Interview | QUICKSAND | Walter Schreifels


自分にも他人にも親切にする計画

 90sポスト・ハードコア最重要バンドのひとつ、QUICKSAND。ヴォーカル / ギターのWalter Schreifelsは、GORILLA BISCUITSやPROJECT X、YOUTH OF TODAYといったNYのハードコア・バンドでキャリアをスタートさせ、優れた楽曲を書くソングライターとしての資質でこれまでにRIVAL SCHOOLS、DEAD HEAVENS、VANISHING LIFE、WALKING CONCERTなど、様々なプロジェクトを通してその才能を発揮してきた。

 QUICKSANDとしては、2012年に本格的な再始動を果たし、2017年に復活後初のアルバム『Interiors』を発表。その後、ツアー途中にギタリストのTom Capone(ANTIDOTE, BEYOND, BLOODCLOT, BOLD, HANDSOME, INSTRUCTION etc.)が離脱したものの、そのままトリオ編成で活動を続行し、2018年には来日公演も実現させている。実は『Interiors』もCapone不在の状態でレコーディングしたことが明らかになっており、完全にCaponeが外れた結果、むしろバンドの状態は良くなったそうだ。今年8月にリリースされた(ヴァイナルは9月)最新アルバム『Distant Populations』にも、今の彼らの好調ぶりが明瞭に反映されていると思う。QUICKSANDならではのグルーヴ感を持つハードなリフと情緒豊かなメロディのレイヤーは深みを増し、今なおバンドが着実に進化していることを実感させてくれるのだ。


 また、インタビュー中でも語られている通り、新作をフォローするツアーにはStephen Brodskey(CAVE IN, MUTOID MAN, OLD MAN GLOOM etc.)が参加。単なるサポート・ギタリストの立場を超えて、今後Schreifelsとのコンビネーションで、新規の創作面でも刺激的な発展を見せてくれそうな予感がする。これからのQUICKSANDにも大いに期待したい。


取材・文 | 鈴木喜之 | 2021年9月
Main Photo | ©Annette Rodriguez

――最新作『Distant Populations』は、ここ日本でも多くのリスナーから絶賛の声で迎えられています。制作にあたっては、どんなアルバムにしようという気持ちで望んだのでしょうか?
 「このアルバムが日本で高く評価されていると聞いて、とても誇りに思う。僕らは今作で、何か特別なものを作っていると感じていた。前作『Interiors』を作った経験から、『Distant Populations』の制作に役立つ自信と方向性を得ることができたんだ。僕らは、より簡潔でヘヴィな、もっと良いアルバムを作ろうとした。その仕上がりにはとても満足しているし、ライブで演ってもすごくいい感じなんだよ」

――全体的にサイケデリックな感覚が増したと思ったのですが、自分ではどう感じていますか?
 「このアルバムが持つ、サイケデリックな部分に気づいてもらえて嬉しい。僕らは、かつての時代を代表するようなクラシック・バンドだけでなく、それと同じくらい現代的なサイケ(シューゲイズからWHITE FENCEまで)にも影響を受けている。今回のアルバムでは、さっきも言った通り、より簡潔なサウンド、より短い曲、より要点を押さえたものを目指したんだ。『Interiors』では、それ以前のアルバムとは対照的に自分たちをリラックスさせたんだけど、それは当時の僕らにとって正しいことだったと感じている。で、『Distant Populations』では、それら両方の良いところを追求したわけ」

――新作は、Alan Cage(BEYOND, BURN, NEW IDEA SOCIETY etc.)、Sergio Vega(ABSOLUTION, DEFTONES)とのトリオ編成になって初めてのフル・アルバムと言われていますが、実は前作『Interiors』も、実質的には3人で作ったものなんだそうですね。だから、ツアー途中でTom Caponeが離脱して3人だけになってもツアーを続けることができたのだと納得しました。ギターのパートをあなた1人だけで担うようになったことが、現在のQUICKSANDにおける創作作業にどんな変化をもたらしたと思いますか。
 「その通りで、『Interiors』でもオリジナル・ギタリストに演奏してもらいたかったんだけど、当時のバンド内には問題があって、その方法だと生産性が上がらなかった。幸いなことに、3人でアルバムを完成させることができたし、それでもTomをまだバンドの一員と考えていたので、メンバーとしてクレジットしたんだ。一方、『Distant Populations』では、最初から3人しかいないことがわかっていた。それでも、きっとファンが喜ぶような良いアルバムを作れる自信があったんだよ。自分たちを再構築するのは楽しい挑戦だった。ギタリストとしては、自分の持ち場を選ぶのが上手になったね。後ろに下がるタイミングや前に出るタイミングを深く理解できたし、クリエイティヴな面では、よりオープンになって、いろいろな意味で楽になれた」

――改めて、AlanとSergioのリズム隊とのコンビネーションについて教えてください。彼らとの演奏で最もいいところはどんなところだと感じていますか?
 「AlanとSergioは特別な相性を持っていて、僕はそれを楽しんでる。この2人の演奏を初めて聴いたときから、バンドの根幹にユニークなものがあると感じた。彼らと一緒に演奏するのは素晴らしいことだ。というのも、非常に基本的なレベルで、曲のドラムとベースには、常にスウィング感とヘヴィネスがあるということがわかっているから」

――『Distant Populations』の制作作業はどのように進められたのでしょう?
 「『Interiors』でWill Yipと一緒に仕事をしたのがとても良い経験だったので、このアルバムでもWillと一緒に仕事をしたいと全員が感じていた。前作とプロセスは非常に似ているけれど、今回のアルバムの方がより楽しく、なぜか簡単だったように思う。例えば、オープニング曲の“Inversion”は、スタジオに入った時点ではまったく違う雰囲気だったんだけど、15分ほど演奏してみたところで完全に違う曲になって、最終的にはアルバム1曲目になったんだ。それから、“Missile Command”もスタジオで作られた曲。基本的なパーツはあったものの、どのようにアレンジしたらいいのかわからず、セッションの最後の数日でようやく完成できた。とてもオープンでクリエイティヴな雰囲気だったよ」

――今作について、3人のメンバーがそれぞれ別の様々な場所で行なってきた活動を反映したものだと感じたりしますか?
 「ミュージシャンとしての個人的な進歩もたしかに影響していると思う。ただ、僕にとってこのアルバムは、ユニットとしての進化を示すものだね。僕ら3人で世界中を演奏して回ったとき、4人編成に慣れていたから、それをうまくやるのは決して簡単ではなかった。そのチャレンジが僕らをより親密にして、自分たちがクリエイティヴにやれていると自信を持たせてくれたって感じるよ」

――あなたは、これまで数多くのバンドに参加してきましたが、自身でヴォーカルをとりながらギターを弾く場合、だいたいいつも、もう1人のギタリストがいる4ピース体制をとっていたと言っていいと思います。なので、いわゆるパワー・トリオ編成での活動は初めてだったのではないかと思うのですが、その方向でやってみようという気持ちになったきっかけなどは何かあるのでしょうか?また、実際にギター・パートを全て独力でこなすようになってみて、良かったことや悪かったことは?
 「そうだね、僕はいつも、もう1人のギタリストがいたほうが、よりヴォーカルに集中できると考えている。トリオで演奏することによって、僕は自分の演奏にもっと集中することができたし、少ないリソースでより多くのことができるようになった。他の人間を招く前に、まずは3人で演奏して、その音を表現したほうがいいと思ったんだ。このことは僕らをミュージシャンとして成長させたし、バンド内の関係性も深まって、いい選択だったと思っている」

――一方で先日、今後のツアーにはCAVE INのStephen Brodskyが同行するという発表がありました。やはりライヴでは、もう1人のギタリストが必要という判断に至ったのでしょうか?昔の曲を演奏する場合、StephenがTomのパートを弾くのだとして、新作からの曲は、どのようにパート分けを決めるのですか?
 「うん、今はStephen Brodskyがギターを弾いていて、とてもうまくいってる。最新作は2本のギターを想定してレコーディングしたので(他のレコードもそうだけど)、僕がライヴでは弾き切れない部分をSteveが担ってくれてるんだ。それに、Steveは自然なリード・ギタリストで、僕はリード・ギタリストではないから、ソロのときに彼の演奏を聴くのはとてもいいことだよ。3人で演奏するのも楽しかったけど、2本目のギターのパワーとダイナミクスがあれば最高だね」

――これからもQUICKSANDはトリオ編成のバンドとして存続していきたいと考えていますか?それとも、Stephenを加えて4人で新曲を作ったりもするのでしょうか。
 「Steveはバンドに完璧にフィットしているので、ぜひ一緒にコラボレーションしたいと思っている。今のところは『Distant Populations』の演奏に集中してるけど、今の自分たちの音の良さにとても興奮できるし、この新しい音がどこに繋がっていくのか、とても興味があるんだ」

Stephen Brodsky + Walter Schreifels
Stephen Brodsky + Walter Schreifels

――今から19年前の話になりますが、RIVAL SCHOOLSが「SUMMER SONIC 2002」に出演したとき、CAVE INも来日していて、あなたとStephenが日本で会っていたという話を聞いています。あなたと彼との間には過去どういう出会いがあり、これまでどんな付き合いがあったのでしょう?
 「あまりよく覚えてはいないけれど、日本でSteveを見かけたのはたしかだね。最初に出会ったのはボストンでRIVAL SCHOOLSのライヴをやったときだったと記憶してる。彼はとても親切でおもしろくて、非常に才能のあるプレイヤーだった。90年代後半にはマンハッタンのBrownie’sというクラブでCAVE INが演奏しているのを観て、“Dazed And Confused”(LED ZEPPELIN)のカヴァーにド肝を抜かれたよ。Steveと一緒に演奏するのはとても楽しいから、彼をバンドに迎えることができて、とってもハッピーだ」

――あなたが4ピース・バンドのフロントマンというポジションに収まるとき、それぞれのバンドで組むことになるもう1人のギタリストとのパートナーシップについて、各自どんな違いがあるのかを聞かせてくれますか。まずIan Love(RIVAL SCHOOLS, SUPERTOUCH etc.)、次にJeffery E. Johnson(WALKING CONCERT)、続いてZach Blair(RISE AGAINST, VANISHING LIFE etc.)、最後にPaul Kostabi(DEAD HEAVENS, WHITE ZOMBIE etc.)です。
 「Ian Loveは非常に温かみのあるプレイヤーで、緻密さと豊かな感覚を兼ね備えている。RIVAL SCHOOLSでは、彼がほとんどのアトモスフェリックな面と、ほとんどのギター・ソロを作っていた。対照的に僕は、エフェクトを使わないストレートなプレイをして、これがRIVAL SCHOOLSのサウンドに見事にマッチしたんだ。Jeff Johnsonは、まるで瓶の中の稲妻のように、ギターで信じられないようなことができる人。とても刺激的で独創的だ。彼の演奏には素晴らしい情熱とユーモアのセンスがあり、これまで一緒に仕事をした中で最も独創的なリード・プレイヤーだと思う。Zach Blairは、ポジティヴなエネルギーと正確さをすべてにもたらして、すべてをこなす、偽りなき完全なプロだね。Zachはユーモアのセンスも抜群で、一緒にいるととても楽しい人だ。Paulはもっとリラックスしていて、まるで賢者と一緒にプレイしているみたいなんだよ。僕はPaulのリード・プレイが大好きだ。彼はとても暖かいタッチとオールドスクールなフレーズを持っている。Paulは、クラシック・ロックの時代とローカル・パンクの始まりの間に演奏を学んだから、その演奏には両方の良さがある。彼はJeff Johnsonに似ているところが多く、2人ともすべてにおいて真のアーティストだ」

――最新作に話を戻します。もともとQUICKSANDは、印象的なリフと、抒情的な歌メロが大きな魅力になっていて、それは『Distant Populations』でも存分に発揮されています。作曲する時には、メロとリフのどちらから先にできる場合が多いですか?同時に思い浮かんだりもするのでしょうか?
 「僕は通常、メロディを最初に作り、それに合わせて歌詞を書いていく。時には、歌詞のついた行があっても、その曲が何を歌っているのかわからないこともある。そういう場合は、特定の行を拡張して文脈を与え、気がつくと意図していなかったことを歌っている場合もあったりして、ただ導かれるままに書いているね。歌詞は、僕にとって常に曲の中で最も重要で、しばしば難しい部分なんだ。とはいえ、歌詞が良い場合は(そうでなければならないわけだけれど)、とても満足感を覚えるよ」

――最新アルバムはパンデミック前に完成していたそうですが、収録曲のソングライティングに関して、インスピレーションは主にどんなところから得たのでしょう?「トランプ時代のアメリカ」は、あなたの創作に何か影響を与えたと思いますか。
 「僕はトランプについて書いているのではなく、ある意味、トランプに力を与えた、その状況について書いている。民主党は巨大企業と大金持ちのための政党で、共和党も同様だ。そのため、貧困層や労働者階級は権力の高い場所に代表者を置くことができない。僕はバーニー・サンダースが突破口を開くかもしれないと期待していたんだけど、最終的にはオバマがその可能性を潰してしまった」

――“Brushed”のイントロには、ループのグルーヴがあります。例えばデモ制作の段階で、プログラミングを導入していたりしますか?
 「このループは、12歳の甥っ子が作ってくれたんだ。僕はプログラミングのスキルを持っていないので、彼に僕が叩いたドラムをループさせてほしいと頼んで、$25を渡したんだよ。完成した“Brushed”にはとても満足している。将来的にはもっとプログラミングを導入してみたいと思ってるんだ」

――レゲエっぽいイントロを持った“katakana”という曲が入っていますが、これは日本語の“カタカナ”ですよね?一見した限り歌詞の内容とは直接関係なさそうに思えますが、どうしてこのようなタイトルがついたのでしょうか?
 「カタカナ表記は、外国語を日本語に適応させるために使われるよね。そういう意味で、この歌詞は、新しい狂気、COVID、気候変動、果てしない戦争などで圧倒され続ける現代生活に適応しようとすることを歌っているんだ。また、日本人や他のアジアの国々が、異なるコミュニケーションの領域に対応するために複数のアルファベットを持っていることにも、いつも感心させられている」

――アルバムのプロデューサーには、前作に引き続きWill Yipを起用しています。NOTHING、TITLE FIGHT、TURNOVER、TURNSTILEや、近年ではCODE ORANGEなども手がけた人物ですが、彼との仕事でいいところはどんな点でしょうか?
 「Willの一番好きなところは、その安定した熱意とポジティヴさだ。彼は非常に実行力のあるタイプで、常に前進しているし、決して燃え尽きることはない。さらに、Willは才能を持ったミュージシャンであり、とても賢くておもしろい人でもある。彼と仕事をする喜びは、音楽にも反映されていると思う」

――ミキシングはLAMB OF GODやSOULFLYなどを手がけたJosh Wilburに任せていますが、彼を起用した理由と、その仕事ぶりがどうだったかを聞かせてください。
 「Joshと一緒に仕事をすることになったのは、僕たちのマネージャーの提案によるものだった。その提案を受け入れて本当に良かったと思ってるよ。Joshは、ミックスに即効性をもたらしてくれて、聴くたびに感動する。パワフルかつエネルギッシュでありながら、とても聴きやすい音なんだ。非常にクールな人で、僕たちがミックスに満足しているかどうかを確認するために細心の注意を払ってくれたんだけど、実際には、僕たちがほとんど指示を出さなくても、彼は思いのままに行動していた」

――印象的な美しいアートワークは、俵谷哲典(2UP, HANGAKU)の作品ですね。彼の作品をジャケットにすることにしたのには、どんな経緯があったのでしょう?
 「そう、俵谷哲典がアートワークを手がけてくれた。ウィリアムズバーグにある僕のアパートの近くで開催されたコミック・ショーで、哲典の作品に出会ったんだ。大胆な色使いと信じられないほどのディテールに、強烈な衝撃を受けたよ。『Distant Populations』の雰囲気を話し合っているとき、彼がぴったりだと思った。このような美しいアートワークを作ってくれたことに、心から感謝している」

――今はまだまだ多くのバンドにとって困難な時代ですが、あなた自身はこの世界的な内省の時期をどのように過ごしましたか?そして、そんな状況下ではありますけれども、今後の活動について現時点でどんな展望を持っているか教えてください。
 「そうだね、確かに内省が求められている。僕は最近、人々がお互いに憎しみと不信感を抱いていることをとても残念に思っているんだ。何が話題になっても、すぐ左右に分かれて争いを引き起こすように感じられてならない。自分には共感能力があるから、こういう不和に悩まされてしまう。幸いなことに、僕には素晴らしい家族、友人、そして音楽があり、大局的に物事を見ることができる。僕の計画は、仲間と仲良くし、謙虚でいて、自分にも他人にも親切にすることだ」

――QUICKSANDの他にも DEAD HEAVENS、GORILLA BISCUITS、RIVAL SCHOOLS、VANISHING LIFE、WALKING CONCERTなどで、また新曲を作ったり、ツアーに出る可能性はあるのでしょうか?
 「可能性を排除するわけではないけど、今はQUICKSANDに集中することを楽しんでいる。自分の注意が一箇所に集まるというシンプルさは、健康的なことだしね」

――まだ少し先ですが、再来年の『Slip』リリース30周年に何か記念イベント的なことをやろうとかは考えてないのでしょうか?
 「その予定はなかったけど、何かの形でお祝いするというのはおもしろいアイディアだね。時の流れの速さには驚かされるばかりだ。そのアイディア、覚えておくよ」

――ところで、2018年1月22日に行なわれたDEAD HEAVENSの来日公演、私もチケットを買っていたのですが、まさかの大雪で会場に辿り着けなかったんです。最後に、これまで日本へ来たときの印象深い経験、思い出などを披露してもらえますか?
 「そりゃあ残念だったね。DEAD HEAVENSではとても楽しい夜を過ごせたけど、大雪にも見舞われた。日本ではたくさんの素晴らしい時間を過ごしてきたし、ありふれた経験でさえも、楽しいものになるんだ。ツアー・ミュージシャンとして、日本は間違いなくお気に入りの場所だよ。日本にいる素晴らしい友人たちに感謝しているし、また日本公演の実現する日が待ち遠しいな」

QUICKSAND Official Site | https://www.quicksandnyc.com/

QUICKSAND 'Distant Populations'■ 2021年8月13日(金)発売
QUICKSAND
『Distant Populations』

https://quicksand.ffm.to/distantpopulations

[収録曲]
01. Inversion
02. Lightning Field
03. Colossus
04. Brushed
05. Katakana
06. Missile Command
07. Phase 90
08. he Philosopher
09. Compacted Infinity
10. EMDR
11. Rodan