Interview | Joe Cupertino


みんなもたまにこういう気持ちにならない?

 アメリカ生まれのバイリンガルMC、Joe Cupertinoの3rdアルバム『RE:』は、聴くたびに発見のある豊饒な作品だ。気の利いたサンプリングが散りばめられたヒップホップ・ビート、その背景に浮かび上がる豊富な音楽性が多彩な表情を見せる。そこではLil’ Leise But Gold、鈴木真海子(chelmico)、Ole、環ROYといった客演陣がのびのびとした歌声を響かせ、実に自由にサウンドを展開しているのだ。日本語と英語がシームレスに繋がれたJoe Cupertinoのリリックも心地良く、どこか温かさが感じられる。国内の現行ヒップホップとは一線を画した、イマジネーションあふれる音楽性がユニークだ。

 彼の出身は、その名の通りアメリカはカリフォルニア州クパチーノ。2019年より活動を開始し、『CUPETOWN』(2021)、『SAD JOE AID Ö』(2022)とコンスタントにアルバムをリリースしてきた。それでいて学生時代にはデスメタル・バンドのヴォーカルを務めていたというからおもしろい。果たして、どのようなバックグラウンドが?気鋭のアーティスト、初のインタビュー。


取材・文 | つやちゃん | 2024年6月
写真 | Tomoya Godai

Joe Cupertino | Photo ©Tomoya Godai

――Joe Cupertinoさんはアメリカ生まれなんですね。
 「父親の仕事の関係ですね。ふたりいる姉は日本生まれなんですけど、僕が生まれるタイミングで海外赴任が重なってアメリカに行くことになって。そのまま3歳まで向こうにいて、その後また転勤で今度は9歳まで台湾で過ごしました。台湾ではアメリカン・スクールに通っていたので、そこで英語も話せるようになった感じです」

――その過程で、どういう時期にどんな音楽を聴いていたか覚えてますか?
 「父親がジャズとクラシックをずっと聴いていて、11歳離れた一番上の姉がUKロックをよく聴いていました。自分はそこから気になるCDを勝手に聴く感じで、そこで初めて自分の意思で出合ったのがTHE KILLERSの『Hot Fuss』(2004, Island)。スクールではアメリカのメインストリームが流行っていたので、自分もEminemとか聴いてたかな。その後日本に戻って中学ではロックの中でもハード寄りのLINKIN PARKを聴き、その流れでメタルを好むようになり、高校ではメタル・バンドを組んでいました」

――意外ですね。メタル・バンドでは何を?
 「デスメタル・バンドで、ヴォーカルを担当していました」

――へぇ!想像つかないです(笑)。
 「そうなんですよ。でも、いろいろ聴いていく中で、ヒップホップはずっと好きだったんです。特に、高校の時にMF DoomとMadlibに衝撃を受けました。それがずっと残っていて。大学に入って、やっぱり自分は音楽をやりたいと思って自分でも作りはじめた、という流れです。自分のアルバムを完成させたいと考えるようになった。そこでも、いろんなジャンルの音楽をサンプリングという手法でひとつにまとめあげるMF Doomのような存在が忘れられなくて、自分もいろいろ聴いてきた音楽をヒップホップというかたちで作ってみようと決めたんです」

Joe Cupertino | Photo ©Tomoya Godai

――大学は青山学院大学だったと伺いました。出演されているイベントを見ると、当時からw.a.uのメンバーと近いところにいたのかなと思ったんですが。
 「w.a.uとは仲良いです。それこそRyuju Tanoueは今回“Ruby feat. Lil’ Leise But Gold”のトラックを作ってくれて。でも、Ryujuと同じ大学だったことを知ったのは卒業してからで、在学中は関わりがなかったんです。僕はサークルに所属していなかったし、友達とふたりで音楽をやっていたんですよ。その相手がT-Razorです。大学1年のときにLogicなどの機材を買って、独学で曲を作りはじめました」

――Joe Cupertinoさん自身も、トラックを作るんですね。
 「僕も作ります。T-Razorもサークルには入らず、そのときからずっとふたりで作ってきました。T-Razorは最近はw.a.uのJulia Takadaの曲をリミックスしていたりもしますね」

――なるほど。T-Razorさんの作るトラックに対してJoe Cupertinoさんから何か言ったりっていうことはあるんですか?
 「いや、劇的な変化をもたらすような口出しはしないですね。僕はこうしたほうがいいと思うんだけど、ということを伝えつつ、基本的には寄り添うスタンスです。聴いてきた音楽も、UKロックからヒップホップまでわりと近い気がします」

Joe Cupertino | Photo ©Tomoya Godai

――今回で3枚目のアルバムですが、やや作風が変化しましたね。以前の方が攻撃的なビートが多く、それに比べると今作は洗練されてきた印象です。
 「そうですね。2枚目までは、Joe Cupertinoが何者なのかが自分でもあまりわかっていなかったんです。でもそれがちょっとずつわかってきて、今回はレーベル・AWDR/LR2からリリースさせてもらうということもあり、そこをはっきりさせないといけないと思って。今までは、自分が気持ち良いというコンフォート・ゾーンの中で制作していたんですよ。でも、普段はそこから出たときに新しい発見がある。それに気付いたので、何もしなくても自分の中から自然と沸き出てくるものよりは、今回は論理的に頭を使って作りました」

――国内の現行シーンを見渡した時に、自分の音楽がどのように位置付けられるかということは考えたりしましたか?
 「そこはあまり考えていないです。ハングリー精神のようなものはあまりまだ芽生えていなくて、それよりは、自分の考えの欠片を配って、聴いてくれた人の人生に役立てたらいいな、という思いの方が強いです。自分にとって、音楽ってそういうものだったんですよ」

――素敵ですね。これまでリリースした2作について、実際にリスナーのかたからそういった声を耳にすることはありましたか?
 「いろいろな感想がありました。例えば“情けない歌詞がカッコいいビートに乗っていてすごいと思いました”とか。自分は情けなく書こうとは思っていなくて、等身大のことを綴っていたらそういうふうに感じてもらえたのがおもしろかった。自分の意図していない部分を感じてくれて、それをフィードバックしてもらうのは、音楽をやっていて一番勉強になるし嬉しい」

――たしかに、それは表現の醍醐味ですね。今作のタイトルは『RE:』ですが、どのような意味が込められているのでしょうか。
 「人生においての出来事の起伏って、死ぬまであるんだろうと思うんですよ。そういう心境に、“RE:”という言葉が当てはまりました。再生って、1回破壊しないとできないものだから。それと、ちょっとダジャレみたいだけど“プレイヤーで音楽を再生する”という意味もあります」

Joe Cupertino | Photo ©Tomoya Godai

――なるほど。アルバムにおけるコンセプトの立てかたって、すごく難しいと思うんです。Joe Cupertinoさんがこれまでに聴いてきたアルバムで、コンセプトも込みで心を動かされた作品はどういったものがありますか?
 「9th Wonderも所属していた、LITTLE BROTHERの『The Minstrel Show』(2005, ABB Records | Atlantic)です。TVの音楽特番のようなテーマが感じられて、好きな作品ですね。結果として聴き手にヒントを与えるようなものになっていて、やっている側からもそれを楽しんでいる空気が伝わってくる。やっぱり、聴き手がどう感じたかというのが気になるんですよ」

――聴き手のイマジネーションを刺激するような作品であることが、Joe Cupertinoさんが考える良い作品の条件としてありそうですね。
 「だからこそ、聴き慣れた馴染み深い言葉よりも、ちょっとハテナを残した歌詞を書けるよう意識しています」

――トラックでもそういった工夫はありますか?
 「無駄のないトラックも好きなんですけど、“ここにあえてこの音を入れることでその瞬間は不協和音になるんだけど、全体としては特別性が生まれている”というものが好きです。とは言え、音楽理論とかはわからないので感覚なんですけど」

――このアルバムはいろんな種類の感情がパッケージされていると思いました。もしかしたら今のトラックの話は、そういうところにも通じているのかもしれないです。
 「そうですね。感情って喜怒哀楽があるんだけど、生きていると、それを言葉で表現できないケースがめちゃくちゃ多くて。“みんなもたまにこういう気持ちにならない?”、“なんて言ったらいいんだろうね?”という部分を音楽にしています。そういうのを、自分はすごく引きずるんですよ。“あの感情って何だったんだろう……”って」

Joe Cupertino | Photo ©Tomoya Godai

――でも、それにぴったりハマる音が探せないときもあるでしょう。
 「ある。そういうときは、聴くに堪えない曲になってる(笑)。ただ、そのときうまくハマっていないだけで、次の日にハマる曲を作れることもある。だから、うまく表現できなかったとしても、ある程度のかたちで残しておくようにはしています」

――今回そういった意味で、印象的だった感情はありますか?「この気持ちを曲にしたい!」といった感情。
 「“肉のハナマサ”に行って、無限に陳列されている牛肉を見ると、怖れに近い気持ちになるんですよ。“これがハナマサ1店舗の量だよね。ということは、日本全国の牛肉を集めたらどれだけの量になるんだろう。世界中の肉の量となるともっとだよね”と考えると、“牛の多さ、ヤバ!”って思って。それは、団地とか集合住宅を見ても思います。でもそれって、一旦蓋をするしかないじゃないですか。そこから離れてまた戻るときに、再生が起こる」

――大人になるって、悲しいかな、そういったものに蓋をしていくことですよね。
 「本当にそうなんですよ。でも、そういう気持ちは忘れないようにしたいです」

――今回のアルバムは、客演も多いですね。意外な繋がりに見える人もいます。Lil’ Leise But Goldさんとはどういう経緯で参加してもらうことになったんですか?
 「2021年にBATICA(東京・恵比寿)で“Yates”(* 1)というイベントに出たときにお会いしたんですけど、その前から僕はLil’ Leiseさんの曲がSoundCloudにあるものも含めて大好きだったんです。ずっと自分の作品には参加していただきたい気持ちがあったんですけど、“この曲は客演に誰呼ぼうかな”というかたちのオファーの仕方ってすごく嫌で。ケーキの最後に映えそうだから苺のせよう、みたいな感じで失礼じゃないですか。Lil’ Leiseさんに出てもらいたい、という曲ができたときにお声がけしようと思っていて、ついにそれができたという感じです」
* 1 「Marfa by Kazuhiko Fujita presents Yates」。ライヴはJoe Cupertino、Kohjiya、Lil’ Leise But Gold、DJはshakke、ZAI、スペシャル・ゲストとしてC.O.S.A.が出演。

「Marfa by Kazuhiko Fujita presents Yates」

――この曲はすばらしいですよね。Lil’ Leiseさんが入った瞬間の、空気がふわっと変わるようなところも含めてすごい。Joe Cupertinoさんはバイリンガルだけあって英語と日本語の繋ぎがフラットで聴いていて心地よいですが、Lil’ Leiseさんも同様の魅力があります。
 「そうなんですよ。Lil’ Leiseさんって、お洒落な英語の使いかたをされますよね。わかりやすい英語なんだけど、その使いかたが巧い。初めてLil’ Leiseさんにお会いしたときに、赤に関連するすべての色のイメージを抱いたんです。そういうところからRubyというタイトルも出てきたし、アフリカンなビートも出てきました。ドロップのログベースの色も赤~オレンジの印象で、それもRyujuにオーダーしました」

――他には「わがまま」で鈴木真海子さんが参加されています。
 「鈴木真海子さんは以前、僕の音楽をInstagramでシェアしてくださって、それをきっかけにやり取りが始まって曲を作りました。けっこう前にできていた曲なんですけど、今回のアルバムのコンセプトに合っていると思って、わがままを言って入れさせてもらいました」

――この曲の真海子さんの歌はすごく味がありますね。一方、「Soup」ではOleさんのラップも光っています。
 「Oleくんは突出したラップの巧さがありますよね。初めてライヴを観たときに感動しました。トラックがシンプルなぶん、Oleくんの声って高くて力強さがあるからすごく合ってると思う」

――客演の魅力を最大限引き出すような作りが施されていて、そこがすごく誠実でJoe Cupertinoさんらしいですね。「再生」では環ROYさんが入られていますが、もともとお知り合いだったんですか?
 「いや、環ROYさんはT-Razor経由です。環さんはもうレジェンドだし、自分が今後活動していくにあたっても目指しているような立ち位置にいる気がします。実際、レコーディングのときは一番テイク数も多くてすごく真摯に制作に取り組んでくださって。そういうところも自分が思ってた通りのイメージのかたでした」

――その他の曲も含めて、このアルバムは全体的に歌詞がユニークだと思いました。
 「僕視点の感情だけではなく、他者視点での感情も入れるような工夫をしました。“Stars”は星から見た僕 / 僕から見た星という視点をミックスしているし、“sadjoeaido”はペットの犬が亡くなったことについて、僕視点の悲しさとペット視点の感情を描いています」

――視点の移動を意識的に導入されていると。
 「そこは映画の影響が大きいと思います。遠目から映すと孤独感が増すとか、寄ると迫真さが出るとか、カットの違いで印象がだいぶ変わってきますよね。その視点の動きを歌詞で表現しています」

――客演の個性を引き出す工夫をしている点や、視点を複数使って歌詞を書いている点など、話を伺っているとJoe Cupertinoさんの作品が多様な聴かれかたをされるのもわかる気がしますね。
 「僕の耳に、作品に対するいろいろな解釈が入ってくる可能性を増やしていきたい。共感も否定も、全部僕が人間として成長するためのものだと思うので。制作する過程で自分の中ではある程度答えができているので、そうじゃない意見をフィードバックとして聞きたいですね」

――すごく誠実に作られた作品だと思うので、リスナーも誠実に向き合ってくれると思います。どんどん感想をあげてもらいたいですね。今後やりたいことなどがあったら教えてください。
 「今回の作品のテーマは“再生”なので次は“破壊”をテーマにしたアルバムを作りたいと思っています。破壊にもいろいろな解釈があってものすごく楽しみです。あとはライヴ演出の部分ももっと凝りたいと前々から思っているので、これからはそちらにも力を入れていきたいと思っています」

Joe Cupertino | Photo ©内田燿司
Photo ©内田燿司
Joe Cupertino Instagram | https://www.instagram.com/joecupertino/

Joe Cupertino 'RE:'■ 2024年6月19日(水)発売
Joe Cupertino
『RE:』

AWDR/LR2 JCP-005
https://ssm.lnk.to/RE_

[収録曲]
01. Stars
Lyrics Joe Cupertino | Music T-Razor
02. Ruby feat. Lil' Leise But Gold
Lyrics Joe Cupertino, Lil' Leise But Gold | Music Ryuju Tanoue
03. わがまま feat. 鈴木真海子
Lyrics Joe Cupertino, 鈴木真海子 | Music T-Razor
04. Soup feat. Ole
Lyrics Joe Cupertino, Ole | Music Joe Cupertino
05. Benidorm
Lyrics Joe Cupertino | Music T-Razor, Seal Beats, Ganzy Beats
06. 再生 feat. 環ROY
Lyrics Joe Cupertino, 環ROY | Music T-Razor
07. sadjoeaido
Lyrics Joe Cupertino | Music Joe Cupertino
08. Destroy
Lyrics Joe Cupertino | Music Joe Cupertino

「homesicc presents "homesicc"」homesicc presents
homesicc

2024年7月8日(月)
東京 渋谷 WWW

開場 18:00 / 開演 18:30
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)
https://t.livepocket.jp/e/homesicc

[出演]
Aisho Nakajima / bloodspot, / Cwondo (No Buses) / HIMAWARI / Joe Cupertino / JUBEE (CreativeDrugStore/Rave Racers/AFJB) / Luby Sparks / N² (Kyundesu) / OKAMOTOREIJI (OKAMOTO’S) / 釈迦坊主 / sheidA / (sic)boy / Yohji Igarashi

「MUD」MUD

2024年7月26日(金)
東京 恵比寿 BATICA

開場 18:00 / 終演 4:00
前売 2,000円 / 当日 2,500円(税込 / 別途ドリンク代)
予約

[Live]
Lil' Leise But Gold / hyunis1000 / ziproom / KEYTOTHECITY / Moon Jam(Sound's Deli) / Joe Cupertino / MK woop / EL Mosh

[DJ]
Hi'Spec / shakke / Kazuhiko Fujita / M&Ss / Ryo Ishikawa / ChibiChael / 5Windows Freak / mils / MIYO & YU / RINO / HONGO / AO / indiy / Fu-z & C_senT / 鈴木正義 / HIGH-TONE -DKYKN set- / MEi

[FOOD]
BIGFAF × annatrze