もうこれ以上、やばい、助けて!
本稿では、初めてのソロ作品に対する思いや、単身での活動開始による新生活についてご本人に語っていただきました。
取材・文・撮影 | 久保田千史 | 2019年7月
協力 | サロンほし (support By 浅草橋天才算数塾)
――今日の朝ごはんは?
「水」
――水。
「なんか、家を出る30分くらい前に起きちゃって」
――寝坊したということですか。
「うん……そうです……」
――寝坊多いですか?
「……フツー」
――そうですか。平均して、朝何時頃に起きてます?
「12:00」
――朝じゃないですね。何時に寝てからの12:00起きなんですか?
「2:00か3:00」
――けっこう寝ますね。それで起きて、水飲んで。
「朝起きて、なにか食べる前に水を1杯飲んだほうが良いって聞いたんですよ」
――聞いたことありますね。
「うん。友達もやってるって言ってて。じゃあ、やってみようかなって」
――その習慣はいつから?
「前に1週間くらいやってたんですけど、やめちゃって。最近また始めました。一昨日くらいから」
――習慣というほどにはやってないですね。水飲むと目覚め変わります?
「……変わらないです」
――寝坊したんですもんね。
「……ははは」
――……。
「……(哀しそうな笑)」
――ソロになってから、生活のリズム変わりました?
「……変わらないです。ははは」
――パフォーマンスに臨む気持ちはどうですか?
「ああ……緊張は前よりする」
――他に人がいないから、ということですか。
「そうです」
――以前は緊張が分散されていたんですね。
「そうです」
――じゃあ今、けっこうしんどいですか。
「うーん、しんどくはないです」
――楽しい?
「楽しいです……はい」
――音楽的にはどうでしょう。今は1980年代のテクノ歌謡を思わせる楽曲を中心に歌っていらっしゃいますよね。以前からそういう音楽はやってみたかったのでしょうか。
「そうです。だから今やらせてもらえるのは嬉しい。歌えて楽しいです」
――佐藤優介さんをはじめとする作家陣に作曲を依頼するというのは、カイさんの発案ですか?
「違います」
――なるほど。いただいた曲を歌うにあたって、事前に佐藤さんの曲を聴いたりはしました?
「聴いてないです」
――なるほど。出来上がった曲を聴いた感想は?
「すごく良くて、“めっちゃいいですね”って嶋田さん(TRASH-UP!! RECORDS)にLINEしました。しかも佐藤さんが仮歌を歌っていて。それがすごく良いから聴いてほしい、みんなに。むしろそっちを聴いてもらいたい」
――そっち?たしかに佐藤さんはシンガーとしても優れた方ですし、聴いてみたくはありますけど……。テクノ歌謡みたいな音楽が好きになったきっかけは?
「うーん……兄が聴いてたかもしれないです」
――お兄ちゃんどれくらい歳が離れているんですか?
「5か6くらい」
――曖昧ですね。そうすると、お兄ちゃんも80年代の音楽をリアルタイムで聴いていた世代ではないですよね。
「うん、そうです」
――お兄ちゃんはどうしてそういう音楽が好きになったんでしょう。
「知らないです」
――知らないけど、お兄ちゃんが聴いていて。家の中で流れていたのでしょうか。
「たぶんそうです。ちょっと記憶が……」
――(笑)。
「たぶん家で流れてて、兄におすすめされたりしたのか、わからないんですけど……記憶が……違うかもしれないですけど……ぼんやりしてます」
――好きになってからは自分で調べたりしたんですか?
「そうですね、自分でいろいろ探して」
――YouTube?
「そうです。YouTube」
――今回の作品に入っているカヴァー曲もそうやって探した中から選んだのでしょうか。
「そうです」
――主体性があって良いですね。
「うん……そうなんですかね……」
――以前の活動領域の周りにも、こういう音楽性のグループがいくつかありましたよね。Especiaとか。そういう影響はなかったんですか?
「ないです」
――真鍋ちえみさんのカヴァー「不思議・少女」が収録されていますが、あれはテンテンコさんによる堀ちえみさんのカヴァー「Wa・ショイ!」へのアンサーではないですよね。
「違います(笑)」
――そっか(笑)。作品自体が完成して、いかがでした?これから独りでやっていけるぞ!みたいな意気込み湧いてきました?
「うん……えっと……でも、なんか、ワー……ってなりました……」
――ワー……ですか。
「全部自分の声だけのCDで……」
――それはそうですよね……。そのワーは不安のワーで合ってます?
「そうです。不安ていうか、キャー……です」
――キャー……ですか。たしかに、これまでそういうことなかったんですもんね。
「うん。怖いです」
――嬉しくないんですね。
「怖いです」
――では、さっきおっしゃっていた緊張も、心地良い緊張感というよりも、怖い緊張感なんですね。
「そうです」
――やばいですね。
「えっ」
――これから独りでやっていくのに、ずっと怖かったらやばいじゃないですか。
「これから、たぶん、ずっと怖いままですよ」
――じゃあ、その恐怖を克服する方法を考えてみましょう。メンタル・トレーニング的なことはしてないんですか?
「してないですね。したいですね」
――何かないかしら。
「我慢」
――我慢ね、これからずっと我慢してたら、ストレスすごいですよ。
「そうですね……」
――ああ、でも、家に帰って、YouTube観て、たくさん寝て、水を飲むことによって、ストレスが緩和されているのかもしれないですね。もし家でYouTube観る時間がなくなっちゃったらどうです?やばいですか?
「……ちょっと」
――ちょっとか(笑)。しかし我慢とは。がんばるとかじゃなくて。
「うん、我慢(笑)」
――その我慢というのは、どのあたりを重点的に我慢するんですか?
「自分の声だけなのはしょうがないっていう……」
――我慢というより、ほとんど諦めですね。
「……それなのに、なんでやってるんだろう……って思います」
――それ自問しますか。なんでやってるんですか?
「わからないんですよ(笑)」
――歌うのは好きなんですよね?
「歌は好きですけど。はい」
――それで十分ではないんですね。
「歌うのが好きだからって、自分の声だけが入ってるCDは良くならない。怖い。嫌だ。さっきと同じこと言いましたね」
――そう……ですね、だいたい同じですね。
「(笑)」
――好きよりも怖いが勝ってしまうんですね。
「そうです」
――そうですか……。でも、カイさん以外の人は、カイさんの歌声、好きだと思いますよ。待っていた人だってたくさんいると思うし。
「そうなのかもしれないけど……嫌だ。それで、怖いままですよ」
――CDを聴いた人から“良かった”って言われても?
「嬉しいです。嬉しいんですけど、それとこれとは別みたいな」
――それはそうですね、たしかに。他の人はどうなんでしょうね。そういう時期があって、そこから突き抜けていくのかな。
「他の人は自分の声だけだったら嬉しいんじゃないですか?わからないですけど」
――そういう人もいるでしょうね。でも、カイさんなりに、楽しさはあるんですよね。
「うん……たぶん……よくわからないんですよ……」
――自分がやっていることをすごく客観的に見てしまう人っているじゃないですか。それとも違いますよね。
「うん、わたしは見られないです、あんまり」
――怖さも、楽しさも、連動せず独立して同じようにあるんですよね。
「そうですね」
――では、これならどうでしょう。出来上がったCDが、自分の家の中にしか存在しない。誰も手に取らないし、聴くのは自分だけ。
「自分で聴く用?それは大丈夫です」
――やっぱり他者の存在が恐怖をもたらしているんですかね。
「ですかね……わからない……。でも聴かないですね、自分でも。だから誰も聴かないCD」
――思考実験ではなくて、今のリアルな話ではどうです?家で聴いてます?
「聴かない」
――あらまあ。
「でも、それが嫌です」
――あっ、嫌なんですか。
「嫌です!もっと、なんか、“聴いてほしい!”みたいな人になりたかったですけど」
――とても素晴らしい内容ですし、“聴いてほしい!”って言ったほうが良いと思いますよ。
「ああ、はい、その、曲とかは、すごい、好きですよ」
――作品自体は好きなんですね。
「そうです(哀しい顔)」
――別にいじめてないです……。
「作っていただいたものですし、そりゃ聴いていただいたほうがいいっていうか、聴いていただきたいですけど、わたしは、自分で聴いたときに、全部自分の声なのが怖い」
――また同じこと言いましたよね。
「ははは」
――もうわかりましたよ。受け入れます。でも、そういうカイさんだからみんな好きなのかな、きっと。
「えー、嫌です」
――ステージに上がって、人前で歌っている正にその最中はそんなこと考えないですよね?
「あー、考えます」
――曲間とかじゃなくて、歌っている最中ですよ?
「あ……あります」
――そうですか……。具体的にどんなこと考えているんですか?例えば「遊星よりアイをこめて」を歌っている最中。
「う~ん……それ、曲単位じゃなくて、全部の曲で“助けて!”って実は思ってます……」
――心の叫び過ぎますね。でも誰も助けてくれないんですね。
「そうです。曲は流れ続けるわけじゃないですか。止められないし……」
――では、仮にですよ、手元に曲を止められるボタンがあるとします。止めますか?
「止めたら止めたで、結局は歌いますよね、全部。みんな来てくれたし、やらなきゃ。観に来てくれたからにはなあ……。だから、まあ、止めつつも、また歌ったり」
――止めても、またボタンを押すんですね。かっこいいですね。
「かっこよくないですよ(哀しい顔)」
――みんなが来てくれてるからという理由で、また歌うんですよね。
「そうです……」
――かっこいいじゃないですか。
「かっこよくないですよ!ボタン持ってる時点で」
――ボタンはあくまで仮定ですから。でも、自分でプレイボタンを押すタイミングを決めるのは、すぐにでも実現できそうですよね。どうですか?
「良い……ですね」
――今本当に考えました?
「考えましたよ!パソコンで、とか」
――そうそう!パソコンとか。自分で好きな曲を再生して。好きなタイミングで歌い始めて。辛くなったら止めて。
「良いと思います。良いです。やってみたいです」
――パフォーマンスも含めて、打ち出し方の方向性みたいなのって定まっているんですか?
「今は、彷徨ってます。どうしたらいいかな~って。最初が歌謡っぽい感じだから、この感じでやっていくのがいいのかな?とか」
――自分が好きな音楽なんですから、それが一番良いですよね。
「でも、自分が歌うとなると……最近聴かないんですよね、そういう歌。聴きたくなくなっちゃうっていうか」
――自分の声を想像してしまうんですかね。
「うん……そうなんですかね。なんか聴きたくなくなっちゃって。聴いてないです、最近は。好きで聴いてたんですけど」
――それは寂しいですね。
「大丈夫です。K-POPに元気もらってるんで」
――K-POP、どんなのが好きなんですか?
「グループですか?」
――グループです。
「SEVENTEENと、BLACKPINKとか」
――BLACKPINKかっこいいですよね。僕も好きです。
「あとNCTとか、あとTWICEも好きだし」
――けっこう節操ないですね!
「ははは(笑)!なんでも好きです、K-POPは」
――僕あとf(x)が好きなんですけど、
「わたしも好きです!」
――4人になってからの曲の感じとか、
「あっ!良いですよね、かっこいいです」
――カイさんが歌うのに合いそうですよね。
「あら!(嬉しそう)」
――やってみたいですか?
「やってみたいです!やってみたいですけど……」
――きっとやらないんですよね、やったら聴けなくなっちゃいますもんね。
「たしかに。ああああ……そうですよね……嫌です……」
――そのときはそのときで、またテクノ歌謡に戻るとか。
「えーっ!戻れるのかな……怖いです……何10年後とかになるかもしれないです……」
――難しいですね、自分の好みとのバランス。
「うん……」
――では、“今やってみたい”を起点に考えてみた場合どうです?そういう音楽ありますか?
「ないです」
――それは聴けなくなるのが嫌だから、あえてそう思うようにしてるんですか?
「ただないんです。ないんです(哀しい顔)」
――なにかと哀しい顔しますね……。
「ははは。でも直したいですよ」
――無理に直す必要もないと思いますよ。
「(哀)」
――もう、わかりましたよ。直したいんですね。違う話をしましょう。
「はい」
――一緒に写真に写っている大きいわんちゃん、どうでした?
「すごい優しかったです!」
――なんていう犬なんだろう。
「オズです」
――ああ、そういう名前のわんちゃんなんですね。
「あっ、犬種ですか(笑)」
――そのつもりでした(笑)。大丈夫です。猫ちゃんの名前は?
「焦げパン」
――動物と撮るというアイディアは、レーベルの提案で?
「それはわたしが撮りたいって言いました」
――積極的なところもあるんですね。
「ありますよ!すごいありますよ!」
――すいません……。どうして動物と撮りたかったんですか?
「なんか独りだと寂しいから」
――人間ではダメだったんですか?
「人間でもいいですけど、なんか動物が思い浮かんだんで」
――動物が好きなんですか。
「そんなに得意ではないです……けど、オズと焦げパンはプロの動物なんですよ。だからすごい落ち着いていて、動物が好きになりました」
――仲良くなれてよかったですね。
「もともと嫌いなわけではないんですよ。かかわりがなかっただけで」
――この作品に関して、動物と撮る以外に何か出したアイディアってあります?
「草」
――ああ、この一緒に写っている草ですか。
「そうです。この草は一緒に撮りたくて」
――草はなんで撮りたくなったんですか?
「なんか、好きなんです。葉っぱとか。葉っぱがあったら、なんでも良い写真だと思います」
――なるほど。ヴィジュアル面に拘りがあるんですね。
「ああ、そうかもですね」
――自分が写っている写真には抵抗ないんですか?
「あります。すごくあります」
――歌が自分の声なのはしょうがないですけど、パッケージの写真は例えば、もっと抽象的な、自分の写真ではないものにもできたわけですよね。
「ああ、そうですね」
――それでも自分の写真にしました。
「なんか、写真を撮ってもらったから」
――そっちが先ですか。
「だから、使わなきゃ。っていうよりも、使うものだろう。っていう」
――でも、パッケージに使うことを想定して撮ってもらったんですよね?
「撮ってもらっているときはあんまり気にしてなかったですね」
* 嶋田さん注: MV撮影の流れで写真も撮影したとのこと
――そうなんですね。なんか写真の話は力強いですね。
「そうですか(笑)?」
――気に入ってるんですね?
「気に入ってますよ」
――曲が良いし、写真も良いし、良いことばかりじゃないですか。
「良いことは良いことなんですよ。わかります。それは」
――対消滅にはならないんですね。
「そうです。それです」
――良いことが悪いことを消してくれるわけではないですもんね。見えなくするだけですもんね。
「うん」
――じゃあ、もっと全然関係ないこと喋りましょう。最近、YouTube観る、寝る、以外に、楽しみありますか?食べ物とか。
「餃子!」
――自分で作るんですか?
「作らないです!」
――どこで食べるんですか?
「中華料理屋」
――特定の好きなお店があるんですか?
「ないです」
――餃子だったらなんでも良いんですか?
「餃子はだいたいおいしいんで」
――週にどれくらいのペースで食べてます?
「そんなに食べてないんですけど、Trash-Up!に入ってから、餃子によく連れて行ってもらえるんですよ」
――嶋田さん優しそうですもんね。よかったですね。
「はい!あと、お菓子好きです」
――どんなお菓子?
「コンビニのデザート系のお菓子」
――コンビニ・スイーツみたいな。
「そうです。コンビニ・スイーツ」
――何系ですか?
「ケーキ。ロールケーキとか。あとプリン」
――なんだか、慎ましいですね。
「えっ」
――流行ってるお店のスイーツをいち早く食べるとかじゃなくて。
「そういうのも行きますよ!タピオカも飲むし!パンケーキ?食べますし!」
――バエるスイーツと一緒に写真を撮ったりする感じではないですよね。
「でも一応餃子の写真は撮りますよ」
――そっか。でも餃子が3列並んだら茶色くなっちゃいますね。
「そうですね……。そういうの、もっといろいろ、できたらよかったですよ。わたしも。インスタとか」
――憧れはあるんですね。何かに憧れるのは楽しいですよ。
「でも、なれないから、哀しいですよ。そういうのができる人になりたかったな、って」
――自分はもう、ないな、って思ってるんですね。
「(笑)」
――やってみたらいいじゃないですか。
「できないんですよ。そこまでがんばれない」
――ああいうのってがんばってるのかな?
「がんばってないんですかね?」
――仮にそういう風になったときの自分、想像できます?
「できないです……」
――ですよね……。そろそろおしまいにしようと思うんですけど、古典的な短い感じのインタビューだったら、“CDを買ってくださった方に聴きどころとメッセージを!”とかってなりますよね。
「(哀しい顔)」
――そうなりますよね。
「それが苦手で、本当にインタビューが嫌なんです。実は」
――ごめんなさいね。苦手なのに根掘り葉掘り訊かれるのはしんどいですよね。普通に考えて。
「いえ、嬉しいんです。インタビューしていただけるのは。前に違うインタビューで、質問されて、10秒くらい止まっちゃって、ああもうやばい、死ぬ、って思って。ああもうこれ以上、やばい、助けて!ってなっちゃって。すごい、苦手なんです。でも、ありがとうございます」
――じゃあ、言っておきましょう。
「えっと、良い曲があります。聴いてみてください……」
■ 2019年6月12日(水)発売
カイ
『ムーンライト・Tokyo』
CD TUR-034 1,500円 + 税
[収録曲]
01. 遊星よりアイをこめて
02. ピンク・シャドウ
03. 不思議・少女
04. 秘密の扉
05. ムーンライト・Tokyo
■ サロンほし
support By 浅草橋天才算数塾
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〒111-0053 東京都台東区浅草橋2-5-8
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定休 月・木・金・土・日
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※ 出張などの際は火・水も休