Interview | Loupx garoux / ニイマリコ


わかってくれる大人は実在するのか

 ニイマリコというアーティストの音楽を聴き始めたのは、恥ずかしながら2024年になってからのことだ。4月に、とあるイベントで初めて弾き語りライヴを目の当たりにし、その後に少し本人と話をする機会も得て、歌声と楽曲、ミュージシャンとしての背景、気さくな人柄に触れて、すっかり大ファンになってしまった。ちなみに、以下のインタビューではどれだけ掬いとれたかわからないが、ニイさんの喋りはいつもとてもおもしろい。

 長らく続けたバンド・HOMMヨを2020年に休止して以来、個人名義で活動してきた彼女は、しばらく前からYURINA da GOLD DIGGER(dr, vo | Magic, Drums & Love)、okan(b, vo | ロイジプシー, WAO!)、Romantic(syn, vo | ex-爆弾ジョニー, betcover!! etc.)というメンバーを集め、新しいプロジェクト・Loupx garouxを始動させている。そうしてリリースした初アルバム『暗野』では、シンガー・ソングライターとしての覚醒を経て、自身の表現をさらに広げ深めるため、いっそう歌い手の役割に集中すると同時にプロデューサー的な手腕も存分に発揮(アレンジなど音楽面では、Romanticがプロデュースを担当しているものの、そこも含めた全体の方向性をニイマリコが統轄していることは間違いない)。結果、飛び込んだらどこまでも漂っていけそうに思えてくる、深淵な作品が完成した。


 にわかファンのインタビュアーによる記事ではあるが、より多くの人々がLoupx garouxの音楽の奥深さに引き込まれていく端緒となってくれれば嬉しい。


取材・文 | 鈴木喜之 | 2024年10月
Main Photo ©黒田 零


――Loupx garouxとして初のアルバム『暗野』がリリースされました。まず初めに、以前のバンド(HOMMヨ)が活動停止した後、しばらくソロ名義で活動してきたわけですが、今回また新しいバンドを組んだということではない……というあたりの経緯について聞かせてください。

 「HOMMヨっていうバンドは15年くらいやっていたんですけど、このメンバーじゃないとダメ、このメンバーでこそ意味がある、みたいな感じのアプローチでずっとやってきたんですね。自分のロック情念はHOMMヨに込めるものであって、じゃあソロでは何しようかな?というときに、バンドではできないようなことをしようと思ったんです。ちょうどコロナでライヴ活動ができなくなってた環境だったので、もしそうじゃなかったら、それこそ弾き語りとかを素直に始めていたかもしれないけど、できないから宅録っていうのをやってみることにして。それで、機械とか苦手なんですけど、DTMを見よう見真似でやり始めて、Bandcampでデモ音源として発表して。それらをまたリアレンジしてちゃんとレコーディングして、最初のソロ・アルバム(『The Parallax View』2021)を出したんです。剤電くん(ゲタゲタ, 鏡 KAGAMI, KLONNS, 珠鬼 TAMAKI, XIAN)というプロデューサーを立てて、レコーディング方法もせーので録る、みたいなことはしませんでした。無事に出来上がって、またこれをどうしようと思ったけど、レコ発だ、って参加ミュージシャンを集めてドーンとライヴを企画する、みたいなパワーが残っていなかったんです。まだまだコロナも収まっていなかったですし……。あと、バックトラックを流して1人で歌うとかっていうのもイヤだなーと。カッコよくやっている人もいるけど、私には向いてない、できるとは思えない。それなら誰かと合奏だと思い、まずは一緒に音を出してみたい人として前から気になっていたドラムのYURINAさん(YURINA da GOLD DIGGER)に声をかけて。2022年頭くらいだったと思います。とりあえず何か音を出してみようよ、と誘いました。でも2023年にはWWW(東京・渋谷)でワンマンをやるから、とは言っていました。YURINAをゲットする、WWWワンマン、プランはこれだけ(笑)。ほんと、よくやったな、っていう感じです」

――ソロ名義で発表していた曲も、新たにLoupx garouxとして録音し直していますよね。
 「自分でリミックスをする、じゃないですけど、今の時代って自由だから、デジタル・リリースだけでもいいし、それもお値段付けても付けなくてもいいし、YouTubeで発信してもいい、物を作りたかったらCDやレコードを作ってもいい、そんな感じなんだったら、全く違うメンバーで同じ曲をやるっていうのを作家が主導してやったっていいんじゃないかと思って。そういうことをやっている人って、あまり聞いたことがないし」

――『暗野』にLoupx garouxのヴァージョンが収録されていて、『The Parallax View』には入っていなかったソロ曲(「TEARDROPS」「Maps to the stars」)もBandcampで聴くことができますが、ざっくり言うと、Loupx garouxとして作ったものはRomanticさんのプロデュースということで、ピアノ・アレンジ多めっていうのと、同時に意外とピアノばかりでもなく、不思議なシンセの使いかたをしていたりとかも。ここは基本的に彼に任せて、という感じだったんですか?
 「そうですね。『The Parallax View』にも電子音みたいなのは入っていましたけど、そっちはシンセサイザーを使っていないんです。電子音っぽかったとしても、実は玩具の音とかそういうので、いわゆるシンセや打ち込みは使っていないというところが剤電プロデュースのこだわりのひとつだった。『暗野』はもうがっつりシンセサイザー。同期も使って。今、Romanticさんが主にアレンジっていう意味で関わっているのが、まず中野ミホさんのソロ・バンド、それから吉田未加さんっていうピアノの弾き語りのかたがバンド編成でやるのにも参加しているんですけど、そっちでのアプローチではけっこうオーガニックな感じなんですね。彼が“ニイさんの音源の場合は、ちょっと実験的な要素とか、もっと攻めたアレンジにしてもいいんじゃないかと思う”と言ってきて。私は剤電くんのときもそうだったんですが、試したいことをなんでも試していい、自由にやっていいですよって預けるタイプなので、最初は“そんなに自我がないんですか?”みたいなことも言われました(笑)」

Romantic | Photo ©大橋祐希
Romantic | Photo ©大橋祐希

――たしかに、渡されたデモがシンプルなギター弾き語りとかじゃなくて、Bandcampでも聴けるような、ちゃんと作り込まれたものになっているのなら、「これをまた、さらにいじるんですか?」っていう気持ちになるのはわかります。
 「私のあたりまえは、人のあたりまえじゃないんだなって思いました(笑)。私、例えばBritney Spearsの曲とかを弾き語りでやったりするんですよ、ギター1本で。コードがあって、歌が乗れば成立するし、どんなに派手な曲でも弾き語りでできるから“歌もの”っていうことなんじゃねえの?と思うんで。どんなに作り込まれた楽曲も、メロディ、コード、リズムを自分の中で咀嚼し直して、そこから自由に演奏すればいいんじゃない?そんなに難しいこと言ってる?っていう感じだったんですけど、やっぱりみんな“え、こんな完成しているものをバラバラにしてもいいんですか?”って思うものなんですね。私はバラバラにされたくて持ってきてるんだけど、そういう態度だと“本当に我がないですね”ってRomanticさんからは言われました。“今まで僕が関わってきた人、フロントマンで曲も作って、っていう人たちは、基本的に自分の頭の中にあるものを再現してほしい、っていうタイプが多い。ニイさんはそうじゃないんですね”って言われて。うん、そういう言いかたをされたら我はないです(笑)」

――(笑)。キーボードだけでなく、ドラムとベースに関しても、かなり独特の鳴らしかたをしていますよね。
 「バンドって、例えばNIRVANAだったら、たしかにこれはKurt Cobainが弾いているギターとか、 たしかにこれはDave Grohlが叩いているドラムとか、聴いたときにプレイヤーと楽器がはっきり繋がっている、というのがルールですよね。それぞれが自分のアプローチで楽曲を組み上げていく。それがバンドっていうものだと思うんですけど、Loupx garouxは音楽プロジェクトみたいなものなので、どういじくってもいいっちゃいい。ただ、Romanticさんはいわゆるサポート・ミュージシャンとして仕事ができる、プレイヤーとして(手を高く上げて)これくらいのレベルなんですけど、リズム隊の2人はどちらもプレイヤーとしてすごく癖があるので、私、YURINAさん、okanさんは(手を低めに)これくらいなんです。だから、Romanticさんはアレンジの仕組みを説明をしてくれる。何拍でこう入る、ここはあえて抜く、ここはループと見せかけてここは食うとか。最初は戸惑ったんじゃないかな、“そんなんできねいよ!”みたいな感じになったりもしたと思います。みんな真面目なんで、“これはアレンジ的にキモなんでよろしくです”、“じゃあ練習してくる、できなかったらごめんね”っていう感じで、それぞれちゃんと練習してきて、かたちはできるんですけど、どうしてもクセは出てしまうので。結果、いい感じにストレンジなものになるわけです。これに毎回感動してますね。やりたかったことだ、って」

――その話を聞いただけでも、とてもいいバランスでメンバーが揃ったんだと感じます。
 「そうなんです。私はそういう、 なんだこれは?聴いたことがないぞ?っていう風なものを作らないと意味がないと思っていて。デモ音源の段階では、プリセットとかじゃんじゃん使うし、変わったことはしていないつもりなんですけど、Loupx garouxでは引っかかる感じに聴こえるものを残したかった。なんか今の音楽って、カッコいいけど、息が詰まるようなところがどうしてもあるというか。自分でも、DTMっていうのに触れたとき、なんでもできちゃうんだな……、と思って。歌だってピッチ補正やエフェクトかけ放題で、自分を完璧に、大きく見せることだってできる。それはそれでいいんですよ。それこそ、頭の中を完璧に再現できる世界ですよね。でも私の場合は、やっぱり人間がやっているから、こんなことになっているっていうことに、もっと食らいついたり考えたりしたいし、そういう音源を作りたいという気持ちでやっていますね」

――アルバムの真ん中に置かれた「D」という曲は、Romanticさんの作ったトラックですが、これは「よくヴォーカルを乗せたなあ」と思いました。
 「2回目のWWWでのワンマン(2024年8月7日)本番の1週間前に、あのトラックだけポンって来て。その段階でRomanticさんが“これに歌乗せてください”って。これに?! “ただの繰り返しなんで、それに乗せていただければ”みたいな(笑)。“出囃子ぽく最初にやったら何か始まりますよっていう感じがしてよくないですか?”って言われて、たしかにそうなんだが無茶ぶりだなーと思いつつ、でもまあいろいろ考えて、歌を入れて送ったら“オッケーです”って軽い返しが来て。オッケーですって、どういう意味のオッケーなのよ?って聞いたら、“いいんじゃないですか、これで。うん、さすがだと思いましたよ。回数を間違わなければいけます、よし、やりましょう”って。YURINAさんもokanさんもいいじゃ~ん!って感じで(笑)、背中を押していただき、ライヴ当日ばん!と1曲目にやったんですけど、そのときに初めて合わせたみたいなものだったんですよ。からの、歌詞はちょっとブラッシュアップして、アルバムの真ん中に入れることにしました」

――インターミッション風になってますね。
 「そうっすね。このアルバムを作り終わったとき、ふと『OK Computer』みたいだと思ったんです。収録したのは、ちっちゃい頃の自分と対峙して作った曲なんで、ちょうど14~15歳くらいの子供だった自分がカッコいい!ってテンションが上がる感じにならなきゃウソだろうって、どこかで思っていたんですね。パンクやロックを知った頃、14~15歳の自分がよすがにしてたアルバムってたくさんあったので、それこそ『Ziggy Stardust』とか『In Utero』、『Superunknown』だってそうだったし、『Murder Ballads』『Vanishing Point』……、初めて知った、あのナイーヴで重苦しいムードというか(笑)、いっぱいあったから、どれっぽいかな?って思っていたんですけど、なんと『OK Computer』を連想してしまいました、大穴でしたね(笑)。だから“D”は“Fitter Happier”にあたるのかな(笑)」

――ということは、「大人はわかってくれない」が「Paranoid Android」で、「Maps to the stars」が「No Surprises」?
 「そうそうそう、それで5億年ぶりに『OK Computer』を聴いてみたんですけど、さすがに音楽的にはもうだるいなーと思って(笑)。でもやっぱり時代を表現したアルバム、当時のカリスマ的作品じゃないですか。今のRADIOHEADって、もはや1stアルバムは『Kid A』っていう印象のバンドだけどさあ……みたいなことをRomanticさんと話していたんですけど、彼としては『Kid A』寄りで作っていたかもと言っていて、どこかにRADIOHEADがいたような気がする。めっちゃ好きっていうバンドではないんです。私はPRIMAL SCREAM派なんで(笑)。でもアルバムの存在感というかが、なんか『OK Computer』『Kid A』っぽいな、って。“非ロック”を標榜してたんですけど、ニュアンスがそう出たっていう感じですね。あの時期ってRADIOHEADにヤラれたロック・バンドがなんつーか“脱ロック”しようとして混沌としちゃったんでしょ?曲なんて作ってなかった、そんなことすら考えもしなかったときに、音楽雑誌を読んでCDを聴いて、フーン、とか思っていたことを身体で理解した感じがしました。なんかエラそうですけど(笑)」

――ところで、ニイさんはギターも弾いてたし、DTMもやったりしつつ、この『暗野』というアルバムでは、完全に歌だけに徹しているんですよね。
 「そうです、ライヴでは素はアコギを弾いていますけど。コンセプトというか、取り決めというか。また次ではどうなるかわからないです……いつかは自分も弾くかもしれないですけど……とりあえず、以前に15年やったバンドでトレードマークになっていたようなものを全部捨てたかったというか、一度切り離したかった。HOMMヨではエレキを弾いていて、うるさくて、うわーって叫んでいるみたいな感じだったので、 同じ人なの?って思われるくらいのことがやりたいなって思ったとき、そういうトレードマークをなくすことが必要だなって」

――だからなのか、ソロ名義の作品から受けたイメージは“シンガーソングライター”という感じだったんですが、Loupx garouxになったら、もうシンプルに“シンガー”という印象で、歌い手っていうところに極めてきてるんだなと思いました。
 「そうですね。友達とか音楽仲間にも“なんか歌手やってんね”みたいに言っていただきました」

ニイマリコ | Photo ©大橋祐希
Photo ©大橋祐希

――そのあたりいろいろと経てきているうちに、歌というものに対するアプローチが変わったり、意識が変わったりとか、そういう自覚はありますか。
 「自覚を持ってやっています。どんな人でも声紋って絶対に変えられないので……変えられるのかもしれないけど(笑)。でも、直に出る人間の声っていうのは最も変わらないものだし。このLoupx garouxをやり始めるとき、全員に歌ってほしいなって思ったんです。 okanさんもYURINAさんも、2人とも(他のプロジェクトでは)それぞれメインで歌っている子たちで、本当に歌がうまいんです。表現力が高くて。あと、すごく仲が良いのでお互いの個性をよくわかってる。しかもRomanticさんも歌えるんで、それを活かしたかった、みんなで歌うのいいじゃん、って。それから、自分がちっちゃいとき、そもそも最初に好きになったジャンルって、いわゆるブラック・ミュージックだったので……それこそTHE RONETTESとかTHE JACKSON FIVEとか、ああいうのが最も豊かな音楽っていう、ある種の思い込みがある。あれを訓練されたバカウマな人たちじゃなくて、J-POPもカラオケも大好き、みたいな、自分とはタイプが違う人たちと一緒に歌うことの可能性を考えたいと思った。だから、Loupx garouxを結成してから作った“解剖”とか“暗野”とか、あと“TEARDROPS”もそうなんですけど、そこでは自分が好きだったR & Bの感じを出すアレンジにしようと思って、けっこう自分の中ではまんまだって感じるようなメロディラインとかリズムとかそういうのを考えながら、Romanticさんにも“もう振り切るぞ、やるぞR & B!と思って作ったぜ”とか言ってました。そういうとき、やっぱ歌はそれなりに説得力がないとあかんので、“演技力”みたいなものが必要になってくるよな、でも演技は苦手だから嘘が出ちゃうな、じゃあ曲毎にキャラクターを作って、それにスポッと入るようにすればいいかも、と考えて。あの、私はものすごい照れ屋でして、なんかすぐ自分に対して冷静になっちゃうので(笑)。キャラっていう器を中心に置いて、歌声を湧かす、っていうイメージですかね。というわけで、さらにシンガーに徹した感じが今回はめっちゃ出ていると思います」

YURINA da GOLD DIGGER | Photo ©大橋祐希
YURINA da GOLD DIGGER | Photo ©大橋祐希

――そこで、全部1人で歌うのではなく、他のメンバーの声も活かそうってなったのもおもしろいですね。実際、声質のコントラストが本当に鮮やかというか、1曲目からもう、別の声がパッて歌い始めた瞬間、聴き手は「あ」ってなるでしょうし。
 「そうなんですよ。あ、って感じるだろうなって思うから、“暗野”という曲でも、あ、って言ってるんです(笑)。初め、周りの人たちは、クールめな私の声と、 元気がいいギャルみたいな感じのリズム隊2人の声が一緒に歌うって大丈夫なのか?って思っていたらしいんですけど、最初のライヴをやったとき、ずっと(私の音楽を)聴いてくれていたような人たちから、“なんでこんなに普通に合うんだろう、なんかすごくいいねブレンドが”って言ってもらえて、すごく自信になりました。全然タイプが違うはずなのに、混ざり具合がおもしろいけど聴きづらくないでしょ。これは大きな武器になるであろうと思いました」

――「暗野」や「解剖」は、その辺の手応えを得た上で書かれた曲なんですね。
 「そうですそうです。もっといっぱい他のメンバーが歌ってくれる曲を増やそうと思って。内容的にはけっこうキツい歌詞を歌ってほしいとか、ちょっと突き放すような強めの言葉をビシッと2人でダブルで歌ったらカッコいいんじゃないかなって。いちばんキツいこと言いそうな私がそういうフレーズを歌っても、逆に怖くないっていうか、それこそ演技っぽいでしょ(笑)」

okan | Photo ©大橋祐希
okan | Photo ©大橋祐希

――今後できてくる曲にも反映されていきそうですね?
 「この4人でできることっていう感じの曲作りを、どんどん自分でもするようになってきた。“おもしろいおもしろい。新しい画材を手に入れた!”みたいな感じで、わーって書いて、Romanticさんに渡して。それで、このアルバムを作り終わったあと、Romanticさんが“自分は仕事としてアレンジをするときに、これはすぐやらなくなるだろうなとか、これはライヴ用っていう感じ、別にわざわざアルバムに入れなくてもいいんじゃない?とか、そういう曲もけっこうあったりするんですけど、ニイさんの今までの曲ではとりあえずないです”って言ってくれたのがとても嬉しかったです。それは、みんなでやるっていうことを考えながら、次はどういう曲にしたらおもしろいかな?みたいな感じで作れたので、やっぱりメンバーのおかげというか、 個性豊かな優しい子たちが集まったから喜ばせたい、という気持ちが作る動機としては大きくて(笑)。作曲は楽しいな、みんなで歌ってくれて嬉しいな、どんどんいこう!みたいな感じで曲ができて、よかった〜」

――楽しい制作作業だったんですね。
 「楽しいです、そういうところでは。テーマや歌詞を作るときは、すごくハードですけど。私にとって曲作りは一種のセラピーなのかな、内省的になってしまうんです。それを人にお聴かせするレベルに浮かせるために、めちゃくちゃ悩むんで。何やってんだろ、って何度も思いますよ(笑)」

――チームで楽しく曲を作りつつ、重いものには1人で向き合うという。
 「それがコントラストになって、なんかいいかなって思っていて。最近の(世間で流行ってる)曲の悪口を言いたいわけじゃないんですけど、背景を背負っているというか、書き割りっぽいムードが、ちょっとイヤなんです(笑)。すごいテクノロジーを使っているのに平面的で窮屈な感じがしますよ。音楽なんだから、私は立体でいきたいですね」

Loupx garoux | Photo ©大橋祐希
Photo ©大橋祐希

――アルバム冒頭に置かれて、全体のタイトルにもなっている「暗野」は、橋本 治の小説からつけたんですよね。
 「ある程度曲ができて、アルバムになるぞっていうとき、タイトルどうしよう?って思っている段階で、漢字がいいなって漠然と思っていたんです。そんなとき、“帰ってきた橋本治展”(神奈川近代文学館)が開催されて、橋本さんは自分にとってBowieと並ぶ神様みたいな人なんで(笑)、このタイミングで“帰ってきた”だなんて、何か良いインスパイアがあるはず!とギンギンな気持ちで向かったら、この小説のタイトルが目に飛び込んできて。“いただき!『暗野』にしよう!”と。それまで読んでなかった作品なので、本も買ったけど、今読むと影響を受けすぎて自家中毒を起こしちゃいそうで怖いから、アルバムを作り終わってから読もうと思って、“無事に完成しますように”ってお守りみたいな感じに置いておいて。レコーディングが終わったあとに満を持して読んでみたら、冒頭がもう“暗野”の歌詞と全く同じことを言っていて、なんならゾッとしましたね。やった!とも思ったし。あらすじも本の裏表紙しか本当に読まないようにしてたんですけど、ばちくそ合ってるやんと思って。嬉しかったです。天から、お疲れって言われてるような感じ」

――それから、この印象的なジャケットは、どんな風に出来上がったのですか?
 「今回は、写真も何もかも、清水琳名さんっていうかたにディレクションなどを頼んだんです。清水さんは、ちょうど2022年の半ばくらいかな、私の弾き語りを観て何かピンときたらしく。雰囲気がある人なんですよ、眼力がめっちゃ強くて、洒脱な感じがあって。そんな人に、“すごくよかったです。何かCD買わせてください”って言われて、めっちゃ若そうだけど……、って緊張しつつこちら(『The Parallax View』)いかがですか?って言ったら、 “おや?知り合いが何人か参加してます。へえ、聴きます”みたいな感じで。後日ちゃんと改めて“私はこういった者で、こういうことをやっています”って連絡をくれたんです。ざっくり言うと、手も動かすアートディレクターっていう感じなのかな。Instagramを見たら、作品として作っているものもすごくおもしろくて。アルバムとかのヴィジュアル的なものがあれば何か一緒にできたら、と言ってくれて、“大人はわかってくれない”のソノシートを作る話があるからって、そこで装丁などを頼んで」

――そのまま、今回の『暗野』もやってもらったんですね。
 「そうですね。レコーディングが終わった順番から曲を聴いてもらってたんですが、これはどういう曲で、とかはいちいち説明せず。アルバム全体の、なんとなくのコンセプトだけは伝えていたかな。“悪役の黄昏”っていう(笑)。“暗野”って、アルバムのタイトル曲ではあるけど、1曲目になる予定はなくて……真ん中くらいかな?って最初は思っていたんですよ。でも、清水さんは“絶対1曲目だと思う。ヴィジュアル的にもハマると思います”って。 どんなのが仕上がってくるのかな?とワクワク待っていたら……これ、最初はクジラに見えたんですよね。なんか丸いクジラちゃんが海からプカって浮かんでるのかな?って。人魂にも見える。空なのか海なのか……、グラフィックなのか写真なのかもわからない不思議なジャケで。アトリエのお風呂に黒い水を貼って、そこにガラスを浮かべて写真を撮ったものだそうです。清水さんの中では、なんとなく海に1人で浮かんでいるみたいなイメージだったそうで、孤独、でも何か気分いい、1人ぼっちだけど寂しいとか怖いとかじゃなく、海の中でぼわっとリラックスして浮いているみたいな感じです、って言っていました。私は“暗野”は宇宙のイメージだったんだけど、海も宇宙も一緒みたいなもんというか、概念として。雰囲気が伝わってるな、って」

――実際に「そこは力を抜くだけで浮かぶ」って歌っていますよね。
 「そう、そこから水の中に浮いてるみたいなイメージだったんでしょう。私自身は宇宙船で、David Bowie“Space Oddity”の最初期のプロモーション・ビデオで、宇宙遊泳しているのがあるじゃないですか、低予算な感じの……、なんか白っぽいですけど、あれは」

――宇宙に漂っていってしまって、もう地球には戻れない、永遠にお別れなんだけど、妙に穏やかな心情という感じ?
 「そうですね。そのイメージがたぶんずっと自分の中にあって、ひとりぼっちで寂しいんだけど、悲観してるわけじゃないという。そういうのが個人的に引っかかっていて、その感情をうまく表したいっていう気持ちがどっかにある。それは前のバンドをやっていたときからそうだった。全く同居しないであろう要素が同居しているとか、真逆のものが一緒にあるとか、1人だけど寂しくないとか、孤独を感じているのに穏やかだとか、そういう二律背反している感じ。引き裂かれてるんだけど、それだけじゃない、バッドなフィーリングだけではないみたいな音楽表現に惹かれ続けているので、それを一生懸命自分なりにやっているのであろうと。毎回、作り終わる度に新しいことをやろうと思って始めたのに、また同じようなものを作ったなという気持ちになったりするんですけど、今回もそんな感じでした」

Loupx garoux / ニイマリコ | Photo ©Rei
Photo ©黒田 零

――アーティスト / 表現者には、結局ずっと同じことを言い続けてるんだけど、ソロでやったり、他の人と組んだり、キャリアとかその時の環境とかで現れ方が変わっているっていう人も多いじゃないですか。
 「ですよね。“同じこと”に自分も共感するっていうアーティストに出会っていたんだろうな。というか、思春期ってそういう時期じゃないですか?探しているんですよ、必死に。その“同じこと”を、自分なりに自分の力で表現がしてみたい、っていう、そういう意味の憧れが今でも強いんじゃないかなと思いますね。創作の原動力というか。それは、わかってくれる大人っていうものは実在するんだろうか……幸い、私を取り巻く環境には守ってくれる大人もいるし、親身になってくれる大人もいるけど、わかってくれる大人っているんだろうか?っていう。それが“憧れ”に繋がるんですかね。たまたま、私のわかってくれる大人のイメージっていうのが、David Bowieだったり、 Kurt CobainだったりBobby Gillespieだったり、海外のロックスターとされるアーティストだったんです。なぜか日本にはそう感じるアーティストがいなかったんですよ」

Loupx garoux Official Site | https://www.loupxgaroux.com/

Loupx garoux '暗野'■ 2024年10月2日(水)発売
Loupx garoux
『暗野』

Amp-mutation | TRASH-UP!! RECORD
https://friendship.lnk.to/Anya_lg

[収録曲]
01. 暗野
02. 大人はわかってくれない
03. TEARDROPS
04. Lilith
05. UNDERTAKER
06. D
07. 解剖
08. Maps to the stars
09. ワンダーウォール
10. PARALLEL