Interview | nu


もうちょっと、音を小さくしてください

 昨年12月、忘れていたような感情を引っ掻き回されるような音と、シャウトするヴォーカリスト・はおとにすっかり魅入ってしまい、ライヴを終えた彼女たちに「インタビューさせて欲しいです」と声をかけていた。ドラマーのともこは同じイベントでGAKUDAMAというバンドでも演奏していて、そのアグレッシヴさもインタビューしたいと思ったきっかけのひとつだった。今回は激情 / 叙情ハードコア・パンクに詳しいMs.Machineのコンポーザー / ギタリスト・MAKOを交え、今年1月に初のEP『九字切』をリリースしたバンド『nu』にいろいろなことを質問した。

取材 | MAKO + SAI (Ms.Machine) | 2021年2月
文・撮影 | SAI


L to R | はおと(vo, g | 以下 H), ともこ(d | 以下 T

――まず、nuの結成までの経緯をお訊きしたいです。
H 「サークルの新歓ライヴで会いました」
T 「共通の友人が私を新歓ライヴに連れて行ってくれて、はおとちゃんを紹介されました」

――差し支えなければ大学名とサークル名を教えてほしいです。
T 「明治学院大学のソングライツと現代音楽研究会です。ふたつともメンバーはほとんど同じなんですけど、ライヴがたくさんできるので、みんなふたつとも入っています」

――なるほど!現代音楽研究会って卒業後も音楽を続けているアーティストが多数いるサークルですよね。nu、GAKUDAMA、North by Northwestは同じサークルのバンドだと小耳に挟んだのですが、どんなジャンルのバンドが多いサークルですか?私が早稲田のMMTというサークルに所属していたときはシティポップのバンドが多かったので、12月10日のライヴを観て、尖ったバンドがたくさんいるサークル、いいなあと思いました。
H 「いろんなジャンルのバンドがいます」

――結構ラウドなバンドが多かった感じですか?
H 「ノイズから弾き語りまで、自由です」
T 「DSで音楽を作ったり、紙芝居を制作する先輩もいました。どんなパフォーマンスをしてもOKで、本当に楽しかったです」

――そうなんですね。nuは曲を聴いていて、マスロックが好きなのかな?という気がしていました。
H 「高校の頃はかなり聴いてました。今は、疲れてしまうのであまり聴かなくなってしまいました」

――HELLAとか聴いてました?
T 「聴いてました。がんばって取り入れてみようとしたんですけど、不可能でした……」

――結成当初、どんな音楽をやろうとしていたのか気になります。
T 「最初はthe cabsです。大学でthe cabsみたいなバンドができたらいいなあ、と思っていたときにはおとちゃんと会って。だから、マスロックのイメージはずっとあります」

――やはりマスロックは根底にあるんですね。the cabsはどの曲が好きですか?影響を受けた曲を教えてください。
H 「“ラズロ、笑って”とか」
T 「“二月の兵隊”とか。nuを始めたばかりの頃はかなり引っ張られて、よく似たフレーズを使っていました」
H 「“九月は讃美歌による”も好きです」

――nuは激情ハードコアのイメージも湧いたり、ヴォーカルが入るともうちょっと邦ロック寄りに感じたり、組み合わせが不思議でとても素敵です。5000とか好きですか?
H 「ライヴには行けなかったですけど、ずっと大好きです」

――5000がカヴァーしているiwrotehaikusaboutcannibalisminyouryearbookはどうでしょう。
H 「haikus大好きです。先日バイト中のBGMにしていたら、ヤバTのコピバンしてる高校生に馬鹿にされました(笑)。“ディズニーランドの絶叫じゃん!”みたいな」

――今はどういう音楽を聴いていますか?
H 「最近はDUSTERとVampilliaばかり聴いてました。昨日からは汐千博さんの『仮病なぼくら』ずっと聴いてます。自分の中で盛り上がっているときは、climb the mindや任意のスクラムズを聴くことが多いです。みんなで踊ったりできる音楽より、ひとりで“うわー”となれる音楽が好きです」
T 「私もClimb The Mind好きです。激情ハードコア以外だとALGERNON CADWALLADERとか、エモ・リヴァイヴァルの影響はずっと受けていてます。あとCuusheさん、倉橋ヨエコさんをよく聴きます。大好きで」

――曲作りは、先にどちらかかがリフなどを持ってきて合わせますか?それともセッションして作りますか?
H 「私がギターで作った曲を持っていって、ドラムをつけてもらう感じです」
T 「1曲すべて送ってもらってからドラムを考えることもありますし、リフだけ決まっていてそこからスタジオで一緒に作ることもあります。私は何も作れなくて、曲をもらうばかりなんですけど、聴くたびに“いい!”って思います」
H 「そんなこと言ってくれる人いないよ……」
T 「だからスタジオ入るの楽しいです」

――ベーシストを入れる考えはないのでしょうか?
H 「ベースが欲しいときはかなりありますけど、nuではなくなってしまうと思うので、入れられないです」

――今年の始めにリリースしたEP『九字切』は、何をイメージしたタイトルなのでしょう。
H 「タイトルは、ちょうどEPを作っている時期に、大船のファミレスで友達が教えてくれた結界の張りかたから付けました。かっこよかったので……」

――今回のEPはいつ頃にレコーディングしたもの?
H 「去年の11月とかです」

――そのスピード感でリリースするの、すごく良いですね。レコーディング場所やマスタリング、ミキシングのエンジニアも気になります。
T 「場所は笹塚のMajestic Studioです。すごく落ち着く空間で……」
H 「ドアを開けたらsans visageがいて緊張しました」
T 「レコーディングからマスタリングまで、サークルの先輩にお任せしちゃってます。身近にレコーディングしてくださる先輩が何人かいて。いつも本当にありがたいです」

――アートワークの写真が何なのかも気になっているのですが……。
H 「あれは高尾の墓地です」

はおと | Photo ©SAI
はおと

――なぜ墓地を選んだんですか?
H 「歌詞を書くとき核になるのが“死”のことなので、そういう雰囲気のジャケにしたいなと思ったからです。墓地ってかっこいいものがたくさん置いてあって好きです」

――その墓地はたまたま見つけたんですか?
H 「友達に教えてもらいました。すごく良いところです」

――はおとさんのLINEのアイコンが『少女終末旅行』だったり、オフィシャル・サイトにアニメのキャラクターが使われていたりしますが、アニメははおとさんやnuにとって大事な要素ですか?
H 「アニメ作品には全く詳しくありません。ごめんなさい。改めて考えてみると、2次元には死が存在しないかもしれない。それについて考えるのは良いかもしれない……」

――歌詞について、お訊きしたいです。今回の作品はストリーミング・サービスにもTwitterにも歌詞が載っていなかったので、LINEではおとさんに歌詞を送っていただいたんですけど、本当にすごくよくて。「褒められたことない」っておっしゃっていましたけど、絶対世に出したしたほうがいいって思いました。
H 「本当にありがとうございます、うれしいです」

――言語化するなら“透明な凶暴性”に満ちている印象を受けました。歌詞について本や映画、または漫画やアニメから影響を受けていたりしますか?
H 「あまり映画や漫画の影響は受けないです。どうしても引っ張られすぎてしまうので……。歌詞のためにできる一番のことは、死についての妄想だということに今回のEPで気付けて、少し楽になりました。だから高尾に行くと歌詞が出来ます」

――“夏”という季節が多いのも印象的でした。夏が一番インスピレーションを受ける季節ですか?
H 「そうですね。“季節”と言えば、死んだ僕の彼女も好きです」

――フィジカルで歌詞カードをつけてリリースしたら、リスナーが歌詞を読める機会が増える気もします。EPはフィジカルの予定ありますか?
H 「出したいですね、そのうち出します!」

――おふたりは同い歳でしたよね。今おいくつか訊いてもいいですか?
H 「今22歳です」

――なるほど。CDのリリースは、活動する中で重要ですか?CDとかよりストリーミングを聴いている世代かな?って思っていて。
T 「CDは積極的にリリースしていきたいです!一方で、通信販売をやっていないので、売るとしたらライヴ会場なんですけど、今はあまりライヴができていないので、作るぞ!っていう思いが以前よりも薄れてきてしまっている部分も正直ちょっとだけあります」

ともこ | Photo ©SAI
ともこ

――先日お話して、はおとさんが函館のご出身だと知ったのですが、なんだか北国出身のアーティストが夏の曲を作って、nuのような音や歌詞になるのは個人的にかなりグッときます。これからMVを作る予定はありますか?
H 「MVは作りたいですね」

――撮るならこの曲、って決まってますか?
T 「今回のEPの中で一番最初に出来て、たくさん演奏しているのが“happysummervacation”なので、満を持して撮ってみたいです」

――おふたりそれぞれのSoundCloudの曲も聴いたのですが、ソロや別プロジェクトで制作している作品もすごく良くて好きでした。ソロではともこさんも作詞していますよね。nuでは作詞はしないんですか?
T 「nuではこれからもしないと思います。nuの世界にははおとちゃんの歌詞がぴったり合っていると感じているので、それがいいです」

――おふたりとも、言葉を用いた表現をされているのがとても魅力的です。ともこさんはGAKUDAMAでもドラムを叩いていると思うのですが、今参加しているバンドはいくつくらいあるんですか?
T 「サークル活動がメインだったときは同時進行で5、6バンドくらいやっていました……。積極的にライヴ活動をしているのは主に、nuとGAKUDAMAの2バンドです。私がライヴ活動できない時期があったので、GAKUDAMAは今もうひとりのドラマーにお願いしていたり、ツインドラム編成でやったりしています」

――意欲的ですね……!他のバンドのパートもドラムですか?
T 「すべてドラムです。あと最近、友人とふたりでpicnicというバンドを始めました。どちらが何を担当するかは決めずに、自由にやっていく予定なんですけど、SoundCloudの“水葬”という曲では私が朗読、友人がキーボードを担当しています。昨年、他大学のかたの卒業制作映画に出演させていただいて、ドラム以外でも何か表現して発表したいと思ったので、実験的に朗読を始めてみました。もともと文章を書いたり、演劇や映画を観るのが好きで。SAIさんが石原 海監督とお知り合いだと聞いてびっくりしました」

――石原監督ご存知なんですね。
T 「はい。『ガーデンアパート』は間に合わなくて拝見できなかったんですけど、去年の秋頃にエキストラを募集されているのを見かけて。でも応募寸前で緊張してやめちゃいました……」

――はおとさんは、Twitterでuran(ウラン)と63n(ムーミン)のライヴ情報をRTしていましたが、ふたつともはおとさんが組んでいらっしゃるバンドですか?
H 「そうです。uranはともこちゃんとやっているバンドで、2/4がnuなんです。63nはサークルの他のふたりとやっているんですけど、もう先週から休止中です。uranはライヴの予定がふたつあったんですけど、uranのライブが決まると絶対に緊急事態宣言が出るんですよ(笑)」

――(笑)。なんかもう、ある種のジンクスみたいな感じですね。uranと63nでのはおとさんのパートはギター・ヴォーカルですか?
H 「どちらもギターですね。ヴォーカルは別の人です」

――はおとさんのSoundCloudでは、nuと違ってエレクトロニックなソロ音源がありましたが、ソロでのライヴも考えたりしますか?
H 「機会があればやりたいです。よろしくお願いします」

――はおとさんのソロや、ともこさんのpicnicなどのプロジェクトは、これからどんなスタイルで活動したいですか?
H 「ライヴを観てとても素敵だと思ったのがフカザワネコゼさんで、ずっと理想としてあります」
T 「picnicでは無心で喋っていられる曲をやりたくて、今は音をすべて友人に任せてしまっているのですが、これからはピアノやギターもどんどん弾きたいです。後々は演劇みたいな作品にしていきたいと思っています」

――それぞれ、nuや別のプロジェクトでライヴしてみたい場所はありますか?
H 「BUSHBASHやForestlimitが好きなので、出られたら嬉しいです」
T 「もう閉業してしまったみたいなんですが、原宿にVACANTっていうスペースありましたよね。そこで一度演劇を観て、こういうところでライヴしてみたいと思いました。VACANTで青葉市子さんと大好きな青柳いづみさんがふたりでパフォーマンスしている映像がYouTubeにあって。最初はふたりで弾き語りをしているんですけど、途中から青柳さんがお芝居に入っていくんです。それが、私が朗読しながらやりたいことのイメージにすごく近いと思いました」

――なるほど、picnicはライヴハウスというより、ギャラリーとかイベント・スペースみたいな場所でパフォーマンスしたいという感じでしょうか。
T 「まだヴィジョンはないんですけど、やるとしたらそういう場所がいいですね」

――Ms.Machineはセーラーかんな子さんと共演したことがあるのですが、DJスペースで自作曲と朗読っぽいヴォーカルでパフォーマンスしていて。ともこさんのソロを聴いて、近いスタイルだと感じました。
T 「そうなんですね。イメージ的にはそういう感じかもしれないです。音響の問題はあるんですけど、nuもそういうスペースでやってみたいと思っています」

――16 (sixteen)というアパレル・ショップ兼ギャラリーでライヴをやったことがあるんですけど、ドラムがあると難しいですよね。もともとそこにあったらいいですけど。使うキットが少なめだったらどうにかなりそうな感じもしますけど……。
T 「一度、渋谷のライヴハウスで“音ちっちゃくしてください”って言われたこともあったので……(笑)。そういう場所でやりたい思いがある反面、実現させるのは難しそうです……。はおとちゃんのギターもさりげなく下げられて。私もリハが終わった後に“もうちょっと静かに叩いてください”って言われて。難しいですね……」

nu '九字切'■ 2021年1月1日(金)発売
nu
『九字切』

https://linkco.re/VUXc2qcq

[収録曲]
01. 七十七日
02. 射法八節
03. 花魄
04. 九字切
05. happysummervacation