った人たちがどんな選択をして、演奏するのかはもっと大切です。ライヴを観ることで、曲の構造や背景を理解できると思うんです。だから私たちはライヴでどう演奏するかについては常に深く考えています。“Julie”(『Phonetics On And On』収録曲)をライヴで演奏することは新たなステップでした。ライヴで観てもらったように、シンセサイザーを導入した新しいセットアップで臨んだんですよね。今のところはシンセを実際に使っている曲は1曲しかないんですけど、それは私たちにとっての大きな変化でした」

――1stアルバム『Versions Of Modern Performance』(2022, Matador)はそれこそライヴ感の強いものでしたが、2nd『Phonetics On And On』はオーヴァーダブもされています。2作目はどんなことを考えて制作を進めていったのでしょうか。
 「最初の頃は、もちろんオーヴァーダブなんて考えたこともなかったので、3人で一緒に作っている曲をライヴで演奏するのが待ちきれない、という思いが詰まっていたと思います。レコーディングではライヴを想像して、興奮しながら何度も何度も演奏するだけでした。2枚目のアルバムは、レコーディングする前からライヴで演奏し始めていた曲も多かったから、ライヴは具体的にイメージできたんです。だからスタジオではライヴとはまったく違う方法での探求ができたと思います。以前とは違って、今度はレコーディングのことばかり考えていましたね。大変だったのは、レコーディングが終わったあと、次はライヴで演奏できるようにアレンジし直す必要が出てきたんです(笑)。ライヴで演奏していた曲をレコーディング用にアレンジして、それをまたライヴ用にアレンジしてまとめるという感じでした。2ndの曲をライヴで聴くと、また新しい文脈で捉えられると思います」

――曲作りはいつも3人で行なっているそうですが、Gigiさんはどのように関わっているのでしょうか。
 「私はドラマーということもあって、曲のフォームに関しての意見があるほうかもしれません。このパートはどれくらい長くするか、あるいはカットするか、とかですね。基本的にはPenelopeとNoraが何かを演奏して、ふたりの間で意見を聞くことが多いです。私から“あの音を弾いて”とか“そこのメロディーを変えて”とか、そういう指示をしたりすることはないけど、どのパートにも私たち3人のフィーリングが込められていて、それが混ざり合っているとは感じます。あとは、お互いで自分のパートに自信を持たせ合うことが大切なんだと思いますね。時々、自信のない演奏をすると、PenelopeかNoraが“気に入ったよ”、“続けて”と言ってくれるんです」

HORSEGIRL | Photo ©山口こすも

――みなさんはSTEREOLABをフェイヴァリットに挙げていますが、ライヴを実際に目の当たりにすると、特にコーラスワークに影響を及ぼしているのかなと感じました。
 「間違いないです(笑)。STEREOLABはPenelopeが教えてくれて、私の中では彼女のお気に入りバンドというイメージがありますけど、3人とも大好きなバンドですね。最初から現在に至るまで、ずっと参考にしているほぼ唯一のバンドで、私たちの1stと2ndのどちらにもその影響はあると思います」

――Gigiさんはドラマーとして影響を受けた人はいますか?
 「もちろんTHE VELVET UNDERGROUNDのMaureen Tucker。それから、Corneliusのドラマー(あらきゆうこ)も女性ですよね。どちらも自分のドラミングと似てるというわけではないんですけど、女性がドラムをやっているということが新鮮だったはずで、そのことは自分に少なからず影響があったと思います」

Gigi Reece (HORSEGIRL) | Photo ©山口こすも

――THE VELVET UNDERGROUNDがお好きだということはよく話されていますが、同時代の音楽ではなく、昔のバンドに惹かれたのはどういうところだったのでしょう。
 「おもしろい質問ですね。THE VELVET UNDERGROUNDには、私たちが愛してきたバンドすべてにとって魅力的な何かがあると思うんです。90年代のバンドはみんな彼らを愛しているように思いますし、2000年代のバンドにも永遠に影響を与え続けてますよね。そういったルーツに立ち返ることは私たちにとって刺激的で、ニューヨークに移り住んでからは特にTHE VELVET UNDERGROUNDやBob Dylanといったクラシックなアーティストに傾倒するようになりました。まず、アーティストが自分たちのバンドを作るというアート・プロジェクトに積極的で、そういったかたちでシーンに深く関わっていたのもとてもクールだと思うし、それに彼らの曲はヴァース、コーラス、ヴァース、コーラスといったシンプルな構成だったりしますが、どこか断片的でぎこちなく、完璧には洗練されていない部分がありますよね。作り出すものがとても生々しかったからこそ、これほどの影響力があったのだと思います」

――HORSEGIRLはシカゴで結成されましたが、シカゴと言えば、みなさんの上の世代がポストロック・シーンを作り出した土地でもありますよね。彼らとは繋がりなどはありましたか?
 「TORTOISEのベーシスト(Douglas McCombs)が時々ライヴに来てくれたくらいで、それ以外は特に繋がりはなかったです。ライヴ会場以外の場所でたまに見かけることがあると“わぁ、本物だ!”って思ったりしていました(笑)。でも、シカゴには彼らの影響がたしかにあります。クリーンなサウンドのポストロックやSTEREOLABの『Dots And Loops』(1997, Duophonic Ultra High Frequency Disks | Elektra)みたいな音楽は、私たちにとってはまさにシカゴらしいサウンドと呼べるもので、地元から離れるほどにそういうサウンドとの繋がりをより強く感じるようになりましたし、これからもその思いは抱き続けていくと思います」

――2ndアルバムのギターの音がまさにそれですよね。エフェクターに繋がず、アンプに直で繋いで鳴らしているような音だなと思いました。
 「そうそう、2ndはそういうイメージがありました。1stはかなりディストーションが強くて、そのときはそれが好きだったんですけど、今回はもうほとんどペダルなし、みたいな感じでやりたかったんですよね。そこは意図的にやっているところです」

――ニューヨークにやってきたことで逆に故郷を意識するようになったのがおもしろいなと思います。インスピレーションを受けるものが変わったり、視野が広がるようなことはありましたか。
 「18歳で家を離れて引っ越したこと自体が大きな影響を与えていると思います。1stから2ndに至るまでの私たちにとって最大の変化がそれでした。それは私たちの曲にも表れていると感じます。ニューヨークは広大な街で、常に何かやることがあります。東京に住んでいるみなさんならきっと理解してもらえると思いますが、人が多すぎてすべてに匿名性を感じてしまうときもありますし、逆にどこを見てもコミュニティがあるように感じることもあって、時々それに圧倒されてしまうこともあります。ニューヨークでの生活に落ち着いてきた今、自分たちのコミュニティやミュージシャン、アーティスト、そしてあらゆる人生を歩んできた人たちを見つけるにつれて、それが私たちの人間としての成長に影響を与えていると感じますし、同時に1stの頃にあった感性が少しずつ剥がれてしまっているとも思いますね。だからこその原点回帰じゃないですけど、 ベーシックに立ち返って、3人だけで何ができるのかというのを追求した結果が今のライヴになっているのかなと思います」

――現在は世界各地で精力的にライヴを行なっていますが、次の作品への構想などはありますか。
 「夏の間はずっと一緒に動いていて、毎晩のライヴで曲と繋がり、楽器の前に座ることができるのは本当に良い体験だと感じました。普段の生活を送っていると、定期的に演奏するような規則正しい体制を維持するのは難しいこともあるんですけど、ツアー中はサウンドチェックのときでも3人でちょっとした演奏をしたりして、すごくモチベーションが上がるんですよね。だから曲作りをしたいという気持ちはずっとあります。ただ、この先はもっとツアーをやりたいとも思っています。Penelopeが大学に通っているので、集中した日程でツアーができるのが夏休みだけなんですよ。Penelopeが卒業したらもっと時間ができるので、秋とか冬とか、もっと涼しいときにツアーをやりたいですね(笑)」

HORSEGIRL | Photo ©山口こすも

HORSEGIRL Official Site | https://horsegirlmusic.com/

HORSEGIRL 'Phonetics On and On'■ 2025年2月14日(金)発売
HORSEGIRL
『Phonetics On and On』

Matador | BEATINK
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14538

[収録曲]
01. Where'd You Go?
02. Rock City
03. In Twos
04. 2468
05. Well I Know You're Shy
06. Julie
07. Switch Over
08. Information Content
09. Frontrunner
10. Sport Meets Sound
11. I Can't Stand To See You
12. Ramona Song *

* Bonus Track for Japan