Interview | 蓮沼執太 + Jeff Parker (TORTOISE)


境界線を引かない音楽

 蓮沼執太フィルの原点であり、多岐に亘る表現形態の中で最も“ロック・バンド”に接近したフォームでもある蓮沼執太チームでの初作品『TEAM』を昨年11月に発表した蓮沼執太(以下 H)。同月に心機一転「International Anthem」より最新作『Touch』をリリースしたTORTOISEやISOTOPE 217°などのギタリストとしてのみならず、近年はソロでも傑作を連発して注目を浴びるJeff Parker(以下 P)。近しい場所にいながらも交わることのなかった両者は、蓮沼のソロ・アルバム『unpeople』(2023, Virgin Music Label & Artist Services)に収められた楽曲「Irie」での共演を機に急接近。加えてJohn McEntire(TORTOISE)がミキシングを務めた『TEAM』で蓮沼はTORTOISE楽曲「Seneca」(『Standards』2001, Thrill Jockey 収録曲)を披露し、憧憬をつまびらかにしています。

 本稿は両最新作リリース前の2025年6月、「FESTIVAL FRUEZINHO 2025」出演のためTORTOISEが来日した際、両者の活動を黎明期より観測してきたライター・南波一海を進行に迎えて行われた対談。各々のキャリアと、それを踏まえた現時点でのモードがシンクロナイズし、極めて自然に近づく様が浮き彫りとなります。


 なお蓮沼執太チームは2月に東名阪福のツアー「重力」を開催。TORTOISEも『The Catastrophist』(2016, Thrill Jockey)リリース時以来約9年ぶりとなるジャパン・ツアーが6月に東名阪で予定されています。


取材 | 南波一海 | 2025年6月
通訳 | 染谷和美
撮影 | 後藤武浩

序文 | 久保田千史

――蓮沼さんの楽曲「Irie」でJeffさんがギターを弾いていますが、まずはそのお話から伺いたいと思います。
H 「長い時間をかけてソロのアルバム(『unpeople』)を作っていて。僕はギタリストが好きなんですけど、Jeffさんの大ファンなんです。ギターの背景に様々なジャンルの音楽を感じるので、自分の感性や、やろうとしている音楽とも響き合うんじゃないかなと思ってご連絡しました。僕のトラックはどうでしたか?」
P 「あのトラックに合わせて演奏するのは興奮しました。私はインプロヴィゼーションのミュージシャンなので、シカゴにいた頃は、よく移動の途中で寄ってくれた初顔合わせの人と演奏したりしていたんですね。執太とは初めてだったので、そんなことを思い出したりもしました」

――お2人に共通するのはコンポジションとインプロヴィゼーションの境界線が曖昧なところではないかと思っています。共振するところはあったのではないかなと。
P 「執太のトラックには非常に強い作曲的要素があったように聴こえました。譜面が送られてきたわけではないけど、テーマのようなものは感じられたので、アイディアがすぐに浮かんできました。頭の中に浮かんだイメージを重ねるようにして即興でメロディを紡いでいきました。僕が思うに、インプロヴァイザーってコンポジション的な考えかたもしているんですよ。アイディアを見つけては、その旋律がいかに聴いている人に届けられるか拡張していく作業をするんです」
H 「JeffさんのETAのレコード(『The Way Out Of Easy』2024, International Anthem)を聴いた印象だと、まさにコンポジションとインプロヴィゼーションの間の線が曖昧になっていて。境界線を引かないことには意識的なのでしょうか?」
P 「それを目指してやっているので、そう言ってもらえて嬉しいです。ETAのアルバムは1曲だけテーマを決めて演奏したものがあるけれど、基本的に全部インプロなんですね。ただ、このグループに関しては、作曲的な頭を使いながら演奏していくことを意図的にやっているので、感情の赴くままに即興演奏するというのとはまた違うんですよね」

H 「だからなのか、ライヴ演奏なのにまるでスタジオ・アルバムみたいで」
P 「それはレコーディング・エンジニアのBryce Gonzales(Highland Dynamics)が優秀だからですね(笑)」
H 「僕はISOTOPE 217°のヒップホップのビートと電子音とジャズが複雑に混ざったような音楽が好きだったのですが、思い返せばJeffさんの作品はどれもジャンルの線が溶けていて、それに惹かれたのだと思います」
P 「ヒップホップのプロダクションを研究するのは好きなんですよね」
H 「Jeffさんのレコードを聴いてきたのでよく知ってます(笑)」
P 「ありがとう。自分の音楽を作る過程で、たった2小節を繰り返し繰り返し聴いて調整し続けることもあります。それはとても孤独というか、自分だけの世界に入り込むことなんですね。ETAバンドもそうですし、『New Breed』(2016, International Anthem)を作ったときも、私はその感覚を活かすようにしてきました。自分自身の内側に存在するもの、自己発見した感覚を聴いている人にそのまま届けようと努めているんです」

――Jeffさんがバークリー音楽大学でアカデミックな音楽を学んだ上で、現在の音楽性に辿り着いているのがおもしろいですよね。
P 「本当にそうですね。私は基礎としてモダン・ジャズやトラディショナルなジャズを学びたかったんです。ただそれはツールであって、自分がどういう音楽を作りたいのかを当時はまだわかっていなかったんです。もちろんスタンダートを演奏するのも好きなんですけど、自分でやるなら、なにかトライしなきゃと考えていました」
H 「Jeffさんが先ほど話していた孤独と向き合って作っていくということと、人と一緒に演奏して作っていくことにもそれぞれコンテクストがあるじゃないですか。Jeffさんや、もちろんTORTOISEの音楽も、そのふたつがクロスするところがあると思っていて」
P 「まったくその通り」
H 「僕はそういったみなさんの後ろ姿を追いかけてきました(笑)。曲を作るのは楽しいけどやっぱり大変で、そこで先輩方に勇気をいただいてきたし、ずっとシンパシーを感じています」
P 「私の作った音楽を聴いて、誰かがなにかを得てくれるのは光栄です。オーディエンスのために作ってはいるけど、自分のために作っているものでもあるので」

蓮沼執太 + Jeff Parker (TORTOISE) | Photo ©後藤武浩

――蓮沼執太チームはわりと初期からTORTOISEをカヴァーされてますよね。
H 「はい。“Seneca”を演奏しているんです(『TEAM』収録)」
P 「そうなんですか?それはすごいね」
H 「先日のライヴでも“Seneca”が聴けて嬉しかったです」
P 「TORTOISEを見たのは初めてですか?」
H 「いや、もう何度も見てます。そういえば、6年前にブルックリンの公園で『TNT』再現ライヴを南波さん(インタビュアー)と見たんですよね」

――当時、蓮沼さんがニューヨーク在住で。私は旅行で遊びに行っていて、TORTOISEのライヴで久々に再会できたんです。TORTOISEが繋いでくれました(笑)。
P 「ワオ、すごい!あの日のことはよく覚えてます。Jaimie Branch(2022年没)が参加してくれたライヴですよね」
H 「そうでしたね……。とにかく、10代の頃にたくさんの音楽を聴く中でシカゴのみなさんの音楽があって、刺激を受けて。それからTORTOISEのライヴは何度も見てきたし、たくさんの影響を受けてきました」

蓮沼執太 + Jeff Parker (TORTOISE) | Photo ©後藤武浩

――Jeffさんは“シカゴのポスト・ロック”という括りからも逸脱して、さらに独自の音楽を発展させていきました。
P 「そう、カリフォルニアに引っ越したあたりから変わっていきました。シカゴ時代のコミュニティがない場所で知り合いもいなかったので、最初はひとりで作らざるを得なかったんです(笑)。でも、シカゴは快適すぎて、自分が伸びていないなと感じていたのも事実としてあったかな。20年以上一緒にやってきた仲間たちと離れたのは大きかったけれど、カリフォルニアで初めて自分のスタジオスペースを持って、いろんなことにチャレンジできたのはよかったと思います」
H 「住環境を変えることは創作にも影響がありますよね。僕はコロナ・パンデミック前までの3年間、ニューヨークにいたんですけど、自分の居場所を変えたことで友達と会えなくなったという点は同じです(笑)。もともといた場所は居心地がよくて、そこを変えてみたかったというのも共感します。住む場所を変えると、食べ物ひとつとっても変わるわけですし、様々なことが自分の視野を変えてくれたんですよね」
P 「わかります。変えるのっていいことですよね」

Jeff Parker (TORTOISE) | Photo ©後藤武浩

――先ほどJeffさんがご自身の作品を自分のために作っていると話されていましたが、奇しくも蓮沼さんも『unpeople』は自分のために作った音楽だということを言っていて。漠然とした質問になってしまうのですが、日々、仕事としての音楽制作や演奏がある中で、自分のための音楽はどんな位置付けになるのでしょうか。
P 「私は音楽学校に通って、ミュージシャンになるために勉強した人間なので、音楽は仕事であり、生活であり、アートでもあるんです。あるいは、大学に行って何かを専攻するのと同じで、スキルのようなものとも言えます。私は自分のことをワーキング・アーティストだと思っているので、仕事だからやっていくというのもあるし、その仕事とは、クリエイティヴなアートを創作することでもある。それで家族を養うというのもモチベーションになっていたりするけれど、アートを作るのって、何かを成し遂げたと思える喜びもすごくあるんですよね。さっき話したような、誰かにとって何か役に立つものを世界に送り出せているという感覚もすごく大切。作るためのインスピレーションはたくさんありますね。ただ、自分はすごく恵まれているんだと思います。こういう音楽をやっていて、サポートしてくれる人や、機会を与えてくれる人がたくさんいるので。彼らのおかげです」

蓮沼執太 | Photo ©後藤武浩

H 「僕は2020年前後にソロ・アルバムを作っていて、パンデミックに疲れちゃっていたんですね。そのとき、自分の音楽がセラピーみたいに機能していた部分もあったので、Jeffさん然り、ただただ自分の好きな人とコラボしたかったんです。もちろん作曲の観点からこの弦の響きを入れたい、とかはあるけど、もっとシンプルに、“好きだから”というのが先にあるものが作りたかった。そういうものが自分の音楽であってほしいという思いがあったんですよね。“Irie”でJeffさんが弾いてくれたをギターを聴いて、自分はこれが好きなんだよな、と思えたのがよかったです」
P 「あのテイクは新しいマイクを買ったばかりで、新しい機材を使えるぞ!っていう喜びがプレイに込められています(笑)」
H 「そうだったんだ!2トラック送ってくれましたよね。メインのギターと、リヴァービーなアンビエントっぽいギターと。あれはどんな狙いがあったのでしょうか」
P 「ひとつはソロを弾いてる感じ、もうひとつはバックに引っ込んで弾いているイメージかな。でも、結局……」
H 「どっちも使いました」
P 「だよね(笑)」
H 「“Irie(入江)”は海とか湖が陸地と交わっている場所のことなんです」

蓮沼執太 + Jeff Parker (TORTOISE) | Photo ©後藤武浩

――まさに今日話してきたような境界線の話ともシンクロしますよね。
H 「たしかに!もともと時間を忘れさせてくれるようなイメージで作りたかったんですけど、Jeffさんの演奏がとてもマッチしていて、アルバム制作の素晴らしい一場面を彩っていただきました。ありがとうございました」
P 「こちらこそありがとう。TORTOISEの曲をやっているバンドの名前はなんて言うの?」
H 「チームです。蓮沼執太チーム」
P 「シンプルですね(笑)」
H 「そうなんです(笑)。チームのアルバムを作っているんですけど、ミックスをJohn(McEntire)にお願いしました。僕、Jeffさんとライヴで一緒に演奏したいんですよね」
P 「ぜひやりましょう。そのためにまた日本に戻ってきたいですね」
H 「“Irie”みたいなアンビエントっぽい曲だけじゃなくて、僕の違う側面……たとえば歌を歌う曲とかでもコラボレーションできたらいいなと思ってます。そのときはまたメールさせてください(笑)」
P 「いつでも歓迎です」
H 「ちなみに最近は何をされていますか?」
P 「進行中のプロジェクトはいくつかあるけど……TORTOISEのニュー・アルバムが出ます。International Anthemから出るんだけど、バンドも新しく違うことをやってみるときが来たのかなって。自分では気に入っている作品ですね。それと、今新しいスタジオを作っているんですよ。いつか遊びにきてください」
H 「行きます!TORTOISEのアルバムも楽しみにしています。今日はありがとうございました」

蓮沼執太 Linktree | https://linktr.ee/shutahasunuma
Jeff Parker Official Site | https://jeffparkersounds.com/
TORTOISE Official Site | https://www.trts.com/

蓮沼執太チーム ツアー「重力」蓮沼執太チーム ツアー
「重力」
https://shutahasunuma.shop/pages/teamtour2026

| 2026年2月12日(木)
東京 鶯谷 東京キネマ倶楽部

開場 18:00 / 開演 19:00
前売 5,500円(税込 / 別途ドリンク代)
※ 小学生以下無料
e+ | ローソン (L 75240) | ぴあ

主催・企画制作: windandwindows
※ お問い合わせ: ホットスタッフ・プロモーション 050-5211-6077 (平日 12:00-18:00)

| 2026年2月15日(日)
愛知 名古屋 24PILLARS

開場 19:30 / 開演 20:00
前売 5,500円 / 当日 6,600円 / U25 4,400円(税込 / 別途ドリンク代)
※ 小学生以下無料
LIVERARY Extra

企画・主催: LIVERARY
※ お問い合わせ: LIVERARY
info@liverary-mag.com

| 2026年2月16日(月)
大阪 梅田 CLUB QUATTRO

開場 18:15 / 開演 19:00
前売 5,500円(税込 / 別途ドリンク代)
※ 小学生以下無料
e+

主催・企画制作: windandwindows
※ お問い合わせ: 清水音泉 06-6357-3666 (平日 15:00-18:00)
info@shimizuonsen.com

| 2026年2月17日(火)
福岡 天神 ROOMS

開場 18:30 / 開演 19:00
前売 5,500円(税込 / 別途ドリンク代)
※ 小学生以下無料
e+ | ローソン (L 82827) | ぴあ

主催・企画制作: windandwindows / mayonaka
※ お問い合わせ: BEA 092-712-4221 (平日 12:00-16:00)

蓮沼執太チーム 'TEAM'■ 2025年11月19日(水)発売
蓮沼執太チーム
『TEAM』

POCS-23067
https://virginmusic.lnk.to/team

[収録曲]
01. TEAMWORK
02. United Tee
03. Seneca
04. Gakona
05. Triooo – VOL
06. ZERO CONCERTO
07. BLACKOUT

TORTOISE Japan Tour 2026TORTOISE Japan Tour 2026
https://smash-jpn.com/live/?id=4581

| 2026年6月2日(火)
大阪 梅田 CLUB QUATTRO

開場 18:00 / 開演 19:00
前売 9,500円(税込 / 別途ドリンク代)
e+ | ローソン | ぴあ

※ お問い合わせ: SMASH WEST 06-6535-5569

| 2026年6月3日(水)
愛知 名古屋 CLUB QUATTRO

開場 18:00 / 開演 19:00
前売 9,500円(税込 / 別途ドリンク代)
e+ | ローソン | ぴあ

※ お問い合わせ: NAGOYA CLUB QUATTRO 052-264-8211

| 2026年6月4日(木)
東京 新宿 Zepp Shinjuku (TOKYO)

開場 18:00 / 開演 19:00
前売 9,500円(税込 / 別途ドリンク代)
e+ | ローソン | ぴあ

※ お問い合わせ: SMASH 03-3444-6751

TORTOISE 'Touch'■ 2025年11月5日(水)発売
TORTOISE
『Touch』

RINC-140
CD | Colour Vinyl
https://ringstokyo.lnk.to/KTHkDUen

[収録曲]
01. Vexations
02. Layered Presence
03. Works and Days
04. Elka
05. Promenade ? deux
06. Axial Seamount
07. A Title Comes
08. Rated OG
09. Oganesson
10. Night Gang
11. Machines of Trouble *

* Japan CD Bonus Track