Interview | MASS-HOLE (+ Eftra + MIYA da STRAIGHT)


「お互いのリスペクトはあたりまえ」MASS-HOLEのプロデューサー論

取材・文 | COTTON DOPE (WDsounds) | 2021年11月

 ラッパーとして活躍するのみならず、トラックメイカーとしても多くのアーティストに作品を提供するMASS-HOLE(以下 MA)。彼が明確に自身をプロデューサーとして打ち出し、同郷・長野のMIYA da STRAIGHT(以下 MI)による『M.D.A.S.T ep』、少し北に上がった富山のEftra(以下 EF)による『E.F.T.R.A ep』を、オウンド・プロダクション「DIRTRAIN」と「WDsounds」のダブルネームでリリースした。トラックメイキングとプロデュースの違いをまずは聞かせてもらう。

MA 「まず個人的な見解として、トラックメイカーはビートを量産する人というイメージです。プロデュースはラップ、ビート、ミックスを含めて曲全体のトータル・パッケージを操る人っていうイメージ。プロデュースするっていうことはDJやラップ、トラックメイカー等、各プレイヤー全てにあてはまるものかもしれないし、あてはまらないかもしれません。そこで大事なのが“見越した作品”としてまとめることができるか、ということかな。例えば、現場でデモを受け取っても、なかなか琴線に触れるものって少ないかもしれません。それは単純にプロデュース力が足りていないから。ただ勢いのままにレックしただけの作品だと思うんですよね。デモを聴いて、“このラップはこうしたらもっとやばくなるのに”とか“このビートならこのラッパーのほうが絶対相性が良いと思うのに”と感じたらプロデュースの始まりかな。偉そうなこと言ってすいません(笑)」

 たしかに自分も、もっとこうパッケージングしたら良く伝わるのに、と勝手に思うことはある。MASS-HOLEが思うプロデュースの良い作品を具体的に挙げてもらおう。

MA 「最近だとDMXのアルバムでのSwizzBeatsですね」

 その理由を聞くと、彼のプロデュースに対する考え、そして活動に対する考えが伝わってくるような答えが返ってきた。

MA 「まさしく愛ですね。ファミリー感は廃れないな、と思いました」

 そこで言う、プロデューサーとプレイヤーの良い関係についての考えを聞く。

MA 「お互いのリスペクトはあたりまえとして、その上でプレイヤーとしての絶対的な信頼だと思います。例えば、俺はMIYAやEftraをプロデュースできるけど、2人は俺のプロデュースはできない。それは年齢とかではなく、バランスの問題です。だけど、俺は2人に対しては自分で金を出してでも作品を作りたかった。それはMIYAとEftraが才能で返してくれるのを信じていたからです。全曲NAGMATIC君のビートを使うって、実はすごいことじゃないですか。それができちゃうのも自分のコネクションを含むプロデュースの力かな。生意気いってすいません(笑)」

 長野のパーティー“水脈”におけるKINGPINZのライヴで出会い、FOUR HORSEMENとしてMASS-HOLEと共作する関係となったMIYA da STRAIGHTは、ソロの作品の制作のきっかけをこう話している。

MI 「今回のEPを制作するにあたって“誰かやりたい人はいる?”という話になり、ぜひNAGMATICさんのビートでやりたい、という意見を出して作らせていただきました。ラップのフローと歌詞だったり、“もっとこうしたほうが良いんじゃないか?”等を話し合いながらレックを繰り返して、改善していったのを覚えています。MASS-HOLEさんは自分が高校生の頃から聴いていたラッパーでもあるので、一緒に作品を作れてとても光栄でした。MASS-HOLEさんのプロデュースで、自分はラップにとことん集中できたと思いました!今回の作品はFOUR HORSEMENのときとは違う感じだったので、とても勉強になりました」

 普段はビートをまず聴いてからテーマを決めてラップを書いているというMIYA da STRAIGHTは、本作はラップするビートが当初から決まった上で書いたところが普段の制作と違うと話す。

MA 「彼にはラップに尽力させるため、それ以外の作業はこちらでやりました。録音作業から曲のテーマや人選、ジャケットの構想など。過保護に見えるかもしれませんが、かっこいいラッパーはラップだけしていれば良いっていうのが俺のスタンスです。あと、その作業自体は本当に好きでやっているので、全く問題ないです」

 対してEftraは、地元・富山でMASS-HOLEの1stラップ・アルバム『PAReDE』のツアーでのライヴで飛ばされ、東京や大阪でのライヴを一方的に観ていた。後に神戸 studio BappleでのMASS-HOLEのDJを観に行った際に初めて話したという。EP制作の経緯は?

EF 「普通に連絡が来て今回の話をいただきました。自分の場合はリモートというか、データを送り合う感じで進めていたので、最後にDJ KENZIさんのスタジオで一緒にマスタリングに立ち会わせてもらったのをすごく覚えています。プロデューサーはアーティストの良い部分、もしくは新たな一面などを引き出す存在だと思っています。アーティストとしての信頼も大事ですね。作品を共に作る相手がMASS-HOLEさんじゃなかったら、曲作りの上で地元に対しての気持ちとここまで深く向き合う機会はなかったかもしれませんし。本人と接しているとアグレッシヴなヴァイブを感じる気がします。気合を入れてくださるプロデューサーです」

MA 「こちらはビートについては彼にチョイスしてもらい、レックに関しては富山でやってもらいました。それを自分が聴いてジャッジした感じです。彼は作業自体が早いキャラなので、1ヶ月くらいの録音作業だった気がします。ミックスやジャケットなどはこちらのアイディアで進めました。彼は一ラッパーとして完成系に近かったので、MIYAとは逆に自由にやっていただくスタンスでしたね」

 ここでも“良いプロデュースとは?”のひとつの答えがあるように感じる。Eftraにとって今回の制作とソロでの制作の違いを聞いてみたい。

EF 「最近はスケッチブックに内緒の散文詩?的なものを書いて、それをラップに変換するのを試してますね。わりと神経質で内向的な性格なので、普段は内観、内省的、自戒の念的なトピックが多いのですが、今回はMASS-HOLEさんとの共作ということで、これまでの地元での活動から触発された内容になりました。送られてきたビートの雰囲気も然り。自分主体の作品で、地元のことを前面に出す楽曲は少なかったので新鮮でしたね。あと、ちょうど制作期間は忙しく、朝から日を跨ぐくらいまで働いている日々の中で進めていて、よく合間を縫って車の中でビートを流して曲を書いていました。ずっと疲れていたので、感情がより前に出たかもしれません(笑)」

 『M.D.A.S.T ep』から2週間後に『E.F.T.R.A ep』、立て続けのリリースというタイミングにも“プロデュース”という意味合いを持っているのだろうか。

MA 「それはありますね。WDsoundsとDIRTARAINの共作でのリリースであるなら、自分もやったことのないことをやろうという気持ちはありました。“やったことのない”は作風を変えるという意味ではなく、2週間という期間で作品を2タイトル落とすという意味です」

 MIYA da STRAIGHTと出会うきっかけにもなったKILLIN’GとのKINGPINZ、その2人にMAC ASS TIGERとMIYA da STRAIGHTが加わったFOUR HORSEMENというグループは最重要と感じる。それはどのように考え、生まれたのだろうか?

MA 「KINGPINZはまず、単にキリンさん(KILLIN’G)のラップをみんなにもっと聴かせたくて(笑)。彼は長野で一番かっこいいラッパーだと思っていて、その上でどうすれば彼のラップを活かせるかを当時ずっと考えていましたね。FOUR HORSEMENは世代を超えたグループとして、毎週スタジオに集まって作っていました。楽しかったなー。レックした後に爆音で聴いて大合唱する、みたいな(笑)。あと、1982s(*)でのレックも超楽しかった。スタジオで小節が埋まっていくときの興奮といったら!まさにスペシャル・チームな感じなんで、またタイミングで曲出したいですね。あえて渾身の単発シングルで(笑)」
* ISSUGI、MASS-HOLE、Mr.PUG、仙人掌、YAHIKO、YUKSTA-ILLによる1982年生まれのMCたちによるグループ。昨年3月にMASS-HOLEのプロデュースで『82s / Soundtrack』をリリース。

 1982sもまた、MASS-HOLEをきっかけに生まれたプロジェクトだ。次のリリースを心待ちにしよう。MASS-HOLEのプロデュースワークの原点はどこにあるのだろうか?

MA 「曲単位では覚えていないですけど、おそらくMEDULLA(*)をやっていたときから感覚は変わっていないですね。先頭切ってビートメイキング、ラップもしていたし、CD-Rも焼いてレコード屋に卸したり。自分たちの世代はちょうど、メジャー感のあるヒップホップとアンダーグラウンド指向のヒップホップとの分岐点だったので、自分はハンドメイド感の強い後者を選んだのだと思います。今はドロドロよりバキバキでパッキパキな音が大好きですが(笑)」
* BUGDAT、DJ SEROW、ILL-TEE、MASS-HOLEによるグループ。

 ここで、プロデューサーではなくトラックメイカーとラッパーの関係とはどういうものかと訊ねてみた。

MA 「これはさまざまですね。お金を払ってトラックを買うアーティストもいるし、無料で渡してでもやりたいアーティストもいます。自分は有名無名問わず、いろいろな人にビートを売ったり渡したりしていますが、有名なアーティストに関しては“プロップスの獲得”と“クラシックの増産”、この2つです。無名なアーティストに関しては、“俺のビートを使うんだから、ダサい曲にするなよ”っていう、半ば強制的に責任を高める洗脳があるわけです」

 今プロデュースしたいアーティストや、逆にプロデュースされたいアーティストいう質問にも具体的に答えてくれた。

MA 「自分がビートメイカーとしてやりたいのは海外のラッパーで、製作が始まっています。誰かは内緒です。日本だとD-SETO君が大好きなので、かたちにしたいと思って吉祥寺のリリパのときにラブコールを送りました。夢としてはHavocやRoc Marciなどにプロデュースをお願いできたら、ロッキンチェアで微笑みながら眠るように死ねると思います」

 近年のまだ出てないプロデュース作品、そして今回ついに実態を明らかにした自身のプロダクションDIRTRAINについて。

MA 「去年から長野のアーティストが続々とスタジオに来てレックした作品がたくさんあるのでそれをかたちにしたいです。OYGやもちろんEftraも参加しています。DIRTRAINに関しては、まず音像を含め、自分のプロダクションの確立ですね。今、USのヒップホップは上下含め感動できるのものが少なくて、そろそろ場所問わず自分たちの周辺で完結できる音をDIRTRAINで作っていかなければ、と思いました。生意気言ってすいません(笑)」

MASS-HOLE

 自身の拠点である松本をプロデュースするなら?

MA 「まずはりんご音楽祭をやめて、地元のやつらが自立することが大事かな。あれは企業誘致みたいなもんだから、経済が潤うぶん、松本のブランド価値が下がっていく気がします。俺でもこれくらいできるんだから、ジャンル問わず松本の才能あるプレイヤーはああいうものに頼らなくても、もっとできると思います」

 Eftra、MIYA da STRAIGHTの2人には、次にMASS-HOLEプロデュースで作品を作るならどんな作品にしたいか聞いてみた。

EF 「メロウとかじゃないんですけど、意外としっとりした質感のビートも気になりますよね。ハードな雰囲気のビートだと自分のラップが乗ってる想像がし易い気がするので。新境地にいけるやつ、やってみたいです」

MI 「『ze belle』でフィーチャリングしていただいた“rumber jack”のような曲をまた作れたら、とても最高です!」

 場所や世代、時にはそれを超えて他のプレイヤーをプロデュースするモチベーションとは?

MA 「それは“音楽を好きでいること”、“自分と仲間を含めたプレイヤーを大切にすること”、そして“プライドのために戦い続けること”です」

MIYA da STRAIGHT 'M.D.A.S.T ep'■ 2021年9月29日(水)発売
MIYA da STRAIGHT
『M.D.A.S.T ep』

CD DRWD-001 1,800円 + 税
https://lnk.to/MDAST_ep

[収録曲]
01. M.D.A.S.T feat. BOMB WALKER
02. Black Pants And Shoes
03. Gotch Stelo
04. No Gimmic feat. BLAHRMY
05. Yukiyama Dojo feat. Eftra, MAC ASS TIGER, BOMB WALKER
06. Take Over

Eftra 'E.F.T.R.A ep'■ 2021年10月13日(水)発売
Eftra
『E.F.T.R.A ep』

CD DRWD-002 1,800円 + 税
https://lnk.to/EFTRA_ep

[収録曲]
01. intro
02. tunnel
03. barricade feat BOMB WALKER
04. no moss
05. heat it up feat MASS-HOLE
06. requiem&guidance
07. ice age
08. a merit

MASS-HOLE 'ze belle'■ 2021年1月20日(水)発売
MASS-HOLE
『ze belle』

CD WDSD0046 2,800円 + 税
https://lnk.to/zebelle

[収録曲]
01. ze belle Prod by TATWOINE
02. rumber jack feat. MIYA DA STRAIGHT Prod by STU BANGAS | Scratch by DJ SEROW
03. gro”win” up in the town feat. Eftra Prod by MASS-HOLE
04. vandana Prod by DJ SCRATCH NICE
05. money Prod by KUT
06. no party feat. COVAN Prod by MONBEE
07. 82dogs feat. ISSUGI Prod by BOZACK MORRIS | Scratch by DJ SHOE
08. ice summer Prod by MASS-HOLE
09. G.O.A.T. Prod by Cedar Law$ | Scratch by DJ YMG
10. boast and attitude Prod by DJ GQ
11. tour life Prod by MET as MTHA2 | Scratch by DJ SEROW
12. home feat. Shoko & The Akilla Prod by TATWOINE