完璧に演奏を再現しようなんて思っていない
現時点での彼らの最新作『Tarantula Heart』(Ipecac Recordings)は、曲を用意しないまま、いきなりスタジオでメンバー全員が音を出し、そこで録音した素材をもとに完成させたという、かなり実験的なプロセスをもって作り上げられた作品となった。だが、ひたすらアヴァンギャルドな内容ではなく、ツイン・ドラムが生み出す独特のグルーヴを活かしたキャッチーな要素もあって、不思議な魅力に満ちている。Buzz曰く「ノリとしては、Miles Davisの『Bitches Brew』に近い」とのことで、実際に来日公演の会場では、同作が幕間のBGMに流れていたりもした。Buzz自身は「別に言わなきゃ(そんな作りかたをした作品だと)誰も気づかないだろ?」と、ニヤリと笑ってみせる。たしかにそうかもしれないが、今作が“何か違う”ものになっていることは、熱心なリスナーなら、しっかり感じ取れているのではないだろうか。
アルバム制作に関しては、例によってToshi Kasai氏からも貴重な証言をもらったので、後半に併載している。合わせて読んでもらえば、さらに深いレベルで『Tarantula Heart』を楽しめるはずだ。
取材・文 | 鈴木喜之 | 2024年3月
通訳・翻訳 | 竹澤彩子
撮影 | saylaphotos
――最新アルバムでは、何の準備もしないまま、いきなりレコーディングしたそうですね?
「たしかに今回のレコーディングは、普段とはまるで違ってた。これまでは常にリハーサルした上でレコーディングに臨んでいたから、まさに俺たちにとって初めての経験だったよ。ゲストで参加してくれたドラムのRoy Mayorgaはもちろん、メンバー全員が、これから何をやるのか一切わかっていないままだった。ただ現場に行って、とにかく音を出したらどうなるのか試しにやってみようって。俺としては、自分が最低限のヒントだけしか与えないことによって、バンドから普段とは違うパフォーマンスが引き出せるんじゃないかと考えたわけ。俺が1から10まで説明するようなやりかたとは正反対。結果、全く想像もつかないようなパフォーマンスを引き出すことができた」
――結果には十分に満足しているようですね。
「また次にもう1回やるかどうか?っていったら、わからないけどね。ただ正直、こんなふうにやったとは言わずにおけば、そんな特殊な作りかたをしているなんて誰も気づかなかっただろうとも思う。だって、演奏したメンバー自身、完成したアルバムを聴かせたら、全員“なんじゃこりゃ?”っていう反応だったもんね。“うわ、何これ、こんなん自分いつ演奏した?”って。自分がプレイした内容をすっかり忘れてるんだよ!あまりにも違うかたちの音に化けていたせいだね。なんせ一発録りした素材を、何時間も何時間もかけてひとつひとつの音を検証し、使える音源を探しながら再構築していったんだから。他人にはその違いがよくわからないとしても、俺自身は今までとは全く違う手応えを感じられた」
――少なくとも「MELVINSの新作は何かが違う」ってことは、リスナーにも伝わったと思いますよ。
「別に、他人には全然わからないとしても……というか、こうして俺がペラペラとインタヴューで喋っちゃってるから、もう今となっては検証のしようがないんだけどな(笑)。でも、もし言わなかったら気付かれなかったっていう自信はあるよ!今回はまさに異例中の異例っていうやつだ」
――(笑)。特にお気に入りだという冒頭の長編曲「Pain Equals Funny」は、前半と後半が別々にできたんだそうですね。
「そう。前半のパートに関しては、だいぶ前にTrevor Dunnと一緒に作ったソロ作品(『Gift of Sacrifice』2020, Ipecac Recordings)用に作った曲のリフから引用してる。全く同じまま使い回しているわけじゃないけど、基になるアイディアとしては同じ方向性と言っていいだろう。そっちはアコースティックだったけどね。それで“おい、このリフを基に何か弾いてくれよ”って今作のメンバーに投げかけて、返ってきた音からこの前半を作り上げていったというわけ」
――では、もうひとりのゲスト・ミュージシャン、Gary Chesterが本作で果たした役割を教えてもらえますか?
「昔からずっと良いギタリストだって知っていたし、もともと何かしら一緒にやりたいとは思っていたんだ。それで今回ようやく念願叶ってGaryに参加してもらえた。2人で一発ヘヴィな音をかましてやろうぜ、って。スタジオで2、3日くらいかな?一緒に作業したんだ。その時点で概ね今回のアルバムは完成していたけど、自分とGaryのギター・ソロを追加で入れるくらいの余地は残ってた。だからGaryは、曲作り自体には参加していないけど、音作りのほうには参加しているっていうことになるね。2人で一緒に音を出して、ギター・ソロを弾いて、なんだかんだやって、俺1人だけなら絶対に思い付かなかったような発想を付け足してもらった。2人とも全然スタイルが違うし、おまけに向こうは最高のプレイヤーときてる。そんなの楽しいに決まってるだろ!Garyとは、これからももっと一緒にやってみたい。いつかお互いにタイミングが合えばね。今回参加してくれたGaryにしろ、Royにしろ最高だ」
――今後この両名が参加したライヴを計画していたりしますか?
「いや、それを実現するのは難しいだろうね。RoyはMINISTRYで忙しいし、GaryはWE ARE THE ASTEROIDをやっているからね。しかもGaryは家族持ちでバンド以外にも本職があるし。彼はテキサス州オースティンでタイル職人をしているんだ」
――ステージで『Tarantula Heart』からの曲をプレイするときには、どう再現しますか?
「やってない。まあ、やるときにはなんとかなるだろ、どうにでも調理できるはず。俺は昔から、その手のことを心配しないタチだから。アルバムとライヴはあくまでも別物だと思ってる。ほとんどの人はアルバムを聴いているときに、ライヴではどういう演奏になるんだろう?なんていうこと、いちいち考えたりしないだろ?アルバムはあくまでもアルバム単体のもので、ライヴでアルバムの曲を演奏するときはカヴァー・バンドになったつもりでやってる。なにもアルバム通り完璧に演奏を再現しようなんてハナから思っていないよ。ステージに上がったら、そこから何か捻り出すだろう。俺たちがこれまでライヴでやった曲のどれひとつとしてアルバムのヴァージョンと同じじゃないし。でも、どんなバンドでも昔からやっていることだよね。それこそTHE WHOの『Live at Leeds』(1970)なんて、アルバムとは全く別物だけど、それでも両方とも素晴らしいし」
――わかりました。さて、Steven Shane McDonaldは、すっかりMELVINSに馴染んでいて、もはや正規メンバーかと思うんですけど、うまくいってる理由は何だと思いますか?
「まず、いい奴だ。そして、ちょっと変わり者だけど、それでも名プレイヤーであることは間違いない。俺は昔から、StevenがやっているREDD KROSSの大ファンなんだ。うちのバンドで演奏してくれてるなんて、すごくありがたいよ。できればこのまま末永く、うちでやってもらいたい、あくまで向こうもそう望むならの話だけどね……もう何年の付き合いになるんだ?……たしか2016年(正確には2015年)から弾いてもらっているんじゃないか?っていうことは8年になる。まあ、そのうち2年はパンデミックでツアーなしだったけど、その代わりスタジオで一緒にいろいろやったしね。パンデミック中は『MELVINS TV』っていう配信シリーズを3回やったんだ」
――StevenはMELVINSに何をもたらしてくれてますか?
「何しろ素晴らしいプレイヤーだからね。ベースの腕前で言ったら、これまでMELVINSで演奏してきたベーシストの中でも最高クラスじゃないか?加えてキャラや性格も申し分なしだ」
――さっき「ちょっと変わっている」と言っていましたが、どういう点が?
「そんなの、あいつを見れば一目瞭然だろ(笑)。そこがいい。あのステージでの佇まいなんて最高だよ。なにしろREDD KROSSに入れ込んでいる俺からしたら、あのバンドでやっているのと同じことをやってくれれば何も言うことない。あのREDD KROSSのベースが俺たちのバンドで弾いてくれているなんて、考えてみればシュールだよな。ものすごいことだ。マジで、とんでもない話だ」
――過去にもツイン・ドラム編成を採ったり、大勢のベーシストが参加したり、初期のメンバー(MELVINS 1983)とやってみたり、アルバム毎にいろんなことを試してきたMELVINSですが、今後どんなことに挑戦してやろうと思っていますか?
「このあとMELVINS本体は、しばらく休みを取ろうと思ってる。というのも、Daleが首を痛めて脊椎の手術をやったばかりでね。椎間板を取り出して、代わりに金属プレートを入れている状態だから、今回の来日ツアーに連れて来られなかったんだ。本当はアルバムのリリースに合わせて大々的にツアーする計画だったんだけど、そのときまでにDaleが復活してるかどうか確信が持てなかったから、それもキャンセルしなくちゃならなかった。今回のツアーを助けてくれた、もうひとりのドラマーCoady Willisも、ちょうどHIGH ON FIREでツアーに出ちゃうから空いてなくて。とりあえず、8月からはTrevor Dunnと2人でアコースティック形式のツアーを回る予定だよ。今のところ、トータル65公演で、アメリカで45公演、ヨーロッパで20公演っていうスケジュールになってる。そっちのほうも相当楽しみにしているんだ。アメリカだけで45公演だから相当な数になる。すごいことになるだろうね。Trevorはプレイヤーとしても最高だし、さっき言った『Gift of Sacrifice』っていうアルバムも一緒に作った。今、その作品と俺のソロ第1作を2枚組にした作品をIpecacから出そうと計画しているところなんだ。この後もTrevorとツアーする予定だしね。それ以上はまだ詳しく決まってないけど。だからMELVINSとしては、日本公演の後は今のところ白紙の状態。でも、ツアーができない間に新作をふたつ作ってやろうと思ってる!ひとつは“MELVINS1983”のラインナップ(結成時のオリジナル・ドラマーMike Dillardを加え、ベースはDale Croverがコンバートで担当)で、もう1枚はCoadyとDaleのツイン・ドラムにStevenっていう布陣でやろうと思ってる。それが今のところの計画だね。幸い時間はたっぷりあるし。だから、とりあえず現段階での考えとしては、アルバムを2枚作って、願わくば24年の暮れ頃には出したいと思っているよ。今回の『Tarantula Heart』にしたって昨年すでに完成していたんだ」
――全然ペースが衰えていないじゃないですか(笑)。
「ただ、今はタイミングなんかもいろいろ考慮しなくちゃならない時代だろ……まあ、そんなのは毎回のことだけど。自分も新しい作品を作ったら、リリースされるまでの期間はまだ聴いていられるんだよ。でも、いざ発売される頃には、とっくに自分の中では終わっていて、頭の中では次の作品のことを考えてる。だから、さっきから新作新作って言っているけれど、自分の中では新しくもなんともないんだよ。今はまだリリース前だから『Tarantula Heart』はギリ楽しめるけど、リリースされる頃に頭の中は、とっくに次の作品に移行しているはずだ。今すぐにでも新作に取りかかっていいくらいの勢いなんだから」
――勢い衰えるところを知らず、ですね。そういえば、Foetusとアルバムを作るという計画はどうなりましたか?
「ああ、Foetusな!たしかに一緒にアルバムを作るべきかもしれない。彼とは以前『Everybody Loves Sausages』(2013, Ipecac Recordings)っていうカヴァー・アルバムで共演してる。世間のMELVINSのイメージからは想像もつかないけど、確実に俺達が影響を受けたバンドやアーティストをカヴァーしようっていう趣旨のアルバムで、THE FUGS、David Bowie、ROXY MUSICといった人たちの曲をカヴァーしたんだ。FoetusとはBowieのカヴァー(“Station To Station”)を一緒にやったんだよな。そうだね、また一緒に何かやりたいよ。Foetusは最高だ、大好きなアーティストのひとりだよ」
――楽しみにしています。ところで、日本公演は別々になりましたが、オーストラリアではMR. BUNGLEと一緒にツアーしたんですよね。あなたとMike Pattonは古い付き合いになりますが、彼と最初に出会ったときのことを教えてください。
「最初に会った頃、すでにMikeはそこそこ名前が知られていた。1990年とかそれくらいの話ね。でも、俺は別にFAITH NO MOREのファンじゃなかったし、当時あの辺の音楽には全く興味がなくて。それでも、向こうが俺達のファンだって言うわけ。FAITH NO MOREの連中というか、Mikeだけがファンだったのかもしれないけど、あいつ以外のメンバーのことは知らないから、詳しいことはわからないな。たぶんMike以外のFAITH NO MOREの連中は、俺たちのライヴに顔を出したことないから、MELVINSのことなんて気にも留めちゃいなかったんじゃないか?ただ、MR. BUNGLEのほうは全員が俺達のファンだっていうことで……91、2年頃かな?一緒にツアーをやることになって。その頃にはFAITH NO MOREはビッグになっていたし、MR. BUNGLEもそこそこビッグになってた。それもこれもMike Pattonという存在のおかげでね。とはいえ、FAITH NO MOREがあれだけビッグになっていなかったら、MR. BUNGLEだってあそこまで世間に注目されなかっただろうけど。とにかく、そうしてMR. BUNGLEとは仲良くなった。FAITH NO MOREとはツアーもやったことないし、そもそも興味ない。俺の趣味じゃないよ。あのバンドがなんであんなにもてはやされているのか、俺にはさっぱり理解不能だ。てかそもそもよく知らないし」
――でもMikeと一緒にFANTÔMASでプレイすること自体は楽しかったんですよね?
「楽しいっていうか、なんていうか……初めて一緒にFANTÔMASでやったときの感想を言うなら、“楽しい”っていう言葉は使わないね。むしろ“大変だった”とか“手こずった”っていう言葉が正しいだろう。あの変人を相手にしてさ……なにしろエキセントリックな男だよ。まあ、それは俺や、FANTÔMASの他の連中にしても同様だから、おあいこだな(笑)。ともあれ、ずっと良い関係ではある。俺がFANTÔMASで得た最大の収穫はTrevorだね。それにはマジで感謝してる。それからTrevorとは一緒にいろんなことを散々やらせてもらった。次のツアーもだし、この先も末長く付き合っていきたい」
――では最後に、現在あなたがハマっている音楽はなんですか?
「コロコロ変わるんだけど、ちょうど今ピンポイントでハマってるのはAmy Winehouse。それと中期のTHE ROLLING STONES、『Beggars Banquet』(1968)から『Sticky Fingers』(1971)、『Some Girls』(1978)、名盤揃いだろ。THE WHOも常にお気に入りだし、あとはTHROBBING GRISTLE、Joan Baez、Bob Dylan、Miles Davisあたりかな」
――70年代のSTONESっていうことは、Mick Taylor期にハマっているということでしょうか。
「そうだね、あの辺の中期の作品は、どれも名作だ。ただ、『Beggars Banquet』ではまだ弾いてないだろ?Mick Taylorが参加したのは『Let It Bleed』(1969)からだっけ?それに『Black And Blue』(1976)や『Some Girls』のときは、もう辞めてるよな。とはいえ関係ない、どれも大好きなアルバムだよ。あの辺のアルバムはすべて確実にオール・タイム・フェイバリット。Mick Taylorに関して言うなら『Sticky Fingers』での仕事ぶりが、ぶっちぎりで最高だ!実際、あのアルバムにはハズレの曲がひとつもない。あの良さが理解できないっていう人間の気が知れないね。あのアルバムがわからない奴には、ロックンロールなんて一生理解できないだろうね」
――最新作『Tarantula Heart』は、Roy MayorgaとGary Chesterがゲスト参加しています。それぞれ、どういう経緯で参加する話になったのでしょう?
「ふたりとも、それぞれ最近のUSツアーで一緒になったときに話が盛り上がったのだと思います。ふたりともペラペラ喋らず、どっしりしているところは同じタイプですが、Royはスタジオに入るとノリノリな感じがはっきりと出ますね。一方でGaryは、あまり表情に出さず黙々とギターを弾くような人間ですね」
――Royはレコーディングの初期段階から参加し、全員のセッションで曲を作っていくプロセスからスタートしたそうですね。しかも、そうしたかたちでのアルバム制作は初めてだったとのことで。今回のレコーディングの様子がどう特徴的だったか、バンドに最も近い立場の視点から教えてください。
「普段はBuzzがほとんどの曲を用意して、他のメンバーに指示しながらアルバムを作っていくのですが、今回はっきりかたちになっていたのは2曲くらいしかなくて、あとはスタジオでドラマー2人がリズムを作ってから、その上に即興で他の楽器を乗せていく感じでした。もちろん、ドラムを録音する段階では、雰囲気を作るためにBuzzがギター、Stevenがベースを弾いて、そちらも同時に録音しました」
――ダブル・ドラム体制は、すでにCoady WillisとJared Warrenが参加していた時代に経験済みですが、別のドラマーということで、何か違いはありましたか?
「今回は2人とも右利きのセット。Coadyは左利きなので2人のドラムセットをひとつと考え、ハイハットが両端近くに、フロアタムが真ん中に来るようになっていました。『(A) Senile Animal』(2006, Ipecac Recordings)リリース時のツアーでは、ひとつのゴング・ドラムを共用したりもしていましたね。今作に関しては、ふたつ別々のドラムだとはっきり分かるようにミックスしたつもりです」
――前作『Bad Mood Rising』(2022, Amphetamine Reptile Records)に引き続き、1曲目が長尺なナンバーとなっています。この「Pain Equals Funny」はどのようにして作り上げられていったのでしょう?同じように“冒頭に収められた長い曲”でありながら、「Mr. Dog is Totally Right」と「Pain Equals Funny」は、かなり違う出来上がりかたをしたような気がしますが、どうでしょうか?
「“Pain Equals Funny”はふたつのセッションでの録音を組み合わせたものです。5:35までが数年前に作りかけた曲。それ以降は今回の録音です。Royはモジュラー・シンセもこなすので、9:13くらいから始まる音源は、彼がKORG『 ARP 2600』をいじって出している音に合わせて、Daleがドラムを叩いています。このアルバムでもっとも実験的なアプローチですね。一方で、前作の“Mr. Dog is Totally Right”では、Dylan Carlsonをゲストに迎えるので、彼に合うように作ったのではと思います。それで長くなったのではないでしょうか」
――ちなみに、前作『Bad Moon Rising』がIpecacでなく、Amphetamine Reptileから出たのは何か理由があるのですか?
「ツアーやレコードのプレスにかかる時間(コロナの影響で当時は8ヶ月以上待ち)や、Ipecacの他のバンドのリリース・スケジュールなどが重なってしまって、そうなったのだと思います」
――Steven McDonaldは、もはや正式メンバーと言っていいくらいバンドに馴染んでいますが、彼がMELVINSにもたらしたものはなんだと思いますか?
「彼の音楽 / ポップ・センスは素晴らしいです。弾きすぎず、非常にメロディアスでメリハリのあるベースを弾きます。弾くのが大好きなので、あまり文句を言ったのを聞いたことがありません。歌もすごくうまいし、BuzzもDaleも、ちなみに自分もREDD KROSSが大好きなので尊敬もしていて、一緒にいて楽しいのだとも思います。REDD KROSSほどポップになったとは言いませんが、彼が携わったMELVINSの作品はポップの要素が見え隠れしていると思います」
――では、Gary Chesterは、今作では、どんなギターを弾いたのでしょうか?
「ED HALLが活動し始めた頃からの知り合いだと言っていました。彼は自分が携わってきたギタリストの中でも、かなりの凄腕だと思います。フレットボードをなめるように指が動くとでもいうか。スケールを知り尽くしているようですね」
――レーベルの資料にはTarantula Heart is quite possibly the band’s most unconventional, catchiest and imaginative work yet, continuing a legacy celebrated for its eccentric and extraordinary output. 『タランチュラ・ハート』は、エキセントリックで非凡な作品によって賞賛されてきた彼らのレガシーを引き継ぎながら、これまでで最も型破りで、最もキャッチーで、想像力豊かな作品へと仕上がった
とあります。これはトシさんや他のバンド・メンバーとも共通の認識でしょうか?
「ジャムっぽい録音でドラムから曲を作ること自体は、今までもなくはありませんでしたが、アルバム全体でそういうことはなかったです。シンセ、ギター、そしてヴォーカルも、録音できる限りの数を録音したようにも思いますね。ミックスを行う上で自分が最初に考えたのは、インパクトの少ないものはミュートし、ダビングした楽器を減らしていくことによって、ドラムが埋もれないようにしていくということでした。いつも以上にミックスに時間がかかったのは、ドラムの数だけではありませんでした」
――そのほか、今作のレコーディングで印象深かった出来事など、何かありましたら教えてください。
「MELVINSの面々は、もともと他のミュージシャンといっしょに演奏するのが好きですが、今回はRoyが始めから参加しているので、いつも以上に彼らの目が輝いていたように思います。暑い時期に録音したので、Daleは上半身裸で演奏していたのも印象に残っていますね。個人的には、BIG BUISINESSの2人がいた頃には大きなスタジオを借りましたが、今回は私とMELVINSで共有しているスタジオ・Sound Of Sirensで録音したので、限られたスペースに2台のドラムをどう置くか、マイキングはどう工夫していくかなどのハードルが、自分のハートに火をつけてくれました。燃えましたね。あとはまあ余談ですが、MELVINSの関係者でよく会う人たちの間では、Buzzと自分が憎まれ口を言い合う様子は、いつもそうやってふざけあっているのだと知られています。しかし今回、Garyが初めてスタジオに来た日、はじめの20分くらい彼は、Buzzと私が本気で憎み合っているのだと思ったそうです」
■ 2024年4月19日(金)発売
MELVINS
『Tarantula Heart』
https://themelvins.lnk.to/tarantula
[収録曲]
01. Pain Equals Funny
02. Working The Ditch
03. She’s Got Weird Arms
04. Allergic To Food
05. Smiler