Interview | Psychoheads


歪ませてラフな感じで

 2020年、東京。当たり障りのないカジュアルなファッションやシティポップが時代のメインストリームなムードの中、UsのKen TruthsとWaaterが主催する「SPEED」というイベントで、1960年代イギリスのストリート・スナップに出てきそうな衣装で悲鳴に近いシャウトをしながら気怠いパンクを演奏するバンドに出会った。筆者が16歳のときにハマっていたPsysalia Psysalis PsycheやPLA S TICZ O O MS、それらのバンドが出演していた「STYLE BAND TOKYO」というイベントを彷彿とさせる空気にすっかり圧倒されてしまい、なぜ彼らがこの音楽やファッション・スタイルに辿り着いたのか探ってみた。

取材・文 | RISAKO + SAI (Ms.Machine) | 2020年2月
撮影 | SAI (Ms.Machine)

――結成のきっかけを教えてください。
Hitoshi Violet(vo, g | 以下 Hitoshi) 「サークルが一緒で、僕がバンドやりたかったので、みんなを誘って組んだ感じですかね。明治学院大学なんですけど、現代音楽研究会っていうサークルで、OBにDYGLとかがいるんですよ」
Takuro Kaneko(dr | 以下 Takuro) 「フィッシュマンズとか」

――みなさん、高校時代とかからバンドをやっていたんでしょうか。
ylow(g) 「俺はやってました。軽音で」
Hitoshi 「ずっとバンドはやりたくて、高校時代も地元の友達とかを誘ってスタジオ入ってたんですけど、聴いてる音楽が違うからうまくできなくて。それで独りで超簡単に曲作ったりしていて……」

――その時期は、何を聴いてました?
Hitoshi 「高校生のときに一番ハマってたのは2000年代のガレージ・リヴァイヴァルで、THE LIBERTINESが一番好きだったんですよ。あとは60s聴いたり80sもちょっと聴いたり。一番聴いてたのは、やっぱりガレージのリヴァイヴァルとかですね」

Psychoheads | Hitoshi Violet | Photo ©︎SAI
Hitoshi Violet

――一緒にスタジオ入った子たちは邦楽聴いてて、みたいな?
Hitoshi 「そうですね……ワンオクとか……」

――邦楽は聴かなかったんですか?
Hitoshi 「めっちゃ聴いてた」
ylow 「“世代の音楽”ってやっぱ、そういう音楽だから、聴くっちゃ聴くよね」
Toma Sugimoto(b | 以下 Toma) 「中学のときは大嫌いで、洋楽しか聴かない!みたいな感じだったから、高校に入ったら誰とも話せなかったです」

――高校生のときは何を聴いていましたか?
Toma 「中学終わり頃にTHE 1975とヒップホップにめっちゃハマって、Travis Scottとか今のトラップっぽヒップホップを聴いて、そこから90sのギャングスタとかを調べて、2Pacを聴いたりして。ロックは大学入るまであまり聴いてなくて。強いて言えばARCTIC MONKEYSと、THE JESUS AND MARY CHAINの1曲くらい」
Takuro 「僕は16歳の頃ハードコアにめっちゃハマってて、LOYAL TO THE GRAVEとかNUMBとか日本のレジェンド系のハードコアを聴いていて。そこから海外のとか、昔のハードコアも聴こうと思って、MINOR THREAT、FUGAZIとか、Ian MacKaye周りを聴くようになって。ついでに親父が流してたTHE CLASHとかRAMONESとかも聴きました。高2くらいからは、THE 1975のの影響で海外のオルタナを掘り始めて」
ylow 「高校のときは、チャートをディグるのにめっちゃハマって。Billboardとか。100位から1位まで見て、来週こいつバズんじゃね?って感じで予想して……みたいなことをやっていて。Billboardのサイトって、“Chart History”っていって、何年何月のチャートとか見られるんですよ。それで昔のチャートとかもめっちゃ見て。その影響でずっと嫌いだったヒップホップとか……」

Psychoheads | Toma Sugimoto | Photo ©︎SAI
Toma Sugimoto

――ちょっと意外!嫌いだったんですね!
ylow 「そう、高校入るまではずっと嫌いで……」
Hitoshi 「僕もヒップホップ、ついこの間までめっちゃ嫌いで……。流行りものみたいな感じで、なんかムカついて。何が良いんだ、ロックだろ!みたいな。ずっとナメてた」
ylow 「高校ではラップとかトラップは主流だったから、めっちゃすんなり入ってきて。ラップっていうジャンルを開拓できた高校時代はでかかった」
Hitoshi 「俺なんて最近Tohjiを聴き始めたくらい」
ylow 「ね、だいぶ後からだよね」

――影響を受けたアーティストがいれば教えてください。
ylow 「いっぱいいるよね」
Hitoshi 「Tomaは絶対THE 1975って言いそう」
Toma 「THE 1975は中3から聴いていて、今も聴いてるんですけど、ずっと自分の趣味と合うんですよ。あのバンドって時代時代で変わるじゃないですか。その変化と、自分がその時々で聴いてる音楽が合っていて。だから、ちょうどロックを聴き始めたら『People』が出て、めっちゃパンクじゃん、みたいな」
Takuro 「僕は根底にTHE BLUE HEARTSがいます。小さい頃からずっとTHE BLUE HEARTSを聴いていて、そのおかげで音楽を好きになれた気がする。最近観た中で一番かっこよくて影響受けたのは、やっぱりFIRST HATE。実際喋ってみてもめっちゃ良い人だし。もう一度観たいですね」
Hitoshi 「僕は、THE BEATLESのアルバムだけ延々と聴いてた1ヶ月があったり、THE ROLLING STONES、THE KINKSとか60sのバンドを聴いたり、70sのパンクとかを聴いたりしてたんですけど、自分がやるとなったら、どういうのやりたいかな?って考えていたときにたまたまジザメリを知って。ビビっときて、こういうのやりたいって思ったのが一番でかいですね。ジザメリ、一番聞いてると思うし」
ylow 「俺はみんなと違って親父がもともと音楽をやっていて。中学くらいで音楽を知りたくなったときに『We Are The World』にハマっちゃって、あれで興味を持ったんですけど、親父が当時の人だから“この人誰?”とか聞くと全部答えてくれる。検索エンジン的な感じ。『We Are The World』みたいなチャリティ系のって、いろんなジャンルの人が参加してるから、音楽知るにはめっちゃよくて。そこから自分でディグり出したんですけど、一番ハマったのは中学1年生のときに聴いてたハードロックとかヘヴィメタルですね。影響受けたアーティストとかはOzzy Osbourneとか」

Psychoheads | ylow | Photo ©︎SAI
ylow

――SEX PISTOLSのカヴァーをしていましたが、シンパシーを感じるところはありますか?
ylow 「ベースが下手くそなところ」
Hitoshi 「姿勢的に……僕たち外からはポストパンク的な感じで言われることがあったりするけど、自分的にはけっこうパンクをやってるから。歪ませてラフな感じでやろうとしてるからノリ的には同じ、ではないけど、気持ちとか、演奏との向き合い方とか、そういうところは近いのかもしれないですね」

――Waaterと知り合ったきっかけは?
Hitoshi 「最初に対バンしたのはNEHANN企画で、去年の11月くらい。もともとWaaterは知っていて、好きなバンドだったんですけど、Waaterも僕らのことを知っていたみたいで。もともとThe Cabinsとかと何度か対バンしてたんですけど、そのライヴのストーリーを観て“いつか呼びたいね”って言ってくれてたらしくて。最近はけっこう一緒にライヴやったりしています」

――マインド合いますか?
Hitoshi 「向こうはどう思ってるかわからないけど、めっちゃ仲いい(笑)。一緒に遊んだりしてます」

――“成功しているバンド”のロールモデルはいますか?私の少し前の世代まで、レーベルに所属してメジャー・デビューするのが一般的な“成功”のロールモデルだったと思うのですが、音楽配信のサービスが始まり、フィジカル・パッケージが売れない時代に変わったと感じていて。若い世代はバンドで生計立てることを考えられる状況なのか?ということを知りたいです。
Hitoshi 「成功しているバンドのロールモデルは、遠くない存在だったらDYGLとかNo Busesだと思うんですけど、それで言うと僕たちはDYGLとかNo Busesみたいにポップでもないから、僕たちが成功するならシーン変えるくらいの革命的な何かを起こさないと難しいとは思っていて。逆にこのスタイルで突き詰めて少しずつでも認めてもらえるようになったらな、って思います」

――DYGLはやっぱりロールモデルなんですね。
Hitoshi 「憧れではあるけど、同じやりかたは僕たちには無理だと思うんです。せっかく音楽をやっているからには、本当は音楽で食っていきたいですけどね。今は学生だから自由にできてるから、まだ1年生だし、在学中に何か見えてきたら変わるかな?とは思うんですけど」

Psychoheads | Takuro Kaneko | Photo ©︎SAI
Takuro Kaneko

――私は、“音楽業界”について、どこにどれくらいのお金が回っているかとか、もっとクリアになったほうがいい気がしています。なんか不透明すぎると思うんです。
Hitoshi 「レーベル経由でYouTubeに動画を出すと、全部レーベルに収益持っていかれるって聞いたりしますね」

――そうなんですか!ありそうですね……。でも自分たちだけで活動していくのも限界が見えてくるし、難しいところなんですよね……。では、曲作りについて教えてください。
Hitoshi 「基本的には、僕が鼻歌とかで適当にメロディを考えて、ドラムもスネアとタムしか使わないけど頭の中でパターンを決めて、アイディアをスタジオに持って行って口頭で伝えて合わせる感じですね」

――歌詞は何について歌っているんですか?
Hitoshi 「思想的でも実体験でもなくて、作り込まずにスタジオ行く前の電車とかでパッて浮かんだのをそのまま歌ったりしていて。歌詞に気持ちを込めるよりも、演奏自体にスイッチ入れてますね」

――好きな服屋とその理由を教えてください。
Toma 「俺は最近あまり服屋で買ってなくて……メルカリとか……。強いていうなら戸塚にあるPINK LEMONADEっていう店。学校の近くだから……。めっちゃ良いおじさんがいて、コーヒーとかレモネードとか飲めて、めちゃくちゃ良い匂いがする」
Takuro 「僕は吉祥寺にあるBoogieって古着屋。90sグッドレギュラーの感じが強くて、色味がけっこう幅広い」
ylow 「インタビュー仕上がりしてる(笑)」
Hitoshi 「こいつキモい(笑)。“グッドレギュラー”なんて言ったことねえだろ」
ylow 「ラフ感ない!“色味”とか言ったことねえだろ(笑)」
Toma 「言わせてやれ言わせてやれ!」
Takuro 「とりあえず……いろんな……カラフルな古着屋さんです」

――すいません。皆さん知ってる単語かと思ってつっこまなかったんですけど、“グッドレギュラー”って……なんですか?
一同 「(笑)」
Takuro 「90年代の良い古着のことです」

――なるほど……覚えました。
Hitoshi 「僕は高校のとき帰宅部だったんで、めっちゃバイトして、原宿通りのLABORATORY/BERBERJIN Rっていう店に行って、パンクな服に給料全部注ぎ込んでました。そんなに着る機会もないのに好きだった。ライヴハウスに行くときもめっちゃ気合い入れて、ロックスターみたいな服着てキメキメでHAPPYとか観に行ってました」
Toma 「覚えられてたもんね」
Hitoshi 「HAPPYはロックスターみたいな見た目だし、ああいうのに憧れて。最近は本当にお金ないんで、たんぽぽハウスでしか買ってないです」
ylow 「僕はいろんな店に行ってるので、特にこれっていうのはないんですけど、おもしろいと思うのは渋谷にあるNUDE TRUMP。オーナーの松村(逸夫)さんめっちゃおもしろいし。松村さん曰く、世界中のデザイナーがディグりにくりみたいな(笑)。異世界感あるし。置いてあるものに毒が効いていておもしろいですね。衣装としても」

――リリースの予定はありますか?
Hitoshi 「今予定を立てていて、できれば2月中にレコーディングして、3月に3曲か4曲くらいのミニEPみたいなのをリリースしたいとは思っています」

――2020年の目標があれば教えてください。
Hitoshi 「バンドとして今より認知されて、集客力もつけたいし、規模も大きくなりたいっていうのはありますね。みんなは明確に目標っていうのはありますか?」
Toma 「街フェス……(笑)」

――やってみたいライヴハウスとかありますか?
Hitoshi 「俺はMARZ」
ylow 「俺は中野サンプラザ」
Hitoshi 「FEVERやりたいよね」
ylow 「FEVER家近いし」
Hitoshi 「“誰々来るじゃん”みたいなノリで喜ばれるような外タレのオープニング・アクトをFEVERとかでできたらいいよね」

――10年後は何をしていると思いますか?
ylow 「ロックンロールでしょ」

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